豊浦
一同は、ダンジョンを出たあとフレイザー本社に直行した。チーム・クリスタルはワゴン車、穣とミネルヴァは来たときと同じ車に分乗している。
運転している間に、冷静になった。企業案件だったのに、迷惑をかけてしまった。あの内容では、クレームが出るかもしれない。
だがそれよりも、チーム・クリスタルや上杉社長を初めフレイザー社の人々にどう説明するかのほうが気が重い。
『ミノル』
ミネルヴァが、おもむろに話しかけてきた。
『ウエスギ社長には、ミノルがダンジョンに入る理由を説明してあるのよね?』
「……ああ」
親身になって聞いてくれた人だ。彼に関するニュースを見る限り、あのときの言葉に嘘偽りはないのだという気もする。
しかし、ほぼ初対面の相手、しかもクライアントだ。どこまで話せばいいのだろうか。
『ミノルがトヨウラさんを探していることは、そのときの状況も含めて社長は知っている。なら、見たままのことを話すのがいいと思うわ』
「……」
『モールス信号の文書内容をどう判断するかは、先方の問題よ。あなたはそこまで背負わなくていいのよ』
AIは、基本的に否定的なことは言わない。意見はするが、常に肯定か正論を言語化してくる。
わかってはいる。それでも、ミネルヴァの言葉で胸のつかえが消えていく気がした。
「そうだな。ごまかしても無意味だ」
穣が知るだけのことを、得た情報をすべて、包み隠さず報告した方がいい。
そのあとどうなるかを、穣にはコントロールすることはできないのだから。
「自衛隊にも通知が行くよな」
『そうね。まったく何も連絡しないわけにはいかないわ』
モールス信号の文書を思い返す。あの壁はそれなりに固かったから、文字を書くのが困難だったのだろう。乱れはあったが、解読が難しいほどではなかった。




