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いつか花の咲く星へ  作者: 美紀
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蘇生

医療センターの治療室では蘇生装置が低くうなりを上げている。

良太の発見は蘇生可能な60分ぎりぎりですぐさま蘇生液につけられ一命は取り留めたはずだった。

だが意識を取り戻すことがなくすでに5日が経過していたのだ。


「実際のところどうなんだ?」


治療室にはエイジとキメルしかいない。

アトラス号スタッフ全員が良太の様子を気にしているが、今はチーフのエイジと医師、そして衛生士のキメル以外は立ち入り禁止になっている。


「わからない。かろうじて脳内反応は戻ってきているが、まだ心肺が停止したままだ。それに…。」

「それに…?」


その言葉の続きをチーフのエイジは聞かなくても想像がついていた。


良太が発見されたとき、100tの圧力にたえるはずのスーツがずたずたになっていた。スーツの切れ端が良太の体にまとわりついている程度で、良太の身体が四散していないことが不思議としか思えなかったのだ。


それに救助されたとはいえ100tを超えると大きな圧力を受けたために、身体は頚椎をはじめとして何ヶ所も骨折し、内臓の損傷も激しかった。

だが、今の医学なら人工骨でも、人工内臓でもいくらでも代替えが可能だ。

しかし…、、脳を取り替えることはできない。


仮に蘇生したからといって、脳に与えたダメージは取り返しがつかず、今まで通りの生活を送れるのか…。


「何か変化があったら報告してくれ」


そういい残すとエイジは医務室を後にした。


多国籍合資会社ブルーチェンジはレアメタル探索調査を専門として常に惑星間を飛び回っている。


レアメタルは地球上にも存在するがその量がとても少ない希少金属のことをさす。

レアメタルはさまざまな機器の内部に使用されていて、Pi773はその代表的なもので無重力で飛ぶフォバーの動力部にも使われている。

Pi773を地球で一番多く所有しているトリアードの国では、国土面積が小さいながらも世界最富裕国になり国民の税金が全て無料になったくらいだ。


当然さまざまな分野で使われている他のレアメタルも国の利権争いに使われ、どこの国もがレアメタル採掘に目の色を変えて過去に採掘しまくった。

その結果、地球上のレアメタルはその含有量が年々減少し、ついに15年前に国連で地球上のレアメタルは全面採掘禁止となったのだ。


そこに目をつけたブルーチェンジはそれまで主流としていた宇宙観光事業からレアメタル調査採掘へと事業を広げ、今やこの業界の最大手となっている。

取引相手は企業、国、時には国連からも調査依頼されることがありその信頼度も高い。

今や社員も数千人かかえていて、常時いくつかのチームに分かれて調査船を飛ばしている。


エンヤたちが所属するチーム「アトラス」もその一つだ。

だが調査船の乗務は高給取りとはいえ未知の惑星で調査をするリスクや、一度地球を離れると半年から長いと3年は帰れないため、社員は独身の20代から30代が中心となっている。


しかも以前は女性も勤務していた調査船だが、仕事が「危険」、「きつい」、「汚い」の3Kに加え「むさい」がはいった3K+Mと敬遠され、今や男ばかりの職場となった。


エイジをチーフとするチーム「アトラス」は46名のスタッフで構成され、それぞれが航海士、無線士、調査技士、衛生士、などの役割を受け持ち、エンヤと良太は調査技士として配属され仕事を始めてもう4年目になる。


アトラスでは安全のためにどんな星でも必ず自動調査機により事前調査を行い、現地の状況分析を行ってから調査に入るのがルールだ。


エンヤたち調査班はその後の先発隊として発見したばかりの惑星などに一番に乗り込む。事前調査されているとは言え、危険をさけることはできないが、エイジの指導力やマイアの高い分析能力などに支えられ、これまで大きな事故はなく仕事をしてきていた。


4年の間にいくつもの惑星で調査をし、地球にはない新しいレアメタルを発見した事も数多くある。


もちろん予想外の出来事もあった。

大型生物に襲われたり、機械トラブルで調査班のエンヤたちが惑星に取り残されたりとそれなりに危険な目にもあってきたのだ。


特に無鉄砲な良太と組んで仕事をしていると小さな怪我やトラブルは日常茶飯事だが、これまでは大きな怪我をすることなく仕事をこなしてきてきた。

今回のポントス惑星での調査もいつも通りの手順で行われ、いつもどおりに仕事が行われるはずだった。それなのに、なぜこんな大事故が起きてしまったのか…。


エンヤは自分でも気がつかないうちに大きな溜め息をついていた。

勤務が終わり食堂へ来たものの食事をする気分にもなれず、注文したA定食についている肉じゃがをさっきから箸でつつき散らしてばかりでちっとも減らない。


「ダイエットか?」


サージがB定食のプレートをもってエンヤの隣に座った。


「馬鹿いえ。」


サージはエンヤの顔をしばらくながめていた。


「ま、気持ちはわかるけどな。」


それだけ言うとサージはもくもくと、さばの煮つけを食べ始めた。


「なあサージ、お前もあの現場を見ただろ。」


「ああ…。」


さばの骨を皿の上でより分けるのに必死だったサージがようやく手元を止めた。


「良太は助かるんだろうか?」


あの時、ずたずたになったスーツが良太の体にかろうじてこびりつき、肉体は傷だらけになり、割れたヘルメットの奥は血だらけだった。


そして目を閉じて、呼びかけてもまったく反応することはなかった良太。

良太を探すのに使用したレアメタル調査機のメモリが、わずかに生体反応を示していただけだった。


エンヤにはその時の良太の姿が目の裏に焼きつき消すことが出来なかった。


「エンヤ。お前、少し仕事から外れて休め。チーフに話しておくよ。」


青白い顔をするエンヤに向かってサージはそれだけいうと、再びさばの骨をよりわけ始めた。


事故の原因は惑星ポントスの地中深くにガスがたまり、それが噴出した時に起こる砂塵爆発と見られている。

噴出するガスの量によりその爆発の規模はかわってくるものの、今回の爆発では3000メートル四方の砂が一気に吹き上げ巨大なクレーターを作り上げていた。

惑星ポントスでは地表のいたるところで同様の爆発が不定期に起こり、次にいつどこで爆発が起こるのか予測がつかない。


事故後、自動調査機の再調査によりガスのたまり具合や状況から分析して、まもなく終焉を迎えようとしている星ではないかと推測された。

まもなくといっても100年後か1000年後か…、人間の生命よりもはるかに長い時間だろう。


ともかく地表での作業は危険すぎると調査中止と地球のブルーチェンジから連絡が来た。そして採算を気にした会社は、ここから10光年ほどの先にある惑星クロノスへ向かうように指示を出してきている。


「このまま調査を中止して惑星クロノスへ行くのかな?」


「まあ調査や採掘のできない星にいつまでもいても仕方ないしそうなるだろうな。」


「でも原因の調査をするのに時間がかかるだろう。」


「そうはいっても俺たちは会社員だからな。会社の命令に従うだけだ。」


サージはそう言うと、今度はご飯に味噌汁をかけてかきこみはじめた。


初めての作品投稿でまだ慣れていませんが、読んでいただけるととてもうれしいです。

応援よろしくお願いします。

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