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マフィアの女とその男  作者: 弥月ようか
2/13

そいつとの再会



もう、あいつに会うこともないんだろう。

そんな風に思っていた矢先、また別の隣町でそいつの姿を見かけた。

いつになくお堅いスーツ姿で黒いアタッシュケースを持って歩いていた。

これが仕事中じゃなかったら、話しかけに行って一発ぐらいお見舞いしてやるところだったが、あたしにもやらなきゃいけないことがあって手が離せなかった。



それから数日後、また地元に戻ってくると、行きつけの居酒屋にそいつの姿があった。

「イザー、てめぇ、どこ行ってやがったんだ!!!」

あたしにそんな風に言う資格も何もねーのは分かってたんだけど、その時はどうにもプッツンしちまってた。

胸ぐらを掴むようにして、10センチ以上も差のあるそいつを壁際に押し付けて叫ぶと、店内は騒然としだしたのが分かった。けど、あたしにはそんなこと気にする余裕もなかった。

「人のこと勝手に遊んでおきながら書置き1つ残さねーで消えちまうとかてめー!」

あとから思い出すとクソ恥ずかしい話だ。馴染みの居酒屋ってんで、あたしのことを見知った常連も大勢いる中だってーのに、やり捨てられましたって公言したようなもんだった。

「なんとか言えよ!」

あたしの剣幕に、そいつは最初はただただびっくりしていたみたいだったが、次の瞬間、あたしはそいつの胸に抱き寄せられていた。

「うん…ごめんね。

 黙って消えたのは悪いと思ってた。

 でも僕も、君のことは探していたんだよ…だから、見つかってよかった、マリア」

衆人環視の中、あたしはすっかりフリーズしちまってた。そいつには教えてなかったはずの自分の名前を呼ばれた衝撃もあったんだろう。有名な聖母様と同じ名前が本当に本当に嫌だったのに、そいつの口から出てくる響きはトクベツ。そう思えた。



それからそいつは数か月にわたってあたしの町に滞在すると教えてくれた。

市街地近くのアパートメントの1室を借りて生活し始めた。


あたしは、仕事がすむとはそそくさと準備してそいつの部屋に入り浸るのが日課になっていた。もうほとんど毎日そいつの家から出勤し、そいつの家に帰っていた。あたしの私物もずいぶん増えたからだろう。そいつはあたし専用のクローゼット家具を買って部屋においてくれた。

そいつの生活は意外に羽振りもよく、昼間なんの仕事をしているか知らなかったが経済的には豊かだった。時々有名レストランに連れて行ってくれることもあったし、ウインドウショッピングで適当に服を見繕って買ってくれることもあった。

とにかくそいつといると飽きなかったし、楽しかった。



マフィアの仲間たちはそんな風になったあたしに「お前が男のところにいそいそ通う日が来るなんてよ」とか、「お前を落とせる男のテクは相当なんだろうな」とか下種なことをいっていたけど、なんと言われようとあたしは気にならなかった。



ある時あたしは、いつも世話になっている礼にと、そいつのために銀のチェーンで出来たチョーカーを贈ってやった。着けた様を見れば、首輪に見えなくもない。あたしのモノだっていう印みたいなもんだ。

襟付きのシャツの隙間からキラリと光るそれを見るたび、あたしは嬉しくなってそいつの首に抱きついてキスをした。最初にそれを着けてから、そいつは一度もそのチョーカーを首から外さなかった。




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