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三十八話「監視と珈琲」





ギルドハウス二階、カフェスペース。


「ひとまず新人研修会とキースの魔道具発表会が終わったら、またどこかの遺跡に行く計画を立てようと思ってるんだ。問題はその期間どうやってギルの戦闘意欲を発散させるかなんだけど」

「訓練場行かせてもギルドメンバーから苦情来るし……今はギルの相手してくれるようなメンバーが軒並み帝都にいないから……」

「俺はー、強くなる特訓がしたい!」


私達は騎士団本部から帰ってきたその足で、どうやってギルを制御するかの作戦会議を行なっていた。


ズ、とブラックコーヒーをちょっぴり飲んで眠気を覚ます。朝が早いのよ、騎士団は。

本当は部屋に戻って昼寝をしたいところだが、怒られた早々にギルを放置する訳にはいかないため、カフェインで無理矢理意識を覚醒させている。普段はコーヒー牛乳派だから、久々にブラックとか飲むとめっちゃ効くのだ。


……まあそれでも眠いけどね!!


「あ、刃走(はばしり)流の道場に送り込むとかは?あそこのお爺ちゃんなら面倒見てくれそうじゃない?」

「修行か!?」

「いやあの人には前散々文句を言われたからな……でも道場破りか……組織の破壊…………ありかもしれない」


ギルは昔、元【剣王】が師範をしている輝剣(きけん)流に弟子入りし、半年で一番弟子まで上り詰めたのち破門されたことがある理由は色々あったらしいが、最たる理由は「馬鹿すぎて制御しきれない」だった。つまり今の状況とおんなじである。


刃走流はギルが輝剣流を破門になったあと、一時的顔を出していた道場だ。弟子入りは認めてもらえなかったようだが、時折「修行」の相手になってもらったり技を教えてもらっていた。

師範は優しそうなお爺ちゃんだったから、いいかと思ったんだけど……文句言われてたの?それ知らないんだけど。


「なー、修行できるのか?」

「ああ、うん、ギルの認識で修行になるならそれは修行だよ。今度良い道場を教えるから、そこ行ってみたら?」

「わかった!」


ユーリスが聖人のような笑顔を浮かべている。いや実際に神官ジョブの聖職者?だし、一部では本当に聖人って呼ばれてるらしいけど。なんだろうこの、そこはかとない恐ろしさは……


「あぁーーっ!!マスター!」


大きな声で呼ばれた気がする。

誰だろう、と振り返ると、黒い人影がこちらに突進してきているところだった。


「マイマスター!ちょっと、昨日の説明をしてください!」

「あらミーニャ」


黒装束のミーニャだった。

渋い顔をしてほっぺたを膨らませている。……あ、ハッカの飴舐めてるのか。


ミーニャは私達が座っている丸テーブルの空いた席に座ろうとして、はっとユーリスとギルを見て、なぜか私達から一歩離れた。


「……座れば?」

「いえこの顔ぶれと共に卓を囲むほど図々しくはありませんので……それより!」


バサァッとミーニャがローブを翻す。ガリッという音を立てて飴を噛み砕いた。

君、ばさーってするの好きね。


「《赤竜(ドラゴニア)》との関係性を詳しくお話しください……余もギルドの一員として知る権利はあると思います……!マイマスター、貴女はヤバいことや犯罪行為はしていませんよね……!?」

「え、そう言われても……犯罪行為なんてするわけ」


ちょっと待って。

私の盗品漁りとか、リオのほぼ黒な窃盗行為を容認したこととか、厳密に言えば犯罪行為なのでは?


……いや、いやいや、うん。

あの……逮捕とかはされたことないし、すごい悪い事してる訳じゃないからセーフ……だよね?


「………………ないよ」

「なんですかその間は。何なんですかその間は!!」

「いやいや、大丈夫だって。ミーニャが心配してるようなことは何もないって」


たぶんね。


「姉さんは法に触れるようなことはしていないし、《新星》と《赤竜》の関係も後ろめたいことは何もない協力関係だから、本当に大丈夫だよ」

「サブ・マスター……」

「そうそう。ミーニャは《赤竜》のこと怖がってるみたいだけど、よく知らないからって見た目だけで判断しちゃ駄目だよ?いい人ばっかりだし」

「はい…………ん?」


ミーニャが私を見て、ユーリスを見る。

ユーリスがゆっくりと首を振る。


…………ん?


「……そうですね、すみません、あまり一介の魔道士でしかない余が踏み込みすぎるのも良くありませんね。余は身の程をよくわきまえていますから」

「うん……?」

「……ミーニャ、用事はそれだけか?」

「あ、そうでした。スピカからのことづけが」


ほう。占いに関することかな。

それか、食べたいスイーツの相談かな。今度奢るって言ったまま会ってないし。


「予言の件ですが……」


なんだ、そっちか。スイーツの話したかったな。


「時期に関して、新人研修会のタイミングで間違いないと。またキーアイテムは遺物だと、そう視えたようです」

「やっぱり、そうか……」


新人研修会の時に、遺物が原因か何かで何かしらの事件が起きると。それが金色やナイフにも関係していると。

なるほどね。はいはい……いやかなり重要な情報ではあるけどこれで対策って難しくない?


「遺物の件はキースにも相談しよう。新人研修会の対応はもう少し練り直して……そうだ姉さん、何か研修内容の別案思いついた?」

「いや全然まったく」

「だよね。なら遺跡に行く想定で……怪しい人物や参加者も調べて……」


ユーリスは手を口元に当てて考え込み始めてしまった。

私はそんな彼を横目にコーヒーを飲む。……苦いな。あと半分残ってるけどもういらないかも……


対策はユーリスに任せれば問題ない。

丸投げしているように思えるが、これは適材適所というやつだ。うん。私の適所が見当たらないけど。


「ギル、コーヒーあげる」

「おう!」

「ミーニャ、伝言ありがとね。スピカにも、占いありがとうって伝えといて」

「恐縮です。スピカにもその言葉、必ず伝えましょう。余の力が必要となった時には喜んで馳せ参じますから言ってください。では」


ミーニャは身を翻して去っていった。

来た時のバタバタ具合とは正反対のスマートな去り際だ。


「これ苦いなクリア!」

「苦いのよギル。ブラックコーヒーだよ」

「特訓のための飲み物か!?」

「いや全然違う。眠い時とか、集中したい時に飲むやつだよ」

「眠いなら寝ればいいんじゃないのか?眠いってことは夜だろ?」

「うーん……うん?まぁ、昼間に眠くなっちゃう人とかもいるんだよ…………ふぁ」


現に私はとても眠い。

だめだ、ブラックコーヒーでも太刀打ちできないとは、なんて強烈な眠気……これはもう昼寝するしかない。

部屋戻ってソファで昼寝しよ。あ、仮眠室の方でもいいなぁ。


「ギル、一緒に昼寝する?」

「! 昼寝か!する!!」

「ユーリス、私達昼寝するけど」

「あぁ、僕は執務室で研修会の内容を……ちょっと待って、姉さんは僕と一緒に対策練ってもらうからね?」


えぇ?眠いんだけど。

全部ユーリスに任せるってばぁ。


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