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十八話「衝突、寸前」



「よく集まってくれた、お前達。隊長のキースは今現地で調査中のため、俺が代わって作戦の詳細を説明する」


ギルドのロビーに集まった三十名ほどの冒険者達を見回し、ガルスは声を張り上げた。


「説明が終わったらすぐに移動する。相手は探知ができる魔道具を持っているから、現地ではモタモタできない。この場でしっかり作戦を理解しとけ。帝都を出たらスピード戦だ」


作戦の概要はこうだ。

まず、討伐隊は真っ直ぐに遺跡へ向かい、遺跡内へと突入する。現在遺跡内からの拠点への入り口の場所が判明していないため、拠点の真上に来たところで地下の空間まで届くように上から大穴を空ける予定だ。

遺跡を囲むようにして協会の偵察部隊と数名の冒険者が待機、万が一盗賊が遺跡外の出入り口から逃走を試みた場合は彼らが盗賊の捕獲を行う。遺跡外の出入り口はすでに発見しているためそこを重点的に見張り、他の出入り口がある可能性を考慮し遺跡の周辺も見張っておく。


拠点に侵入した後は盗賊の捕獲を優先に奴らを一人も逃さないようパーティ単位で動いていく。

地下空間に入りさえすればキースやユリエラ、シーフジョブの冒険者達によって内部の形状や敵の数は容易に把握可能だ。通機を使って情報を共有しながら作戦を進めていく。

余裕があれば、クリアの捜索も行う。


かなりぶっつけ本番な作戦だが、クリアが先行した場合の討伐作戦は大体いつもこのような感じだった。「盗賊狩りのギルド」の十八番である。


「これを逃したら次はない。ここが正念場だ!一人残らず捕まえる!作戦開始!!」

「「おぉー!!」」


ガルスの掛け声に冒険者達が応とこたえる。

最後の討伐が開始された。



+++



「ん?」


盗賊団の頭領シュゼットは魔道具に遺跡へと向かってくる複数人の反応をとらえた。

反応の強さからして、かなり手練れの冒険者達だ。人数も多い。少なくとも、このレベル二の遺跡を探素に来たとは思えない。


「どしたー?ボス?」

「……冒険者だ。ついに来たぞ」

「え、早くない?」


こちらの想定よりかなり早い。

少なくとも翌日以降にはなるだろうと見越して本日移動の準備をしていたが、このままでは逃亡は間に合わないだろう。


「え、どーするの?今逃げる?」

「そうだな……」


遺物を使えば今いる約半数程度の奴らは逃げられるだろう。だが往復して全員逃げるのは不可能だ。

自分や幹部だけが逃げても良いが……


「……いや、迎え撃とうじゃないか。これまで散々追い回してくれたんだからな。恐らく拠点の場所がバレたからには外の出入り口は見つかっていると見ていいだろうな……遺跡からの方は分からないが」


どっちにしろ逃げるのにも衝突は免れない。ならば、こちらも準備を整えて迎え撃った方が勝率も高い。


「お前ら!冒険者が来た!今回は迎え撃つぞ!荷物は外の出入り口付近にまとめておけ。数人はそこを見張れ!武器持っていつでも戦えるようにしとけ!!」

「「うおお!!」」


シュゼットの命令に盗賊達が活気づいて応える。


「あれ、ベイドどこか知らねー?」

「腹でも痛めたんじゃね?」


ビジャンはキョロキョロとベイドの姿を探したが、彼の姿は見つけられなかった。



+++



ドサ、とクリアの横に大柄な男を投げ捨てる。


「クリアー、戻ったよ。……クリア?」


リオがゆさゆさとクリアを揺すってみても、反応がない。

一瞬バレて殺されたのかと思ったが、呼吸音が聴こえたため単に寝ているだけのようだった。


「……ここで寝るか?」


リオは首を傾げてそう呟くとしゃがんでクリアの手を取り、ピンと弾いて弄んでいた『魔力障壁生成用リング』をはめてやる。

じーっとクリアの寝姿を見つめ、一度上を仰ぎ見ると、再びクリアに目を落とし右手に取り付けられた「魔封じ」の腕輪を取った。


ずん、と洞産内に振動が走る。

恐らく、キース達が作戦を開始したのであろう。


「クリア、おれ先帰ってるから。多分そろそろキースも来るから、もうちょっと寝てな」

「……おい、お前誰だよ」


リオが振り返ると、入り口に一人の男が立っていた。細身の男で、腰のあたりにタガーをかけている。盗賊の一人だろう。

目視による認識は完全に隠蔽できていないとはいえ気配は消していたため、そんなリオに気付くのは容易なことではない。そこそこの手練れだ。


「それ、ベイドだよなー?お前が殺したのか?」

「ちょっとシメただけだから死んでねーよ」


ビジャンは警戒し殺気立っている。

突然魔封じをしているはずの女の魔力反応が出たため、シュゼットに言って様子を見に来た。すると女は倒れていたが、その横に姿の見えなかったベイドまで倒れている。

一体誰が、と意識を尖らせてみれば、間に紛れるように気配の薄いリオに気がついた。


「今、忙しいんだけどなー。でも折角だし、ベイドのカタキでもとってやるよ」

「オレも面倒だからもう帰ろうと思ったんだけど……お前はこの雑魚よりマシだし、遊んでやるか」


挑発するようにベイドを蹴る。


ビク、と身体を震わせたビジャンは駆け出し、真正面からリオヘタガーの刃を向ける。素早い。


リオはパーカーのポケットに手を突っ込んだまま身体を反らしてそれを避けると、ビジャンの足を引っ掛ける。しかしビジャンはさっと足を引き後ろに下がると、横に踏み込んでリオの胴体を狙う。


「ぐふ……!?」


それもひらりと避けたリオはカウンターの蹴りをビジャンの腹に入れ、ビジャンはよろよろと数歩下がった。


「まー、速さはそこそこか。技術が点でダメ。戦い方は似てるのに、ここまで差があるとつまんねーな」

「てめー……!」


ビジャンはスピード型で素早く相手の懐に入り急所を狙う戦い方である。シーフジョブの冒険者と似ており、リオの戦い方も同じようなものだ。

戦い方が同じだと、強さの差は如実に表れる。

ビジャンの攻撃は一向にリオへと届く気配はなく、リオは手をポケットに突っ込んだまま、あくびでもしそうな程退屈そうな顔をしている。


「お前、何なんだよ!」

「え……別に何でもいいだろ。説明めんどくさい」

「くっそ……」


ビジャンはこの盗賊団の幹部であり、五本の指には入るであろう実力の持ち主である。一番強いのは頭一つ抜けたシュゼットだが、そのシュゼットの次くらいには強いと自負していた。

時折遺跡に忍び込んで魔力強化を強めていたし、元々足が速かったことを活かしてその長所を伸ばしつつタガーの扱いや急所の突き方を練習した。

ビジャンはこう見えて、かなりの努力家だった。


なのに、届かない。一度も。相手は実力の十分の一も出していなさそうなほど余裕の表情だ。


「俺は、金持ちになって、妹を……」

「なんか、もういいや。やーめた」


リオは苦もなくビジャンの後ろに回り込むと、後頭部を一発蹴った。

ドサリとビジャンが崩れ落ちる。


「ま、星四くらい?もっと遊べるかと思ったんだけど」


リオがつまらなさそうにビジャンを蹴って壁によせる。

一人だけのつもりだったが、結局二人も伸してしまった。あまり遊びすぎるとリオの仕業だとバレてしまうため、ここらでおとなしく帰ろうと歩き出す。


ずずん、と一際大きな揺れが来た。


キースの到着ももう間もなくだ。

クリアは……運ぶのが面倒だから置いていこう。


リオは一つ大きなあくびをすると、軽い足取りで闇の中へと消えていった。


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