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十話「金色と憧憬」



そもそも何故私が、私達が冒険者になろうと思ったのかといえば、一人の冒険者がきっかけだ。


ノイタス・アルティネ。世界各地を飛び回り数々の功績を残してきた銀月冒険者で、彼は私の故郷にもよく来ていた。才能を見抜くことを得意とし、後輩や子供達の育成を趣味と称する冒険者にしては変わった人物だったが、彼の強さは本物だったし、多くの人に慕われて然るべき人だった。

彼はその温かみを帯びた鮮やかな金色の瞳でギルやユーリスの才能を見抜き、ベルーダ兄妹と引き合わせ、アンナやキースに冒険者の道を示した。彼の冒険譚は子供達の冒険心をくすぐり、かくいう私も「いつかはノイタスのような冒険者になりたい」と愚かにも夢見ていた。


数年前に引退を宣言してからは表舞台から姿を消し現在その消息は不明だが、冒険者でノイタスの名前と功績を知らない者はいないだろう。


「いくら私がノイタスさんや【白金の勇者】と同じ金色っぽい目をしてるからってね、そんな過度な期待を寄せないでください。あと私の目は黄色です、黄色」

「確かに見た目で判断するのは良くないな。だがいつも怪しい行動をしてるのはお前だクリア。あと毎回してるその言い訳は少し厳しいと思うぞ。お前の目は金色だろ」


「金色」は特別な色だ。この世界を創造したと言われている創世の世界龍「アレフ」が纏っていた色であり、特出した能力を持ち歴史に名を残すような人物達の瞳に宿る色である。

私が攫われやすいのも、魔力がバカみたいに多いことはもちろん、この金色っぽい目を狙われることがしばしばある。私が金眼なわけないのにね。金と言うには色が薄くて黄色っぽいし、こんな無能力雑魚が歴史に名を残すって?何をどうすればそんなことができるものか。


さて、数日ぶりの冒険者協会支部長室だ。討伐作戦の翌日である。性懲りもなく私を呼び出したガルスさんはまたしても何も知らない私からありもしない情報を聞き出そうとしている。もう勘弁してよ。


「さあ吐け。この件について知ってることを全部吐け!」

「だからあ!何も知るわけないでしょ私今回行ってすらないよお!帰してえ!」

「おい、喚いてはぐらかそうとするな。クッキー食って落ち着け」


わあ、このクッキーおいしーい。


「じゃあ答えてみろ。なぜか調査の半分にも満たない下っ端しか残ってなかった拠点で、たまたま逃げた盗賊が魔力強化こそ弱いが技術が優れた一番強いやつで、そいつしか残りの居場所を知らない上にもし捕らえても忠誠心が高く口を割らないだろうということを見越していたわけでもないのに、リスクとデメリットが大きい「盗賊を追うな」という指示をわざわざ通信までして出したのか?何のためだ?ああ?」


本当にひどい言い分だよ。そんなの私が討伐作戦の何たるかを知らず、ただ「怖そう」ってだけで討伐対象を逃がすというとんでもない愚行の指示を出しただけでしょ。通信はシュウくんの方から繋いできたもん。


「何のためでもないです。だからですね、私はガルスさんが思っているよりもずっと弱くて、ばかで、なんにも分かってないんです。私は何も知りませんし、何も理解してません。今回のことは結果的に良かった?んですか?としても、参加もしていない作戦に口を挟んで迷惑をかけてしまい申し訳ないと思ってます。ごめんなさい」


はいこの話終わり。帰って進物品としてもらった缶入りクッキー開けて食べよ。


「おい!……はあ、また討伐隊を組むから前回参加した奴らにできるだけ参加するよう言って、参加者を協会に伝えてくれ。できればお前が掴んでいる情報もな!話す気がないならもう勝手に帰れ!」



▷▷▷



「あぁ、マスター。お疲れ様です」

「シーラ、付き合わせちゃってごめんね」


ロビーに戻るとシーラが待っていた。今日は彼女についてきてもらったのだ。


「いえ、私もリーダーの怪我の具合について報告に来る用事があったので」

「あれ、〈幸運を呼ぶ星〉のリーダーって……」

「あぁ、私じゃないです。ギルガメッシュ……ギルガメッシュ・ジェーンなんですけど、あの人不運な怪我が多くて。たぶんマスターにもちゃんとご挨拶できたの最初の一回くらいしかないので、間違えられても仕方ないですね」

「そっかごめんね。ギルガメッシュにも謝っておいてくれる?」


ギルガメッシュくんか。全く記憶にないな。〈幸運を呼ぶ星〉は四人パーティだとばっかり思ってたし。シーラもリーダーとして十分すぎるくらいしっかりしてるし。


ロビーにいた冒険者達の視線が飛んでくる。

今日は《新星の精鋭(レア・ニュービー)》ギルドマスターに向けられた視線だ。目だけがくり抜かれた真っ黒な仮面に黒革のジャケットにズボン、金色のアクセサリー。の、上からすっぽり被った黒いローブ。もはや不審者だ。

まあローブは着なくてもいいんだけどね……この方がよりプライベートで身バレしにくいから、できる限り着ている。邪魔だと脱ぐ。


ヒソヒソと〈新星〉だとか〈隕石〉だとか【金星(きんせい)】という単語が聞こえてくる。……ちなみに【金星】は私の二つ名だ。

冒険者の二つ名はかなり適当に決められる。大体星五から星六を超えたあたりで定着することが多いが、その冒険者を表す言葉で、それが他の人に伝わるなら何でもいいのだ。そのため自分の二つ名を考えて積極的に流布する者もいる。そうでない場合は実績や特徴に基づいて少しずつ噂になっていくのだが、中には悪意混じりのものも結構ある。


私の二つ名なんて適当の極みだ。パーティ名〈黄金の隕石〉の「金」とギルド名《新星の精鋭》の「星」を抜き出してくっつけただけ。誰かもっとマシな二つ名を作ってほしかった。


「〈幸運を呼ぶ星〉は次の盗賊団討作戦にも参加できそうかな?」

「はい、できると思います。直近の予定は何もないので。たぶんギルガメッシュも参加できそうです」


それは良かった。〈幸運を呼ぶ星〉はパーティの総合ランクが星四の実力派だ。ギルガメッシュはよく知らないが、シーラの活躍はかなり耳にする。

あ、そうだ。


「シュウくんって最近見かけた?どうしてるかな?」

「ああ、彼はギルドの宿舎に移ったみたいで、ギルドの方にもたまに来てます。落ち込んでいる、というより強くなろうと焦ってますね」


落ち込んでるよりそれをバネに努力できてるのはいいことだけど、あまりに焦ってるのも良くないか。

次の討伐はシュウくんどうしようかな。やっぱり参加させない方がいいかな。いや、いっそのこと、こんなのはどうだろう。


「次の討伐さ、シュウくんと一緒に参加してくれない?あとシュウくんと〈春のそよ風〉達の指導役を今探しててさ。短期間でもいいからお願いできないかな?」

「え、私達がですか……?」


そうだよね、やっぱり迷惑だよね。ちょっと嫌そうな顔してるもの。でもそうしてくれると討伐作戦での心配と指導役どうするかの悩みが二つとも解決されるからありがたいんだよね。


「ええっと……一応メンバーに確認を取ってからにはなりますが、前向きに検討させてもらいますね」

「え本当!?ありがとう!」


この言葉がお世辞じゃないことを祈ろう。

そうこうしているうちにギルドハウスへと到着した。協会からギルドまでは大通りを歩いて十分ほどだ。行きたくもないのに行くことが多いから、わざわざ近くにギルドハウスを立てた。……まさか、近くにいるからガルスさんもしょっちゅう私を呼びつけるとか?


「じゃあ、討伐のこととか指導のこととか、詳しい話はシーファに確認してね。本当に引き受けてくれるとすごくありがたいから!」

「あ、はい……お疲れ様です」


ちょっと押しが強すぎたかな。パワハラだとか言われてしまうかもしれない。だがもう考え直すのがめんどくさいので、絶対にシーラ達にやってもらいたい。よし、あとはシーファに後押ししてもらおう!


私は寝る!!



+++



「ジェーン、みんなも、ちょっと話があるんだけど」

「あ、シーラ。おかえり。どうした?」


ギルドハウスの裏手側にあるギルドメンバー専用の宿舎の一室。〈幸運を呼ぶ星〉パーティリーダーの星三冒険者、ギルガメッシュ・ジェーンが滞在するその部屋に、彼のパーティメンバーは集まっていた。


二週間前の遺跡探索中に右足が崩れた瓦礫の下敷きになったジェーンは、ポーションを使うのが遅くなったためか傷の治りが遅く、冒険者活動を休んでいた。今日はその傷がだいぶ良くなったため、そろそろ活動に参加しようと話していたところであった。

ちなみに、彼が「ジェーン」と呼ばれているのは同じギルドにいる「ギル」と愛称が被るためであった。本人は女性っぽく聞こえると嫌な顔をしている。


「さっきマスターと話していたんだけど、次回の討伐作戦の際に星一冒険者のシュウ・ケーネス君と一緒に行動してくれないかって言われたの。みんな的にはどう?」

「この間のやつか。マスターがそう言うなら、いいんじゃないか?」


魔道士のサミュが答える。他のメンバーも頷いて同意する。


「そうよね、私もいいと思う。それで、もう一つお願いされたことがあって……」


シーラは複雑そうな表情を浮かべる。


「そのシュウ君と、ちょっと前にギルドに入った星二パーティの〈春のそよ風〉の指導役をしてくれないかって……」

「……俺たちに?」


ジェーンが呆けた顔で聞き返す。


〈幸運を呼ぶ星〉はパーティ総合ランク星四と実力派ではあるが、活動歴はまだ浅くベテランとは呼べない。またジェーンの度重なる怪我と不在によりそのランクも危うくなってきている。

指導役となれば自分達よりもっと適任者がいるはずである。


「えぇ、マスターが直接私に言ったの。一応、前向きに検討するとは答えたんだけど……」


ジェーンも復帰したばかりだ。正直ルーキー達の面倒を見る余裕があるかは分からない。それに、指導経験も皆無だ。必要なことを上手く教えられる自信もあまりない。


「えーと……なんで私達なのかな?」

「さぁな……だが、マスターが俺たちを指名したってことは俺たちが適任だってことなのかもな。俺はいいと思う」


シーフのムゥラは疑問を口にしたが、ジェーンは賛成のようだった。

他の二人もおおむね賛成の意を示す。


「どうしてまだ指導なんてできなさそうな私達が選ばれたのかは分からないけれど、マスターが指導役にと言うならそれは私達の成長にも繋がることになるはず……じゃあ、引き受けるってことでシーファさんに伝えてくるね」


銀月冒険者のギルドマスターが直々に自分達に依頼したのだ。きっと、星四程度では見当もつかないことを考え、自分達の相性を導き出し、最大限の成長が見込めるように手配をしてくれているのだろう。

そんな機会を逃すわけにはいかない。


〈幸運を呼ぶ星〉だって、このギルドに入った理由はさらなる成長のためだ。若く優秀な冒険者達が多いこのギルドに入れば、きっと成長のための機会や鍵を掴めると思った。

正直、ギルド幹部や初期メンバーあたりの面子はレベルの高さが異次元だ。年齢的にはそう大きくは変わらないのにもかかわらず、〈幸運を呼ぶ星〉では生涯絶対に届かない高みにすでに彼らはいる。同じギルドに所属していても、彼らは憧れの存在だ。共に高め合うことはできない。


だが、だからこそ、そんな「天才」達に学びを乞い、成長の手立てを示してもらうことは非常に価値のあることであり、このギルドに入る最大の利点であった。


「ソロとパーティを同時に指導することとか、遺物を持っていない冒険者が遺物持ちの冒険者の指導をすることとか、普通はしないようなことでも、マスターが言うのであれば何か意味があるはず。そうですよねマスター!」


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