襲来
『みんな! 戦闘配置につくにゃ!』
『接近する反応を感知。距離、一〇メートル』
ドラとミネルヴァの警告で、一斉に戦闘配置につく。
「くっそ、これから帰るところだったのに!」
「仕方ないわ。三十分もすればトロッコが戻ってくるから、それまでに片付けましょ」
レールが一本しかないので、トロッコが一台しか走らせられないのだ。通路が狭いからどうしようもないのだが、こういう場合はもどかしい。
「敵が何か特定できるか?」
『はい。でもこれは……』
ミネルヴァは、信じがたいことを告げた。
『ウロボロスです』
「は!?」
かぼすの声が裏返った。
「え、だって、麻酔まだ効いてるんじゃないっすか? さっき三本くらい追加で打ってきたのに」
『わかりません。ですがこれは、形状からもウロボロスと判断できます』
「ああ、来たものはしょうがない。迎え撃つぞ!」
ブレイドの号令で、一同は武器を構えた。
通路の奥から、空気の振動が伝わってくる。やがてそれは、何かのこすれるような音に変じる。
さっきも聞いた。ウロボロスの威嚇音。
――直後。
「っ!」
両の拳に魔力を集中させ、穣は迫ってきたそれを受け止めていた。
「ジョーさん!」
ブレイドが躍りかかるのが視界の端に見えた。
だが動けない。押さえつけているウロボロスの口が開かないよう力を込めるので精一杯だ。
「うおおおお!」
かぼすも首の付け根に斬りかかる。ぱっくりと開いた傷口に、麻酔槍を差し込む。
「ジョーさん、下がって!」
ウロボロスが力を緩めた隙に、穣は横へ転がった。起き上がったとき、ウロボロスの顔に思い切り散弾銃を撃ち込むミラーの姿を確認した。
『ちょ、追いかけてきたのか!?』
『しつけー! こっちは殺る気じゃないんだから、とっとと帰れよ!』
『いやまあ、訳もわからず切開手術されたから怒ってるのかもしれないけど!』
ウロボロスの尾は、通路に引っかかるのかこちらへの攻撃手段にする様子はなく、ばたばたと壁を叩いている。その振動で、天井から瓦礫がぼろぼろ落下してくる。
「……違う」
血の気が引く音、というのを初めて聞いた気がした。
「さっきのウロボロスじゃない。別の個体だ」
「え?」
穣を助け起こそうとしてくれていたシールドが、動きを止めた。
「首や腹に、傷一つない。それに、さっきより少し全長が長いように見える」
「……なんてこった」
一見した印象だから、穣の勘違いかもしれない。そうであってくれればいい。
だが、本当に別のウロボロスだとしたら。
『おっとー……しゃれになりませんよー……』
ウグイスが、思い切りのけぞった。
『こっちは戦闘でくたびれてるし装備も減ってるのに、元気いっぱいの新たなるボスと戦わなきゃならないってこと?』




