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マフィアの女とその男  作者: 弥月ようか
4/13

作戦の実行



「…ネズミが誘い込まれたぞ」

伝令役の報告に、あたしは黒い銃の安全バーのロックを解除してコートに忍ばせた。荒廃した団地の路地裏から見上げた空は真っ青だった。

深呼吸して気持ちを落ち着ける。

あたしの役目はここにやってくる人物を足止めして場所を知らせ、狙撃班に狙いを定める時を稼ぐことだった。



静かに待つ。


遙か後方から、誰かが駆けてくる足音がした。


あたしは路地から飛び出して、自分の目を疑った。



「イザー…………あんた、こんなとこで何やってんだよ」



あたしはそこで撃つはずの銃を反射的に下げ、目の前の男に叫ぶしかなかった。



「ごめん…マリア。


 君には見られたくなかった」



そいつは…イザーは…あたしに向かって黒い銃口を差し向けた。


一体これまでどこに隠し持っていたんだろう。

イザーの部屋では決して見たことはない。そういうものだった。



「お前がマフィアだなんて、微塵も思ったことなかったよ」



「僕は、マリアがロッソ プローヴァの人間だって、初めから分かってた」



「騙してたのか」



「そんなつもりは無かったよ。結果的にそうなったけど。


 僕は純粋に君を好きになったんだ」



「そんなこと、信じられると思うか…?」



「何を信じるも、君の自由だ、マリア」



「その名前を呼ぶな!」



「どうやら僕にはもう時間がない。


 そこをどいてくれるかい、マリア」



「…通りたかったら、力ずくで通りやがれ!」



「君を傷つけたくないんだよ…マリア。


 君を、撃ちたくは無い」





その時は唐突に来た。





パンッ! という人体が弾けるような音がして、そいつから血飛沫が飛び散った。幸い急所は外れており、傷口を手で押さえながらそいつは物陰に飛び去った。



「イザー!!!!」



あたしが駆け寄ろうとすると、そいつは再びあたしに銃口を向けて後ずさった。



「来るな。君は、来るな!!」



そいつが初めてあたしに怒鳴った。

あたしがどんなに怒っても、我儘言っても、癇癪起こしても、いつも笑っていたそいつが初めてあたしを恫喝した。

あたしは震えてそれ以上動けなかった。


背後では、味方の狙撃銃がそいつを未だ狙っているのが感じられた。



「…マリア、僕は君を愛してる。


 その気持ちに嘘はない」



優しい声音に戻ったそいつは、威嚇するようにあたしの後方に向かって銃を一発鳴らすと、機敏な動きで走り出した。


あたしは、弱弱しく腕を持ち上げ、力いっぱいその背中に引き金を引いた。





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