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その手紙の向こうに
「まだ見つからないのか、と聞いているんだッ!」
普段は冷静沈着なはずのレオンハルト王子が、机を叩いて声を荒げる。
揺れる燭台の炎が、その怒りと焦燥を映し出す。
宛名もなく、ただ一枚だけ、机の上に残されていた置き手紙。
そこには簡素な筆跡で──
「少しだけ、外の世界を見てきます。
私のことは、心配しないでください。」
それだけが、静かに、しかし深く胸を抉るように残っていた。
「一体、なぜ……。どうして俺に何も言わなかった……」
唇を噛みしめ、目を伏せるレオンハルト。
隣で控えていたユリウスが、そっと声を落とす。
「……お嬢様は、昔からそういう方でした。大切なものほど、巻き込みたくないと。」
「そんなやさしさ、俺は望んでいない……!」
噛み締めた言葉の中には、守れなかった後悔と、焦燥と、まだ見ぬ彼女への強い想いが詰まっていた──