動揺
「だ、だけどここって、俺ら以外の探索者はほとんど来てないはず……ってか、この部屋は未探査のはずだよ。数えるほどしかこのエリアの配信はないから、動画は全部チェックしてきたし」
ブレイドが首をひねる。
「本当にモールス信号なの? ただの傷やへこみじゃなく?」
『日本語のモールス符号に置き換えが可能です。翻訳結果を読み上げますか?』
「駄目だ!」
穣は、思わず声を上げていた。
「ど、どうしたんですかジョーさん?」
『ドラも読めるにゃ。視聴者の皆さんも内容を知りたいと思うにゃ』
視聴者、の言葉に、穣ははっと動き、壁面のモールス信号を身体で隠した。
『ジョーさん、どうしたんだろう』
『大丈夫ですか?』
『なんか、やばい感じ?』
何かフォローしなければならない。そう思うが、頭がうまく回らない。
穣もモールス信号は読める。内容も、今の短時間で半分は読み取っていた。
だからこそ、ここでうかつに公開するわけにはいかない。
『うーん……ジョーさん、よくわからないんですけど、生配信したらやばそうなこと、書いてありました?』
ウグイスが尋ねる。
穣は、無言でうなずいた。
チーム・クリスタルの面々は互いの顔を見合わせ、ブレイドが口を開いた。
「そろそろ時間もないことだし、こんな場所でモールス信号が発見されたのは確かに報告案件ですね。残念ですが、今日はここでミッション終了にしましょう」
『なんだよー、面白くなってきたのに』
『フリーランスとかならそういうことないのにな』
『しゃーない、企業系はコンプラとか規則とか厳しいらしいからな』
全員で部屋を出て、トロッコ乗り場へ向かう。ウグイスの実況以外は、誰も声を発しない。
穣は、動揺を納めようと必死だった。カメラが回っている。こんな状態を配信で流すなんてあまりいいことではない。そう思っても、先ほど読み取ったメッセージが頭の中をぐるぐる回っている。
『ミノル』
そっと、ミネルヴァの手が背中に触れた。
『……もう少しだから、がんばって』
「ああ……」
ミネルヴァは、当然穣より速くあのモールス信号の全文を読み取ったろう。おそらく、記録もしてくれている。
それなりに長い内容だった。映像で映り込んでいたとしても、一瞬のはずだ。仮に解読できる者が視聴していたとしても、すべてを読むことはできなかっただろう。
『じゃ、残念ですがそろそろお別れの時間が参りました! 本日のゲスト、【ジョーチャンネル】のジョーさんとミネルヴァさん、ありがとうございました! それではまた次回の配信でお会いしましょう! チャンネル登録、高評価、よろしくお願いします!』
ウグイスがしめに入る。カメラに向かって、チーム・クリスタルが手を振る。ミネルヴァも。
穣も、ぎこちなくそれに合わせた。




