強さを知った日
夕暮れの訓練場。
そこには、またしてもボロボロになった“新兵”の姿があった。
「……またかよ、あいつ」
フィオはため息をつきながらも、その小さな身体を軽々と背負い上げた。
何度倒れても諦めないその姿を、いつしか目で追っていた自分に気づいていた。
──部屋に着くまでの道のり、背中の重さはどこか心地よくて。
「どんだけ無茶してんだよ、エル……」
そっと寝台に横たえ、乱れた衣服を整えようと手を伸ばしたとき──
襟元が、ふと開いた。
「……え?」
一瞬、何を見たのか理解できなかった。
けれど視線が下へ向かうと、次第に輪郭が形を成して──
「……女、なのか……?」
驚きに目を見開く。
けれど、次の瞬間。
日々の訓練の記憶、泥まみれで倒れながらも立ち上がった姿、剣を握るその手の震え──すべてが脳裏を駆け巡る。
フィオは、しばらく黙ってそれを見つめたあと、ふっと目を伏せて苦笑した。
「なんだよ……こんなに小せぇ体で、毎日遅くまで残って、倒れても剣を離さねぇなんて……バカかよ……」
声はどこか優しく、掠れていた。
「女だとか、そんなの……関係ねぇくらい、お前は“強くなりたい”って顔してたじゃねぇか」
静かに布を整え、脱げかけた服を直す。
何も見なかったように、そっと。
「……バレたくねぇんだろ。だったら、黙っといてやるよ」
立ち上がると、もう一度彼女──エルの寝顔を見る。
安らかな寝息。どこか、無防備すぎて笑えてくる。
「……不器用すぎんだよ、ほんと」
そう呟いて、部屋を後にした。
扉が静かに閉まる。
その先に立つフィオの表情は、少しだけ変わっていた。
それは、戦友として。
ライバルとして。
もしかしたら──それ以上の何かとして、心が動き始めた瞬間だった。