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三十二話「魔眼と魔法」

最後の長台詞は読み飛ばしても大丈夫らしいです。




「クリアちゃんの目はぁ〜きれいな金色〜♪メルの髪と同じ色〜おそろいだねぇ〜♪」

「…………」


この歌が不穏に感じるのは、占いのせいなのだろうか。機嫌が良いようなのは結構なんだけど。

……待って、金色とナイフ?金髪で剣士のメルにぴったり当てはまるのでは?


まさか、あの占いはメルちゃんに気をつけろってことだったの……?


「メルとクリアちゃん仲良し〜ずぅっと一緒〜♪ずっとぉ〜……ずぅっと〜……」


……ま、考えすぎだよね。


確かにメルが原因で危ない目にあったことだってあるけど、なんとかなってるから今ここにいる訳だし。

何より、メル本人は率先して私や仲間のことを守ってくれるタイプだしね。感情の波は大きくても、兄の方とは違って働き者で、やることはちゃんとやれる子だから。


気分屋であることは、否定できないけど……そんな、危険人物じゃあるまいし……ちょっと、怖い時あるけど…………


すっと一歩ギルに近寄り、メルから距離をとってみる。

瞬間、がしっと腕を掴まれて引き戻された。


「…………」


メルはとってもかわいい笑顔を浮かべている。がっしりとワンピースの袖の上から掴まれた腕は解放される気配がない。


にこ、と笑い返してみる。


腕はさらに強くがっちりと掴まれた。


「なー、シュウって誰だ?強いのか?」

「え?えーっと。この間ギルドに入った星一冒険者だよ。火が出る遺物を使ってるの」

「いいな!火!」


ギルの方へ振り返るついでにさりげなく手を引いてみたが、締め付けが強くなるだけだった。


うーん、非力な私じゃ振り解くのは絶対に無理。


「でもな、俺には火、効かないんだぞクリア!俺は強いからだ!!」

「うん、そうだね、ギルは強いね。メルちゃんの腕の力もちょっと強いね。緩めようか」

「……強いのはぁ、メルよりギル兄かもしれないけどぉ、クリアちゃんが大好きなのはメルだよね?」

「え?」


何の話?

あと、腕、そろそろ赤くなっちゃいそうなんだけど。鬱血とかしてない?


「でも、俺はクリアと生まれる時から一緒だったぞ?」


きょとんとした顔でそんなことを言うギル。

ギルは家がお隣さんだったから、赤ちゃんの時からの付き合いだ。


でもさすがに誕生日は違うから生まれる時は一緒じゃないよ?


「え?期間なんて関係ないよねぇ?クリアちゃんはいつも、メルのことかわいいって言ってくれるもんねぇ?」

「俺には強いとかカッコイイとか言ってくれるぞ!」

「かっこいいなんて言ってるところ見たことなぁい」

「……さっきから何を競ってるの?」


と、そんな感じで三人わやわやと話しながらロビーへ向かう。


朝だからかそこそこの人の多さだが、これくらいならすぐにシュウくん達も見つかるだろう。

どこかなー。たぶんミーニャはすぐ分かる……あぁ、いた。


壁際のテーブルに集まっていた一向の中に、漆黒という言葉が適切なほど真っ黒なローブを羽織った小柄な人物を見つけ出す。

近づいてみれば、その隣にはシュウくんの灰色の髪の頭が見え、二人の他にも数人が一緒にいるようだった。


すぐ近くまで来たが、全員、私達には気づいていない。


「…………えい」

「ぎゃーーー!!!?」


ちょん、と後ろからミーニャの背を突いてみると、ミーニャはつんざくような悲鳴をあげて飛び上がった。その声に隣のシュウくんが肩をびくりと震わせた。


「はっ!?マ、マイマスターではないですか!これ、何度やれば気が済むのですか!?」

「いやーごめん、ついやっちゃうんだよね」


冒険者は五感や気配を感じとるといったところも人間離れしているため、雑魚い私が気付かれずに近づくなんて不可能だ。だけどミーニャだけは、毎回こうして引っかかってくれる上にリアクションが大きいから、驚かせ甲斐があって楽しいのだ。

やられて気持ちの良いことじゃないし程々にしようとは思うんだけど、後ろ姿見かけるとやりたくなっちゃうんだよね。


心臓のあたりを抑えて口をわなわなと震わせている眼帯黒装束少女、彼女がミーニャ・エスタである。

ついでに耳を抑えて私に責めるような視線を送っているのが、炎が揺れているような瞳を持つシュウ・ケーネスくんである。ごめんって。


あとは、どうやら〈幸運を呼ぶ星〉のシーラと……他の子達はたしか、〈春のそよ風〉だったかな?それぞれの名前は知らないんだけど、お揃いでつけているピンクのスカーフには見覚えがある。

彼らは目をぱちくりさせながら私達三人を凝視している。


「こほん。で、マスターは何故こちらに?……その状況はいかに?」

「これは気にしないで。えーっとね、シーファに今からシュウくんの目の鑑定するって聞いたから、見学しようかと思って」


両腕を両方からがっちり掴まれて、逃亡を阻止されている人質みたいになってるのは気にしないでもらって。


彼女、ミーニャ・エスタは《新星》所属の星五冒険者であり、魔導士である。特に魔眼に関する知識が豊富で、彼女自身も両目に魔眼を有している。

魔眼は保有者自身でもその能力が分からないことが多く、能力の種類も千差万別。それを鑑定できるミーニャは貴重な人物なのである。


そもそも魔眼自体珍しいものだから、鑑定に立ち会える機会なんて滅多にない。


「余は構いませんが。赤き炎の剣を持つ者……ケーネスさんは?」

「俺は……あっ……あの、俺は何でも、大丈夫です」


シュウくんは再び肩を震わせてこちらを見ると、しどろもどろにそんなことを言った。

視線の先にはメルが。やっぱり、有名人には緊張しちゃうタイプなのかな。


ミーニャはふん、と鼻を鳴らした。


「そうですか。あまりこう、大所帯で行う儀式でもないのですがね。まあ、良いでしょう……ケーネスさん、顔をこちらに。鑑定の儀を始めます」


そう言うと、ばっとミーニャが漆黒のローブを翻す。

黒いフリルのついたスカートを揺らし、黒いレースの手袋をはめた手で左目に付けた眼帯を撫で、艶やかな黒髪をふっとはらう。

ガラス玉のように透き通った不思議な目をゆっくりと開けると、ずいとシュウくんの顔を覗き込んだ。


「成程。これは確かに魔眼……何らかの力を宿している……」


下から横から、あらゆる角度でシュウくんの目を観察した後、ミーニャはシュウくんから離れ、目を片手で覆いながらぶつぶつと何かを呟き始めた。


シュウくんを含めた見物人達がじっとミーニャを見つめること数十秒。

ミーニャがシュウくんへと向き直った。


「では……結論から申し上げましょう。ケーネスさん……あなたの魔眼、その能力は…………」

「の、能力は……?」

「燃え盛る紅蓮の炎にも打ち勝ち!灼熱の地獄にも極寒の死地にも耐え得る能力を授ける不滅の炎を宿した魔眼である!!」

「…………?」

「…………」


しんと静まり返るロビーの一角。

片目を隠すようなポーズから動かないミーニャ。

何とも言えない表情で、ミーニャを眺める見物人。


「……ミーニャ、そろそろカッコつけるのやめてもらわないと……」

「よ、余はカッコつけてなど……!こほんっ、この道の者ではない方々にも分かりやすく言い換えると、火に対する強い耐性と温度変化への適応能力があるのです!」

「あぁ……」


なるほど、何というか。


「想像通りだったね」

「え、まあ、うん……」


あんな、あっつい剣を持って振り回してるんだから炎耐性系かなとは思っていたけど。

ここまで想像通りだとは。


「あと鑑定も案外、何というか……地味?」

「んな……っ、だ、だから言いましたよね!?そんな見物人が多く集まるような儀式ではないと!余は、言いましたね!?あと、これでもすごいことしてるんですよ!?」


顔を真っ赤にして手を振り回すミーニャ。

まぁ勝手に派手さを期待したこっちが悪いんだけどさ……でもメルとか全く鑑定の様子を見ようともしてなかったし、ギルにいたっては途中からどっか行っちゃったんだもの。

シュウくんも〈春風〉もぽかんとしてるし。


「み、ミーニャ!もう少しシュウ君の魔眼について詳しく説明してくれないかな?だよねシュウ君!」

「え、あ、はい……」

「…………そうですね、ええ、余が懇切丁寧に説明致しましょう。魔眼のすごさを分かってもらうためにも!」


シーラが空気を読んで話題を振る。引き攣った笑顔でぽんぽんとミーニャの肩を叩くと、ミーニャも振り回していた腕を下ろしてぐっと拳を握った。


「あ、はいはーい!」


割り込むように手を挙げたのは、〈春風〉の……ちょっと名前は分からないけど、跳ねるポニーテールが可愛らしい、腰に細い剣を携えた女の子だ。


「先生に質問なんですけど、そもそも魔眼ってなんですか?」

「そこからですか。いいでしょう、先生が回答します。ではまず、「魔力」とはどういうものなのか、知識はありますか?」


先生と呼ばれたのが嬉しかったのか、ドヤ顔で講義を始めたミーニャに対し、すっと手を挙げたのはポニテっ子の隣にいたボブっ子だ。


「魔力は、世界龍アレフの力……私達は、龍脈からさらに分かれた地脈に流れる魔力を吸い上げて、魔臓に溜めている。魔力を使うことで魔法を発動したり、遺物を使ったりできる。しかし、未だに分からないことも多い……」

「その通りです。あなたも魔の道を歩む者のようですね。魔法とは創世の世界龍アレフの力である魔力を借り、アレフの御業を人の身で再現するための方法です。ここで、魔眼とは何か?という話に戻りましょう。ずばり、魔眼とは魔法を自動で発動してくれるものです!」

「ほぇー」


ばーん、とキメ顔で自分の目を指さしてみせるミーニャ。分かっているんだか、分かってないんだか、間の抜けた声で感心するポニテっ子。


私?私は……もちろん分かっていますとも。金の眼関連のことを一時期調べまくってたから、その時に魔眼についても調べていたのだ。

私の目は黄色だけどね!!


「じゃあ、シュウとか先生は今も魔力を消費してるってことなんですか?」

「いい質問ですね!魔眼も勿論魔力を消費します。ですが、魔臓に溜められた魔力ではなく、魔眼そのものが内包している魔力を使用しています。元々、目という器官は魔力の影響を受けやすく、また魔臓ほどではないものの多少の魔力を溜めることができると言われています。魔眼は、魔臓とは別に魔力を溜め、その魔力を使って効果を発動しているのです。魔眼は主に二種類……ケーネスさんのように常時効果が発動しているものと、余の「魔力視」の魔眼のようにある程度能動的に発動させることができるものがあります。ケーネスさんのような魔眼だと消費する魔力がごく僅かなので効果が切れることはありませんね。ちなみに、余がどのように魔眼の鑑定をしているのかと言いますと、この「魔力視」を使って魔力の流れや性質、何よりその魔力が則っている術式を読み解くことで魔眼がどのような効果を発動しているのかを判別しているのです。魔法というものはとても理論的で、例えるのであれば整然と並ぶ数字による数式のように、因果がはっきりとしていて式さえ間違っていなければ必ず正しく発動されるものです。逆に、理論を理解していないのに闇雲に魔法を使おうとしても絶対に使えないので、魔法を使うにはまず理論を理解するということが不可欠なのです。まあ、【流星群】というあり得ない例外もいますが、あの方は本当に例外中の例外です。魔法は神の御業のような曖昧でふわっとした不思議なものではなく、人間が何千年という時をかけて研究し、理論化した、立派な学問であり技術であってですね、魔眼は生来備わっていることが多く初めは迫害なども受けたようですが魔法の研究が進むにつれて魔眼や遺跡についても深い理解が可能となり…………」


今後は週に一度の投稿になります。

投稿頻度を増やせるよう執筆中ですので、今しばらくお待ちください。


この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!

まだまだ物語は続きますので、どうぞよろしくお願いします!


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