表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
30/47

生配信中

『はい! お久しぶりです! ジョーチャンネル配信していきます!』


 ミネルヴァの明るい声が、イヤホンから聞こえてくる。


『おー! おひさー!』


『ジョーさん元気そうでよかった!』


『ミネルヴァちゃん……実家に帰ったような安心感……!』


 読み上げられるコメントも、本当に久しぶりだ。


『みなさん、しばらくご心配おかけしました。以前ご説明したとおり、ジョーちゃんはお友達を探すために今日もダンジョン三十五階へ来ています。今日は、探索というよりもあのモールス信号の部屋周辺で、今ニュースにもなっているステルス・スネークを探していきたいと思います』


 あの蛇のような謎のノイズは、その後ダンジョン対策室及びダンジョン資材研究所が、人員と最新型AIを動員して解析に当たった。そしてその結果導き出されたのは、穣たちが半ば予想していたとおりの結果だった。


『政府公式チャンネルで配信してたの見た。マジであんなでかい蛇みたいなのが、ぜんぜん見えてないって?』


『そうなんですよー。ダンジョン資材研究所の仮説によると、次元位相が異なっているので、こちらからは見えないし触ることもできないらしいです。ただ、接触した際ほんの少しだけど影響は出ます。触れた人の時間が一瞬停止するらしいんですよ』


『一瞬過ぎて気づけないってことか』


『そういうことですね。今回映像を提供してもらって、以前までは誰もダンジョンにいないような時間帯にも探索をしたことで、ステルス・スネークの行動パターンも明らかになりました』


 ステルス・スネークと名付けられた『あれ』は、通常はダンジョンが閉鎖されている午前三時から七時の間に忽然と姿を現すことがAIの画像解析及びシミュレーションで明らかになった。出現するのは、未だ探索が終わっていないエリア。文字通り何の前触れもなく現れて、ダンジョン内をぐるぐると巡ったあとまた唐突に消える。


 その経路の途中に、あの部屋があった。


 穣は、奥歯を食いしばった。


『モンスターの名前、ステルス・スネークで決定?』


『仮称ですね。今協議中です』


 穣は今、蛇の通り道にいる。予測では、あと五分後には、ここを蛇が通るはずだ。


『それで、みなさんにお願いがあります』

 

 ミネルヴァが言う。


『今ジョーちゃんは、資材研究所から借りてきたエコー検査機を装備しています。それでステルス・スネークに干渉して、物理的に接触できないかというデータを取るためです。なので今回の動画見た目的に地味~になっちゃうんですけど、ご了承くださいって言うのが一つ』


 穣は、背負っていた機材を一度下ろした。本体からコード付きの端末を伸ばし、先端の銃のような形状の部分を構える。もちろん目には見えないが、ここから超音波が出るのだ。


『それから、みなさんがもしかして画面越しに何か異変に気づいたときは、遠慮なくコメントをお願いします。この動画は政府も研究所も視聴しています。人間の観察力と、AIの分析力を合わせてステルス・スネークを補足しようって作戦ですね』


 それだけではない。世間にはまだ公開されていない情報だが、今日の調査にはもう一つ目的がある。


 蛇は、あの部屋に入るのだ。


 なんのためかはわからない。どの動画で確認しても、そのとき部屋は無人だった。


 だが、そこでの蛇の動きは、不可解ながらもあることを連想させた。


 部屋に頭部を差し入れたあと、蛇は大きく鎌首をもたげた。そして、口を開けて壁際にかみついたのだ。


 モールス信号が刻まれた、あの壁だ。


 何度もその瞬間を見直したあと、穣を気にしながらブレイドはこう言った。



 ――捕食する動作に似ている。――



 穣も、実は同じことを考えていた。そこから導き出される結論は一つ。


 豊浦はあそこで、蛇に食われたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ