十六話「拠点の特定」
「え?なんでここにいんの?」
リオ・ベルーダ。〈黄金の隕石〉のシーフにして星四冒険者である。
そもそもシーフというジョブがどんなことをするのかというと、その仕事内容は多岐にわたる。
周囲の状況を素早く確認し、敵やトラップ、地形や環境の情報を仲間達に伝える。遺跡では厄介なトラップやギミックの解除も行うし、経路の確認、先行しての状況確認も行う。
戦闘の際には素早い動きと隠密性を活かした急所への攻撃や、罠を使った搦め手を得意とする。パーティに必要不可欠、かつ高度な技術が求められるジョブなのだ。
リオ・ベルーダは多才にして天才だ。彼にかかればどんなことも人並み以上、いや達人級に習得してみせる。
パーティを組み、それぞれ何のジョブにするかの話し合いとなった時、正直どのジョブでも一流になれるだけの実力がすでにあったリオは「最悪サボってもどうにかなる」という謎の理由でシーフを選んだ。一応メルもシーフだからと。
その宣言通り、彼は自分が働かなくても良いタイミングをはかって器用にサボる。
「んー……クリアを……助けようと思って?」
「……本当は?」
「あいつが持ってる遺物が欲しい」
正直でよろしい。
リオが誰かのために動くことなんて絶対にない。それがパーティメンバーであっても、幼馴染であっても。
彼の行動基準は「楽できるか」と「楽しいか」しかない。
「とりあえず、ここどこ?」
「「竹林の住まう村」の真下ってとこ?ここはギリ遺跡内じゃないところ」
「へぇー……」
この遺跡にこんなところかあったのか。
「竹林の住まう村」は帝都の近くにあるレベル二の遺跡だ。竹林にのまれた廃村で、出てくる魔物はゾンビ化した野犬のみ。ギミックやトラップで特徴的なのは地面から急成長して突き出てくる竹だが、この竹は魔力抵抗が非常に高いためコツさえ掴めば探知するのは簡単だ。
少し探索に慣れがいるため攻略難易度はレベル二だが、言い換えれば慣れさえすればレベルニの中でも危険度の低い遺跡である。
レベルの低い遺跡というのはそれだけ冒険者に探索され尽くしているということで。
遺跡内の地図から危ない場所、魔物が湧きやすい場所、遺物がよくある場所、探索のポイントとなる情報は詳細にまとまって協会の遺跡図鑑に載っている。
そんなところに人から発見されないような隠れ拠点を作るなんて、相当ありえないことだ。
「なんか今、キースがあいつら追ってるんだろ?クリアはどーする?」
「え?いやどうするって言われても」
いつもと変わらないよ。とりあえずキルドに連絡入れて、後はおとなしく待ってるだけ。
「……ちょっと先に私の拘束解いてくれない?」
「いいの?」
パッとリオが手を振ると手足を縛っていた縄が切れた。どうやったのかは分からないが……多分魔法?
寝転がっていた身体を起こし、ようやくリオと目の高さを合わせる。ぱっぱと服に付いた土を払いながら、自分の装備も確認しておく。
「ふう、ありがと。まあ今日は盗られてるものも何もないし、おとなしく……あれ」
……ない。
私の生命線である『魔力障壁生成用リング』がない。あれがないと本当に防御能力が心許ない感じになってしまうのに。え、うそ。
逆に言えばそれしか盗られていないようだが、私が身に着けている全ての装備の中で最も大事と言っても過言ではないものが盗られている。そんな、私以外だとまともに使えなくて普通に売っても高く売れないようなやつなのに。
『魔力障壁生成用リング』とは個人の魔力量に応じて魔力障壁というバリアのようなものを生成する指輪型の遺物だ。魔道士にとっては喉から手が出るほど欲しい遺物だと言われている。
そもそも魔力とは世界龍アレフの力の一部だと言われている力で、元々アレフの血脈だったと言われている「龍脈」という魔力のパイプからさらに細かく枝分かれた「地脈」、生物はそこから魔力を吸い上げている。
人間の場合地脈から吸い上げた魔力は魔臓という器官に溜められる。その溜めておける量が魔力量だ。
魔道士は訓練によって魔臓を鍛えることで魔力量を増やし、より多く、より強い魔法を使えるようにしている。
『魔力障壁生成用リング』はそんな魔力量をもとに、最大魔力量の何割かを消費する代わりに強力な障壁を身体の周りに生成する。魔力量が多いほど強力な魔力障壁が生成できるが、魔力量に対する魔力障壁の強度や消費魔力はものによって大きく異なり、発動のしかたなども異なる。
私が持っているものは怪我や命の危険に繋がる攻撃、事故などに対して自動で発動してくれるのは良いのだが、強度、消費効率共に使えないレベルで最低のやつだ。星七冒険者の魔道士であり魔力量はかなり多いアンナが使っても、火傷程度の小さな炎魔法を防ぐだけで魔力が全て消え去った。
私の魔力量は馬鹿みたいに多い……というか何かがおかしいため、そんなゴミ遺物でも命綱になる。
「……ねぇリオ?私の盗られた遺物も一緒に探してくれたりなんかは……」
「んー、報酬は?」
「……何か一つ、交渉次第でできる限りの言う事聞きます」
「よし乗った」
リオに借り作るの怖いから嫌なんだけどなぁ……自力では絶対に取り戻せないし。仕方ない。
「ところで、今何時?」
「朝六時」
私にしてはえらく早起きだな。
……え、もしかして今日って討代作戦当日?
+++
「おい、クリアからの連絡はまだか!?」
《新星》ギルドハウスのロビーに設置された作戦本部にて、ガルスが吠えている。
前日夜遅くまでの捜索の甲斐あって拠点の目星はついている。だが、完全なる特定まではできておらず敵の状況が分からない。
「……マスターの手は借りないのでは?」
「……お前でも嫌味は言うんだな」
シーファがぼそっと放った言葉にガルスは苦い顔をする。
そう、あんな大口を叩いておいて結局これだ。このままクリアの情報がなくても成功する手立てはあるが、失敗の確率も高い。ギルベルトを投入すれば何とかなるだろうが……それは最終手段だ。
「少しでも作戦成功の確率をあげるため、クリアからの詳細な位置情報が欲しい。いつもこんなに連絡が遅いのか?」
「いえ、まちまちといったところですが、今回は少し遅いですね」
「何をしてるんだ、あいつは……!」
こっちは作戦の最終調整で昨夜はほとんど休んでいないというのに。
キース達は協会の偵察部隊数人を残して一度ギルドに戻り、今朝早くに再び捜索へと向かった。討代隊は徐々にギルドへと集合しつつある。もう間もなくで出発だ。
潜伏している遺跡の目星はついている。数人付近をうろつく盗賊を目撃している。だが具体的にどこに、どのように、拠点があるのかが分からない。遺跡内はくまなく探しているが、痕跡もなければ反応もない。
リリリッ
「連絡来ました!」
「やっとか!どこだ!?」
「「竹林の住まう村」です、キースさんに詳細情報を転送します!」
こちらの予想と遺跡は一致している。遺跡内で捜索を続けていたキースに情報を送り、詳細な位置を確認してもらう。
『はい。確認、しました……あれ、反応が……ちょっと、待ってください……』
「どうした、キース?」
声が途切れる。静寂。しばらくして、彼のひゅっと息を呑む音がした。
『……遺跡の……中じゃ、ありません。……下です』
遺跡内で連絡を受けたキースは反応が表示されないことに違和感を感じ、遺跡の外へ出た。
そこで見たのは、遺跡のやや北寄り中心を指す地図の反応と、平行より斜め下を指す球体コンパスの反応だった。