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終焉の箱庭  作者: mumei_muon0923
第一章 【記憶の覚醒】
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第十話 ノスタルジアの基本

 〈ノスタルジア・システム-前衛、後援部隊 訓練場〉


 現在関係者以外立ち入り禁止の訓練場の観覧席にて、零時と明月は隊員たちの様子を見ていた。


「ここが、ノスタルジアの訓練場です」


 そこに広がっていたのは、多くの人が訓練に励んでいる姿があった。零時はその光景に度肝を抜かれた。皆、油断の隙なんて与えず、その場が戦場だと思わせるほどだった。


「皆さん、いつも朝の見回りが終わると、ここで訓練しているのですよ。一刻も強くなって、多くの人を守りたい、という気持ちがあるのでしょう」


「…なんとなく、分かるな。その気持ち」


 零時は訓練場の周りを見ていると、るなと、赤黒髪の青年が話し合っているのが見えた。るなは訓練用のナイフを出しながら、体全体動かしてそのナイフ技術を磨いていた。対して青年は、無駄な動きを無くしつつ、るなにアドバイスをやっていた。


「明月さん、るなと一緒にいる人って誰なんですか?」


「あの人は古手望さんと言いまして、天ヶ瀬さんとは同期です。彼のナイフ技術は他の隊員より群を抜いており、前線の切込隊長でもあります。天ヶ瀬さんは、ナイフの技術はほぼ皆無ですので、古手さんが今直々に教えているのでしょう」


 そうなのか、と思いながら見つめていると、確かにるなのナイフ技術はあまりにも皆無であり、どうにも戦場では誇れないほどのナイフ捌きである。

 そんなるなを見ていると、思わず顔を隠してしまう。


「その代わり、天ヶ瀬さんは弓については一級品ですので、本当に適材適所なんでしょう」


 るなは古手にお礼を言った素振りを見せ、弓へとシフトチェンジする。先ほどのるなとは違い、構えからもう空気が変わっていた。一点集中、明鏡止水。るなが放った矢は、目の前にあった霞的のど真ん中に当たった。

 のほほんとした顔つきから想像がつかない憂いを帯びた表情は、彼の目にひどく焼き付けられた。


「彼女の弓矢技術は、長年扱われてる拳銃よりも、精度が高く、前衛部隊の後援担当として、重宝されているのです」


「…そういやここって、後援部隊がありますよね? るなはそっちには行かなかったのですか?」


「彼女は元々、後援部隊の隊員でしたが、無鉄砲な性格、歳忘を殲滅する姿、挫けない心。とても後援部隊には相応しくない隊員でしたので、僕からスカウトさせてもらったのです」


「…そう、なんですか」


 意外な事実でもあり、同時に、納得した部分もあった。るなは12歳までは泣き虫だったのが、15歳から人々を守れる強い存在になって、同時に兵庫から彼女は消えた。

 その頃から、彼女は俺より一歩、前へと進んでいた。とても勇敢な子だ。


「あの野郎、俺が見ていない間に成長するなんてな、本当…勝手に置いてくなよ、そこで待ってろ」


 零時の瞳には、彼女の姿を捉える。でもそれは憎悪とか、嫉妬とかの感情ではない。


「俺は、お前の元まで行くぞ。るな」


 決意を固めた、無名の青年が呟いたその本心は、尊敬と憧れ、悔しさの感情だった。


「…もう少しここも見ておきたかったですが、零時さんには、すぐ覚えて欲しいですので、今から外の見回りへと行きましょう」


「は、はい!」


 明月は先に降りていき、零時は銃剣を背中に背負い、観覧席から降りていった。

 そして同時刻、訓練場から、その観覧席を最初から最後まで見ていた一人の黒髪少女は、静かに笑みをこぼし、抑えきれない闘争心と面白さ、彼への期待に、胸の高鳴りを止むことがなかった。


 ----------------------------------------------------------------


 〈東京-千代田区〉


 千代田区付近まで向かっていった零時は現在、明月に見回りについて指導をされながら、とにかくメモ用紙に書き記していた。


「あとは、歳忘が現れた際は、僕か他の幹部に一報をくれれば、それで大丈夫です」


「なるほどなるほど…」


 慣れない道を歩いていると、ふと零時はノスタルジアの方へ視線をやる。テレビやネットでしか見たことがなかったノスタルジアが、今となっては生で見れたことに目を輝かせていると、ふと頭の中に疑問が現れた。


「そういえば、ノスタルジアが建ってる場所って、昔何かの城の跡地がありましたよね?」


「江戸城のことですか」


「そうそう、それです!」

「確か昔…約600年前に焼失されて、2020年までは皇居の地にだったって聞いたんですけど…」


 2020〜2080年の間の記録が、忽然と姿を消すように、その記録自体が失われていた。未だこの間に起きた60年は、誰にも知られていないのかもしれない。


「世には出ていませんからね。皇居は昔の厄災で滅んでしまい、今はノスタルジアが建て構えてますから。」


「厄災?」


「………」

「僕もその厄災があったということは聞いたことがあるのですが、現状、詳細なことは知り得ません。先代が意図的に隠しているのか、外部の干渉なのか、分かりません」


 曖昧な空理空論。明月にも分からないのなら、零時からは知る由もないのだろう。それに、彼からは、この話は今は触れないでほしい、という気持ちが伝わり、零時はこれ以上深掘りをしなかった。

 見回りを続けていると、警報音が明月の元から聞こえてきて、その直後、明月の空気が変わった。スマホを取り出すと、そこは松戸市に指していた。


「松戸市に歳忘が現れましたね。では諏訪部さん、今から向かいましょう」


「えっ? 急に何事?? 近くに歳忘が現れたのか?」


 訳がわからないまま話が進み、明月は無線機で誰かと話し、話し終わったと思ったら、今度は零時を抱え、足を低くする。


「諏訪部さん、僕から離れないでくださいね」


「は?」


 その刹那、たゆまぬ風が巻き起こり、建物の上から颯爽と駆け抜ける。視界に映る全てが、とても早く、逆にとても遅くなったように感じた。

 約10秒。明月が地面に着地すると、零時の目の前には、建物を壊している、ツルを何重にも巻いた歳忘がいた。


「ビンゴでしたか。今日はついていますね」


「…? え、今何が起こって…?」


「諏訪部さん、ここにいる人の避難誘導と人命救助をお願いします」


 明月はそう言い、歳忘の元まで向かう。何が何だか分からない零時は、とにかく近くにいた人たちに声をかけていく。


「っここに今歳忘が現れています!! あまり近づかないでください!!」


 と、零時が避難誘導の催促を立たせようとした瞬間、歳忘の悲痛な叫びが聞こえ、思わず振り向くと、歳忘は倒れ、砂煙を起こす。次第に歳忘の身体が散っていった。


「……自然歳忘、でしたか。諏訪部さん、そちらの方に怪我人は?」


「二人です! けどみんな軽傷です!」


 素早く救急箱を持ち、怪我人の方へ駆け寄る。


「大丈夫ですか、すぐに応急手当てをします」


 明月に念を押されて持っていった救急箱。こんなところで、しかも今日に役立つとは思えず、動揺していた。


「あ、ありがとう…隊員さん」


「いえいえ」


 慣れた手つきで男性二名の応急手当てが終わり、その間に明月がどこかに連絡する。

 怪我人の状態を見つつ、辺りに歳忘がいないかの見回りをする。数分後、どこからともなく救急車の音が聞こえてくる。


「もうすぐ救急車が来ますので、その間ここで待機をお願いします。僕たちは見回りを続けますので、これにて」


 明月は零時を抱えると、またしても先ほどの常軌を逸した速度で千代田区へと戻る。零時はこの移動法で、少し酔っていた。


「おえぇ…今のが数分で起こったことなのか……新幹線よりも速すぎ……」


「僕のスピードに慣れませんでしたか…。すみません、急を要していたので」


 誠実な心を持ち、誠心誠意に謝る姿を見て、零時は思わず止めに入る。


「そ、そんな深々と謝らないでください、慣れない俺も悪いですし」


「…ではそのお言葉に、甘えましょう。気を取り直して、見回りの続きをしましょう」


 こうして、明月と零時の二人は、見回りについてあらかた教えを貰った。歳忘が現れた際の対応、怪我人がいた時の応急手当て、避難誘導などなど。まるで慈善活動をするヒーローだった。



 見回りを始め2時間ほどでノスタルジアへと戻り、零時はその後、ノスタルジアの寮、レミニセンスの使い方、朝昼夜の見回り、訓練、任務。組織の教訓についても教えられた。

 あとそれから、明月からA4サイズの膨大な資料と、隊員に関する契約書などを貰い、それらを頭に叩き込んで、サインをした。

 太陽が下がり、月が上がってきた頃には、零時はひどく疲れていた。


「…つ、疲れた……」

「ノスタルジアって…こんなに疲れる場所なのか…ちょっとベンチで休憩してから、明月さんが言ってくれた寮に向かうか…」


 零時はノスタルジアの外にあるベンチに座り、身体を休ませていると、こちらに歩んでくる音が聞こえてくる。


「ちょっ…零時…? 大丈夫?」


 そこにいたのは、変わらず零時のことを心配してくれるるなだった。


「…全然、大丈夫じゃねぇ…頭が物凄くいてぇ…」


「あ〜…あの説明を一気に食らったわけなんだねぇ、どんまいだよ、零時」


 るなは何かと察したのか、目線を横へとずれていく。零時は酔っ払いのような起き上がりをし、現状倒れるか倒れないかの瀬戸際にいる。


「とりあえず、俺寮に帰るな…多分大半の荷物を用意してくれているんだろ。ベッドにダイブするわ…」


「うん、今日はちゃんと休んだほうがいいかも。私これから見回りがあるから、見送りできないけど、どう? 歩ける?」


「ここから寮までそこまで遠くないだろうし…問題ないよ。んじゃ、見回り頑張っていけよ…」


 それだけを言って、零時はスマホを開き、寮の場所を探りながら、帰っていった。

 様子を見ていたるなは、ポケットにあった懐中時計を取り出す。


「…また渡し損ねちゃった。零時最近疲れてるし、本当渡せる機会がないなぁ…」

「でも今度こそ、明日こそ…! 絶対に渡してやらないと…!」


「天ヶ瀬らしいね、そんな風に息巻いては渡せてないのに、すぐ楽観的に考えるの。羨ましい限りだよ」


 と、暗闇の中から、低く見積もった声が辺りの空気を振動させる。るなは即座に振り向くと、そこには無表情の赤黒髪の青年がいた。


「ふ、古手くんか…」


「今日は君と見回りなのに、君が急にあの人に近づいていくんだから、今見回り遅れ中。僕も早く帰って休みたいんだから。」


「アハハ…」


 るなはただ愛想笑いをするしかなかった。


「んじゃ、今から見回りに行こっか」


 と、るなが一歩歩み出すと、いきなり古手は「あ」と何か思い出したかのような声色を出す。るなは思わず足を止めてしまう。


「確かあの人、諏訪部だったけ…。なんか柊がサシであいつとやり合いたいって言ってたよ」


 彼のいきなりの発言に、彼女は動きを止めてしまう。

 月光が、微かに辺りを照らしていた。彼女の顔は少し見えづらかったが、その瞬間の表情だけは、なんとなく理解ができてしまったのだ。


「え…?」


 ほんの少しの暗闇の中で、彼女は口を開け、その瞬間、前の「天炎」に関する苦い思い出が溢れた。


「それ、マジで言ってるの…?」


 るなは、そのサシでのやり合いに、とても不安が培っていった。

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