齢40の男
日の本の国民になったならば、戦争に行くとも国民の責務。
彼の子供が七つと三つであるときに出征したらしい。
日の本は男女問わず働かされる国、資本主義を彩る国なのだ。
故に、彼女も働いたのだ。彼女の地元の海の見える綺麗で小さな町の弾薬工場に配属されたらしい。
戦争のために何発も作られた大砲の弾。
超弩級戦艦用に造られたその弾は一発は1トンを軽く超えたと言う。
小さな工場だった故に保管庫も大きくなく、重ねて置かれていたようだ。
十メートルくらいの高さだったらしい。
ある日、彼女が保管庫の弾の数を確認しに行った。
軍へ送る弾数を調べるためにだ。
ケース一つに五つ弾が詰められている。
順調に弾数を数え終えたそのときだ。
地震が起きた。
日の本ではそう珍しいことではないが、それでもあの地震————2年前に起きた厄災は永劫語られるであろうほどの大きさであったのだ。
ここまでくれば今後の彼女がどうなったのかは、言わなくてもわかるだろう。
できるだけ軍事費を抑え、その大部分を銃後ではなく戦っている前線へ渡すためには銃後の工場などをいかに安くするかが求められる。
だから小さな工場の小さな倉庫が存在して、安くするために安全など考えられていないその倉庫は死と隣り合わせは当然。
鉄兜をかぶっていたようだが、1トンの弾がたくさん箱で落ちてくるのだ。
耐えられるはずもない。
グチャリッ
生々しい音が他に誰もいなかった小さな倉庫の中を響かせた。
彼女が見つかったのは一週間後らしい。
バラバラになった弾をどかすのに相当時間がかかったそうだ。
ミンチになった彼女は姿を保っておらず、初めはそれが人のものであるのかすら不明だったそうだ。
だが、服はまだ大丈夫だったらしく、その服に刻印されていた彼女の名前がミンチとなった肉に行き場を与えたのだと言う。
骨も砕かれたミンチを見せられた彼は初めは実感が湧かなかったようだ。
認めたくないのだ、死んだ妻が形も残らずミンチになり腐敗して臭くなっているのが。
泣くことができなかったらしい、ひたすら認めたくないという思いがあり現実逃避に走った。
だが、彼も大人であり父である、父が止まっていては子が大変になることに気づいた彼は実家の本土に帰り、子供を育てた。
そこまではまだ良かった。
彼は子供さえいればいいと思えるようになったのだ。
だがその矢先に、日の本が彼の国に宣戦布告した。
日の本は彼の国に戦闘機で爆撃を幾度となく仕掛け、彼の子供、親に至るまでもが死んだ。
唯一生き残った残党の彼は、日の本軍の捕虜となり、日本国籍であることを確認したのちに再度大陸を支配するものとして送られた。
残酷だ……私は物心ついた時から孤児院にいたから、両親からの愛は受け取ったことないが、失うことの辛さはなぜか知らないがわかる。
だけど、故郷を侵略しに行く気持ちなんてわからないよ。
死別して、そのまま捕虜として日の本の獄中にいた方が良かったんじゃね?
躊躇なくなぜ死別しなかったか聞いた。
「ああ、俺と妻が出会った場所、愛を誓った場所、愛を育んだ場所、子供達の生まれた場所、育った場所そんな思い出の宝箱見たいな国の人になりたかった。だが、金がなかったんだ。だから仕方なく実家に戻ったんだ。心の中では俺はとっくに日の本人なのにね。」
くっ、これも重いというか、ハードというか、御涙頂戴というか。
懐かしさを思い出すような顔を浮かべているが、身は戦闘服で包まれているから台無しだ。
「日の本に良い思い出があるのはわかるんですが、その全てを奪ったのも日の本じゃないですか」
問いただすような言いぐさは後悔した。
「うーん、そうだねぇ、何で今日の本軍の兵として、故郷を襲っているんだろうね。本当はそんなことしたくないのに……」
やべやべ、やっぱり地雷踏んじゃった。
コミュ障だよね、やっぱり私。余計なこと言うんじゃなかった。
「だけど、君みたいな少女が日の本軍として戦っているのも事実、そして君を守ると断言した。だから、今俺が戦い、そして生きる意味は君なのかもしれない」
えぇー!?こんな数分で彼の生きる意味となっているとは、
だが、ネガティブ思考の極みの私からするとそれは豆鉄砲に過ぎない。
「日の本の少女よりも、あなたの母国の少年少女を守る方が良いのでは?」
「まあそれは成り行きってもんよ、捕虜になったのもそうだし、ここで出会ったのも事実、君に出会った以上少なくとも君を知っているわけだから、母国の知らない子供よりも君を守りたいわけなんだ。」
「こんな出会いはできれば二度とごめんですけどね」
感動する言葉を投げかけられた、だから気まずくなりそうだなーって感じで、戦争ジョークというかブラックジョークをしましたね。
「そうだな!こういう出会いを今後一切しない、させないためにも戦争を早く終わらせないとな。」
「そうですね。」
「おっ、そろそろ夕食ができる頃だ。向かうか。」
「そんな時間経ってましたか——向かいましょう」
彼の時計は19時を指していた。
時間がすぐにたつ、露営の準備をしていたのが17時くらいだったのに……
太陽が沈みきって、虫の鳴き声が目立ち始めた。月はちょうど新月で、あたりはまじで漆黒。
戦争してなければ、いとをかしなのに。




