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二十四話「討伐、終了」

討伐作戦、(クリア視点では)あっさり終了。



「マスター、終わったみたいよ」


カーラがそう声をかける。声に呆れが感じられるのは決して思い違いではない。本当に何もせず盗品漁ってただけだなって感じですよね。分かります。


カーラ達は消耗が激しいということで、ここで警戒を続けつつ待機していた。私の見張りを兼ねている可能性はあまり考えたくない。


「モガムガモガモ」

「飲み込んでから話して……」

「ンム、良かったねぇ、お疲れ様」


この黒パンに干し肉挟んで炙ったやつ美味しい。と思ってカーラ達にも勧めたのだが断られてしまった。解せぬ。

これももちろん全部盗賊達の荷物からいただいた物なんだけどね。


「冒険者の被害は?」

「死者はなし、ボスにやられた重傷者が六人ね。あとは軽傷者がちらほら。盗賊の方は確認できた全員を無力化、一部を拘束済み。これから協会員と騎士団が来るわ」

「おお、上出来だね」


これでガルスさんも満足だろう。ここ最近はピリピリしすぎて見てられなかったからね。ミルクプリンを協会宛で注文したくらいだ。


結局、キース達もあのやばそうなボスを拘束できたらしい。すごいね。

かなりドタバタとした討作戦だったけど、結果的には良い感じで終わったから本当に良かった。これで私の心配も一つ減り、ギルドハウスでのーんびりできる日々が戻ってくるというものだ。

まあ討伐が終わってなくても……のーんびりはしてたけど……


何なら私、この討伐作戦中、攫われてぐーすか寝て盗品漁ってただけなんだけど……


「はぁー……じゃあ私も帰りたいんだけど、カーラ達一緒に帰らない?」

「帰れる訳ないじゃない。というか、クリアを逃がすなって支部長から言われてるけど?」


え?



▷▷▷



討代作戦終了から三日後。

私はシュウくんと一緒にギルド前の大通りを歩いていた。


全く、この数日はガルスさんから逃げるのが大変だった。私は何も関係ないっていうのに、討伐の結果を詳しく伝えてきたり、その後判明した情報を伝えてきたり、しまいには調査方針を相談しようとしたり……


全部、私に言われてもって感じなんですけど。


今日もギルドに来て会議するだの何だの言っていたため、ロビーで見つけたシュウくんを連れて逃げてきたところだ。


「なあ、クリア……クリアは今、支部長とかとの話し合いで忙しいって聞いてたんだが……あと多分、その耳の通信機、ずっと光ってるけど……」


ぱっと耳を隠す。

髪で隠れてるのに、昼間でも目立つくらい光ってた?音は私にしか聞こえないからいいけど……いや耳鳴りみたいで頭痛くはなってくるけど……

やむを得ずピアスやら指輪やらの形をした魔道具やら遺物やらを大量に身に付けてるんだけど、私がつけたところで悪趣味に見えるだけだからちょっと嫌なんだよね。


「だ、大丈夫大丈夫。私なんかいなくたってなんにも困らないから……それより!今日はシュウくんになんかスイーツ奢ってあげるよ。幹部倒したんだって?すごいねぇ!」

「あ、うん……クリアと〈幸星〉のみんなのおかげだ。ありがとう」


なんと今回、シュウくんは〈幸星〉と協力して強い幹部を捕らえたのだとか。すごいね。将来有望だよ。

どうやら私から無茶振りされた〈幸運を呼ぶ星〉の面々がシュウくんに稽古を付けてくれたそうなのだ。それでシュウくんは自信を回復、動きも良くなって功績を上げたと。

〈幸星〉の子たちにも感謝しとかないとね。


「何がいい?洋菓子でいい?おすすめのお店いっぱい知ってるから、とりあえず見て回ってみる?気になったのあったら全部買ってあげるよ」

「え、本当に奢ってくれるのか?あ、ありがとう」


甘いものはなんぼあってもいいですからね。

私が食べるのでも、誰かにあげるのでも、スイーツにお金は惜しまないのだ。あ、でも裏路地の方のお店は駄目ね。危ないから。


大通りをうろうろしながら、手当たり次第にお店を巡る。シュウくんが遠慮しがちなため、ほとんど私が無理やり買って与えている。ちゃんとシュウくんが食べるかは確認してるよ?本当にいらなかったら私にちょうだいって言ってるし。


焼き菓子、生菓子、フルーツ、ケーキ、マドレーヌ、クッキー、プリン……

冷蔵品は取り置きしてもらって、帰り際に取りに行く予定だ。


「あ、そこのパン屋さんもね、美味しい焼き菓子売ってるんだよ」

「えっと……まだ買うのか?」

「あ、もういらない?」

「流石にいらない……」


いらないかあ。まだ半分くらいしか行ってなかったんだけど。


「じゃあ取り置きしてもらってた分を取りに行って帰ろっか」

「うん……買ってくれてありがとう、クリア」

「いいのいいの……」


刹那、ふわり、と花の香りがした。


馴染みのあるにおい。華やかだけれど落ち着いていて、何層にも深く重なったような不思議な香り……


「クーリアちゃん?」


そっと肩に手を置かれる。

シュウくんが驚いた顔をしている。きっと気配に全く気がつけなかったのだろう。私もだ。


振り向けば、陽を反射してきらめく明るい金髪に深い深海のような藍色の瞳を持った、可愛らしい女の子が立っていた。


「……メル?」

「探したよぉ、クリアちゃん。ただいまぁ」


にこっと笑ったその表情には人を惹きつける華やかさと愛らしさがある。

冒険者とは思えないほど可愛らしい、いかにも女の子といった見た目の彼女は、〈黄金の隕石〉の剣士にしてシーフ、星六冒険者のメル・ベルーダである。


どうしてここに?という言葉は飲み込む。

どうせ聞いたところでメルはなんでもはぐらかすからね。こう見えてこの子もあーんまり機嫌を損ねたくないタイプなので、相手に合わせておくのが一番なのだ。……こんな奴しかいないのか、うちのパーティ。


「え……【月詠花】!?」

「……これだぁれ?クリアちゃん」


シュウくんが驚き後ずさる。メルの顔は知ってたみたいだ。

メル・ベルーダは冒険者としての実力の高さはもちろんだが、そのルックスの良さと愛嬌からメディアに取り上げられることも多い。本人もそれを嫌がらないので、メルはかなりの有名人である。

冒険者の華、【月詠花】として冒険者以外の人でも知っているくらいだ。


「えーっと、新しくギルドに入ったシュウくんだよ。星一冒険者」

「ふぅーん……」


するりとメルが私に腕を絡めて抱きつく。うん、いつものことだ。なすがままにしておく。

じぃっとシュウくんを眺めたメルはさほど興味が沸かなかったのか、ぱっと私へ目を向けた。


「何してたのぉ?みんな探してたよ?」

「お買い物だよ、お買い物。そろそろ帰るところ。というか、メルがいるってことはみんな帰ってきたの?」

「うん。今ね、ユーリス君がクリアちゃんの代わりに支部長とシーファとキース兄とお話してるよぉ」


あぁ、そう。ユーリスが……

悪いことしたな。でもユーリスなら大丈夫でしょ。

私よりもよっぽど建設的な話し合いになるよ。


「一緒に帰ろっ、クリアちゃん」

「そうだね。あ、取り置きしてるスイーツ取りに行かなきゃだから寄ってって良い?」

「もちろーん」


今日はずいぶんとご機嫌だな、メルちゃん。彼女は感情の波が大きいから……やっぱり久々に帰ってこれたら嬉しいよね。


「……あれ、シュウくん?」

「あ、あぁ、はい……」


歩き始めてもついてこないシュウくんを振り返ると、青い顔をして元気なさげに返事を返された。

どうしたんだろう。有名人に会って緊張してるのかな。


微妙な距離を空けながら、私達はギルドへと帰っていった。


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