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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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上杉敏夫

 貴重な資源が採れる素晴らしい場所であるということが世間に広まってから、ダンジョンを見物に行く野次馬が一気に増えた。その当時は政府主導のダンジョン探索においても十階までは安全という結論に至り、研究者たちも護衛はつけていたものの比較的自由にダンジョン内に立ち入れるようになっていた。


 緊張感が薄れた、とも言う。


 一説によると、野次馬相手にダンジョン観光事業をしてはどうか、という提案をしたものが政府関係者の身近にいたらしい。


 それをマスコミが受けたものか、テレビカメラがダンジョンに入るようになった。ほとんどの番組が入り口周辺の撮影だけではあったが、世間にダンジョンへの興味を植え付けるには十分だった。


『フレイザーの創始者について勉強していたのね』


「ああ」


 穣は本を閉じて、表紙をミネルヴァに見せた。


 タイトルは、『上杉 敏夫』。丸みのある線で愛嬌のあるおじさんキャラの絵が大きく描かれている。


『どうして小学生向けの伝記漫画を読んでいるの?』


「要点が的確にまとまってる上に、わかりやすいんだよ」


 子供向けを馬鹿にしてはいけない。


 フレイザーという会社を立ち上げた上杉敏夫は、その運命のときを非常に劇的に迎えた。彼は携帯端末で動画撮影をする配信者で、ダンジョンブームに便乗して人気が出ないかと安易に考えて一人ダンジョンに入っていったのだった。


 だがそこで、モンスターに遭遇してしまった。


『この漫画では、ドラゴンに襲われたことになっているわね。実際はゴボルドだったみたいだけど』


「そりゃ、ドラゴンになんか遭ったら死ぬだろ」


 穣はコマを読み進める。死を覚悟した上杉を助けてくれたのが、当時ダンジョンを哨戒していた自衛隊員だった。


 厳重注意を受け病院へ搬送された上杉だったが、落ち着きを取り戻したときようやく動画を撮影していたことを思い出した。奇跡的にカメラは最初からずっと回り続けており、せっかくだからと一部始終を配信することにした。


『今もその動画は再生されているわね。ちゃんと自衛隊員の顔には加工されているわ』


「昔も今も、肖像権にはうるさいからな」


 偶然動画に映り込んでしまった人の姿を、許可を得ずに配信することは禁止されている。特に自衛隊員とあって、上杉は気を遣ったのだろう。


 それはともかく、初めて見るダンジョンとモンスターの映像は、世間に衝撃を与えるに十分だった。当時の言葉で言うと、『バズった』という状態だ。再生数は恐ろしい速さで伸び、上杉は一躍時の人となった。


 当時彼は非正規雇用の社員として働いていたが、その成功をきっかけとして仕事の傍らダンジョンの様子を定期的に配信するようになった。そしてある程度貯金ができたところで仕事を辞め、動画配信者のための事務所を立ち上げた。


 それが、フレイザーの始まりというわけだ。


『よく経済ニュースにも出てくるし、討論番組にも出演しているわよね。確かに企業案件に応募するんだから、その会社について知ることは大事だけど、社長の半生についての知識も応募に必要なの?』


「まあわからないけどな。知ってる方がいいだろう。なにしろ……」


 穣は漫画を閉じ、キーボードの前に置いてあった紙を取った。


 ギルドからもらってきた、応募案件の詳細だ。


「面接は社長自ら行うと書いてあるからな」


 応募要項と仕事内容、面接日時などが書き連ねてある隅の方に、伝記漫画のキャラクターと同じ丸顔の中年男性の写真が小さく載っていた。


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