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ダンジョン配信の理由  作者: 八谷 響
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時のねじれ

 ダンジョンから採取されたアイテムは、まずこの施設に届けることになっている。それも、ダンジョンを出てすぐに。


 外に持ち出したアイテムは、長くても一週間ほどしか保たないのだ。その間に、採れるだけのデータを集めなければならない。そういうわけでダンジョン発見直後はほとんど研究が進まなかったらしいのだが、グソール草発見後から事情が変わった。


 即座に動いたのが、上杉敏夫だった。


 彼は知人の研究者とともに、グソール草についてまとめた論文を政府に持ち込んだのだ。それだけでなく、動画配信を利用してグソール草を世界にアピールした。海外の投資家が数名興味を持ち、それ以外の人々も動画を拡散したおかげでさらにグソール草の情報が広まることになった。


 そして政府や海外投資家、クラウドファンディングなどからの協力と資金を以て、初のダンジョンアイテム研究機関が誕生した。


 ダンジョンが出現した辺りは人家もない山の中だったのだが、その機関の建物を初めとして徐々に切り開かれ、今では探索者用の広い駐車場もあるし、周辺には飲食店や探索に必要な道具や雑貨を売る店もある。最も新しく建設されたのは、グソール燃料の精製工場だ。ここで作られた燃料を全国に配送し、従来のガソリンスタンドで給油できるようになっている。


 穣が乗ってきたグソール燃料のみで走行できるタイプの車は、まだまだ高額だ。政府がグソール車減税というのを打ち出して購入促進を進めているが、効果はまずまずと言ったところだ。ほとんどの国民は、ガソリンとグソール燃料を混ぜた燃料を使っている。従来のガソリンバイオ混合燃料とほぼ性質が変わらないので、現在所有する車で問題なく使用できる。


 ガソリングソール燃料は、一リットルあたり今までの給油価格と比べて一〇~三〇円安い。だから当然、諸手を挙げて歓迎された。


『うーん、どこまで動画で解説すればいいかしらね。あまり知識ばかり詰め込んでも面白くないでしょうし』


「必要な情報は削れないしな。フレイザーの車のどこにメリットがあるのかは、わかりやすく説明する必要がある」


 その案配が難しいのだ。


『あ、そうだわ。最近発表されたあの学説も取り上げる方がいいかしら?』


「ん?」


『ミノルも気にしていたでしょう。『ダンジョンタイムループ説』よ』


 穣は、思わず足を止めた。


 可能性だけは、何年も前から指摘されていたらしい。


 ダンジョンで採取したアイテムは、一日経つとまた元の場所に元の状態で出現している。倒したモンスターも、やはり同じような周期で個体数が戻っていると思われる節がある。


 確認するのが困難な仮説なので、今でも結論は出ないままだ。しかし、確かにそんな現象が起きているのは事実だ。


 だからグソール草は、安定供給ができる。ダンジョン一階に開けた場所があったので、そこで株分けを繰り返して栽培に成功したのだ。すべて刈り取っても、翌日には同じ量が回復している。ダンジョン外に畑を作ることももちろん計画されたのだが、そちらはどうしてもうまくいかなかった。


 それらの事象を総合して、ある学者が提唱したのが、ダンジョンタイムループ説だ。あの空間では時間の流れがある時点で巻き戻る。だからなくなったはずのものが戻る。外に持ち出したダンジョンアイテムが短期間しか存在できないのは、ダンジョンの外の時間の流れで劣化してしまうからではないか、というのだ。


「……いや、グソール車紹介には必要ないだろ」


『そう?』


 穣は、再び歩き出した。


 探索者は、コンプライアンスによりダンジョン内には最長二時間しかいられないことになっている。生配信をそれ以上の長さで行っても視聴者が見ることはほとんどないからでもあるが、主な理由は体調とメンタルを守るためだ。モンスターもいるし、実際危険なのは確かだ。


 だから、身を以て試したことがある者は誰もいない。本当に、時の流れが巻き戻るのかどうか。もしものときのリスクを誰も予測できないのに、そんな実験をするわけにはいかない。


 その話を聞いたとき、穣は思わず神に祈った。そしてそれが、ダンジョン探索者になるという決意の最後の一押しとなった。


 時が流れないのなら。あの瞬間を、何度も何度も繰り返して留めているというのなら。


 助けられるかもしれない。生きた豊浦を。


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