10話:信念と執念
俺の名前は天馬海斗。戦場に向かう武闘派の極道だ。
血で血を洗う神楽地区大抗争。両陣営多数の犠牲者を生んでいる。そして今日も武闘派兄貴分が激突する。
神楽地区にある繁華街の路地裏。そこでは十六夜組の武闘派、月城の兄貴と水無瀬組の忍、鬼龍が激突しようとしていた。
「兄ちゃん、可愛い舎弟をやりやがって。てめぇはもう死ぬしかねぇ。覚悟決めな。」
「こっちも夏目やられてんだ。お前になんて負けてられないなぁ。」
そう言って二人は互いの得物を抜く。兄貴はドス、鬼龍は忍者刀だ。そして二人が向き合う。緊張感が漂う中、先手を取ったのは月城の兄貴だった。
「腹掻っ捌いてやるよ。」
「うおぉ!痺れるねぇ!!」(懐の取り方が練り上がってる。厄介だな。)
兄貴は凄まじいスピードで鬼龍の懐を侵略し、一気に真上にドスを切り上げる。
「ギリギリで避けるぅぅ!!」
それは奴の胸を薄く切り裂くも致命には至らない。その刹那、鬼龍がクナイを投擲する。
「ぐうぉぉぉ!」(初動が全く見えなかった。こりゃ厄介だ。)
そのクナイは兄貴の腹を深く抉る。だがそれも致命には至らないが鬼龍よりも深手だ。
「それ、俺より深いんじゃない?」
「へっ、黙れ。この程度怪我でもなんでもねぇ。これ以上誰も殺させてたまるか。」
「いいねぇ。さすが生きる伝説だ。極道であんたを知らない者はいない。大物狩りだ。」
「功名心に目が眩んだか、この外道が。」
「じゃあやり合おうか。月城!!」
「いいぜとことんやってやるよ。兄ちゃん。」
そして二人が一気に突っ込む。そこから始まったのは壮絶な切り合い。それはまさに竜巻のようだ。
(こいつに勝つには搦め手を出させちゃいけねぇ。やりづらくさせるんだ。俺の距離から出させちゃいけねぇ。)
(月城は王道のドスを極めてる。恐らく搦め手の類はないだろう。だったらこっちに分がある。)
二人はそんな思考を巡らせながらも切り合いを続ける。互いの肉は削れ、血飛沫が舞う。その切り合いの最中、鬼龍が懐に手を入れる。だが、それを見逃す兄貴じゃない。
「させるかぁ!!」
「・・・なに!?」
その時、兄貴が一歩踏み込んだ。たった一歩だ。だがそれが奴のテンポを崩したんだ。
「死んどけぇぇ!兄ちゃん!!腹ぁ掻っ捌いとけぇぇ!!!」
それは兄貴の魂の一刀。兄貴は手に握ったドスを一気に切り上げる。だが、鬼龍も猛者だ。簡単に殺されるタマじゃねぇ。
「止めてやるよぉ!!正面からなぁ!!」
「止められるかぁ!!」
そのドスは・・・・鬼龍を深く切り裂くも命には届かない。間一髪で忍者刀を挟み軌道をずらしてやがったんだ。
「ぐおぉぉぉ!!これは・・・深いなぁ。でも、そっちもじゃない?」
「ごふぅっ!ふん、この程度なんともねぇ。」
なんと鬼龍はあの一瞬の間に六角手裏剣を投げていたのだ。それは兄貴の腹に深々と刺さっていた。そして二人は再び切り合いになだれ込む。だが、先ほどとは何かが違う。そう、鬼龍が戦闘を楽しみ始めたのだ。この鬼龍という男は生粋の戦闘狂。こいつを止められるのは殺すことだけだ。
「むうぅ!!」(さっきよりスピードが増してやがる。こりゃまずいな。)
(ここで煙玉。)
「ちぃっ!させねぇよ。兄ちゃん。」
「・・・なに!?」
その刹那、強烈なヤクザキックが飛ぶ。それはまともに鬼龍の腹に突き刺さる。
「ごはぁぁ!!」(まずいな、これ以上は・・・死ぬ。)
この時点で鬼龍はボロボロだった。肋骨は半分折れ、月城の兄貴に二回切り裂かれている。流血もかなりの量だ。それに対し月城の兄貴はクナイの傷と六角手裏剣、そして数多の切り傷のみだ。決して余裕のあるわけで絵はない、しかし盤上を動かしているのは兄貴の方だろう。
三度二人が向き合う。
「兄ちゃん。これで終わらせようか。」
「いいぜ?これで終わらせてやる・・・ごふっ!」
そして機先を制したのは・・・鬼龍だった。そこから始まったのは、間合いの取り合い。互いに動きを読み合い、牽制し合っている。そしてついに雌雄が決する。
機先を制したのは月城の兄貴だ。兄貴はいきなりトップスピードで突っ込む。
その時、兄貴が思い出していたのはかつて世話になっていた雪代の兄貴の言葉。
「月城、強い奴に突っ込むときは誰でも怯む。そん時はよぉ。自分の信念を乗せるんだ。信念を乗せればな、誰にでも届くんだ。信念を乗せたドスは深く刺さるんだよ。」
(雪代の兄貴、その想い、受け継ぎます・・・!)
「兄ちゃん!覚悟しろやぁぁ!!」
「う・・・おお!?」(速い、忍者刀だ・・・!)
その時、兄貴の何かが変わった。兄貴のドスが突然拡大したかのように飛び出す。そのドスは・・・
(これは…対応できない・・・まずい・・・・!)
「もらったぁぁぁぁぁぁ!!」
完璧に鬼龍の腹を捉え、それを一気に切り上げる。
「ぐうぉぉぉぉ!ごはぁぁぁ!!」
それを喰らった鬼龍から一気に力が抜け、地面に倒れる。
「へへ、あんたに負けたんだ。悔いはねぇよ。ごふぅっ!!」
「可愛い舎弟の仇だ。取らせてもらったぞ。」
そう言って鬼龍は息を引き取った。
そこへ俺が到着する。
「兄貴!遅くなってすいませ・・・・え?桐生?」
「すまねぇな海斗。桐生は間に合わなかった。だが、その仇は取ったぞ。」
「ありがとうございます、兄貴。桐生・・・間に合わなくてごめんな・・・。組へ帰ろう。」
そして俺は兄貴を闇医者へ送り、桐生の遺体を組へ連れ帰った。
そしてここから、さらに戦火が広がることになるんだ・・・・
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