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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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配信開始!

書きためながら更新するので不定期になります。よろしくお願いします。

 なぜダンジョンが現れたのかは、未だにわかっていない。確かなのは、ダンジョン内で採取できる鉱物や植物、アイテムが日本にとって貴重であるということであり、それがすべてだった。


 十年の間に政府によるダンジョン探索が積極的に行われ、五年前には民間人も立ち入りが許可されるようになった。企業が採取事業に乗り出したからだ。ダンジョンには、これまで世界のどこでも発見されなかった貴重な物資が眠っている。


「お、平岸。今日も潜るのか」


 三十五階のエレベーター・ガーディアンが、穣に気づいて手を上げた。頭部から全身をすべて防具で覆っているので未だに顔を見たことがないが、馴染みには違いない。


「今日は何人くらい潜っている?」


「俺が交代に来てからは五人くらいかな。副業の配信者ってすぐわかるのが一人いたぜ。何でもダンジョン発見十周年記念とかで……」


「ああ、一階にもそういう手合いがいたな」


 許可証を確認してもらう。ほどなくゲートが開いた。エレベーターとダンジョンの間に設けられた巨大な扉は、重苦しい見た目に反して軋む音一つ立てない。


 ダンジョンで発見された物質で作られたもので、ダイナマイトでも爆破できないという。この物質が発見されたからこそ、ダンジョンへの出入りの安全は確保されている。


「気をつけてな」


「ああ」


 ゲートをくぐるとすぐ、穣はイヤホンのスイッチを入れた。


『……というわけで、今日のミッションは前回に引き続き、【下層階への階段を発見しよう!!】でーす!』


 甲高い少女の声が鼓膜に痛かったので、すぐにボリュームを下げた。


『はい! ジョーちゃんの準備もできたので、いよいよ三十五階の探索始めまーす! みんな、応援やアドバイスのコメントよろしくね! あと高評価とチャンネル登録もよろしく!』


 ミネルヴァの合成音声によるアナウンスだ。いつもの彼女の声よりもトーンが高いし、しゃべり方も幼い。こういうのが視聴者受けする、という彼女のアドバイスに従った……というか、丸投げした結果こうなっている。ジョーは、配信者としての穣の名前だ。


 穣からは確認できないが、配信されている動画には、ミネルヴァが作ったアニメ風美少女キャラクターのアバターが写っているはずだ。穣が探索する間、ミネルヴァがこのキャラクターと音声を使い、実況してくれている。


 ダンジョン配信。それが今の穣の仕事だ。最初は一人で黙々とアイテムを探したりモンスターと戦ったりするだけの動画で再生数も伸びなかったが、ミネルヴァの補佐のおかげで劇的に伸びた。購入時に借金してしまったが、正しい選択だったと思う。


『まだ下への階段見つからないのか……』


『企業系の探索者も苦戦してるってよ』


『ここが最下層ってことないよなぁ』


 視聴者からのコメントも、ミネルヴァが読み上げてくれる。


『あ、あそこにいるのは、ミント製薬の配信者! 背格好からしてウルトラダミーさんだね! うーん、ウルトラさんがいるならちょっと手強いなぁ。アイテムの採取率ナンバー1の人だからね』


 ミネルヴァの言葉に、すぐに視聴者から反応が来る。


『ミント製薬、ダンジョンアイテムから新しい薬作ったんだよな。肺炎も一日で治るとか』


『探索者増やしてからすごい儲かってるらしいぜ。アイテムもだけど、配信が好調なんだって』


『ウルトラダミーもだけど、やっぱマリリンちゃんとかプリラキとか、アイドル系探索者の配信も人気あるしな』


 企業が民間のダンジョン探索者と契約し、スポンサーとして武器防具などを提供する代わりにダンジョンで得たアイテムを買い上げるというシステムが確立されてから、ダンジョン探索は一気に注目を集めた。探索者はダンジョン内での活動の様子を動画でリアルタイム配信し、それもまた企業の宣伝となる。貴重なアイテム発見の瞬間や、モンスターとの戦闘などが人気だ。


 そもそもダンジョン内の配信というのは、探索者の安全確保のために考えられたことだ。トラブルが発生したらすぐにエレベーター・ガーディアンやダンジョン内にいる探索者に緊急通知がなされ、救助に向かうことになっている。異常を直ちに知らせるための措置だったのだ。


 配信の音声を聞き流しながら進むうち、地面の感触が変わる。今まで歩いてきたアスファルトではなく、湿った土だ。


 新しい階層が発見され、モンスターがあらかた掃討されるとすぐに、月座という企業がダンジョンエレベーターの工事に取りかかる。天井と地盤の補強のための舗装もされ、ゲートが設置される。その工事が終わってから、本格的に探索が始まるのだ。


『ジョーちゃん、右に扉があるよ』


 ミネルヴァに注意されるより一瞬早く、穣は木の扉に気づいていた。


 扉の陰に身を隠しながら、慎重に押し開けていく。中から突然モンスターが出てくる可能性もあるからだ。


 幸い何事もなく、穣はミネルヴァのカメラアイから発される光源を頼りに部屋の中の探索を始めた。


『おっ、箱があるよ!』


 穣の手にすっぽり収まるくらいの小さな箱が、部屋の隅から見つかった。


『開けてみるね』


 ミネルヴァが蓋を開ける。途端に、視聴者たちがどよめいた。


『すげえ! これ、レインボークリスタルじゃねぇ!?』


『まじか! 高峯組のイレイザーが二年前に見つけてから、まだ五個くらいしか見つかってないレアアイテムだぞ!』


 レアアイテムの買取額は桁外れだ。穣のようなフリーランスには、生活費に直結するためありがたい。確かレインボークリスタルは、発電のためのエネルギー資源としての利用価値があるということで、研究が進められているはずだ。


『すごいねぇ、大収穫! だけどみんな、まだまだ冒険は続くのです! さ、張り切っていこう!』


 部屋を出つつ、穣は時刻を確認した。午後六時を回ったところだ。企業系探索者であれば、そろそろダンジョンから出なければならない。六時以降の探索は残業と見なされ、基準を超過すると厚労省に取り締まられるからだ。


 だから穣は、企業に所属しない道を選んだ。時間の制約があっては、本来の目的である誠の捜索に支障を来す。


 アイテムはしっかり背嚢にしまい、さらに奥を目指す。貴重なアイテム発見の興奮が冷めないようで、コメントがひっきりなしに読み上げられる。


『ジョーちゃん、反応うっすいねぇ』


「本物かどうかわからないだろ」


 そんなにほいほい見つからないからレアなのだ。アイテムの価値や真贋は、鑑定してもらわなければわからない。それは視聴者も承知のはずなのだが。


 そこで穣は、足を止めた。

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