愚者
空腹と眠気で死にそうだった。
腹の虫がうるさくて眠れない、眠気のせいで何かを口にする気力もない、詰んでいる。
さて、どうするか。
昼まで寝ると言った手前、昼までにはある程度体力を回復しなければならない。
しかしちょっとこれはどうしようもない、くそうこんなことになるのなら最初に寝る前にクッキーの一枚二枚でも食べておけばよかった。
仕方がないので力を振り絞ってベッドから落ちる、目指すは勉強机、その上に置いてある高級クッキーセット。
夏休みが始まってすぐに潰したカオスドラゴンの報酬金で買ったそれを何枚か胃に収めれば多少はなんとかなる気がした。
数分かけて机にたどり着き、クッキーを口にした。
サクサクで甘くて美味しい、お腹が少しおさまってきた。
とりあえず眠れそうなくらいお腹がおさまったので、ベッドに戻ろうとして、やめた。
もう床でいい、床で寝る。
目を閉じて、ぼんやりと思い浮かんだのは母の泣き顔とハンターギルドで見た王女の悲痛な顔。
滅茶苦茶そっくりだったなあと思うけど、やっぱり同一人物ではなさそうだ。
同一人物だったら流石にハンターギルドで何か言ってきたはずだ。
でもだとしたら王女のあの顔はなんだったんだろうか、何故あの人はあんな傷付いた顔をした?
「まー、いっか」
もしも母さんが王女だったとしても、今日何も言ってこなかったってことは、わたしにはそれを伝える意思は一切ないということで。
このままこの日常をあちらが続けるつもりであるのなら、私としてもそちらの方がありがたいし。
いいよ、騙されたままでいてあげる、余計なことは何も口にしない方がやっぱり都合がいいのだから。
けど、この日常を続けるつもりがあるというのなら、こちらからも一つだけ容赦して欲しかった。
「……はんたーかぎょーだまってたこと、するーしてほしかったなあ」
とはいえあちらも親なので、流石に何度も子が死にかけてたことは見過ごせなかったか。
死にかけたとはいっても普通に五体満足で生きてるから、最終的には大したことないんだけどね、なんであんなに怒るのやら。
もう死にかけることも少なくなったし、この先はあまり心配されたくないものだ。
明日からも基本的に通常営業を続けるつもりだけど、過保護発揮されたら嫌だな。
じゃあ今後は無駄な心配をかけないように狩りでの成果はちょいちょい報告しつつ、怪我その他の都合の悪いことは今まで通り黙っていよう。
嘘は吐かないけど、黙っていることと気付かれないことに関して得意分野だ、きっと問題はない。
とりあえず昼になったら、この前潰したカオスドラゴンの逆鱗とか、去年ぶっ潰した巨大ヒドラの鱗とか見せて自慢してみようか、ああいうのが普通に狩れるってわかってもらえたら多分そこまで心配されることもないだろうし。
さて、今後の方針が決まったところで、そろそろ本当に眠ろうか。
色々バレて今後不都合なこともあるかもしれないけど、今まで通りに普通にやってれば多分問題はないだろうから、あまり心配しなくても大丈夫だと思っている。