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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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それから

「よう、なんか老けたな」


 五年ぶりに会った友人は、穣が病室に入るなりそう言った。


「……五年も経ってるからな」


「そういうもんかな。まあ、二十代から三十代に入るとそうなのかもな」


 豊浦は、すっと真顔になった。


「ありがとう。俺のこと探しててくれたんだよな。本当に、ありがとう。自衛隊も辞めたって聞いた」


「ああ」


「……後悔してないのか?」


「するわけないだろ。お前が助かったのに」


 豊浦は、潤んだ目を何度も瞬いていた。穣も喉が詰まったようになり、しばらくどちらも無言でいた。


 豊浦を救出できた日から、半年以上経っていた。病院へ搬送された豊浦は通常の医療の検査と診察を受けるのと並行して、ダンジョン資材研究所からの調査対象ともなっていた。生命に異常はないと判断されるまではそうかからなかったものの、意識が戻った彼に事情を理解させることと、もう一つ懸念されていたことに問題なしと結論が出るまでが長かった。


 五年もの間ダンジョンのタイムリープ現象に晒され続けた豊浦の時間が、地上に出てどう変化するのか。


 誰にもわからなかった。今も豊浦は、定期的に検査入院をしている。面会を許されたのが今日初めてなのは、そういう事情だ。


「身体はなんともないのか?」


「少しずつ、本来の時間の流れで現れるはずだった身体の変化が出てきてるらしい。つまりゆっくり老けてるってことだな。あーやだやだ」


「それ以外は問題ないのか?」


「身体のほうはな。入院があるからまともに仕事も探せないし、困ってるくらいかな」


 豊浦のことは全国どころか、世界にも知れ渡っている。自衛官という経歴もありスカウトもいくつかあるのだが、定期検査入院の都合を考えると遠くへは引っ越せないし、その辺りに融通の利く仕事となると限られるのだと豊浦は話した。


「あ、あとフレイザー社も声かけてくれてる。内勤でも配信でも、俺の興味ある業務やってみないかって」


「よかったじゃないか」


「俺あの会社のことよく知らないからさ。でもあそこに勤めてる奥田さんって人がお見舞いに来てくれたことあったな」


「奥田?」


「お前の知り合いって言ってたぞ。一緒にウナギ食べてる写真見せてくれた」


 これ、と豊浦は携帯端末を操作して写真を呼び出した。ブレイドと穣が写っている。


「探索者としての名前は、ブレイドだ」


「俺あんまり民間の探索者の活動ってよくわからないから、入院中暇だし動画見てみるかな」


「というか、わざわざ写真もらったのか?」


「うん、お前写ってるし、楽しそうだし」


 そうそう、と言いながら、豊浦はまた端末を操作した。


「俺の顔つきの変化とかを調べたいからって、昔の写真何枚かデータで持ってきてるんだよ。お前も写ってるよ」


 画面に表示されたのは、入隊して間もない頃の写真だった。豊浦も自分も、本当に若い。


「……俺、こんな顔してたのか」


 不思議な気分だった。


 短く刈った髪、太い眉、表情に乏しい顔つき。決して好男子とは言えないだろう。


「今の顔と違うな。まあそりゃそうだよな」


 それだけの時間が、経ったのだ。


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