8話:狂人、帰する
俺の名前は辰巳龍星。恐ろしくも頼もしい兄貴の帰還に驚嘆の声を上げる武闘派の極道だ。
その話は突然やってきた。俺は親っさんに呼び出され組長室ヘ向かうとそこには親っさんと仙石の兄貴がいた。すると親っさんが口を開く。
「辰巳、これからしばらく組を離れていた轟を呼び戻す。その準備をしろ。」
「轟の兄貴を・・・ですか?何のために・・・。」
「日向がやられ、夏目が死んだ。うちの戦力も減少している。その補填として轟を呼び戻すのだ。」
「そういうことでしたら、分かりました。全力で準備いたします。」
そして俺は新幹線の止まる駅へと向かった。今回迎える兄貴の名は轟京介。関東極道で知らない者はいないだろう。鉄パイプで人間を貫通させる狂人だ。この人ははっきり言って怖い。狂人過ぎて出来の悪い舎弟を何人も殺してる。そのせいで長きにわたり関連組織へ派遣という名目で席を空けていたんだ。だが、今日ついにその空席が埋まる。
そしてついに轟の兄貴の乗る新幹線が到着する。そこから出てきたのは筋骨隆々の銀髪の大男。そして兄貴が俺を発見する。
「おぉ!辰巳!久しいじゃねぇか。元気してたか?」
「はい、元気にしておりました。」
「その歩き方、腹に傷があるな。どうした?」
「何で分かったんですか!?」
「歩き方、傷が突っ張った時の表情を見れば、どこにどんな傷があるかわかるんだよ。」
「す、すごいですね。」
「はっはっは!じゃあ今日焼き肉行くか!奢ってやる。」
「ぜひ、ご一緒させていただきます。」
そう、この人の強さはその狂ったような強さだけじゃない。高い洞察力と視野の広さで幾度も戦場を駆け抜けてきたんだ。巷じゃ来れば戦争を終わらせる男なんて呼ばれている。
そして俺たちは焼き肉を昼間から食べに行くことになった。その中でこんな会話が行われる。
「辰巳、今青龍町の十六夜組と抗争中みたいだが、俺がいない間組はどうだった?」
「抗争が始まる前は普通そのものでしたが、抗争が始まってからは地獄そのものです。毎日積み上がるのは死体の山。俺の一番舎弟だった夏目も死んで、日向の兄貴は超重症。もう気が狂いそうになります。」
「そうか。ならいっそ狂っちまえばいい。狂った方が人生楽しく生きれる時もあんだよ。」
「狂う、ですか。どういうことでしょうか。」
「そのくらい、一回で理解しろっての。人が狂う瞬間は様々だ。怒り狂うのが一番の例だな。夏目が死んで悲しかったんだろ?怒ったんだろ?なら怒り狂え。その方が拳に魂が乗る。良いパンチを打てるんだよ。」
「なるほどでございます。勉強になります。」
「おう、良いとこはどんどん盗んでいけ。」
「ところで、兄貴は組を離れていた時期、何をなさっていたんですか?」
「俺か?そうだなぁ。抗争の手伝いとでも言うべきか。」
「手伝い・・・ですか。」
「あぁ、敵の幹部をとっ捕まえて情報吐かせたら殺す。そんなことをずっとやってたな。」
「凄まじいですね。お疲れ様でした・・・。」
そんな会話を終え、俺たちは一旦組事務所へ戻ることになった。
そして組へ到着すると、仙石の兄貴が出迎えてくれた。車を降りると仙石の兄貴が話し始める。
「轟、久しぶりだな。元気だったか?」
「あぁ、元気だったぜ?お前は?」
「今は怒りで頭がいっぱいだよ。」
「いいねぇ、怒り狂ってる同期を見るのは好きだぜぇ?」
「うるせぇ、早く親っさんに報告してこい。」
「おう。」
この二人は同期だ。色々思うところがあるのだろう。話し終えた後、轟の兄貴は組長室へ向かう。
「親っさん、ただいま戻りました。」
「轟、お前を戻した理由、分かっているな?」
「はい、重々承知しております。そして、以前にしたこと、詫びさせてください。」
「そのことはもういい。今はやるべきことを考えろ。」
「分かりました。感謝します。組のために一意専心頑張ります。」
「おう、そう言ってくれてよかった。頑張ってくれ。」
そう言う親っさんの顔はどこか寂しげだった。それもそうだろう、可愛い子分を傷つけられたんだ。怒りよりも先に悲しみが湧き出てくるのも理解できる。
そしてこの轟の兄貴も鮫島狩りに動き始めるのだった・・・
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