方針
ダンジョン対策室長の町田が、フレイザー社に出向いてきた。穣が昨夜撮影した動画を見て、解析の結果が気にかかったということだった。
フレイザー社の会議室には、チーム・クリスタルと上杉社長、穣が揃っている。町田室長は着席すると、前置きなしでこう言った。
「内閣府の方でも、動向を注視している。政府のお偉方は、この件がどう選挙に響くかばかり心配しているがね」
そういえば、選挙が近いのだ。
「スーパーコンピューター、及び量子コンピューターでの分析も進んでいるが、昨夜のデータのおかげでさらに大きな進展がありそうだ」
穣は、黙って頭を下げた。ダンジョンへ入る前に仮眠は取っていたが、夜中の配信だったので急に疲れが出てきたように思う。
「ですが室長、超音波での調査は結論から言えば失敗です。ステルス・スネークの実体にはほとんど近づけませんでした」
ミラーが首を横に振った。怜悧な面差しの中に、くまが濃い。
「超音波では干渉できないということか。X線は?」
「アクセス許可をいただいているスーパーコンピューターの回答では、効力を発揮する可能性が一〇.六パーセントだそうです」
「ふむ」
「ただ、AIミネルヴァと量子コンピューターを接続した結果、興味深いデータが出ました」
その結果を聞くために、配信後も穣はフレイザー社で待機していたのだ。
「ステルス・スネークは、こちらの時空に不定期に実体を伴い出現する、という計算結果が出たのです」
室内の空気が、ぴんと張り詰めた。
「恐らくその瞬間というのが、ダンジョン内で餌を捉えるためのものだと考えられます。豊浦さんが……その対象になったらしいことと、ダンジョン内でのステルス・スネークの動きの様子からの推測です」
ミラーは、申し訳なさそうな視線を穣に送ってきた。穣は黙って首を振る。
「こちら側にその蛇のモンスターが出てこなければ、攻撃することもできない、ということだな?」
「はい。ですから、その瞬間を待つことしかできないかと……」
町田は、しばらく考え込んでいた。
「ダンジョン資材研究所で、何か案はないのだろうか」
「案、ですか?」
「つまり、出てくるのを待つのではなく、無理矢理にでも引きずり出すような、そんな手段はないのだろうか」
今度は、ミラーが首を傾げた。
「喩えはなんだが、釣りのようなものだと考えてもらえれば。こちらから何か疑似餌を用意して、引っかかるのを待つような」




