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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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天啓

 ダンジョン内には、移動用のトロッコがある。二時間しか配信と探索ができないという縛りの中でも、探索が少しでも効率的にできるようにという措置だ。わざわざレールを敷いたのは、もし道に迷ってもレールを辿ればエレベーターまで戻れるからだ。


 とはいえ、ダンジョン内すべてに敷かれているわけではない。それにトロッコの終着点はダンジョンの奥深くだから、熟練の探索者でなければそこまで行くのは禁じられている。


 ランクで言えば、Cランク以上。チーム・クリスタルと穣は全員条件をクリアしている。


『さー、トロッコが止まりましたよ。この辺は実は初探索です』


 人数が多いので、二手に分かれてトロッコに乗った。走ること三十分、トロッコが止まった辺りには申し訳程度の照明設備があるだけだった。舗装も十分ではない。


 まだ探索が不十分で、安全確保もされていないエリアということだ。


 ダンジョンに入って、そろそろ一時間経過する。グソール草の採取に思ったより手間がかかってしまった。トロル三匹に続いて、ボブゴブリンやハーピーも出てきたので、戦闘に手を割かれたためだ。


『帰る時間もあるから、残り三十分にゃ』


 ドラが言う。カメラがその姿を捉えると、コメント欄が賑やかになる。


『かわいー』


『ハチワレねこだ。うちのと同じ』


『もふもふ成分はいいですなぁ』


 ダンジョン探索の補佐をするAIは、映像だけで画面に登場するタイプもいる。ミネルヴァやドラは実体があるのだが、そのタイプはメンテナンスも必要なので、バーチャルなタイプのほうが人気がある。


 トロッコの終着点周辺には、三つの枝道がある。チーム・クリスタルが探索したことがあるのは、向かって右側と中央の道。今日は未探査の左側を調査することになっている。


「先行するわ。ブレイドとかぼすは後ろに」


「ラジャー」


「了解」


 ミラーとの間隔を1メートルほど空け、ブレイドとかぼすが続く。穣とミネルヴァはそのさらに一メートル後ろ、背後に着く形でウグイス、殿はシールドだ。ドラはウグイスの肩の上にいる。


『あれ、ミラーさんが止まりました。何か見つけたのかな』


「部屋があるわ」


 ミラーが、ヘルメットに着いたライトで壁面を照らした。確かに扉らしきものがぼんやり見える。


『室内に生体反応はありません。ただ、空気が循環していないため、ガスが溜まっている可能性があります』


 ミネルヴァが静かに扉の前に移動し、ミラーを下がらせた。


 ゆっくりと、ミネルヴァが扉を開ける。穣は息を詰めていたが、ミネルヴァのセンサーに有毒なガスの反応は現れなかった。


『異常ありません。どうぞ』


「人間の斥候は必要なさそうね」


『そんなことはありません。私では人間なら感知できる異常を見つけることができません』


ミネルヴァとミラーが、並んで部屋に入る。後方の警戒はシールドに任せ、穣たちも順に後に続いた。


「暗いな。かぼす、シールドからライト借りてきてくれ」


「おっけ」


 かぼすは一旦通路へ出て、すぐに簡易ライトを持って戻り、手早く組み立てた。


『よし、これで探索できますね。ざっと見たところ何もないですが……』


『壁の辺りとかどう? カメラ寄ってほしいな』


『天井とか気になる』


『ドラたん映して』


 一旦止まっていたコメントもちらほら戻ってくる。それを聞き流しながら、ミネルヴァも加えて壁際から丹念に探索を開始する。


『ライトもう少し光量あげた方がいいかしら』


「いや、大丈夫だ。見える」


 こういう場合は、垂直に上下移動を繰り返して調べるのがいい。ミネルヴァの探索機能も借りつつ、穣はゆっくりと視線と指先で壁を探っていく。


 湿った感触。ほとんど人が入っていなさそうなのは確かだ。他の企業系探索者や、フリーランスの探索者もあまり近づかないエリアなのだろうか。あまりに調査の痕跡が少ない。


「あれ? なんだこれ」


 かぼすがつぶやいた。


「どうした?」


「いや、これへこみかと思ったんだけど、なんかさ……」


 ブレイドと穣は、かぼすの指さす箇所に目を凝らした。ライトを持ったウグイスも後ろからやってくる。


 光の中でも、それはあまりはっきりとは見えなかった。最初は、かぼすが何を言わんとしているのかもわからなかった。複数のくぼみと直線の傷が、不規則に並んでいると見て取るのがやっとだった。


 しばらく、穣はそれを凝視していた。が、すぐに大きく息を呑む。


「これは――!」


『モールス信号じゃね?』


 察しのいい視聴者のコメントと、穣の閃きが重なった。


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