ウグイス
「俺にとっては、豊浦を探すための手段だったから……まあ、楽しくは、ないな」
「うん、私たちは楽しいんですよ。でも、楽しいのって自分たちでダンジョンに入って、部屋を探したりアイテム見つけたり戦闘で勝ったりするからだと思うんですよね。それ見てるだけの人って、絶対途中で飽きてると思いますよ」
ウグイスは、ダンジョンで盛り上がるような実況をしていた。実際コメントも彼女に応えてテンポがよかった。そんな風に考えているとは思わなかった。
「ダンジョン配信が始まって、もう十年ですよ。十年も似たようなことやってるだけのコンテンツなんて、もう若い人には飽きられてますよ。ダンジョン黎明期に盛り上がってた中高年層だけじゃないかって思うんですよね、主な視聴者って。今はそれで保ってるけど、そのうち新規参入が確保できないコンテンツってことで、消えちゃいますよ」
穣はますます驚いた。彼女は、なかなかしっかりした性格らしい。
「俺も同感っす。友達と話してても、ほとんどダンジョン配信の話題なんかでないっすもん。俺が仕事でやってるの知ってても、ですよ。ダンジョン関連の動画見たって話もほとんど出ないんですよ。俺らの年代には、あんまり魅力のあるコンテンツじゃないみたいなんすよね」
だから、とウグイスが続きを引き取った。
「豊浦さんを発見したり、三十六階への階段を見つけられたら、また盛り上がるんじゃないかって期待もあったりするんですよ。売名で便乗商法ですね」
「俺ら嫌なやつっすよね」
若者二人が、にひひと笑う。
「でも、そんなんでもジョーさんの手伝いができたり、五年もずっとあんなところで迷い続けてる人を助けられたらいいなって、そういうことなんすよ」
「だからジョーさんも、私らをがんがん利用してもいいんで、ぜんぜん気にしないでくださいね」
穣は、ほうと息を吐いた。頬の辺りに、違和感を覚えた。
笑っているのだと、少ししてからわかった。
「じゃあ、そうさせてもらう」
「望むところっす」
「えいえいおー」
声が漏れていた。三人で、しばらく笑った。
やらない善より、やる偽善。
「いいモットーだな、フレイザー社」
「俺らも気に入ってますよ」
『ドラもにゃ』
突然、頭の上に衝撃があった。ドラが跳び乗ってきたのだ。
『ドラ、駄目よ。危ないわ』
「こらー、ジョーさんに失礼でしょ」
『ごめんにゃ』
そんなやりとりに、また全員が笑った。




