プロローグ──「お前は、もういらない」
焼け付く陽差しの中、砦の前の荒野に俺は立たされていた。
乾いた空気。吹き荒ぶ風。剣と魔法の焼け焦げた匂いが鼻を突く。
目の前にいるのは、俺が「仲間」だと思っていた存在たち__勇者レグナと、その取り巻きだ。
「ノア、お前はもう……ついてこなくていい」
その言葉は、冗談や軽口の類ではなかった。
レグナは冷たい目で俺を見下ろしていた。
鍛え上げた身体に、黄金の鎧。背に背負う聖剣が、太陽の光を浴びて鈍く光っていた。
「……は?」
呆然とする俺に、追い打ちをかけるようにセリスが口を開く。
氷の聖女と称される美しい女魔法使い。透き通るような銀髪、氷のような青い瞳。かつては優しさを見せてくれた彼女の唇が、今は残酷な弧を描いていた。
「あなた、戦闘中ずっと後衛で逃げてばかりじゃない。あれじゃ守る価値もないわ。もう限界よ。ねえ、ガルド?」
横に立つ雷斧の戦士_ガルドが、筋骨隆々の腕を組んだまま笑う。
「最初から思ってたんだよなあ。お前のスキル、菌糸だか胞子だか知らんが、臭ぇだけで使い物にならねぇってな」
「お情けで連れてきてやったのよ? 感謝してもらいたいくらいだわ」
神官のルーニャが、鼻で笑う。金色の巻き髪を揺らして、彼女は俺を見下した。
その視線には、一欠片の同情もなかった。
怒りよりも、悲しみよりも、ただ虚しさがあった。
「……わかった」
俺は声を絞り出した。
「せめて、この砦まで送り届けてくれ。魔王軍の拠点のすぐ近くだ。ここで置き去りにされたら……死ぬ」
「……そうね。じゃあ__」
そう言ったのはセリスだった。
その直後、足元に違和感を覚えた。
「ここで死になさい!」
瞬間、地面が崩れた。
用意されていた“罠”_深い落とし穴の中に、俺は為す術なく、落ちていった。
…あぁ、俺はずっと、嫌われていたのか。
耳元で、誰かの笑い声が遠ざかっていった。