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二十話「幸星と炎剣」

討伐が始まり、キースとルグは頭領と、〈幸星〉とシュウは幹部二名との戦闘が開始。

時は少々遡り、今回はシュウのお話です。



時は少々遡り、一度目の討伐作戦から二日後、ギルが帰ってきた日のこと。


シュウはとある人物に呼ばれ、ギルドの訓練場に来ていた。ギルドの裏に訓練場がある、と聞いてはいたが、実際に利用するのは初めてだ。


「お、おぉ……」


中はかなり広々としていた。入って右手側には備品庫があり、剣や弓、杖などの武器から的となる人形や置物、トレーニング用の器具まで置いてある。

左手側には地下へと降りる階段があり、地下にもいくつか訓練できるスペースがある。そちらは予約制で、より激しい実戦訓練をする時などに使う。


中では冒険者達が一定のスペースを空けながら個々に訓練をしていた。素振りをしている剣士、的に向かって離れた場所から魔法を放つ魔道士、走り込みをしているシーフ……

冒険者協会にも訓練場が併設されているが、いつも混み合っていて十分なスペースがとれない上に、流れ弾や振りかぶった時の剣が当たることもあり、使用はかなり不便である。


シュウは武器の性質上訓練場を利用すると周囲へ多大な迷惑をかけてしまうため、いつも町外れの空き地で素振りをしていた。

こんな設備の整った場所を無料で使えるとは。ギルドってすごいなと感心したシュウであった。


「シュウ君、こっち」


入り口で棒立ちしているシュウを見つけ、手を振って声をかけたのは〈幸運を呼ぶ星〉のシーラだ。彼女の他にもパーティメンバーが揃ってシュウのことを待っていた。


「すみません、待たせましたか?」

「いいえ、ちょっと用があって先に来てただけよ」


〈幸運を呼ぶ星〉は先日の討伐作戦の時、途中からシュウと合流して面倒をみてくれた人達である。パーティランクは星四、冒険者は星三から星四に上がるのが最も難しく、才能がないと厳しいと言われているため、彼らはその壁を越えているのだ。

シュウにとっては、憧れの冒険者の一人である。


「シーファさんから聞いたと思うんだけど、シュウ君と、あと〈春のそよ風〉っていうシュウ君と同年代の子達のパーティの指導役を私達がさせてもらうことになったの。次の討伐でも一緒に行動することになったから、先にシュウ君と顔合わせと実力の確認がしたくて」


そう、そんな憧れの人達に指導役として教えを乞えることになったのだ。

先日の討伐作戦の時、自分の実力不足でクリアやキース、他の冒険者達に迷惑をかけてしまったと落ち込み、迷惑をかけないだけの強さを求めていたシュウには願ってもいないことだった。


あの後、強くなるにはどうすればいいのかが分からす、昨日はギルドでうろうろしながら依頼を受けてこなしていた。

自分一人で強くなろうにも、それではこれまでと成長のスピードは変わらない。手っ取り早く強くなるには遺跡に行って魔力強化を強めるのが早いが、シュウの実力ではレベルの高い遺跡には行けない。

シュウはまだ星一、しかもソロ。となるとレベルーの遺跡の中でも初心者向けの場所くらいにしか行けないだろう。そうなると魔力強化の効率も悪い。


そんな時シーファから指導の件を聞き、シュウは是非にと二つ返事でお願いした。


「はい、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね。じゃあまず改めて自己紹介をしましょう。私はパーティの副リーダーのシーラよ」

「俺がリーダーのギルガメッシュ・ジェーンだ。ジェーンって呼んでくれ。そっちが魔道士のサミュ、シーフのムゥラだ」

「よろしくね」


ニッと笑ったジェーンが胸を叩き、横の二人を紹介する。サミュは控えめに頷き、ムウラははにかんで挨拶を返した。


「シュウ・ケーネスです。星一、剣士です」


シュウも深々と頭を下げてそう言った。


「今日は実力の方も確認したいんだけど……シュウ君、武器は遺物だったよね?どんな性能なのか教えてもらってもいい?」

「えっと……剣型の炎が出る遺物で、『赤炎烈火剣』ってやつです。魔力を込めると好きな時に刀身から炎が出ます。炎自体がかなり温度が高いので、近くにいるだけで結構熱いです」

「シュウ君本人には熱は来ないの?」

「いや、来てるんですけど……俺は大丈夫みたいで」


剣を使うと炎に当たるのはもちろん、近づくだけでかなりの熱が来る。シュウがこれまでソロで活動していたのもこの武器がひとつの要因だ。近くにいる仲間にまで熱のダメージが入ってしまう。


「なるほどね……ここで使うのは危なそうね。ひとまず移動しましょうか」


シュウの武器への配慮で一同は地下へと移動し、シュウの実力を確認することになった。

地下一階へ降りると扉が並んでおり、中に入ると上よりは狭いが十分な広さがある部屋になっていた。天井に照明が埋め込まれており、地下でもかなり明るい。


「じゃあ、シュウ君の戦っている姿を見せてほしいから……ジェーン、ちょっと手合わせしてくれない?」

「え、俺?俺パーティで一番ランク低いんですけど?」

「シュウ君もいいかな?」

「あ、はい!」


半ば強引にジェーンを押し出し、二人は武器を手に部屋の中央で向かい合い、シーラ達は端によって壁にもたれた。


「あの、武器これでいいんですか?」

「問題ないわ。ジェーンもこう見えて結構強いから」

「こう見えてって言うなよ」


シュウは遺物を手に持ちそう言ったが、〈幸星〉の面々はジェーンを心配する様子はない。

ジェーンの強さについてシュウは星三冒険者だという情報しか知らないため、そう言われたものの不安そうに武器を構えた。


「準備は良さそう?よし……始め!」


ジェーンは動かない。あくまでシュウの戦い方や実力を確認する目的であるため、最初はあまり積極的に攻めるつもりはないようだ。

シュウは剣に魔力を込め、接近しながら振り抜いた。


「うおっ!あちぃ!」


ジェーンは後ろに下がって避けるが、噴き出した炎に肌を焼かれる。

シュウはまた一歩踏み出すと剣を斬り上げる。ジェーンは剣で弾いて横に避けると数歩下がって距離を空けた。


「あちち……あ!髪焦げてる!」

「す、すみません!」

「シュウ君謝らないで大丈夫よ」


かなり距離があるシーラ達の元にも、シュウが剣を振った時には僅かな熱気が伝わってくる。それだけの高温だ。


「流石に真正面からやり合うと焦げるな」


今度はジェーンが距離を詰める。シュウは剣を構えて炎を出すが、ジェーンは素早く回り込むとシュウの脇腹を蹴る。


「ぐぅっ」


なんとか踏ん張り炎をまとった剣を横に薙ぐが、ジェーンはいつの間にか反対へと回り込み、シュウの左肩を斬りつけた。

傷は浅い。が、ジクジクと痛み血が流れる。


気合で痛みに耐え攻め込むシュウだが、ジェーンは炎から離れて死角に移動しカウンターを放つ。

シュウが攻めているように見えるが、実際はそのカウンターをなんとか防ぐだけの防戦だ。


シュウの息が上がってきたころ、ジェーンが剣の柄を突き、シュウの剣が手から離れる。首にを当てられ、勝負がついた。


「サミュ、治療!」

「あぁ」


駆け寄ったサミュがシュウの左肩を魔法で止血、回復魔法をかける。傷が浅かったためか、数十秒程度でシュウの傷は治った。


「はあ……ありがとうございます」

「ごめん、斬っちまった」

「いえ……」


正直手も足も出ていなかった。最初の攻撃こそ炎で若干圧倒できたものの、すぐに距離を取られて対処されてしまった。

シュウは自分の未熟さを見せつけられた気分だった。


「お疲れ様二人とも。さて、本人的にはどうだった?」

「やっぱり、俺は弱いんだなって……武器で有利になっても、俺自身が弱いからすぐにやられました」

「ジェーン、戦ってみてどうだった?」

「そうだな……」


近寄ってきたシーラ達が声をかける。シュウは剣を拾って鞘にしまうと、地面に座ってため息を吐いた。

ジェーンは話を振られて首をひねる。唸りながらドカリとシュウの横に腰を下ろした。


「戦闘中の反応は悪くない。技術、力の両方ともまだ未熟なところはあるけど、実力的には星二は優にあると思う。もう少し実戦経験を積めば星三もすぐだと思うぞ」

「え、それは流石に……」


ジェーンはシュウにかなりの高評価をつける。

だがシュウは流石にそれはないだろうとうろたえた。星三となるとジェーンと同じランクだ。いくら同ランク内でも実力の差はあるといえども、ここまで一方的にやられたのに星三もすぐだということはないだろうと考える。


「私もそう思う。ジェーンは休みが多いからランクは低いけど、実力的には私達の中でも一番……つまり、星四以上はある。ジェーンもそこまで手加減してなかったでしょ?それでまともに戦えてたんだから、すごいことよ」


ギルガメッシュ・ジェーンは不運な事故や怪我により一人休むことが多いため依頼に参加できないことが多く、ランクはその実力よりも低い。


〈幸星〉のパーティ自体もジェーンの不在によって依頼を断ることもしばしばで、一度引き受けた依頼を断る場合ランク昇格のための依頼達成度にペナルティがつくためランクが上がりづらい。他のメンバーも星四か星三だが、全員星四でもかなり強いくらいの実力の持ち主である。


「ジェーンもそうだけど……シュウ君は自分の実力を正確に測れていないわ。まだ星一で冒険者歴も浅いからっていうのがあるんだろうけど、遺物もそこそこ使いこなせていて、戦闘のセンスもある。もっと自分に自信を持って」


ジェーンはリーダーなのにランクが低いと落ち込み、自分を過小評価する節がある。シュウもまた、自分の冒険者歴の浅さと帝都に来た途端に盗賊にやられた経験から、過度に相手を怖がる様子が見受けられる。


自分を過大評価して相手との実力差を見誤ることは最も避けるべきことである。だが実力としては十分なのに過度に相手を恐れることも、決して良いとは言えない。


ぱん、とシーラが手を叩いて仕切り直した。


「シュウ君がそこそこ強いってことを踏まえて、改善点を見つけていきましょう。ジェーン、何かある?」

「まあ、まずは武器の使い方だな。遺物は魔力を消費するんだよな?シュウはどれくらいその炎を出していられるんだ?」

「さっきのペースで、ずっと炎を出していると……十分以上は保たないです。回復にはしばらくかかります」


遺物は総じて魔力の消費が激しい。もちろんものによって大きく異なるものの、強力な遺物はその分消費魔力も多い。


また魔力の回復速度は個人によって異なる上に本人の体調や場所の違いによっても変わるものの、概ねかなり時間がかかるものだ。

魔力回復用のポーションなどを使えば多少は速く回復できるが、ポーションは短時間に使いすぎると効果が下がっていく。


「それじゃ短すぎる。シュウは炎を出しすぎだな。炎が大きく燃え上がるからなのか、大剣でもないのに動きが大振りになる節があるからそれも隙に繋がってる。炎の大きさは調整できるのか?」

「できる、らしいんですけど……俺はまだ……」

「じゃあ、炎を出す時と出さない時と、使い分けるのがいいだろうな。見た感じ、炎を出していなくても刀身はかなりの高温になってるんじゃないか?ならそれで相手を斬れば浅くてもかなりのダメージが入る。炎で攻撃するか、剣で攻撃するか、それを分けて剣を振ったらどうだ?」

「……ジェーンが意外とちゃんとアドバイスして

る……」

「いや、これでもリーダーなんだよ。観察力はあるんだぜ」

「あ、ありがとうございます……」


シュウには貴重なアドバイスだ。自分の弱点や改善点に自分自身で気づくことは難しい。

ジェーンのアドバイスは的確で、遺物ありきだったシュウの戦い方に対して遺物を適切なタイミングで使うことを提案した。遺物を十全に使いこなせているとは言えないシュウにとっては現時点で最も効率的な改善だろう。


「次の討伐は明日だから、急ごしらえにはなっちゃうけど……今日できる限り特訓しましょうか」

「よろしくお願いします!」


強くなるために、できることは何でもしょう。

そう決意したシュウであった。


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