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オオカミ少年

 「オオカミが出たぞー!!」


 オオカミ少年は、嘘吐きだった。

 童話でも、絵本でも、そう語られることが多い。



 童話をよく思い出してほしい。

 平穏な日々に、退屈さを持て余した羊飼いの少年が、いたずらをしてやろうと繰り返し嘘を叫んだ。


 つまり彼は、呼べば優しい人が来ることを知ってしまった少年だ。


 


 「オオカミが来たぞ!」


 そう叫べば、大人達が走ってくる。


 被害を心配し、安心し、少年へ怒って去っていく。



 その一連の反応が、少年にとっては強烈だった。


 


 自分の言葉で、人が動く。


 自分が中心になる。


 自分が何かになれる。


 この快感を、彼は覚えてしまった。



 だから彼は、何度も叫んだ。

 オオカミが来ていなくても。



 ここで重要なのは、


 彼が「嘘をついた」ことではない。

 オオカミへの危機感という感情を、前借りし続けたことだ。


 


 最初の叫びに、村人は本気で駆けつけた。


 二度目も、まだ許された。


 三度目も、溜息混じりに聞いてもらえた。


 


 だが、四度目、五度目。


 繰り返される度に人は学習する。


 ――またか。 


 この瞬間、少年の言葉の価値は暴落する。


 


 


 そして、最後。


 


 本当にオオカミが来た時。

 少年は、これまでで一番必死に叫んだ。


 だが、誰も助けに現れず、羊を一匹残らず食べられてしまった。

 


 彼が元からの嘘吐きだったからではない。

 彼という人間が嫌われたからでもない。


 


 彼の人としての信用が、尽きていたからだ。


 


 


 ここで、創作の話に戻そう。


 


 「読まれていない」


 「評価されない」


 「誰にも届かない」


 この言葉を、今後何度使うのだろうか。


 

 最初は、本気で心配されるはずだ。

 共感もされ、温かい励ましもある。



 だが、その言葉が宣伝として効いた瞬間、作者は羊飼いの少年になる。


 


 


 また同じ嘆き。

 また同じ構図。

 また同じ救済要請。


 人は、心の中で呟く。


 ――また狼か?


 


 ここで恐ろしいのは、

 オオカミという敵が攻撃してこないことだ。

 

 誰も作品という羊たちに噛みつかない。


 

 だがオオカミは、既に作者の人間性を食らい尽くしているのだ。



 TLに流れても、止まらない。

 スクロールされる。

 文字列として消費される。


 

 この時点で、作品が面白いかどうかは、もはや関係がない。


 聞かれていないからだ。

 


 オオカミ少年の末路が残酷なのは、彼の嘘が暴かれたからではない。

 訪れた危機に、真実を叫んでも、信じてもらえなかったことだ。



 共感を宣伝に使い切った創作者も同じだ。

 


 本当に苦しくなった時。

 本当に届いてほしい一作を書いた時。


 


 その時こそ、誰かに読んでほしいはずなのに。


 ――誰も来ない。



 


 だから蛇蝎は言う。


 


 「読まれていない」という言葉は、慎重に使え。


 それは何度も切れるカードではない。

 切り札なのだ。

 


 助けを呼ぶ声は、

 頻度が高いほど弱くなる。


 内容ではない。

 回数だ。



 オオカミ少年は、狼に騙されて羊を失ったのではない。


 自分自身の言葉に、羊を殺されてしまったのだ。


 


 


 さて。


 あなたが次に「読まれない」と言う時。

 その言葉は、まだ誰かを動かす力を残しているだろうか。


 それとももう、羊飼いの少年の声の様になってしまっているだろうか?


 狼のせいではない。

 選び続けた自分自身の言葉の結果なのだ。

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