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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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トロル

 チーム・クリスタルのメンバーは、実況担当のウグイス以外は全員顔を隠しており、身体にフィットした黒いスーツ姿、胸部と腹部を覆うプレートを身につけている。防護という理由もあるが、一番はプライバシー保護のためだ。


 普段の生活と仕事をしっかり分けたいということで、生配信で顔を出さない探索者は珍しくない。むしろ、顔出しで配信する方がどちらかと言えば少数派だ。穣もゴーグルとマスクで顔を隠している。


『さっそくいいものが見つかりましたね』


「いやいまいちって言ったじゃん!」


『まあまあ。じゃ、他にも何かないか探して見ましょう。どちらにしても、あと三分で次行きますよ』


 配信時間には限りがある。手分けして壁や床、天井まで探してみたが、特に何も見つからなかった。


『そういえば、こないだダンジョン近隣の飲食店巡りしたんですよ。新しくオープンしたラーメン屋がおいしくて――』


 探索の光景を撮影しながら、ウグイスは雑談で間を持たせる。


『そんなお店あるんだ』


『一般人でも行けますか?』


『というかどうやって行くの? 車?』


『あ、移動手段ですか? ちょっとバス停から離れてるんですけど、歩いて十分くらいでダンジョンまで行けますよ。飲食店街はダンジョン駐車場入り口の辺りに多いから、ちょっと観光がてら来るのもおすすめでーす』


 さすが企業所属の探索者だ、と穣は思った。視聴者を飽きさせない工夫を凝らし、配信内容が退屈でも離脱しないように引き留める。そういうノウハウも、フレイザーが出資して設立された専門学校の『ダンジョン探索学部』で教えられるのだそうだ。


 穣は不器用なので、一人で撮影と探索と生配信をしなければならなかったころは本当に大変だった。ミネルヴァがそのうちの二つを引き受けてくれるようになったおかげで、探索に専念できる。


『みんな! 気をつけるにゃ!』


 ドラが警報音とともに叫んだのは、そのときだった。


『部屋の外に敵の反応あり! 接近中です! 一〇秒後に最接近します! 各自、配置についてください!』


 口調まで変わる。メンバーは一瞬で武器を抜き、ミラーが出入り口の壁に張り付いた。


「トロルです。三体。統率は取れていません。リーダーを持たないはぐれ者と思われます」


 トロルは基本的に群れをなさないが、希に彼らを率いてこちらにけしかけてくる比較的知能の高いモンスターもいる。そういう場合はやっかいだ。トロルはあまり頭がよくないため攻撃が単調だが、とにかく丈夫なのだ。しかも再生能力もある。倒すためには傷が治りきらないうちに複数で取り囲み、戦闘不能になるまでひっきりなしに攻撃しなければならない。


 こちらは六人。シールドにウグイスの守りに回ってもらうので、実質五人だ。気をつけなければ、かなり面倒な戦いになるだろう。


「ここじゃ不利だな。廊下へ出るぞ」


 ブレイドが音もなく部屋を飛び出すと、ミラーとかぼすの二人が無言でその後に従った。穣も後を追う。


 戦闘時の役割分担は、事前研修で打ち合わせしてある。


 攻撃力が一番高いブレイドが、ミラーとかぼすのサポートを受け前に出る。シールドは仲間の補佐で、必要に応じて回復用アイテムを投入する。ウグイスは、当然配信と実況だ。


『うーわー! 出た! ブレイドのローリングクラッシャー出た!』


『あの技前はゴールデンスマッシュとか言ってなかった?』


『毎回技名変わってるwwww』


『いちいち覚えてないよー! 思いつきだよー!』


 ミネルヴァの読み上げるコメントの棒読み具合と、ウグイスのテンションの高い叫びとの落差がすごい

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