鑑定ショップ田中
案の定、昨日発見したアイテムはレインボークリスタルではなかった。
「そりゃそうだよな。超貴重なやつだもん」
「だな」
鑑定していた田中と顔を見合わせ、穣は苦笑した。
「まあでも、高価なアイテムには違いないよ。他のと合わせてこれくらいで買い取るけど、どう?」
提示された額は、予想よりもまあ高かった。これならしばらく生活には困らないし、ミネルヴァのローンの返済も滞りなくできそうだ。
「まいど~」
田中は端末を操作し、すぐに振り込み手続きが完了する。穣は金額を確認し、荷物をまとめて立ち上がった。
「あ、昨日の配信途中まで見てたよ。いつも通り派手さはないけど、手堅くて安心するね」
「そうか」
戦闘の派手さやトークの面白さで売っている配信者もいるが、どちらも穣の柄ではない。だがそのスタンスがいいといってくれる視聴者もいるから、チャンネル運営は成り立っている。昨日の配信でスーパーチャットもけっこう集まった。
「それにしても、まだ階段見つからないんだね。他のチャンネルとかニュースも確認したけど、誰も見つけてなかった」
「そう簡単にいけば苦労はしない。本職の自衛隊でも手こずってるんだ」
「まあそうだね。政府としても、民間の配信者が見つけてくれたらラッキー、くらいには思ってるだろうけど」
軽く挨拶をして、穣は鑑定屋を出た。
ダンジョンで発見したアイテムなどは、基本的に鑑定屋に持ち込む。金銭的な価値だけでなく、用途についても判別してもらえる。未発見のアイテムだった場合は、鑑定屋を通して政府の研究機関などへ送られる。もし貴重な資源だった場合は、発見した探索者とその鑑定屋にも報酬が出るというシステムだ。
政府からの正式な許可がなければ、アイテムの売買はできない。探索者も資格制となっており、実績によりランクが分かれている。昨日の探索前に出会った配信者はランクF、一番下だ。最高ランクがAで、企業の探索者はC以上のランクでなければ採用されない。
田中とは、穣が探索を始めて以来の付き合いだ。鑑定眼は確かだし、穣の配信を見てくれていて時折アドバイスなどもくれる。
今朝起きたのは八時だ。それから支度をして街に出てきたが、昨日は結局例の通報騒ぎから二時間ほど探索を続けたので、まだ疲れが取れていない。
鍛錬は怠っていないつもりだが、もう年だということか。
自衛官として初めてダンジョンに入ったのが、五年前だった。当時二十八歳、ダンジョンのしくみや出現するモンスターなどのデータがある程度そろっていたころではあったものの、決して楽な任務ではなかった。
穣たちの部隊が探索していたのは、三十四階。下層階への階段を見つけるまでは順調だったのだ。
だが――。
『新発売! グロリコットジュース!』
通りのビルの立体ビジョンが、大きな動きで穣に迫ってきた。ホログラムとわかっていても、つい避けてしまう。
『ダンジョンで発見されたグロリコット苔の成分により、脂肪を燃焼させる! その効果はなんと――』
まくし立てられる宣伝は、横断歩道を渡るうちに車の音でかき消されていく。
歩く間に、他にもいくつもの広告が目に入った。そのうちの半分以上が、ダンジョンで発見されたアイテムを加工した商品だ。
食品だけではない。車を動かす動力源も、発電のためのエネルギー源も、ダンジョン資源でまかなっている。今や日本は、ダンジョンなしではやっていけないようになっている。