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*閑話弍「一方そのころギルは」

キースにもクリアにも置いて行かれちゃったギル。お怒りです。



ガァン!!と鋭い音が響く。


訓練場にいた《新星》所属の冒険者達は顔をしかめながら、音の発生源であるとある人物から距離をとる。

彼は機嫌が悪そう、というよりは怒っているように頬を膨らませながら、備品の鉄製のなまくら剣を鋼鉄製の的に向かって斬りつけている……というより叩きつけていた。


「おい誰か止めに行けよ……」

「無理だろ、そう言うお前が行け」

「殺されに行けと?」


端に集まった冒険者達はヒソヒソと誰がギルをなだめに行くかを話し合う。だがあの振り上げた剣が当たりでもしたら良くて大怪我、最悪死ぬ。逆ギレされないとも限らない。

星七冒険者の暴走を止めることができる者など、この場には誰一人としていなかった。


「なんでマスターはこれを置いてったんだよ。〈隕石〉の他の奴らもいないのに。俺たちにどうにかしろってか?」


話せさえば素直なギルの面倒を見るのは〈隕石〉の面々または幹部クラスの実力者たちだ。今ここにいるような星三以下の者達では命の危険がありすぎて無理である。


そもそもギルが何故ここまで怒っているのかといえば、行きたいと訴えた討伐に連れて行ってもらえなかった挙げ句、「行かない」と言っていたクリアまでもがギルに内緒で討伐に向かったと聞いたためである。

「俺も行きたかったのに!!」と言って拗ねて不貞腐れた結果が訓練?による憂さ晴らしになったらしい。


「……よし、俺が行こう。ここはみんなの場所だって叱ってやる。俺はギルベルトよりも先輩だしな!!」

「お前……!」

「骨は拾ってやるから!」


全身鎧を着たタンクの冒険者が歩み出る。震えすぎて全身からガチャガチャと音がなっているが、一歩、また一歩と背後に冒険者達の期待と尊敬を受けながら歩みを進める。ちなみに彼のランクは星三だ。


「えっとぉー、ギルベルトさーん?」

「ん!?なんだ?」


十メートル以上の距離を開けつつ声をかける。ギルが止まって振り返ったことを確認し、じりじりと近寄っていく。

ギルはムスッとした顔をしてはいるが、声をかけられたこと自体は気にしていなさそうだった。


「あのー、そのぉ……なんかあったか?話、聞こか?」

「ビビったなあいつ……」

「叱るんじゃなかったのかよ」


俺以上のビビリに言われたかねぇよ。そう思いつつ、彼は引き攣った笑顔をギルに向けた。


「あのな、クリアがな!俺と決闘するって約束したのに、討伐に行っちゃったんだ!俺だけ仲間外れでひどいんだよ!」

「そっかぁー……」


マスターは決闘するとか言ってないんだろうなぁ。

と思いつつ彼も話を合わせて頷く。あの人がこの訓練場を使っている姿は見たことがない。

それよりも、ギルが足を踏み鳴らして地面に振動がきて怖い。


「とりあえず、さ?それやめようぜ……剣も的もほら……へ、凹んでるからさ」


剣の方はぐにゃりと曲がり、的はベコッと凹んでいた。

訓練場の備品は壊れにくいように魔力で強度を上げてあったはずなのだが……ギルの猛攻には耐えられなかったらしい。怖い。


「あ、筋トレとかどうだ?筋肉は鍛えて損はないだろ?な?」

「うーん……そうだな。あ!お前らも一緒に筋トレしないか!?みんなで誰が一番できるか競争しよう!!」

「え?……い、良い案だな!ほら、お前らも来いよ!」


こうなれば全員巻き込んでギルのおもりだ。ビビリ呼ばわりした奴らも逃がしはしない。

競争の二文字に機嫌が良くなったらしいニコニコのギルと一緒に、彼もニッコニコで他の冒険者達を手招いた。


―――マスター、早く帰ってきてくれ。


始まる地獄を感じ取り、ギル以外の全員がそう切に願った。


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