三十九話「友人と電話」
投稿空いちゃって申し訳ありません!
ギルを騎士団本部から回収して、その数日後になります。
『あ、クリア?聞こえてますわね?手紙は無事届いたかしら?中間連絡をしますわよ』
「ねぇー、聞いてよレイリィ」
『まずはわたくしの報告をお聞きなさいな』
机に肘をつき、通信機に向かって雑談をする姿勢になる。
お話相手は私のお友達、〈一角の乙女〉のレイリィだ。今ブレスト森林へと遠征に行っている彼女だが、遠征の中間連絡のためこうして通信を繋いでいる。が、別に中間連絡なんて生存確認くらいしかすることないし、こうして雑談したって何の問題もないのだ。
「ガルスさんがさぁー、私に新人研修会手伝えとか言ってきてさー、できる訳ないじゃんね?でもユーリスが引き受けようって言ってさ、そしたらスピカが……」
『お待ちなさい。話すにしても最初からにしていただきたいのですけれど。まず、盗賊団の討伐は無事終わったんですのね?』
「あーそう、でもそれも大変だったんだよ主にガルスさんが……」
▷▷▷
「でさー、この前ユーリスと作戦会議してね、結局私とパーティの誰かが同行しようって話になって」
『それで、支部長は納得するんですの?』
「同行者の報酬は要求しないからいいんじゃないってユーリスが。あくまで私の護衛だってことで」
『銀月冒険者に護衛なんている訳ないじゃないですの』
「いるって私の場合」
向こう側からレイリィのため息が聞こえた。
例の如く呆れられているが、だからといって私を見下したり見放したりせず、過度に正そうとする訳でもなく、適度な距離感でいてくれるからありがたい。そんなところが好きなのだ。
『……何か悪寒が……まぁ、ユーリスがいるのであれば安心ですわね。八割ほどは。そういえば、今は誰もいないんですの?』
「丁度ね。あ、リオならそこで寝てるけど。起こす?」
『やめてくださいまし』
誰かいたらこんなにのんびり話せてないからね。いつも横から介入してきて、気を遣ったレイリィが通信を切っちゃうから。
……で、レイリィの方はどんな状況なんだろ?
「レイリィは今どうしてるの?」
『その報告の連絡ですわよ、これ。とりあえず「眠る爆林」には一度入ってみて、わたくし達のレベルでも十分余裕を持って攻略できそうでしたから、あと数日は滞在して何度か依頼を受けつつ遺跡にも入る予定ですわ。今は滞在中の宿にいますわ』
「おーそれは良かった。みんな元気?」
『えぇ。リーダーは買い物に出かけましたからいませんけれど』
「アリーさんはお買い物好きだからねぇ」
まぁ、元から心配はさほどしてなかったけど。
〈一角〉のメンバーはみんな堅実で真面目だ。ランクこそ星四だけど、それは依頼を詰め込み過ぎず休みの割合を多く取っているからであって、実力や信頼度としてはもっと上でもいいくらいなのだ。
彼女達は非常に頼もしい。なんで今一番頼りたい時にいないんだろう。
〈一角〉だけじゃない。〈聖煌〉も〈剣盾〉も、ギルド創設時からいるような強くて頼りになるパーティは今みんな帝都を離れている。いつ戻ってくるんだか、それも全然分からない。
何なの?帝都に居たくないの?私だったらそんなに長く家を空けるなんて絶対無理だよ。
「じゃあ、まだしばらくは帰ってこないのね……」
『そうですわね。多分、魔道具発表会の前には戻れると思いますわ』
いつですかそれ。少なくとも、新人研修会には間に合わないってことだよね。
もし間に合うようなら手伝って欲しかったんだけどなぁ。最近不安な要素が多すぎて、なるべく万全の状態にしておかないと怖い。
『ところで、手紙はご覧になって?』
「うん。今回も真面目な文章だなーって思った」
『お手紙のマナーに則っただけですわよ。そうじゃなくて、貴女の言うお土産はあれで良かったのかしら?』
「あぁ、あれ」
あの、小石だか種だか分からない推定爆発物の何かだね。
腰のポーチをまさぐって小包を取り出す。中を覗いてみるが、やっぱり何なのかは分からない。
「これ何?」
『え?何って、カリストの木の種ですわよ。「眠る爆林」でお土産になるものといえば、これくらいかと思って』
「ってことは爆発物?」
『そうなりますわ』
やっぱり爆発するのね?これ。
いらないよ爆発物なんて……本当に……危ないじゃないのよ…………
「……次からは、置物とかお菓子とかでいいからね?」
『は?そんなもの、わざわざわたくしに頼まないでくださいまし』
冷たいなぁ。でもそう言いながら、私が欲しいって言ったらちゃんとくれるの知ってるからね。レイリィは優しい子なのだ。
「で、これどうやったら爆発……」
「あれぇー?クリアちゃぁん、誰とお話してるのぉ?」
『ひっ』
え?メル?
いつ扉を開けて入ってきたのか全く気が付かなかったが、仕事に行っていたはずのメルは私の後ろからするりと腕を回すとしなだれがかってきた。
レイリィの息を呑む声が聞こえてくる。
「レイリィ?レイリィだぁー、何をそんなにクリアちゃんと楽しそぉにお話してたのぉ?」
『た、ただの中間連絡ですわ』
「アレクサンダーじゃなくてぇ?」
『リーダーは今不在ですの……』
メルちゃんはにっこりと楽しそうな顔をしながらレイリィを問い詰めている。
いつでも大抵はにこにこしているメルちゃんだが、レイリィで……いやレイリィと遊んでいる時はことさら目を細めて楽しそうに笑う。メルが楽しそうなのは良いのだが、お相手のレイリィはカタカタと震えていることが多い。……いや、いじめてるとかではないんだよ?
「いつ帰ってくるのぉ?帰ってこなくてもいいんだよぉ?」
『もうしばらくしたら帰りますわよ……別に、戻ってもクリアに構ったりはしませんから……』
「えぇ?帰ったらもっと構ってよー」
「…………んふふ?」
『クリア!!』
ブチッと通信が切られた。
……あれ、結局これの詳細聞きそびれちゃったんだけど。これじゃあただの得体の知れない爆発物のままだよ。
「メル、このカ……カル……?木の種って、どうやったら爆発するの?」
「えっとぉー、どうだったかなぁ?忘れちゃったぁ」
「忘れちゃったねぇ……」
リオなら分かるだろうけど、絶対答えてくれないし。
とりあえず今度誰かに聞くとして、えーっと、まぁ持っておくか。
「ねぇクリアちゃん、メルね、研修会の日お仕事入っちゃった……あんまりお手伝いできないかも……」
「あら……大丈夫、お仕事頑張って」
あんまり大丈夫ではないけどね。
そうかー、メルちゃん来れないかぁ……当日の作戦は全部ユーリスに任せてるからどれくらいの影響があるかとか分からないけど、かなりの痛手になるんじゃないかなぁ。
「なんかねぇ、雑誌にインタビュー載せるんだってぇ。帝都のおすすめスポットとかぁ?そんなのないからどうしよぉーと思って」
「美味しいスイーツのお店でも紹介しようか?そこそこ大きなお店なら雑誌に載って混んだりしても大丈夫そうだし」
「ありがとぉクリアちゃん!今度一緒に行こぉ」
「そうだねぇ……」
「今行こ、いまぁ」
「今??」
別にいいけど…………まあいっか。どうせ暇だし。




