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四話「お礼と所属」


「ごめんちょっと意味が分からない」

「え、ごめん、私名前覚えるの苦手なんだ」

「いやそうじゃない」


じゃあ何なんだ?

首をかしげる。

シュウくんも同じようにかしげる。


「……クリア、だよな?」

「うん、そうだね」

「……《新星の精鋭(レア・ニュービー)》のギルドマスターは?」

「うん、私だね」


誰か別の人に見えたのかな?

シュウくんはぱっくりと口を開けわなわなと震えている。


「……は、はああぁーーー!?!?な、何でそんな人が盗賊に捕まってるんだよ!?」

「いやまぁそれは流れで……」


どうやらずいぶんとギルドマスターに期待を抱いていたみたいだ。

多分、大層な肩書きで実力を過大に想像し、好き勝手に言われている大袈裟な噂を真に受けていたんだろう。

やっぱり、そういうのは信用ならないよね。メディアの情報の真偽は玉石混交だからね。


「とりあえず中に入ろう。何か話があったんでしょ?」


はあ、やっと座れた。帰ってきてからそのまま応援室に来たから疲れてたんだよね。

ワタワタとお茶を淹れてくれているシュウくんを横目に、彼が持ってきてくれた茶菓子をつまみつつ本題を待つ。


「それで、どしたの?」

「あの……クリア、さんにですね」

「あ、無理して態度変えなくてもいいよ」

「え、ああうん……まず、お礼を言いに来た。あの日、俺を助けてくれてありがとう。クリアがいなかったら……俺は今頃、趣味の悪い金持ちの見世物になってた」


シュウくんは真剣に感謝を述べてくれた。

じっと見つめる瞳は青から橙へと変わりながら炎のように揺らいでいて、確かに他では見たことがない不思議で神秘的な目だ。

恐らく何らかの能力を持った「魔眼」。

見世物になるならまだいいが、違法な研究者に買われて人体実験でもされていた可能性もある。


そう思うと……あの日攫われた私ナイス、と思わなくもない。攫われないに越したことはないが。


「それから、何か俺に出来ることがあれば恩返しをしたいんだ。クリアは命の恩人だから。でも……ギルドマスターなら、俺みたいな低級冒険者の助けなんていらないよな……」


あからさまにしゅんとしてしまった。

うーん、確かにしてほしいことは特にないけど……あ、そうだ。


「シュウくんて今ランクいくつ?」

「え、星一だけど……」

「ふむふむ、君うちのクラン入らない?」

「……は?」

「私から話しとくから、受付行って登録してね。そしたらシーファが、あぁ事務の子なんだけどね、その子が何とかしてくれるから」


帝都来たばっかりって言ってたよね?だったらまだギルドには入ってないはず。星一にしては強かった気がするし、ギルドの誰かに鍛えてもらえばきっと強くなるよ。


そして是非私を守ってください。



「シーファが色々教えてくれるだろうから、分かんないこととかあったら彼女に聞いて。じゃ」


「え?……えぇ!?」



▷▷▷



「マスター、おかえりなさい」

「ただいまぁ」


どさぁっと自室(執務室だが)のソファに飛び込む。

これだよ、これ。この沈み込む感じがいいんだよ〜

わざわざ特注で作ったこのソファは私の大のお気に入りで、帝都に来てからこまめに手入れをしながらずっと使っている。


「ふはあ」

「お疲れ様です。どんな話をなされたのですか?」

「うん、なんかまた盗賊の討伐?に行くことになったらしいから、うちのギルドからもメンバー出すの。選抜任せるね」

「……候補は選んでおくので、マスターが最終決定なさってください」

「えー……まあいいや。あ、あとさっき星一の子スカウト?したから、登録よろしくね」

「星一ですか?珍しいですね」


星一は冒険者の中でも一番下のランクだ。冒険者に登録するとはじめの半年間程は受けられる依頼が制限され講習への参加が必須となる。この研修期間の冒険者は星無し、あるいは見習い冒険者と呼ばれる。そこから冒険者としてやっていけると判断されれば星一になれるのだ。登録できるのは十五歳から、星がもらえるのは十六歳からだ。

そこからは依頼の達成件数や達成度、実技試験を経てランクが上がっていき、星一から星七、その次が銀月、金月、虹月と続く。大体星一がルーキーで星二、三が中堅、星四以上となれば才能がないと難しい。


そして私の実力は星一にも満たない。その異様さがおわかりいただけただろうか。


「先程いらしていた方ですか?」

「そーそー、今さっき会ってたシュウくんね。魔眼持ってるし、なんか才能ありげだったから。そういえばミーニャっていないの?」

「彼女は今遺跡に行っていますね。帰還なさったらマスターにご連絡します」

「うん」


よしよし、これで全部だよね。

シーファは察しが良いし、私の事もよく分かってるから話が早いね。

いいね!


シーファにも時間に余裕があるようだったので立ったままの彼女を座らせ、雑談モードに入る。シーファは座るついでにササッとお茶を淹れ茶菓子を用意してくれた。

そういう所だよね、そういう所!全く優秀な子だね!


「それにしても魔眼持ちとは、よく見つけましたね」

「ん?……あーうん、まあね。私すごい」

「これでもう少し、真面目でいていただければ……」

「……いつもごめんなさい」


本当にごめんなさい。シーファには一番迷惑かけてますねごめんなさい。


帝都に来て、ギルド立ち上げの時からずっと運営を仕切ってくれているシーファ。かれこれもう五年以上の仲になる。

元々、大きな商会のとこの子で幼馴染み兼パーティメンバーのベルーダ兄妹も認める才能があったけど、ギルドが大きくなるにつれて経営の腕をさらにメキメキと上げていった。

私なんかよりずっとギルドメンバーについて詳しいし、帝都や冒険者、遺跡の情報も最新のものまで知り尽くしている。

彼女の存在そのものが、うちのギルドの強みの一つなのだ。


そういう訳で、ダメダメマスターは凄腕事務長に頼りっぱなしです。


「銀月ですから、実は色々忙しいのかもしれませんが……ギルドのことももう少し気にかけてください」

「うん、うん……」


いつも、寝ているだけでごめんなさい。


「ところで、シュウさんはまだ星ーなんですよね。誰か指導に付けますか?」


琥珀色の紅茶を一口含みカップを置くと、シーファはそう言って首を傾げた。

私は口に入っていたクッキーを飲み込み、目を瞬かせた。


ギルドメンバーの誰かが一緒に遺跡に行ったりして戦いのコツなんかを教えてくれれば、シュウくんが強くなるにはもってこいだ。

実際に冒険者協会には新人研修会なんていうものがあるし、ギルドにもそういう新入りを指導する制度はあって、それが駆け出し冒険者にとってはギルドに入る一つの利点にもなっている。


「そうだね。誰かいい人いる?」

「そうですね……シュウさんは片手剣を使う剣士だそうですから……」


うーん。

何人か片手剣の人は思いつくけど、暇があるかどうかとか、教えるのが上手いかとかは全然分からない。

ランクについてもあまり高すぎるのはよくないんだけど、そうなると全然知らないんだよなー。


「あ、あの子達は?ほら、半年くらい前に入った元気な子達」

「〈春のそよ風〉ですかね?彼等はまだ全員星二ですよ?」

「一緒に行動してもらえばいいよ。指導役は……まあ誰か任命するとして、〈春風〉達にも一緒に指導受けてもらえば一石二鳥でしょ?」

「チームとソロではまた違うとは思いますが……マスターがそう言うのなら、〈春のそよ風〉にも伝えておきます」


ついでに〈春風〉にシュウくんへの帝都の案内も任せればこれでバッチリだね!


「すみません、私は仕事があるのでそろそろ失礼しますが、マスターも仕事を手伝いますか?」

「いやー、私も忙しいから!」


これから雑誌読んでおやつ食べて寝ないとだから!


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