魔法少女ライダーJK
一般的な女子高生がどうかは知らないが、少なくともこの雲原桃華の朝は、かなり優等生なほうである。
なぜなら、簡素でジャンクなレトルト朝食を食べながらも、本日の通学路につき、モンスター出現予報を確認し登校計画を練るからだ。
イヤダゾーン帝国が鳥町ルートで六割、ブラックオークが住北ルートで五割、ほかは二割以下。
となれば、最適な登校路はミニコボルト一割の志喜屋橋か。
桃華は獣人特効の「きらめきステッキVBNミノタウロス」と、確率抑制型OS搭載の「精霊銀ライダーベルト」を手に取った。
「ちょっと桃華、本当にそんな装備で大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、問題ない、お母さんは剣を過大評価しすぎ。黄金の鉄の塊じゃないんだから」
「当たり前でしょ、流し斬りが完全に入っても負けた事例だってあるし」
「だから『ちょっとだけ先っぽ』でもいい装備なの。行ってきます」
桃華は足早に玄関を出た。
この南浪羽市――通称「ナーロッパ」を吹く風はいつも通り、ぬめりを帯びている。背筋を舐めるかのように降り注ぐ日の光は、ありもしない勇者の光臨を願うか、遠き昔の魔王を呼んでいるのか。
しかしそれは桃華の知ったことではない。勇者が道を塞げば蹴り倒すのみであり、魔王が高校を破壊すればそのまま「学校のコンディション不良」で欠席するしかない。
高校への途中にある意識高い系ラーメン店で十秒足を止めるが、きっちり十秒後に再発進。登下校時は常に行うルーティーンである。
もっとも彼女としては、さすがにラーメン店にかわいそうだし、この店の路線である「ニューウェーブ系」は好みドストライク。いずれ時間があるときにここで食べて、きらめきステッキの催眠能力でノーペイ退店をするつもりではある。
あとで無銭でちゃんと来るから、我慢してね。
彼女が心の中でノーペイ予告をしたその時。
「おうおう、乳プリップリのJKさんよ!」
「そのケツブルンブルン、俺たちにノーペイで買われてみないかい?」
「乳もケツもカラのキャッシュも弾みまくるぜ?」
人とほぼ同じ体格、浅黒い肌の鬼が三体、道を塞いだ。
ゴブリンオメガ。ナーロッパに現れる、一体で一個中隊戦力に匹敵するモンスター。
子供程度の背丈しかない通常のゴブリンとは、顔の形程度しか共通点がない。
ともあれ。
「あなたたちの肉、確か最近、好事家の間で流行っているんだってね。つまり高く売れる」
先に得物を構えたのは桃華。
「放課後にでも売りに行って、横丁無人販売所の新しいストラップ、買わせてもらうね!」
――きらめき、ラブリー、絶望、阿鼻叫喚!
桃華の身体が輝き、リボンと天使の羽がコンバットスーツを形成する。
マジカル・カーボンエクイテス合金と、それをつなぐスパイダーシュトゥルム繊維が戦いの意思をこれ以上なく表す。
しかしそれだけでは終わらない。
――メインシステム急速展開、微小値反応調整、出力漸増……変ッ身!
精霊銀ライダーベルトの中央、スクリュー部分が目まぐるしく回り、ベルトが銀から黄金へ輝きを変えると、シルバーライダーの武装が魂のエネルギーから構成される。
精霊のパタ、すなわち腕嵌め式片手剣。
そして邪心破壊銃フェイズブラスター。
そのブラスターは同時に、懺悔と赦しの槍パリサフィウスでもある。
魔法科学とエレメントの加護を兼ね備えた桃華は、ウインクしながら決める。
「混沌ガール・モモカがおしおきしてアゲル!」
ゴブリンオメガたちは、顔を青くしていた。
しかしどうも、それは桃華が示した力の複合に対する恐怖ゆえではないらしい。
「ああ、女子高生にもなってこんなに痛いやつと出くわすなんてな」
「魔法少女系とライダー系のミックスとか、ちょっとねえな」
「ダメだ、見た目が気持ち悪くてムラムラが萎えてきた。折角身体も顔もいいのにな」
しかしピンチはチャンスである。
「じゃあそのまま滅されることだね、あの世では素敵なリザードデビルにでも出会いなさい。お仕置きよ!」
彼女はきらめきステッキを振りかぶり突撃。
「マジカル・パワースマッシュウゥアアァ!」
風をも歪ませる、ステッキの質量が、殺意をもってゴブリン一体の頭を過たず打ち据えた。
「グゴゲ!」
いまどき新喜劇のオチ役でもそうそう出さない、ひどく奇怪で大きな声を出し、そのままゴブリンは崩れ落ちた。
生命反応は消失している。
「お、おい大丈夫か」
「ダメだアニキ、どうみても即死だ」
ヒットアンドアウェイの実践で素早く距離を取っていた桃華が一言。
「ああ、私って罪深いな。本当は仕留めるつもりなんてなかったのに。そうやって騒ぐから私の手は震えるし、景色は色あせるし、なにより……」
今度は精霊のパタを構えて。
「残りも討ち取りたくなっちゃうじゃん!」
眉間。心臓。股間。
あらかた、念入りに弱点を破壊されたゴブリンオメガたちがそこにあった。
「はぁ……!」
桃華はモンスターを討った快感にうち震え、ではなく動くものを永遠に停止させてしまった重みを感じつつ、時計を見る。
まだ登校に間に合う。
服は変身の際に破けて用をなさなくなっているが、問題ない。彼女の裸はみな見慣れている。
一人、いつも彼女の生まれたままの姿を見て飽きずに赤面する真面目男子がいるが、これも問題ない。
なぜならその男子、城川の、少し破廉恥な歓心を買うことは、桃華にとっても本望だからだ。
「えへへへ」
桃華は通学路でニタリニタリしながら春を思った。
通りがかったサラリーマンがとっさに飛びのいていた。




