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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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チーム・クリスタル

『はい! ということで今日も始まりました! 【ダンジョンアドベンチャーチャンネル】! なんと今日は、有名配信者のジョーさんミネルヴァさんとコラボ企画でーす!』


 チーム内の配信および実況担当の『ウグイス』が、OP撮影を開始する。カメラを向けられて、穣は軽く会釈した。


「コラボ初めてということで、よろしくお願いしまーす!」


「よろしくお願いします」


「ミネルヴァさん、かっこいいですね」


『ありがとう。よろしくお願いします』


 そんなやりとりを経て、ウグイスが今回の配信概要を説明する。


『今日は、いつも通りグソール草の採取任務があるんですが、一番の目的ははもちろん下層階への階段を見つけることです。我々チーム・クリスタルもここ二年間、三十五階の探索の傍ら探し続けているわけですが――』


 ここで、ウグイスが端末に触れた。腰の辺りに装着した長い棒で固定し、身体の前に端末を置いて両手でも操作できるようになっている。彼女は動画の撮影と編集の専門要員なのだ。


「今過去の動画の場面をいくつか流してるから、その間にちょっと進んでおきましょう」


 斥候担当の『ミラー』が促し、一同は歩を進めた。


 今回行動を共にするチーム・クリスタルは全部で五人。ウグイスは探索や戦闘には加わらないので、穣とミネルヴァを入れた六人で活動することになる。


「ジョーさんは、画面視聴デバイスは使わないんですよね?」


「ええ、視界に違う情報が入ってきて、戦闘時は危険なので」


「最近のデバイスは、緊急時には自動で画面が切れるシステムが内蔵されてますよ」


「……そんな高価な機器は、まだ購入できません」


 フレイザー社の最新型配信用周辺機器である。所属していれば、備品として支給されるのだろう。穣の動画配信での平均月収は、だいたい二十万円前後。時折受ける企業案件や、ダンジョン内で採取したアイテムを売ったときの収入も合わせればもっと多いこともあるが、今はミネルヴァのローン返済もあるのでなかなか経済的に厳しい。必要経費がなるべく出ないよう、型落ちの機器を使ったり薬などの消耗品をぎりぎりまで使わないようにして切り詰めているのだ。


『あ、今日の最初の探索ポイントに到着しましたね』


 一同は、洞窟の入り口のような場所の前で停止した。


『地図で言うと、このポイントになります』


 配信画面では、マップが表示されているはずだ。穣は手持ちの端末で、地図を確認する。


 ダンジョン内ではエレベーターのある場所を起点として、便宜上方角を東西南北で表すようになっている。今穣たちがいるのは、エレベーターから北東に五十メートルほど進んだ地点だ。


『この部屋は何度も探索してますが、グソール草がいっぱい生えているのでまず採取をします。摘む前にデータを取るように言われてるんですよね。だからちょーっと視聴者の皆さんには退屈かもしれないので、今のうちに本日のゲスト紹介コーナーやりまーす』


 生配信はどうしても、移動しているだけの時間や作業中の手持ち無沙汰な間ができてしまう。その際に視聴者を飽きさせないよう気を配るのも、配信者の技量が問われる場面だ。穣の場合は、ミネルヴァに丸投げしている。


『じゃあ、チャンネルの視聴者の皆さんはジョーさんがお初って人もいるかもしれないので、軽ーく自己紹介いただきましょうか。ジョーさん、よろしいですか?』


「……はい」


 うなずくのと同時に、ミネルヴァがカメラの前に移動した。


『初めまして。【ジョーチャンネル】のヒューマノイド型探索補助AI、ミネルヴァです。こちらがジョー。探索を始めて四年目です』


『おお、ヒューマノイド型の補助AI、やっぱかっこいいですね。うちはアニマル型なので、新鮮です』


 穣はこういうのが苦手なので、ミネルヴァが引き受けてくれるのだ。丸投げである。ミネルヴァの受け答えの合間に相づちを打ちながら、穣はイヤホンをオンにした。


『すげー! 知的なお姉さんって感じ!』


『ジョーさん、相変わらず無口www がんばれwww』


『ミネルヴァたん、本体もいいんだよね。配信時の美少女モードも大好きだけど』


 概ね好意的なコメントばかりだ。


「ジョーさん、部屋の探索に入ります。準備いいですか?」


「大丈夫です」


 『ブレイド』という大柄な男が、入り口の脇に身を潜めた。急な襲撃などに備え、一度入ったことのある部屋でも警戒は怠らない。穣も同じように動き、室内の気配を探る。


『サーモグラフィー、レーダーともに異常なし。生体反応なし』


『同じくにゃ』


 ミネルヴァと、チーム・クリスタルの猫型AI『ドラ』の声を聞き、穣とブレイドは部屋に踏み込んだ。


『この部屋は初めてですね。ライトつけましょう』


 ウグイスは、大型のライトを背中に装着している。かなりの明るさなので、室内の様子がすべて見えるようになった。


『あ、宝箱がありますね。ドラちゃん、チェックお願い』


『まかせるのにゃ。……異常はないにゃ。ミネルヴァはどう思うにゃ?』


『同意します。中には何か、固形物が入っているようです』


「じゃ、開けてみますか」


 前に出たのは『かぼす』。アイテムの鑑定や宝箱の解錠スキルを持っている。ちなみに宝箱と呼んでいるが、見た目はただの木の箱だ。中に入っているものは、取り出してもやはり一日で元に戻っている。


「これは……鎧だね。防具としての強度は――」


 かぼすは、背嚢から取り出した機器からコードを延ばし、端末を鎧のあちこちに当てる。


「いまいちかな。これなら今の装備のほうが丈夫だね。でも初めて見るアイテムだし、持って帰ろう」


 かぼすから渡された鎧を、『シールド』が受け取って手元のコンテナに収納した。鍛えた筋肉の持ち主で、一番防戦に長けているため探索で見つけたアイテムの番人も兼ねているそうだ。

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