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あたしは結局ユーリと大公閣下に連れられ、大公領で暮らすことになった。


そうして、あっという間に季節は巡り、一年が過ぎた。

先月、ユーリと大公閣下は遂に式を挙げ、夫婦となった。

花嫁衣装に身を包んだユーリは本当に美しくかった。


両親が断罪され、二人に全てを話したあの日。

あたしは結局体調を崩し、それから数日寝込むことになってしまった。

何とか大公領まで来れるまでには一時的には回復したけど、大公領へ来てからも体調が良くなることはなく、この一年のほとんどをベッドの上で過ごしている。


ベッドに上体だけを起こした体勢で座り、窓の外の景色を眺めるのが最近の一日の過ごし方だ。

ユーリや大公閣下も忙しい合間を縫っては顔を出してくれているけど、基本的にはこうして一人で過ごしていることが多い。


もう貴族籍は剥奪され、平民になったにも関わらず、大公妃となったユーリの異母姉ということで大公家の使用人達もあたしに良くしてくれるし、部屋は日当たりの良い角部屋をわざわざ用意してくれた。


思えば、エミリアとしての記憶が戻ってから、こんなに穏やかな日々を過ごしたことはなかった。


出来ることなら、少しでも元気になって、ここにいる優しい人達の為に何かがしたい。

でも、あたしにはもうそれほど時間が残されてはいないこともわかっていた。


ずっと張り詰めていたものが切れて、気が抜けたからかもしれない。

あるいは、もうこの世界でのあたしの役目が終わったから退場するようにという何者かの意思なのかもしれない。


もうずっと長いこと、自分には処刑されて生涯を終える未来しか残されていないと思って生きてきた。

それなのに、人生で最期のほんの少しの時間だけとは言え、こんなに穏やかな気持ちで過ごせている。


大切な妹であるユーリだって、毎日忙しそうではあるけど、本当に幸せそうだ。

それなら、もう良いのかな。

何も思い残すことはないと言ったら嘘になるけど、ユーリの花嫁姿も見られたし。


「次はお義姉様の番ですからね!

早く元気になりましょう!」


そう言ってくれたユーリの希望は叶えてあげられそうにないかな。


ごめんねユーリ。

最期までダメなお姉ちゃんで。


でも、あたしね。ユーリのお姉ちゃんで本当に良かった。

大変だったけど、きっと悪くない人生だった。

そう思うよ。



大公領へ来てから一年と一ヶ月が過ぎ、庭の木々に新緑が芽吹く頃。


ユーリと大公閣下に見守られながら、あたしは静かに息を引き取った。












…………はずだったんだけど。


「ほら、やっぱりこの子はお姉様の面影がありますよ!」


「そうか?言われてみればそんな気もするが、やはり君に似ているだろう。

同じ黒髪だし」


「でもでも!瞳はお姉様と同じ色なんですよ?

とっても綺麗な翡翠色!」


ベッドに横になっている自分を覗き込んでいる夫婦を見て、あたしは内心頭を抱えていた。

まだ思うように身体が動かせないけどね。


最後に見た時は泣き出しそうなのを我慢して無理矢理笑顔を浮かべていたその顔には、今は心からの幸せそうな笑顔が浮かんでいる。


「確かに美しいな。私としては、私の色も引き継いで欲しかった気もするが……。

顔立ちも色までも君たち姉妹に似ているなんて……」


少し寂しそうにしている夫に、妻である女性が慌てたようにフォローを入れようとしているが……。


「えっと……でもほら!

耳!耳を見てください!耳は旦那様に似てますよ!?」


うん、フォローになってないね。

耳が似てるってなに!?聞いたことないよそんなの!?


「耳……耳か……。あー、いや、その……うん。

そうだな。元気に育ってくれさえすればそれだけで良い」


「そうですね……。

そして、この子が……。

ミリアーナが大きくなったら、聞かせてあげたいです。

貴女には、とても優しい伯母様が居たのよって。

伯母様のおかげで、お母様は生きていられたのよって」


いや、あのそれは……。


「そうだな。この子の名前は彼女からもらったものだし、たくさん聞かせてあげよう」


やっぱりこの名前ってそうですよね!?

そうじゃないかなって何となく思ってました!


「はい。

それにですね、私何となく思うんです。

もしかしたら、ミリアーナはお姉様の生まれ変わりなんじゃないかなって」


よくわかったね!?


「そうかもしれないな。

まぁ、さすがにこの子まで前世の記憶があるとは言わないだろうが」


残念ながらあるみたいですが!?



はぁ、本当にどうしてこうなったんだろう。

今世での両親のやり取りを聞きながら、あたしはそっとため息を吐く。


まぁ、まだ赤ん坊だからため息になってるかはわかんないけど!


ちらりと視線を向けると、今世の母親。

記憶にある姿より、少し大人っぽくなったユーリが嬉しそうに手を伸ばしてくる。


「どうしたのミリアーナ?

お母様に抱っこして欲しいのね?」


そう言ってあたしを抱き上げるユーリの腕の中は、とても暖かくて居心地がいい。


まさか、また記憶を持ったまま生まれ変わるなんて思ってもみなかった。

しかも、妹の娘になるなんて、正直どうしたもんかと思う。


それでも、一つだけわかっていることがある。


きっと、今世のあたしも幸せな人生を過ごせる。

今度は愛する妹……いや、お母様と一緒に。



~完~




















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