三十三話「帝都の案内」
「それじゃあお待ちかね!〈春風〉による!シュウのための!帝都丸わかりお散歩ツアーに出発でーす!」
「いえーい!!」
「帝都観光かぁ。いいね。私もついて行っていい?」
「クリアが?……なんで?」
「え、いいんですか!?もちろん大歓迎です!!」
わーい、と意気投合しギルドハウスからツアーに出発したのは〈春風〉、シュウくん、私、そしてメルとミーニャである。まずは冒険者協会に向かうらしい。
元々鑑定が終わったら帝都案内をする、と〈春風〉とシュウくんが約束していたんだそうだ。
ちなみに、シーラは用事があるからと疲れた表情で去っていき、ギルはどこに行ったか分からないため放置してきた。
「ん?」
くいくい、と袖を引かれて振り向けば、落ち込んだ様子のミーニャが……じゃなくて、その隣にいたメルが私の袖を掴んでいた。
「マイマスター……余はやはり、説明が下手なのでしょうか」
あの後、長々と魔眼や魔法について語り尽くしたミーニャだったが、苦笑いのシーラにやんわりと説明を中断させられ、質問を投げかけた〈春風〉の子は「十分の一くらい分かりました!」と清々しい笑顔で言い放った。
「まぁほら、専門性の高い内容だし分かりやすくってなると難しいよね」
「さっきはお話脱線してたからぁ、そのせいじゃない?」
「ううぅ……口が滑りました……」
確かに、途中から何言ってるんだろうとは思ってたけど。
「でも、そんな魔法の理論とかも理解してて説明できるのってすごいと思うよ。アンナとか絶対無理だもん。魔法の原理とか分かってないだろうし」
と、純粋にすごいと思ったため出てきた言葉だったのだが、ピク、とミーニャは肩を揺らした。
ゆらりと振り向いた顔は……なんか怖い顔してる?
「……あのですね、これは覚えておいていただきたいのですが、魔法は原理や理論を理解して魔法式を組み立てなければ発動しません。絶対に。魔法は学ばなければ使えないんです。それを感覚だけでぽんぽんと使う【流星群】は異常です。あり得ません。ましてや、自分で組み立てた魔法の魔法式が分からないなんて論外です。毎回毎回、彼女の超感覚的な説明を受けて四苦八苦しながら式を導き出している魔法研究所の方々の心労は想像を絶するものですよ」
なるほど、だからアンナはしょっちゅう研究所に引っ張られていくのね……今度改めて研究所にはお礼とご挨拶に行こうかな、菓子折りでも持って。
にしても、そんな人外みたいな扱いされてるのね、アンナちゃん。
「魔道は地道な努力と積み重ねがものを言うのです。影なる努力があってこそ、美しい魔法が誕生するというもので…………」
「うん、うん……」
空は曇天。お散歩日和ではないが、ここ最近はずっと雨が降っていたから曇りでも少し気分が良い。道ゆく人々は畳んだ傘を片手に空を見上げることもなく歩きすれ違っていく。
ミーニャの話を聞き流しつつ、空くもってるなぁと思いながら歩いていると、前方で何やらわちゃわちゃと話していたシュウくんと〈春風〉達が足を止めてこちらを振り向いた。
なんなら小走りで戻ってきた。元気だねぇ君達。
「あの!そういえばなんですけど、私達まだギルドマスターにちゃんと挨拶できてなかったと思うんです!〈春のそよ風〉、ランク星二で半年前にギルドに入りました。よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしくね」
晴れやかな笑顔でそう挨拶してくれたのはやはりポニテっ子だった。この子がリーダーなのかもしれない。
元気で礼儀正しくていい子だなぁ、なんて思っていたところ、他の子達も口火を切ったように喋り始めた。
「仮面してないところ初めて見た!」
「俺、最初男の人だと思ってたんだー」
「そこ、失礼。まずは挨拶」
「そうよ!あ、私はパーティリーダーで剣士のアスカです!」
「魔道士のエリー、です」
「えと、オレはシーフのレオンです!【月詠花】さんとリオさんにめっちゃ憧れてます!」
「俺、重戦士のボルグです。マスターってすごい若く見えるんですけどおいくつなんですか?」
「ちょっと、ボルグ!」
「女性に年齢聞くとか、最低」
「えっ」
「オレはぜひ、アドバイスをもらいたいんですけど!どうやったらそんなに強くなれるんですか!?」
「えっとー、あはは、年齢は多分みんなより五歳くらい上じゃないかな……アドバイスは、後でね」
「【月詠花】さんも!すごい強くて、戦い方もなんかスマートで尊敬してます!アドバイスお願いします!」
「えぇ……まぁ、ちょこっとならいいよぉ」
元気で若々しい、活気に満ちた子達だねぇ。うちのパーティとはまた違った騒がしさというか、何というか。
……あれ、今名前聞いたのに、もう分かんないや…………
「……ケーネスさん、あなたはこの方達と共に鍛錬するのでしたっけ」
「あ、はい」
「指導員がシーラ達なら、大丈夫でしょうが……もし何か相談事でもあったら、余もいつでも話を聞きますよ。ケーネスさんからはなんとなく、余と同じ静寂の孤独を尊び、闇へ共鳴する精神を感じるので」
「はぁ……ありがとうございます?」
「我々は時に世間から離れてしまうこともありますが、人が嫌いな訳ではないんですよね。むしろ愛しているからこそ、己を大切にしつつ人を愛する術を探っている訳であって…………」
▷▷▷
「ばーん!!冒険者協会です!!」
「シュウも、もう何度か来てるよな?」
「うん」
我がギルドハウスは帝都の西方エリアを貫く大通りに面している。その大通りを帝都の中心に向かって歩いていけば、十分ほどで冒険者協会へと辿り着く。
冒険者協会がある関係で帝都西区、特にこの大通り沿いは冒険者ギルドのギルドハウスが多く建ち並び、それに伴って冒険者が泊まるための宿や飲食店、酒場も多い。
「あっちの方には《新タナル者》とか、《遺物ハンター連合》とかのギルドハウスがあるぞ」
「あそこ、エリー達がよく行く酒場。オレンジジュースが美味しい」
「ま、私達冒険者はとりあえずこの辺うろついてれば大体用が済むよ!」
そういうことである。
「シュウくんって出身はどこなんだっけ?冒険者協会って結構支部ごとに雰囲気違うらしいけど」
「俺は、帝国の北の方にある山脈付近の出身なんだ。そこまで栄えた地域じゃなかったから……冒険者協会も、帝都とかと比べたら小規模だったな。初めてここを見た時はびっくりした」
シャルティエ支部は冒険者本部に次ぐほどの規模感と所属冒険者の多さだ、とよく言われるから、そこらの支部とは色々と大違いだ。
広く設備の整った訓練場、遺跡の資料やジョブ別の専門的な内容の本、その他冒険者に必要な知識や情報を得られる資料室、総合相談所や協会が運営する宿屋まであり、そのどれもが冒険者であれば制限なく利用することができる。
流石は帝都シャルティエ支部。我がギルドもその手厚さを見習って、設備や制度の充実は意識している部分なのだ。
「シャルティエ支部ではいろんなことができます!困ったらとりあえず窓口に相談すれば何とかしてくれるよ!以上!次!!」
いや説明雑だな。
▷▷▷
「ここが中央区です!といっても地図で見るとほぼ南だけどね!」
帝都は東西に長い長方形のような形をしており、それが大まかに外区、西区、東区、北区、南区、中央区と分かれている。
西端の方に外区、その隣に西区、中央区、南区、東区と続き、全体の北の方に北区が長く伸びているようなかたちだ。それぞれの区には何となく特色があり、西区は冒険者関連の施設が多い。
「中央区は行政施設が集まってるよ。役所とか、騎士団本部とか……たまーに来ることもあるけど、ほとんど来ないね!」
確かに、冒険者の場合身分証や戸籍の管理も冒険者協会の方でしてる場合が多いから、帝都のお役所に用があることってほぼないんだよね。
道の関係で通り過ぎることは多いけど、ここに用があることはない……いや、そういえば帝都内でギルやアンナが問題起こした時、一般人や公共施設にも被害出して騎士団本部に呼び出し食らったことあったな……何度か。
「中央区はそんな感じで、さらに向こうの南区との境目あたりに皇帝のお住まいがあります!あのデカくて四角いやつだよ。で、南区は貴族街だから、こっちも私達は全然行かないね!」
端折りまくりだけどその通りなんだよなぁ。
居住区が完全に分かれている訳ではないんだけど、やっぱり貴族と平民、冒険者は何となく生活エリアが分かれて決まっている気がする。
ちなみに、私は南区にある高級菓子店にたまーに行って、高級スイーツを堪能しに行くことがある。私がいくら金を持っているとはいえそう易々と払える金額のものじゃないから、二ヶ月に一度くらいの頻度だけどね。
というわけで、我々は南区には向かわずに北区の方へと向かっていった。




