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*閑話壱「盗賊狩りのギルドとプリン」

プロローグから一話あたりの裏話です。


自宅に帰るのが面倒でギルドハウスにある執務室隣の休憩室で寝た翌日、珍しく朝早くに目覚め、久しぶりに優雅に朝食を食べた後。唐突に思った。


プリンが食べたい。


今すぐに食べたい。ストックはない。お取り寄せには時間がかかる。自分で買いに行くほか方法はない。でも時間はまだ朝だ。ギルドに人はいるだろうが、これから依頼に行く人がほとんどだろう。

でも今食べたいんだよなー。ご飯食べた後のお口直しにデザートが食べたいんだよなー。プリンがいいんだよなー。


一番近い洋菓子店はここから歩いて十分ほど。大通りから一本わきに入ったところにある。治安は良いが、攫われマスターの私であれば油断はできない。

……とりあえず、ロビーに行ってみよう。誰か暇そうな人いたら奢ってあげるって言ってついてきてもらおう。



▷▷▷



エプロンワンピのラフな格好のままロビーに立ち尽くす。ニコラちゃんに暇そうな人いないか聞きたいんだけど、朝だからか忙しそうだな……


「あれ、マスター。そんな格好でどうした?」

「あ、ニーナじゃん。いやね、ちょっとそこまでプリン買いに行こうと思ってるんだけど、暇そうな人いたら一緒に行って奢ってあげようかなって」

「え、奢ってくれんの?いいなあ。でも多分、ここにいる奴ら全員これから仕事だぜ」

「だよねえ」


私みたいな暇なやつはそうそういないよなぁ。

……仕方ない、一人で行くか。どうしても食べたいんだもん、プリンが。


急に襲われたり攫われたりしても大丈夫なように、私は常日頃から遺物を装備し魔道具を持ち歩いている。耳に付けたピアスのような小型通信機はすぐにギルドへ連絡できるようになっているし、このエプロンワンピもこう見えて遺物で『四次元的なポケット付きワンピース』といって、この胸の位置にある大きなポケットが見た目以上の収納になっているという代物だ。このポケットに便利道具やら何やら色んなものが入っている。


準備は万全、攫われても大丈夫。……攫われないに越したことはないんだけど。


ギルドの前の大通りには冒険者らしき人々がたくさん歩いていた。この通りには冒険者協会もあるし、ギルドハウスも多く立ち並んでいる。

朝の明るい日差しに包まれた街並みは爽やかで、とても人攫いが出そうには見えない。見えない……けどねぇ……


足早に大通りの端っこを通り、角で曲がって一つ隣の道に入る。こちらは落ち着いた通りだが、小綺麗でおしゃれなお店が潜んでいる。ただ、ここからさらに路地に入るとちょっと危なくなってくる。


「いらっしゃいませー」


無事たどり着いたのはこじんまりとした洋菓子店。

そこまで有名なお店ではないが、いわゆる隠れた名店というやつだ。奥から店主が顔を出す。


「あら、いらっしゃいませ。今日はお一人で?」

「はい、まあ。プリン二つお願いします」


近所ということで私が通い詰めているため、店主には顔を覚えられている。そしていつも誰かしら連れてきていることも。ただ深く聞いてきたりはせず程よい距離感で接してくれるため、こちらも通いやすいのだ。


「最近またスリなんかがいるって話ですから、気をつけてお帰りくださいね。ありがとうございました」

「はい、ありがとうございました」


スリか。私スリに狙われることはあんまりないんだよね。金目のものを持ってなさそうに見えるみたいで。一応はめてる指輪とか付けてるピアスとか全部遺物か魔道具だから高いんだけどね。


でもプリン買えたから満足だ。なんとなく二個買ったけど自分で食べるか誰かにあげるか……いや食べちゃおうかな……


なんて考えながら歩いていたところ、ぐい、と腕を引かれて路地の方へと倒れ込む。

布を噛まされ腕を拘束される。やばい、油断した。


「ほら、絶対魔道士じゃねぇよ!ただの小娘だ」

「こんなに魔力があるのに魔法使えないなんて、可哀想なやつだな。袋被せろ!縛って持ってくぞ」


あぁー。

また魔力目当ての奴らですか。まあ魔力が多い人間は裏ルートで高く売れるらしいですからね。

手を縛られているため拘束を抜け出せない。そもそも解いたとしても、盗人二人相手に逃げ切る自信がない。とりあえずおとなしくついていくしかないかなあ。隙を見て連絡入れれば誰かしらが助けに来てくれるだろうし。

あぁ、プリン食べようと思ってたのに……


「おい、このプリンうまそうだぜ」


やめてぇぇえ!!私のプリンがぁあ!!!



+++



とある一室にて。

黒髪の真面目そうな女性が机に向かって書類を整理している。黙々と作業をするその手は慣れたもので、紙の山はみるみると減っていく。最後の一枚となった時、扉を叩く音がなった。


「はい」

「失礼します。シーファさん、クリアって今部屋にいます?」


入ってきたのは燃えるような赤い髪の女性。くるりと部屋の中を一瞥すると彼女に問いかけた。動かしていた手を止め、赤髪の女性に目を向ける。


「いえ……マスターは珍しく一人朝早くにどこかへ出かけなさったきり帰ってきていません。何かご用でしたか?」

「ああいや、そんな大したことじゃないんだけど。それより、今朝からいないって?もう昼過ぎだし、誰も一緒じゃないなんて……まさか……」

「ええ、そう思って私も仕事を速く進めていました」


赤髪の女性が顔を嫌そうに歪め、黒髪の女性も疲れたように目を閉じる。二人の脳裏に浮かぶのは同じ顔だ。



リリリッ



その時机の上の、小さな石が埋め込まれている装置が点滅し音が鳴った。黒髪の女性がボタンを押すと、机に簡易な地図が投影された。


「あ一あ、やっぱり。最近は大人しいと思ってたのに」

「現在帝都にいるメンバーは把握済みですので収集の連絡を入れます。カーラさんにも行って頂きたいのですが可能ですか?」

「大丈夫です、嫌な予感はしてましたし。もう慣れっこだから準備にも時間はかからないわ」

「ロビーに集まるようお願いします。詳細な位置はそこでお伝えしますので」


二人は切り替えたようにテキパキと動き出す。表情は真剣なもので、先程文句を言っていたのとは大違いである。

ただ、だからといって不満が無い訳ではないらしく、赤髪の女性は「あー!もう!!」と一言漏らしてから部屋を出ていった。





……ちなみにプリンは盗賊達にぺろりと完食されていたらしく、空になって捨てられていたカップを見たクリアはかなり落ち込んでいたそうだ。


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