表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の誓い、お嬢様は剣をとる  作者: 脇汗ベリッシマ
暁の誓い
6/75

お互いの鼓動

 その日、騎士団の朝はざわめきと共に始まった。


「最強の剣士・カイン様が直々に視察に来るってよ!」

「マジかよ、心臓が持たねぇ……」

「顔見ただけで斬られそうなオーラだって聞いたぞ……!」


 新兵たちの間に広がる噂と緊張の空気。

 その中に紛れ、背筋を伸ばして立つ一人の小柄な少年──否、“少年として振る舞う”エル。

 男装に身を包み、名を隠して騎士団に身を置いていた。


 そして、空気を裂くように現れたその人。

 長身、漆黒の外套、鋭い眼差し。

 歩くたび、空気の温度が変わるような威圧感を纏って。


「……カイン様だ……」


 隣で呟いたフィオの声すら遠くに聞こえる。

 エルの視線は、ただ彼に釘付けだった。


(どうして……今……!?)


 鼓動が跳ね上がる。

 額に滲む汗は、決して気温のせいではなかった。


 そして──


 視察の途中。カインの鋭い眼差しが、ふとこちらを向いた。


 ぴたりと止まる視線。


(……っ!見られてる……!?)


 エルは慌てて視線を逸らし、俯く。


 だが。


 カインの心の奥で、微かに波紋が広がっていた。


 (この気配……どこかで──)


 その夜。訓練場。


 皆が寝静まった後、静かに剣を振るう影があった。

 昼間の視線が脳裏に焼き付き、気が抜けなかったエルは、誰にも気づかれぬよう訓練を続けていた。


 ──その背に、気配が降る。


「……夜に訓練とは感心だな」


「っ!」


 振り返ったその先に立っていたのは、カイン。


 月明かりに照らされたその姿は、記憶よりも少し疲れて見えた。

 けれど、凛としていた。やっぱり──心を奪われるほどに。


「お前、どこで剣を習った?」


「……っ、そ、独学ですっ!」


 しどろもどろの声に、思わず自分で自分を殴りたくなる。


(落ち着け……今は“騎士見習い”なんだ……!)


「そうか。……いや、悪いな。気になっただけだ」


 静かに微笑んで、カインは背を向けた。

 けれどその背に、僅かな躊躇があった。


(──剣の軌道、あれは“彼女”と同じだ)


 ずっと、忘れることができなかった影。

 想いを告げる前に、突然姿を消したあの人。


 似ている。ただの勘違いかもしれない。

 けれど、心は嘘をつけなかった。


「……まさか、な」


 その呟きは夜風に消えていった。


 エルは、その場に膝をつき、胸を押さえた。


(お願い……気づかないで……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ