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二十五話「報告と会議」



「ただーいまー」


シュウくんとは下のロビーで別れ、腕に絡みついたままのメルと執務室へと戻ってきた。

シュウくん、だいぶ顔色悪かったけど大丈夫かな。スイーツ食べきれるといいんだけど。


執務室は静まり返っており誰もいない。

あれ、シーファいるかなと思ったんだけどいないや。まだ会議が続いてるのかね。


「……あ」

「ん?」


メルがにわかに低い声を出す。視線を辿れば、執務室に置かれた私のお気に入り低反発ソファが。

何、どうしたの。あのソファが何か……ん?


「おかえりー」

「ああ、リオか」

「……」


ぎゅぎゅ、と腕の締めつけが強くなる。ちょ、痛い、痛いってメル……

そっと腕を外そうとするがびくともしない。そして気づいてもくれない。メル、腕折れちゃうって。


リオ・ベルーダとメル・ベルーダは兄妹である。

彼らの実家はベルーダ商会という帝国内外でかなり名の知れた商家だ。ただ、実家とは色々あるのか……彼ら二人は私が七歳の時に私の村の近くの町にいる親戚に預けられ、商会の方は彼らの長男が継ぐことになっているらしい。

私達とベルーダ兄妹はその頃からの幼馴染だ。


「……お兄ちゃん、何してるのぉ?出てってくれない?」

「えー、嫌だけど」


ああ、そんなにバチバチしないで……穏便に行こうよ、穏便に……


この兄妹は地味に仲が悪い。

普段はそこまでひどい訳ではなく、互いに過干渉を避けている程度なのだが、なぜか私と三人になると途端に二人の機嫌が悪くなる。

二人きりの時は知らないけど、他の人となら大丈夫らしいんだけど……え、何、私のこと嫌いなの?


「まあまあ……あ、他のみんなは?ねえ、メル?」

「……ユーリス君とキース兄はぁ、多分まだお話中ね。アンナちゃんは研究所に顔出すって言ってたぁ。ギル兄は知らなぁい」

「そっかぁ……とりあえず座ろうね、あと手、離そっか……」


急降下した二人の機嫌によって部屋の空気はピリついている。


ちょっと、とりあえず、誰か早く来て……



+++



「悪いなユーリス、関係ないのに」

「いえ、姉さんの代理は慣れてますから」


ギルド二階にある会議室にて、ガルス、シーファ、キース、ユーリスの四名が向かい合っていた。

先の討作戦に関して各人による情報共有と現状報告、そして今後の対応について話し合いをする予定だ。


疲れた様子のガルスはここ数日、今回の後処理やら各種報告やらで非常に忙しくしていた。今日も、《新星》とのこの会議が終わればすぐにまた協会に戻って別の会議だ。


「はぁ……」

「……お疲れ様です」


シーファが全員分のお茶を淹れて持ってくる。ガルスは差し出された羊羹を一口食べ、茶を飲んだ。


「……はあ」

「すみません、早く終わらせてもらって良いですか」

「あ、あぁすまん……だがな、一言言わせてもらうと、こんなに忙しいのもクリアが何も情報を共有しないからなんだよ。お前達からも言っといてくれないか」


そう、クリアが持っているであろう情報を共有してくれれば、そうでなくとも話し合ってさえくれればもう少しは情報がまとまり、頭を悩ませることもなくなるのだ。

甘い物も食べたくなるというものである。


だが、ユーリス・セブンも帝都に帰還したばかりということで多忙なのだろう。彼の仕事は多い。

少しばかりピリピリされるのも仕方のないことだ。


「それに関しては……そうですね。手を出さないなら首を突っ込まない、首を突っ込むならちゃんと協力するようにと言っておきます」

「頼んだぞ、本当に……」


クリアのたちの悪いところは中途半端に手助けしておきながら自分は無関係だと言い張ってその後一切の協力を断るところである。

それに、手助けも気まぐれなのか何なのか、こちらからの要請は全く聞いてくれない。情報も出し渋る。つまり協調性がない。


いっそのこと最初から関わらないでいてもらった方が、場の混乱が少ない分よっぽどマシだ。

と、いうクリアの愚痴は今度にして、ガルスは早速本題へと移った。


「まずは現時点で判明している情報の共有と整理だな。ボスについては、騎士団からの情報によると名前はシュゼット、出身は隣国ハロルドで、帝都近郊に来る前は他国や帝国内の地方を移動しながら盗みを繰り返していたそうだ。騎士の尋問には案外素直に答えているらしい。幹部達に関しては出身地はバラバラだった」

「かなり強かったそうですね。その点は?」

「単に才能があったんだろう。筋肉が付きやすかったのかもな。魔力強化に関しては、各地を転々としながら遺跡にも積極的に潜り込んでいたそうだ。ただ、他の面子は魔力強化こそなかなかではあるが技術や総合的な強さの面ではシュゼット一人が異常だった」


とはいえ、結局幹部の強さは星三から星四程度、シュゼットに関しては星五、星六と言っても過言ではないほどの強さはあった。

キースはこの前の戦闘を思い出しているのか苦い顔をしている。


「また周辺組織に関してだが、現時点で帝都近郊には他の盗賊団はいないだろうという結論になった。残党はあらかた片付いたってことだな。ただ、あいつらの所持品から帝都内にも店を持つ小さな商会が怪しいってなってな。騎士団がそっちも調べるそうだ」

「盗賊が持っていた魔道具や遺物はその商会を通して入手したもの、ということですか?」


シーファがすっと手をあげてガルスに尋ねる。

律儀だな、と思いつつガルスが答える。


「いや、入手していたのは食い物や生活用品くらいだろう。本当に小さな商会だからな。魔道具や遺物に関してはかなりでかい後ろ盾からもらったんだろうとは思っているんだが……ボスもそこは口を割らず、目下調査中だ」


押収された魔道具は携帯できる小型の高性能魔力探知機であり、かなり広い範囲を方角と距離まで正確に探知できるというものだった。

そして遺物は輪になった長いロープであり、《遺物ハンター連合》に確認したところ『かくれんぼロープ』という縄の内側にあるものの魔力や気配等を隠蔽するものだ。随分前に登録されてから持ち主不明となっていたらしい。


両方とも利用価値が高い分高価であり、入手はかなり難しい物である。

それを一般の盗賊団より強く逃げ足も速いとはいえ、たかが盗賊団ごときに貸し与えるとは相当周到な狙いがあるか、またはそれらを容易に入手できるほどの余裕があるとしか考えられない。


「まぁ、この後ろ盾を表に引っ張り出してくるのは難しいだろうな。手がかりがなさすぎる」

「下手に手を出すと危険な可能性もあるでしょうね」


あまり大きな裏組織には安易に手を出すと大きな面倒事になり、こちらも多大な被害を受けかねない。

闇市場などにはそれだけやばい組織も眠っているのだ。


「あとは……諸々の被害についてだな。今回窃盗による被害はかなり少なかった。帝都近郊に関してはな。現在盗賊の所持品と帝国内の盗難届を照会中だが、恐らくほとんど売られてるから実状の把握は不可能だな」

「姉さんの発見が早かったからですね」


こころなしかドヤっとした顔のユーリスが頷く。


「まあ……そうだな。今回ここまで素早く討伐を終えられたのも、クリアが三回とも拠点の発見で手助けしたからだろう」


ほぼほぼギルドに引きこもっているだけの彼女がどうやってそんな情報を手に入れているのかは最大の疑問だが、彼女の手助けがなければ発見までかなりの時間を要していただろう。

その隙に逃亡されていた可能性も十分にある。


「あと、遺跡にぶち開けた穴は現在協会員が修復している。下の穴も埋める予定だ。ああ、そうだ、借りた遺物を持ってきているんだ。クリアにも感謝してると伝えてくれ」

「あ、はい……」


ドサ、と遺物を机に置く。

キースがペコリと頭を下げてその遺物を受け取った。


「現在伝えておきたい情報はこんなところだな。まだ調査中のことが多いんだ。何か質問は?」

「僕は大丈夫です、資料にもよくまとめてもらってますし」

「はい、私も大丈夫です」

「あ、一つ……」


ユーリスが手元に置いてある数ページある紙の資料をペラリとめくる。

キースは控えめに手をあげると、ソワソワしながら三人の顔をうかがった。


「なんだ?」

「シュゼットの、行動が……気になって。討伐の時、南の道は塞がってたのに、ど、どうして行ったのかなって……」


シュゼットは煙幕弾を放って南へ逃げた。北の出口の方が近く、そして荷物まであったというのに。

確かに南の出口付近にも最低限の荷物らしきものが隠されていたのは発見されている。北はブラフだった可能性もある。


だが、南の出口は遺跡の竹に覆われとても通れる状況ではなかった。あの硬い竹を斬りながら逃げるのも非現実的である。

シュゼット自身、恐らくそこが通れなかったのは想定外であったように、あの出口を見てから冒険者達と正面に向き合って戦闘を始めた。


「確かに、あの出入り口は不可解だな。定期的に竹を切り除いていたのだとしても、こちらの動きを予測していた奴らが当日その竹を放置していたとは思えない。だが、あそこまでびっしり生えるとなると数日ではないだろうな」

「何らかの、対策をしていたと、思うんです……でもそれが、上手くいかなかった……?」

「一応シュゼットに聞いてみるとするか。答えるかは分からないがな……クリアにも聞いてみといてくれ」


誰かの介入があったのか。クリアか?可能性は高い。


「あ、そもそも、盗賊団はいつあの拠点を見つけたのでしょうか?二回目の討伐の際に逃げて、そう都合良くあの場所を見つけられるとは思えませんよね」

「手引したやつがいるかもしれない、ということか。そこは関連組織を調査しつつ、本人への尋問も進めていくしかないな」


シーファの質問に答え、ガルスはお茶を一口飲むと目頭を揉んで天を仰いだ。


後半が少しこれまでのおさらいのような蛇足的な内容になってしまい申し訳ないです。

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