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七話「【魔闘技師】」


キース・マルセル。星六ランクの冒険者であり〈黄金の隕石〉のメンバーである。

彼は非常に優れた「魔道技師」で、幼い頃に有名な魔道技師の師匠に弟子入り、今では免許皆伝し一流の魔道技師として名を馳せ様々な魔道具を生み出している。


魔道技師と言われると冒険者とは関わりが薄いように思う人もいるかもしれないが、魔道具は日常の便利アイテムだけでなく、旅や探索に便利な物や、種類は少ないが戦闘に使える物もある。

危険な場所に行くことの多い冒険者はそれだけ荷物が壊れる頻度も多いわけで、頻繁に魔道具の整備が必要になるため魔道技師とは親密な関係なのだ。多くの冒険者は懇意にしている魔道技師がいたり、ギルド専属の魔道技師を雇っていたりする。


ただ、彼の場合はその限りではない。

〈黄金の隕石〉の一員として遺跡探索にも行くし、敵とも戦う。主に後方支援を担当し、彼の多様な魔道具で全体をサポートする。

彼の魔道具を大量生産すれば大規模なレイドでも冒険者一人一人に行き渡らせることが可能だし、多少コミュニケーション能力に難ありだが、その点を除けば〈黄金の隕石〉の中でも穏やかで優しい性格で接しやすい。

今回のような大規模な討伐にはうってつけの人材だと言えるのだ。



▷▷▷



そんな最適性人物をなぜ今まで話にすら出していなかったのかと言えば、私はてっきりみんなと一緒に遺跡に行っているのだと勘違いしていたからである。


もう全然知らなかった。多分言ってくれてはいたんだろうけど、話聞いてなかったんだろうね。それより、もう彼らが遺跡探索に行ってしばらく経つのに全然気づかなかったよ。多分私もキースも引きこもりだからお互い会わなかったに違いない……


「……分かった。キースに聞いてみるよ。今は作業室にいるの?」

「ええ、ずっとそこに……申し訳ありません、お願いします……」


だがしかしそんなことはおくびにも出さずにしれっと答える。

キースは作業室に籠もってんのかー。多分ずっとなんか作ってんだろうなー。すごい集中力だからなー。


私のテリトリーである執務室を出て階段を降りると、三階には事務室と研究室がある。研究室は階の半分以上を占めており、その広い研究室の中でもキース専用の作業室は約半分の広さを占める。

特別扱いのようだが、彼はこのギルドのほとんどの魔道具の整備、管理を担っているので仕事相応の待遇なのである。


分厚い木の扉をノックしてみる……反応なし。

扉の横に取り付けられた、押すと中のベルが鳴る仕組みらしい魔道具のボタンを押す…………反応なし。

これは相当集中しているようだ。


仕方がないので、普通に中に入ることにする。

幸いなことに鍵は掛かっていなかったので、小声で謝りながら扉を開けた。


「キース……キース、いるー?」


中はなんというか、物で溢れかえっていた。

一応道はあるし散乱している訳ではないのだが、如何せん物が多すぎる。これは多分本人は何がどこにあるのか把握しているけど、他の人じゃあ何も分からないタイプの部屋だ。下手にいじると怒られる分一番面倒くさいやつだ。


とりあえず道っぽいところを辿って奥へと進んでいく。

多分魔道具らしい物から、多分作業道具っぽい物、工具っぽい物、遺物っぽい物、あとは得体のしれない何か……

うーん……久々にこの部屋入ったけど、相変わらず分からないものだらけだな……なにこれ……人形?怖いよ……笑ってるよ……


「あ、キースいた」


彼は何やら大きい作業机の上で何かしらの作業をしているようだった。いや分かんないんだよ。なんかネジ?巻いてるみたいだけど。


さて、ここまで近くに来ても気づかないとは。

肩叩いた方がいいかな?いや、危ないか……


「キーーース!!!」


結局大声で呼んだ。


ピクリと小さく肩を揺らすと、机に向かっていた大きな身体がゆっくりと振り向いた。

身長はゆうにニメートルを超え、魔道技師なのになぜか筋肉にも恵まれている巨体、それに反して下がった眉と優しげな面持ち、そして深い深緑の瞳。

不安そうにこちらを見上げる彼こそ、我がパーティの魔道技師にして星六冒険者、【魔闘技師(まとうぎし)】キース・マルセルである。


「あれ……クリアちゃん……どうしたの?」

「久しぶりキース。うん、ちょっとお願いがあってね?」

「お願い……あっ、ここ、座って」

「あぁ、ありがとう」


その巨体の後ろから椅子を引っ張り出してくれたので、ありがたく座らせてもらおう。

作業をする手は止まり、今は体の前でもじもじと指が動いている。


「ずっと籠もってたの?ご飯とか食べてる?というかみんなと一緒じゃなかったんだね」

「えと、ご飯は食べてるよ……今、ちょっと忙しくて……もうすぐ、あの、発表会あるから……」

「あーそういえばそうだったねー」


全然知らないけど。

そうか、なんか色々忙しいのか……わかんないけど……


「それで……お願いって、何?」

「うん。実はね、キースに討代隊に参加してもらいたくって。ちょっと色々イレギュラーが重なってね、最初はメルに参加してもらおうと思ってたんだけど。でも忙しいなら……」

「分かった……やるよ」

「うん?いいの?」

「うん……作業も、一段落ついてたし……クリアちゃんの頼みだし……が、頑張るよ……」

「えっと……本当に大丈夫?」


自慢じゃないが、彼はあまり集団行動が向いていない。

こうして一人で黙々と何かをしていることが多いし、何より彼は……人見知りなのである。

私とは会話が成り立っているが、基本人と話すのは苦手で、付き合いの長いギルドメンバーでも意思疎通がうまくいかない時がある。ましてや大人数の前に立ち、話すなんてことは到底無理な話なのだ。

この討伐隊で最もランクが高いのは星六であるキースになるだろうから、そうなれば指揮も自ずとキースが担うことになる。指揮するためには指示を出すために話さなければならない。


「だ、大丈夫……多分……実は、意思疎通の為の新しい魔道具も作ったんだ」


そう言う割には、今にも泣き出しそうで不安そうな顔をしているのですが……

まあいいか。本人が大丈夫って言うんだし、キースが行けないとなると本当に代わりの人いないから。


「それならお願いするね。頑張ってキース。ありがとう!」

「う、うん。あの……詳しい話わかったら、教えて

ね……」

「うんうん。また来るから。じゃあねー」

「ま、またね!」



▷▷▷



キースの研究室を出て、執務室へ……と思ったがロビ一の方へ向かう。

事態が事態だし、私もどうにか参加できる冒険者を探そうと思ったのだ。といっても誰が適任とかは分からないから、話聞いたり紹介してもらったりしながらギルドマスターの権力を使って説得しようと思う。


もう夕方だからかロビーには依頼帰りの冒険者達がそこそこたむろしていた。見覚えのある冒険者も何人かいるが……どうしようかな。とりあえずニコラちゃんに聞こう。


「ニコラちゃんお疲れ様」

「あらマスター、お疲れ様です!」

「今ねー、盗賊討作戦の追加人員探してるんだけど、この中でいい人いないかな?」

「ああ、先日協会から引き受けた依頼ですね。追加人員ですか…日程も迫ってきているので、そもそも予定が空いてる方が少ないかもしれませんね」

「そうよねー。できれば星三とか星二の中でも強めの人がいいんだけど……」


まあシーファが選定を進めてくれてるだろうから、こんな何も分からない私が無理して選ぼうとしなくてもいいんだけどね。


「あ、あそこのメイナさんとかどうですか?星三のソロ冒険者で探索能力にも優れていらっしゃいますし」

「あー、カーラと仲いい子だよね。ちょっと話聞きに行ってみるよ」


カウンターから離れ、人のあいまを縫ってメイナちゃんがいる場所を目指す。


「あれ、マスター。お疲れ様」

「え?マスターって?」

「あー、お疲れ様。ちょっと失礼ー」


私もいつも執務室に籠もりきりな訳ではないから、ギルドメンバーとはちょくちょく顔を合わせている。それでも仮面を付けている時もあればやっぱりそもそもあまり合わないため、特に最近入ってきたようなメンバーは私の顔を知らない者も多い。

新しく入った子とかにもちゃんと顔見せした方がいいかなーとは思うんだけど面倒だし、一応半年に一度ギルドメンバーや関係者皆さん任意参加の交流会は開催しているため、そこで正式にギルドマスターからのご挨拶を申し上げている。正式ではあるがちゃんと何か言っているわけでもなく、毎回ただ一言喋って終了なのだが。


「あれ、クリア?」

「ん?」


横の方から誰かに声をかけられた。あら、そこにいるのは……


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