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終焉の箱庭  作者: mumei_muon0923
第一章 【記憶の覚醒】
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第八話 不穏な寝言

 零時とるなは、零時の家で一晩休み、朝食を食べ終わると、そのまま神戸空港まで赴いていった。るなは目尻を擦りながら、うとうとしている。零時は丸くなりそうなるなを連れ出し、席取りなど済まし、次の便が来るのを待つ。

 待っている間も、るなは羊を数える間もなく、すぐにでも夢の世界へと入ろうとする。


「おい、るな。大丈夫か?」


 零時は不安そうに、るなの肩を優しく揺らしながら声をかける。


「……うん。寝れば、すぐ解決する…」


「飛行機に乗ってからにしてくれ」


「零時…なんだか、冷たい…」


 その言葉に零時は何も返す言葉はなく、沈黙してしまう。その沈黙のせいか、るなはやがて零時の肩の方へと倒れていき、眠ってしまう。


「おい、るな…」

「たく…世話が焼けるやつだ」


 るなのことを起こそうと肩に触れようとした時、るなの口が急に動く。


「天、炎…とけ、い……無縁…」

「…は?」


 その言葉を聞いた瞬間、零時の手は止まり、何かの存在が、彼の心の核がジリジリと痛ませる。


「…なんで、こんなに動揺してるんだ? 俺…」


 天炎は、るなの家自体が、それに由来するから分かる。時計のことも分かる、だが無縁という聞き覚えのあるようでない言葉が、その口から出てきた。

 零時は嫌な予感をした。これから東京行くことで、もう後戻りができないということに。


 そうしているうちに、次の飛行機の便の放送が流れてくる。零時は焦る気持ちを胸の中に抑えるように、るなを起こす。


 ----------------------------------------------------------------


 東京羽田空港にて、諏訪部零時、天ヶ瀬るなが帰還。


「うぅん…! やっと東京に着いたぁ!」


 もはや今は羊を1000匹以上数えても、るなは眠ることはないぐらいには、眠気が吹っ飛んでいた。

 対して零時は、羊を何百匹か数えたら眠るぐらいは、心と体が少々疲れていた。


「さてさて、杉山さんは大体ここら辺にいるはずだけどー?」


 杉山が乗っている黒い車だからなのか、るなは黒い車を見つけ次第は目を追いかけていたが、ナンバーとかを見ると「違うぅ……」と少し落胆する。

 零時はずっと考えていた。るなが放った言葉である真意を、簡単に踏み込んではいけないことだと分かっている。だけど今知らなければ、どこで知ることになるんだ?


 悩みに悩んだ末、答えが決まった。


「なぁ、るな」


「ん? 何?」


 天炎、時計、無縁という言葉を放った理由がずっと分からなかった。

 きっと、夢でそういうものがあったのかもしれない。でも、零時はその言葉の中で「無縁」というワードには、どうにも引っかかってしまう。

 だから、素朴な態度で、いつもの感じで、るなに尋ねる。


「無縁って、なんなんだ? 素朴な疑問だ。答えてくれないか?」


「……」


 るなは不思議そうにしながら、黙っていた。けどその沈黙は、まるで……真っ暗な画面を何も写っていないはずなのに、見つめているように。


「えっと…ごめん。無縁って、なに?」


 その表情からは、疑念は詰まっていなかった。


「…え? お前、寝言で言ったじゃねぇか?」


「寝言……うーん、夢でそういう言葉使ったかもしれないけど、やっぱ、何もわかんないや! ごめんね!」


 まるで純真無垢な子供の姿で、一欠片の疑問しかないが、すぐに気にせず接してくる。嘘はついていない、だが零時はるなの表情を見て、不気味に感じてしまった。

 そして、それと同時にある疑問が浮かぶ。あんなハッキリと言った言葉が、るなの頭の中に存在していないかのように、何も覚えていないということに。


 と、そんな会話を繰り返したのち、車のクラクションが聞こえた。


「あ、杉山さんかな! 零時!」

「早く行こ!」


「…お、おう」


 草原を駆け抜けていくるなの姿は、どこか儚く見えてしまい、零時はそれを眺めることしかできなかった。不安や失望などの感情もあったはずだと思う。零時は胸を抑え、深呼吸してドロドロの感情を一旦流した。


 ----------------------------------------------------------------


 〈ノスタルジア・システム・TOKYO本部〉


「諏訪部様、天ヶ瀬様、着きましたよ」


 杉山さんの車でノスタルジアへと帰還した二人は、重い体を伸ばしつつ、車から降りた。


「ありがとうございます、杉山さん」


 零時は杉山に向かってお辞儀をする。るなも軽くお辞儀をして、杉山は少し笑った。


「いえいえ、当然のことをしたまでです。天ヶ瀬様もゆっくり休んでいただけたのなら、お世話係として嬉しい限りです」


「えへへ…杉山さんはこれからどこか行くの?」


「えぇ、任務終わりの隊員の送迎へと向かうところです」


「確か前衛部隊が今日の朝から行ってたもんね、死んでなければいいんだけど…」


「るな、縁起でもないことを言うな」


 零時はるなの頭を抑えつけて叱責する。るなは「ごめん…」と言って、少し反省している様子だった。


「私も彼らが生き残っていることを、願うばかりです…それから、私のこと、覚えてくれていますかね」


 杉山はどこか遠くを見つめるような、悲壮感溢れる表情になる。零時はその表情に、触れることができなかった。触れてしまったら、ダメな気がしたから。


 杉山はこちらへと会釈をし、フロントガラスを上げると、車を発進させ、目的地へと向かっていった。


「…それにしても、最後の言葉、なんなんだ? 覚えてくれていますかね…って」


「……あんまり気にしなくていいよ! とりあえずさ、零時、早くノスタルジアに行こ!」


 まるでその話をしたくないと言わんばかりに、るなはその話を遮る。零時は不思議そうに見つめながら、るなの後を追う。


 そのまま本部のロビーへと入ると、数名の黒スーツを着た人たちが待機していて、思わずたじろいでしまう。だが黒スーツの人たちから敵意は感じなかった。


「あなたをお待ちしておりました。諏訪部零時様」


「お、俺…? ていうか、何この人たち?」


「先ほど明月様が、彼が帰ってきたら、ロビーで出迎えるようお願いされたのです」

「それで、あなた様を待っていた、というわけです」


 黒スーツの人たちは、とても迫力があったが、実際の根っこの考えとしては、出迎えということ、ロビーから追い出されると考えてた零時は思わず、息を吐く。


「諏訪部様、こちらを」


 すると、一人の女性がこちらに何かの制服と、このノスタルジア専用のカード レミニセンスを渡してくれた。零時は服を一目見て、飛岡やるなたちがこの服を着ていたことを思い出した。


「それから、諏訪部様宛に武器が届いております。高尾様から、損壊された部分の修理は完了した、とのことです」


 一人の男性がそう告げ、こちらに武器を差し出す。零時は「相棒…!」という言葉を発し、銃剣を手に持った。久方の相棒は、前よりも煌めいていて、刃こぼれ、銃の劣化、トリガーの緩み、そして先の戦いで刃が損壊した部分、全てが解消されていた。

 零時は銃剣を鞘に収める。


「これからもよろしくな。相棒」


 そう言った零時は、思わず鞘に収まる銃剣を抱きしめているのを横目に、黒服たちはるなと会話する。


「では、この制服に着替え次第、明月様がいる応接室まで向かってください。道も右往左往だと思いますので、天ヶ瀬様も制服を着替え次第、諏訪部様と同行してあげてください」


「うん、分かった。ありがとう」


 黒スーツたちがお辞儀をすると、その場から離れていった。黒スーツたちが消え去るのを確認したるなは、少し息を吐き、更衣室へと行こうとする。


「ちょっ、待て待て!! 普通に流そうとするな! るな! さっきの人たちって誰なんだ!?」


 止められたるなは目を丸にしていたが、今まで説明していないことに気づいたるな。


「え? あぁ、そっか。零時あんま知らないもんね。あの人たちは世話係、まぁ補佐員の方たちなの。杉山さんもそれに該当するの」


 ノスタルジア所属の補佐員。隊員の皆からはお世話係と呼ぶ人も少なくなく、それほど皆補佐員とは関わりが深いということ。隊員の送迎や武器、物資、制服の調達など、戦闘以外で支援するのがメイン。


「世話係で補佐員…? そんな人たちが一定数いるのか。」


「まぁ世には公表はしてないからね、でもいい人たちばっかだから、すぐに慣れるよ!」


 るなはそうは言ってくれるが、生憎先ほどの黒スーツの人たちが、どう見ても補佐員の立ち姿ではなく、何より恐怖さえ感じてしまった。もしかしたら、多くの人と関わってこなかったからこその賜物なんだろうか。


「とりあえず、早く着替えに行こ!」


 元気よく言うと、るなはそのまま女子更衣室へと向かっていった。零時は貰った制服を見て、高揚感と不安が同時に重みとなり、思わず笑みが溢れてしまった。

 多くの謎を残したまま、俺の第二の人生のスタートが切られてしまった。

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