後編
今までのあらすじ
並行世界の日本にあたる刀の国は国が2分割されていて、東国探題と西国探題は神奈川県の三戸浜高校と城内高校の生徒を学徒兵として、互いの軍事兵器を日本国政府に制式採用されるかを巡ってトライアルをしていたが、突如突然刀の国は東国と西国は統一され統一国家政府が樹立された。
その中の統一国家政府軍は2つの高校に派遣された部隊及び、日本国政府の依頼でその学徒兵を歴史の闇として葬ることに決めたのだ。
第8話
3月2日、朝4時。
関東地方南部はまだ夜の闇に閉ざされていた。
3月でも未明の放射冷却は寒く、生徒達は寒いなか作業していた。
「御霊機発進準備、急がせろ!」
元西国軍の士官の教師が生徒に指示をする。
最後の戦いなのかどの御霊機も補給と武器は出し惜しみしない感じでやっているので忙しいがやることは簡単だ。
「ログも200か所、構築したよ」
荻野がキーボードを叩いて威勢のいい声を上げる。
三戸浜のオペレーターは独創性の高いログのルート設定が上手く、城内の生徒はその独創性をカバーする地味な基礎周りのほうに適性が高い傾向があるのを小寺は感じていた。
「今日でこのログもシステム周りも明日の0時時点で自動でプログラムも消去させる設定を行った。飛ぶ鳥後をなんとやらだがな」
小寺は1人でそう呟いた。
この1年が終われば自分は本国に帰って教師でもやるつもりだった。
公的機関の教師でもなく塾の講師みたいな感じで。
自分は軍人として、最初は生きるつもりがなかった。
次元転移の研究者の家系として生まれ、代々西国軍に仕えてきた。
両親がなくなり、家が没落して、その後は西国軍の外人連隊で傭兵として生きてきたのだ。
次元転移の研究と自分の生きた経験を本国の若い者に伝えたい、これが彼の生きる目標になっていた。
御霊機の格納庫で谷峨達は最終チェックを行っていた。
「こちら谷峨機、システムも武装も異常なし。いつでも行けます」
「谷峨、お前いつでも行けます、ってお前この前御霊機戦で負けたんだろ?」
真が心配そうに言う。
谷峨がそこを突くか、と苦し紛れの笑みを見せた。
「御霊機戦で負けるのは悔しいし、相手の御霊機のスペックも相手の練度が遥かに上だった。しかし、それだけで完全に負けた訳じゃない」
交戦記録も見た、訓練でシミュレーションもしたし、木村大尉にも武装や機体の調整もお願いした。
相手である山北弘平は自分に対して恨みと憧れを抱いていた。
辺鄙な島での警備隊の勤務で彼には弟のように接してくれた。
純粋で童顔で頼りない感じだけど、好感の持てる人間だった。
けど、時間の流れと環境は残酷なのか、彼を戦闘マシーンにさせてしまった。
自分も彼等からしたら充分に戦闘マシーンなのかもしれないが。
御霊機戦での自分の練度の限界みたいなのは常々感じていた。
元々のセンスという意味では鳥浜には最初から完敗しているし、伸びしろと度胸という意味では真に負けている。
そして、冬に山北と交戦した時は自分と似た戦い方をする山北に実力の違いを見せつけられた。
しかし、それで戦争は全て決まらない。
自分の全てをぶつける、それを生きている限りやり続けるだけだ。
「少佐、ファイアブランドではないんですね。この御霊機は?」
「私の信念、生き様、誇りを体現した唯一無二の御霊機だ。名をアマツミカと言う」
谷峨は初めて見る、赤い鎧の御霊機に驚いた。
これは少佐の隠し玉なのか?交戦記録では圧倒的にファイアブランドが多いのに。
「磯部中佐も御霊機に搭乗。馬型の御霊機に乗るとのこと」
木村が言う。
「助かります、磯部中佐。最初の御霊機の1つである黒駒に乗るとは」
鳥浜が微笑む。
古来、御霊機は四足歩行型と二足歩行型が人馬一体となり初めて本来の性能を引き出すもの。
磯部の駆る黒駒もアマツミカと同じ最初の御霊機の1つとして数えられていて、家族や友人を救うのに間に合わなかった者の乗っていた馬からイメージされて作った御霊機だという。
「鳥浜少佐、君の見るこれからの景色を私も一緒に見る手伝いをするぞ」
「了解しました。私のアマツミカと中佐の黒駒をドッキングさせる」
磯部の黒駒と鳥浜のアマツミカがドッキングして、騎馬武者のような感じになる。
それを見た御霊機乗りの生徒達は興奮していた。
「時代劇でもそんなのはないわ」
「完全悪役ロボットじゃないですか」
「こら、お前達思っていてもそんなこと言っちゃダメだって」
生徒達のぶっちゃけな言葉に小寺は思わずつっこんでしまう。
「いい、そのくらい軽口を叩けるくらいのほうが安心だ」
「小寺、お前も発進準備しておけ」
「了解」
小寺も自分の御霊機の伏見に乗り、最後のチェックに入る。
「システムオールクリア、起動修正もコンマゼロ、小寺機こちらもいつでも行ける」
「鳥浜機から各機へ。敵御霊機及び敵兵力の撃破を優先するぞ!君達に降りかかる火の粉も邪魔する者全て破壊せよ、私に続け」
鳥浜機をはじめ、御霊機が12機、三戸浜高校の敷地から出て各機展開した。
顎が少しでも下に動いたらフォークが刺さるように仕向けられた拷問でいう異端者のフォークというやり方でやられた木田は必死に撮影を始める。
歴史に乗ることのない黒歴史として始まる、3月2日の戦いの1番最初のシーンが撮影された。
相模湾の長浜辺りに陣取っていた牧野達統一国家政府軍は斥候の報告が届く。
「三戸浜高校の賊軍、御霊機を出撃して展開!」
斥候の報告を聞き、牧野は軍服の上着を着て、自分を正すように鏡を見て服装を整える。
「この国の学徒どもは朝が苦手で怠け者というのを聞いたが鳥浜達め、その辺りの教育は悪くないじゃないか。こちらも御霊機を出撃して三戸浜に攻める!村中大佐は前線を指揮して攻略戦に加わり三國中佐は対鳥浜戦に全力を注げ」
「はっ」
村中と三國は返事をして、準備に取り掛かる。
フランベルジュにアイスブランドに灘に伏見にランドアーマーと豪勢な軍勢で統一国家政府軍は三戸浜高校に進軍した。
「吉野大尉、君は私の元にいてくれ。情報の収集と選定も戦いの1つだ」
「はっ」
吉野は直立不動で敬礼した。
総理大臣の大沢と大物議員で大沢の懐刀と言われた森泉は印野の報告で神経を張り詰めていく。
「動いたか………この国の歴史を変える1日だ。私達、日本人の日本国政府の新たな1日」
大沢は感慨深そうに言う。
「総理、底辺脱出チャレンジ部隊も出撃させます!」
「出せ!こちらの御霊機も彼等とは負けず劣らずと聞いている。ダメなら、敵地ごとバーンすればいい!」
興奮する総理が総理らしからぬ、首をかっきる動作をする。
こんなことを写真に撮られたら確実に野党からバッシングを受け、国会の議題は総理の不適切な動作に対する審議になるだろう。
「森泉、見ていろよ。私がこの国の守り人になる、数十年、百年、数百年、そして後世に語り継がれる存在になる………あとはお前に託す。派閥はお前に任せる」
「はい」
森泉は心の中でガッツポーズをした。
三戸浜を攻めて、統一国家政府軍をどうにかすればこの仕事は終わり、総理は引退して、派閥を引き継ぎ総裁選に勝てばいい。
最大派閥を貰えればこちらは次の総理に自動でスライド。
懐刀と言えば聞こえはいいし、大沢総理のブレーンや立場関係なしの盟友と言えばそれまでだが実態はジンベイザメの側によりつくコバンザメだ。
「印野くん、少し早いかもしれないが総理達の朝食の準備も頼む」
森泉は印野を呼び出し、朝食の準備をさせた。
赤坂の1流料亭の朝の仕出し弁当と吉野家の牛丼、どちらを食べるかわからないがコバンザメはジンベイザメの好みをいち早くチョイスした。
それくらいアンテナを張るのは簡単なこと。
この権力の世界では生き残ったうえでなおかつ勝った者の立場にいるのが上に上がる為の最善の策なのだから。
3月2日、朝4時47分。
「敵来襲!各御霊機は戦闘配置に付き迎撃せよ」
三戸浜高校にいた者達に緊張が走る。
「敵の数はどっちみちこちらより多い。目の前の敵1つずつ倒せ」
谷峨は叫ぶが、生徒達は緊張に飲まれて動きが固い。
「転移反応、ダンゴムシが6機視認!」
ランドアーマーが6機、1機につき御霊機を最大8機収容できるなら最大48機か。
谷峨は暗算をして、オペレーターにランドアーマーの位置の催促を図った。
「出る前に叩く!」
「谷峨!ハチの巣に1人で無策で行くようなものだ!そんなことは自殺行為に等しいぞ」
小寺が叫ぶが谷峨も反論する。
「俺のことはいい、親虫も怖いがそれについてる子虫も手強いし弱い奴ができることは先手を取って相手をビビらせることだ!」
「なるほど!谷峨、だったら俺も加えろ」
真が通信を送る。
「敵の出撃する所を叩くということか。しかし、散兵はどうする?」
三嶋も通信を送る。
「谷峨少尉、敵ランドアーマーの半分は私が受け持とう」
鳥浜はまとめるように言う。
「しかし、荷が重いですよ?少佐にも働いてもらわないと困るけど………」
「余計な心配、気遣い無用。このアマツミカが私を使え、と言っているのだ。彼の想いに応える」
谷峨は心配そうに言うが鳥浜に否定された。
「私と鳥浜少佐が校舎を中心にして南を担当する。他の御霊機は校舎を中心にして北側を担当するにすればいいだろう」
磯部の案に皆納得して、各機は展開していく。
谷峨は鳥浜がアマツミカに乗っていくうちに鳥浜自身じゃなくなっていくような感覚に襲われた。
「彼の想いに応える、だと。兵器は使い方次第なのに人が御霊機に兵器に心を支配されるなんてあってはならない」
谷峨機は加速装置を使って、視認したランドアーマーに向かっていく。
「敵御霊機、加速して接近してきます!」
ランドアーマーの操縦手はヒステリックに叫ぶ。
「我々が出るところを叩くか、全機出して応戦しろ!こちらの装甲は普通の御霊機より分厚い。防御に徹すれば早々破壊はされまい、落ち着てい対処しろ。御霊機各機、多少の損害は構わんから1機ずつ潰せ」
ランドアーマーの隊長が自らを落ち着かせる意味もこめて指示を送るが谷峨機は至近距離に入り、右肩にバズーカを構えた。
「機銃でハチの巣にしろ!銃身が焼き切ってもいい!」
ランドアーマーの12ミリの機関銃が谷峨機をロックオンして狙う。谷峨機はバズーカを撃ち弾頭を発射させた。
弾は爆発することなく、空間がヒビ割れてランドアーマーを吸い込むようにして空間が元に戻った。
荻野が通信を送る。
「敵機、転移空間に入ったよ!」
「この弾に設定された転移ログを破棄して並行世界の狭間にご案内させろ」
「オッケー、谷峨!ルート124と125を破棄するよ」
谷峨が取った作戦はランドアーマーに単騎で特攻し、小寺機が使っていた次元転移弾を使った戦法をそのまんまやったやり方。
さすがに2回目は通じないけど、相手の出鼻を挫いたという点では効果があった。
「さすが、谷峨少尉だな。俺は彼のやり方にいつも一杯食わされていた。味方になるとこれほど頼もしいとは」
小寺は自分のお得意を奪われた形になったが、谷峨の手際に感嘆しかなかった。
「谷峨が漢を見せてくれたぞ、俺達も続け!」
真機と遠藤機と三嶋機と二葉機も第2陣として、ランドアーマーとその搭載機の御霊機と交戦を開始した。
「数はこっちのほうが有利だ!数と物量で押し倒せ」
敵の方もいきなりアドレナリン全開でフランベルジュがアサルトライフルで攻撃してきた。
遠藤機と二葉機はドッキングして、ライオットを全面に出して敵の弾幕を正面から防ぎながら移動した。
「なんという堅さだ!守備に能力を振ったカスタマイズと乗り手の癖か?」
敵のフランベルジュは驚きながらも弾幕を厚くする。
新型のフランベルジュは基本スペックを上げた新型量産機でファイアブランドよりも基本性能は強いのだが乗り手の癖に合わせたカスタマイズと癖の修正をオミットしたので、そのままの性能で勝負するしかなかった。
「俺達も支援するぞ」
敵の真機と三嶋機も遠藤機と二葉機の後ろで待ち構えていた。
遠藤機と二葉機が防御を担当して、真機と三嶋機で攻撃を担当する分担作戦はこの2か月で形にしていた。
敵御霊機の弾幕を固めていたところをわき腹を突くように真機と三嶋機が攻撃をする。
隙をつかれたフランベルジュと山科は真機のアンドロイヤーのフルスイングをくらって損傷を受ける。
「ライオットで固めた旧型で防御と囮をやって、その死角をアンドロイヤーでおもいっきりフルスイングか!各機、倒せる奴から倒せ!旧型の御霊機だからって侮るなよ」
敵御霊機部隊の隊長機が通信を送る。
「くそっ、旧型機がなめんじゃねえ!」
敵の山科が肩に装着している機関銃で真機と三嶋機に攻撃する。
あわせて僚機も連携する。
「太田和、ここは俺に任せてくれ!」
三嶋は加速装置を使って、回避行動に徹する。
でたらめにかつ、時には直線的な動きをするので敵御霊機は射線が混乱してしまいフレンドリーファイアの形になっていた。
「狭い所の密集陣形で最初は遠藤と二葉に狙いを絞っていたから密集隊形からの各個射撃になったらリズムも狂うだろうからな。相手がバカで助かった」
「これだから、お前とは敵にしたくねえんだよ」
三嶋の行動に真は思わず素直な気持ちを言った。
自分だけだったらたぶん敵にやられていた。
「真と三嶋、敵が挟んでるぞ!右に三嶋、左に真だ」
遠藤から通信が送られる。
真と三嶋は視認して、それぞれの方向に攻撃をする。
「打槍でも突くことはできるんだ!」
真機はアンドロイヤーで突いたあと、先に穴が開き近距離で爆発させた。
木村がカスタマイズしたオプションだった。
敵の山科は爆発をもろにくらい、頭部をなくして沈黙する。
「こっちのとっておき、くらえっ!」
三嶋機も口から大口径の弾丸が放たれ、弾速は遅いもののピンク色の粘土のような弾がフランベルジュに付着して、3秒後に弾着から爆発が起こった。
「小寺が考えていた弾とお前のとこのオタクっぽい教師が考えていた弾だ。弾速が遅いのが欠点だが威力は折り紙つきだ」
さらに敷地内のトラップが作動して、辺りに爆炎が起こる。
御霊機用の地雷が作動したのだ。
何機かは巻き込まれて、火炎に包まれた。
「トラップも発動させたか………いいタイミングだ」
さらに八原機が狙撃を開始して、射撃支援に入る。
「こちら八原、狙撃を開始。ダンゴムシは私がやるから残敵掃討をよろしく」
ランドアーマーのコクピット部を司るコントロールルームに八原機の狙撃銃のアブソリュートが貫通し、弾が破裂して室内に跳弾が発生して沈黙させた。
「助かった………八原、ナイスだ。俺達は引き続き、戦闘を続けるから佐藤や紫藤の方へ行ってくれアイツらのほうがヤバイだろ」
「わかった。荻野さん、転送ルートを送って」
「ルート108から逃げて47に転送させるよ。谷峨と校長と真の所は大丈夫だから佐藤と紫藤の所の支援お願い」
「わかった」
八原は転移して、移動した。
3月2日、朝6時05分
敵御霊機を各個撃破していく鳥浜のアマツミカと磯部の黒駒。人馬一体の如く、騎馬武者のように敵を屠るさまに敵御霊機の乗り手は恐怖に駆られていた。
鳥浜機の馬上筒で走りながら敵御霊機を撃ち抜く。
鳥浜はコクピットのモニターを見て、敵御霊機の戦力数値を見る。
「雑兵どもめ………こんなのでは補給されない、補給量が足りない」
1機ずつしらみつぶしに倒すやり方は非効率なのはわかっている。
鳥浜の目的は徹底的に敵御霊機を破壊してアマツミカのエネルギーを補給する。
黒駒のコントロールを完全に自分が制御することにある。
最初の御霊機と呼ばれた機体の共通コンセプトは敵を破壊してのエネルギー補給と再生産で乗り手の都合は一切考えず、乗り手をもパーツの一部とみなすやり方なのだ。
事実、磯部はもう会話することなく黒駒のコントロールに終始している。
馬上筒を戻し、槍であるドラゴンフライスライサーに持ち替えて山科とフランベルジュを2枚刺しにして思い切り叩きつける。
「優れた騎馬武者は騎馬も武者も同時にしとめる」
自分の生命力をダイレクトに消費させて爆発的な機体性能を発揮させて、敵を可視化させるアマツミカは刀の国全体から禁忌兵器として、輸出すること、無断で持ち出すこと、無断で運用することを禁止している。
「こんな奴に勝てっこねえ」
「逃げろ」
敵御霊機は逃げていくが鳥浜機はそんなことを許しもしない。
「戦う意思のない敵は今まで逃がしてきたが、今回は別だ」
阿鼻叫喚が響き、破壊の音しかしない地獄絵図がここに完成した。
「鳥浜少佐は理想と信念に基づき生きる誇り高い武人だと三國中佐から聞いたがこれじゃただの悪魔だ」
ランドアーマーの指揮官はそう呟いたが鳥浜にはそれが聞こえていた。
「私の目指そうとする生き方に私のやりたい生き方に世界が否定するのならば私はこの世界を否定する!その為に私は悪魔にでもなる!私の夢は数多の屍の上でしか築かれない場所だからだ」
ドラゴンフライスライサーで滅多突きにして、ランドアーマーは死骸のようになった。
「磯部中佐?………返事がない。完全に御霊機と一体になったか。これはこれで好都合だ。船頭に2人はいらない。あなたの意思を私が継ぎます。黒駒は任せて下さい」
鳥浜は笑った。むき出しの本能そのままの破壊行為と暴力がこんなにも自分を満たしてくれるものだと。
自分は誰かの印象の為に偽っていた。
印象が良くないと武家の養子にも選ばれないから鍛錬し、知識を深め、彼等の印象が良くなるように努めた。
士官学校でも学校の成績が軍歴に響くので印象良くやってきた。
結局、自分は持たざる者だからそうやってきただけだ。
だが、このアマツミカはそんなことはいらないと脳に直接指示をしてくれる。
目の前の敵全てを破壊すればいい、と。
鳥浜はさらなる敵を求めて戦場を自由に駆け巡った。
3月2日、朝6時28分
日本国政府が徴集した底辺脱出チャレンジ部隊が三戸浜高校に進軍を開始。
「なんだ、今度は識別以外の反応?これは?」
城内高校のオペレーターの生徒が叫んだ。
自軍が青、敵軍は赤、未確認はグレーという識別でやっていたがまさかの未確認の勢力が出現したことに驚きの表情を隠せない。
「どうやら、日本国政府が極秘裏で展開していた部隊が三戸浜高校に集結して作戦を開始しました」
木田は首につきつけられた異端者のフォークに気を付けながらスマホを回し、撮影していた。
オリーブドラブ色の自衛隊の旧型の作業服と工事現場の人が使うようなヘルメットに89式小銃等に背嚢や弾帯等の歩兵が使う基本的装備を持ちながら校舎に侵入してきた。
「室内戦闘戦、用意しろ!お前達も装備して警戒をするんだ」
明石が叫んで、他の生徒もオペレーター連中に装備を渡す。
「俺達に増援なんてある訳がない、グレーも赤も結局は敵だ!明石小隊、腹括るぞ」
明石のクラスの生徒達はおう、と応え各自に散開した。
渡り廊下で底辺脱出チャレンジ部隊の歩兵と三戸浜高校と城内高校の連合軍は銃声怒号混じる戦いが始まる。
地形の有利を活かして机と椅子等で通路にバリケードをつくり、廊下にも古典的だけど釘やネジや画鋲等でトラップを作成して、小銃をバンバン撃ち合った。
敵をおびき寄せて撃つという作戦で敵を消耗させていく。
「えっ、こんなバカな!人が死んで」
そう言った底辺脱出チャレンジ部隊の隊員は脇から生徒達に撃たれて絶命していく。
「何もできない烏合の衆じゃねぇか!武器背負ってるなら撃たれることも覚悟しねぇとな」
生徒達は今までの戦いを経て生き残った者達だ。
敵が油断してるところを見逃すほど甘い性格ではない、ということを当たり前に実行していく。
2ヶ月の付け焼刃の兵隊と10ヶ月の中でとはいえ、実戦を経験した者。
その差が如実に出てきてしまった。
「嫌だ!こんなことを想像したり経験するなんて聞いてない!俺達はだったら生きる、底辺脱出ももういい、俺は普通に生きてやる」
逃げ惑う底辺脱出チャレンジ部隊の散兵に生徒達も勢いに任せ過ぎたのか自らの手で追撃を行うことになってしまう。
「今まで、散々、俺達を兵器のテストだとか大人達の都合で利用されまくってお前達は自分で志願して選んだんだろ?俺達にはそんな選択肢すらなかったんだ!」
「私はこれで最後、せめてやりたいようにやってやる!」
生徒達が小銃をここぞとばかりに撃ちまくる。
弾丸の消費の計算なんて度外視、狭い校舎での生身の人間同士の地獄絵図が描かれていた。
木田はスマホのバッテリーが続く限り撮影して、リポートする。
「映画でもない、この今起こるリアル、これが今私のいる場所です!政府は高校生達と底辺脱出を謳って集めた国民を直接この普通の高校で戦わせているのです!報道記者として正義と真実を伝える者として国民の皆さんに問いたい、私達の生きているこの現実とこれから起こる未来のことを」
木田はフォークに気を付けながら語るが、流れ弾が当たって自分に何が起こったのか感じることもなくこれから起こることを考えることも感じることも許さずに絶命した。
無造作に放り出されたスマホの画面には激しい音とアスファルトの地面を映すのみだった。
3月2日、7時17分
三國率いる突入部隊は指揮官機のオートクレールを中心にして、編隊を組んでいた。
三國のオートクレールは初陣から1度も破壊されたことのない機体で、歴戦の経験から三國に合わせたカスタマイズと御霊機自身の成長をしている。
黒川は牧野に式典用のオートクレールを送られて負けてしまったという。
自分はこんなことはしない。
完全な接近戦用のカスタマイズ、盾のスウェルと対御霊機用ランスの岩溶を装備して出撃準備を行った。
鳥浜が技巧と速度と反応で敵を倒すのが得意とするのなら三國は圧倒的な機体の力で敵を強引に倒すスタイルなのだ。
「中佐、敵陣地まで距離2000。2個大隊、いつでも出撃できます」
副官の者が準備を整えて言う。
「最近、体がなまっていたいたからな。さあ、今日も体を動かして敵を倒すぞ。敵は鳥浜少佐が率いる部隊でやりにくいとは思うが国家が認定した敵を叩くのが我々の仕事だ。者ども後に続け。オートクレールで出るぞ。それと、山北機は別働隊を率いて正面から行け」
「はっ」
山北は敬礼して応えた。
三國率いる2個大隊が三戸浜高校の側面から侵入する形で進軍してきた。
紫藤と佐藤は校舎の防衛を任されていた。
「敵御霊機、確認、その数30」
「無理だ!こんな数、まだ仕込んでいたのかよ?」
紫藤と佐藤は思わず絶句していた。
自分達、防衛ラインの担当している御霊機は7機。
しかも、他の御霊機部隊より進軍速度も早く、動きからして精鋭部隊と感じていた。
「谷峨も太田和も別戦線で戦っているのかよ、誰か救援部隊を出してくれ」
紫藤達の叫びも空しく、敵側のブランシュネージュの狙撃が彼等を襲う。
「マジか、武藤も斎藤も今の狙撃でやられたか」
「八原も狙撃に行けないか?くそっ、学校の迫撃砲もないか」
佐藤機はライオットを立てながらキャバリアーで敵機を撃ち続ける。
撃ち切ったらすぐにマガジンを替えて切れ目なく敵を撃ち続けた。
真の成長が著しいが谷峨は言わないにしても佐藤と紫藤も成長していると言っていた。
自分達は真に負けるけど、自分はここまで御霊機乗りとして生き残ってきた。
「俺達だって、戦えるんだ!」
佐藤と紫藤の部隊は残り5機だけど、連携をして奮戦していた。
「中佐、敵軍もなかなかやりますね」
三國率いる大隊の者が言う。
「旧型御霊機で数も少ないのに自分が生き残る保障もないのにこれだけの士気があるのは鳥浜の作る部隊はやっぱり強いな。これでこそ、戦いがいがあるもの。数の兵力でモノいわせよ」
三國はオートクレールで前進していく。
「佐藤、この御霊機は?」
「模擬戦の最後で鳥浜に壊された奴と同型じゃないか?オートクレールってやつだ」
三國機は重量と体格差に劣らず、佐藤と紫藤の部隊の御霊機を軽々とテンポよく撃破していく。
「隊長が漢を見せてくれた、俺達も続け」
制限が切れたように周りの部下の御霊機も蹂躙していく。
爆炎が周りを包み、瓦礫が道を埋め尽くし、銃撃音と剣劇音のアンサンブルが響く。
三國機が佐藤機に襲いかかる。
佐藤機はライオットで受け止めるが三國機は岩溶で貫いた。
「盾で防ぐのは正しい。だが、それは敵からの死角からの攻撃を許すことになる」
「嘘だろ、なんでライオットをも貫くんだ?俺の盾はずっと使い続けてレベルを上げたはずだ」
佐藤は悲鳴に近い声を上げる。今までライオットで防いでそのあと攻撃をして、戦い続けた自負と自身があったからだ。
「確かにお前達のレベルは上がっているのはわかる。しかし、それは我々も同じ。お前のライオットがレベル10だとしたら俺の武器はレベル30でプラス乗り手の技量と機体の性能ということだ」
三國機は岩溶を抜く為に右足で蹴りを入れて引き抜いた。
三國機が場所を離れたあとに部下の御霊機に蹂躙されて佐藤は絶叫の果てに生命を終わらせた。
紫藤機はそれを見て、ハチェットに持ち替えて三國機に襲いかかる。
「お前が強くても、だからといって俺は引きたくないんだよ!」
紫藤機のハチェットが三國機に右肩に当たり、突き刺さる。
しかし、三國機は紫藤機の両肩を掴み、引きちぎってしまった。
コクピットからむき出しの状態で大地に投げられる状態になった紫藤。
腰と背中を打ち、動きはできなくなり、呼吸しかできなくなっていた。
虫を潰すように山科のローラーで紫藤は踏みつぶされて絶命した。
路上に撥ねられた猫やタヌキのようにぺちゃんこになり、血と臓物はここに紫藤はいたんだ、という証のみを示すように戦場の景色となってしまった。
「ダメだ、紫藤と佐藤でも勝てないなら無理だ。逃げるしかない!」
逃げようとした佐藤と紫藤の部隊の御霊機や兵士達を鳥浜機を見逃すことなく、討伐する。
「君達に残っているのは戦って勝って生き残る未来か戦って負けて死ぬ未来しかない。敵前逃亡は戦う者にとってやってはならない行為なのだ」
鳥浜機は馬上筒で味方の逃亡した御霊機を討ち取り、エネルギーを補給する。
「なんという燃費の悪い御霊機だ。俺の命でも今まで倒した敵でもまだ足りないというのか」
その時、谷峨から通信が来る。
「佐藤と紫藤の部隊は全滅しました。残存の御霊機を北の旧校舎に合流させたいのですが?」
「無理だ。佐藤と紫藤の部隊は華々しく全員戦死した。何人かは助からない者がいたから俺が介錯してやったがね」
谷峨はその鳥浜の言葉を聞いて絶句した。
彼が味方を積極的に介錯をする性格ではない。介錯はする側も負担はでかい。
確実に御霊機に心が傾きかけているし、いよいよこの男はダメになってきた。
「ならば、残存している者でこの戦場から離脱する。その為に俺は戦います。少佐も生徒を逃がす為に戦って下さい」
谷峨は諦めたように言った。
「そうか、ならば己の果たすべきをやればいい、俺は1人でも諦めない」
「わかりました」
谷峨と鳥浜は通信を切った。
これが2人の交わす最後の言葉になった。
その時に三國機が鳥浜機を発見する。
「鳥浜か?何でこれに乗る?コイツは東国軍の禁忌の兵器で人を操り御霊機に支配されてしまう破壊の悪魔だぞ?それを知っててお前は」
三國機の岩溶がとてつもない速度で突いてきた。鳥浜機もドラゴンフライスライサーで突き返す。
「お前が引導を渡しに来たのか?強者の犬が言いなりの番犬がこれからを自分の意志で生きようとする人間に敵う訳なんてない。機体の性能からして俺を止めようとするなんて笑止千万」
アマツミカとオートクレールじゃ機体の性能差は圧倒的にアマツミカのほうが上だ。
それは三國も理解している。
それでも、三國が一般の御霊機で鳥浜に戦いを挑み続ける理由は禁忌に頼った力と周りの人間をも利用して、自分さえ生きてれば物事は全て達成される、という鳥浜の考えを真っ向から否定する為。
「黒川をはじめとして、我が軍に降るように勧告はしたはずだ?2つの学生には申し訳ないと俺も中将も思っているし、彼等にも日本国政府はそれなりの保障を与えようとしたのに皆それに従わなかった?」
「彼等は自分達の政府にも捨てられたのだ。私の国でもこの国でも戦争や国民を裏で操り私服を肥やし、それぞれの人達の普通の毎日をあざ笑う奴がいる。安全な場所から人の不幸や悲しみを楽しんで見る奴等だ!結局、どこの国でも私の生き方を否定する」
三國は自分の想いと鳥浜の想いが激突する。
攻撃の数も互いに緩めさせずにひたすら剣戟で応酬する2機の御霊機。
周りの御霊機も三國機を支援しようと援護射撃をするが八原機の狙撃が入り、邪魔される形になった。
「くっ、これじゃ隊長機がやられてしまう!」
「鳥浜の相手は俺がする!お前達は狙撃機と射撃支援や工作施設を攻撃しろ!」
「了解しました」
部下の御霊機は散開していく。
「余計なことを!八原、貴様のしたことは重罪だぞ」
八原は絶句した。
鳥浜機は馬上筒で八原機を狙い撃ちした。
鳥浜の思惑としてはエネルギー補給の為に周りの雑魚も倒して吸収したいところ。それに鳥浜機は1機でも数機の御霊機を倒す力があったからしらみつぶしに潰せばエネルギー補給もできるし、て敵戦力も倒すことができたのに八原機の狙撃で敵は分散してしまったのだ。
味方にも出てしまった誤算に鳥浜は動揺した。
それを三國は見逃すことはなかった。
「今の支援射撃が相当、頭にきたようだな?鳥浜」
三國機は岩溶の柄で左から振り回し、穂先を下から振り上げた。
鳥浜機は防戦一方で岩溶の攻撃をなんとか耐えきった。
「俺の御霊機が圧倒的に強いから敵を引き付けてたのに余計なことをしてくれて………」
「今までのお前は無駄な戦いはしないし、戦う意思のない敵は無理に追う奴ではないし、お前の戦いかたは正直無駄以外のなにものでもない」
「それは、今までは大きいのを倒せば良かったのだがアマツミカに乗って考えが変わった。俺を邪魔する者は例え弱い子虫でも処理せねばならない」
そう言うと、鳥浜機はドラゴンフライスライサーで三國機を攻撃するが、寸前でドラゴンフライスライサーの穂先が折れる。
「何故だ?最強の御霊機の武器がこうも折れる。岩溶とやりあっただけなのに………クソっ」
鳥浜機はドラゴンフライスライサーを捨て、脇差でさらに三國機に攻撃する。
脇差でも充分な武器になる鳥浜機と鳥浜の技量に三國は盾のスウェルで押し返す。
「ううっ、もう限界か!アマツミカ、まだ血に染まる朱とこの世界を赤に染めてはおらん!この鳥浜大紀の体を依り代にしたのだ!もっと、もっと力を出せ」
鳥浜機の体は赤と紫に光輝き、周囲の空間を水蒸気爆発させた。
アマツミカの特殊能力で乗り手の命の限界が近づくと乗り手を敵に奪われないようにする為の措置であり、1種の排熱作業だった。
周りの御霊機も衝撃をくらい、校舎もさらに壊れ、三國機はその衝撃をもろにくらい致命傷を負う。
「これがアマツミカの独特の能力か……まさに奥の手だな。鳥浜、だがお前も限界に近付いているということだな」
スウェルがなかったら完全に意識を失って死んでいただろう。
「統一国家政府軍は刀の国の内戦を終わらせることに同意して、事実内戦は終わっているんだ!だが、お前はこの刀の国の敵として、統一国家政府軍の結束と未来の為に死んでもらう!友を葬り、自らの目的の為に仲間を利用し、挙句の果てに心をも自分の存在すらも禁忌の兵器に支配されたお前を友として終わらせるこの俺の役目だ」
三國機は半壊した右手で鳥浜機のコクピットを殴る。
鳥浜機も残された力で三國機のコクピットを脇差で突き刺す。
「アマツミカ………お前は俺を使って無念を果たすのではなかったのか?誰かに生き方を操られ、誰かに生き方を否定され、誰かに自分の大切にしたいものを奪われて、俺とお前の夢は朱と赤に染まる世界だろう。その、果ての新たな色を作る世界なのに。俺もお前もここまでなのか………」
「と、鳥浜………お前がファイアブランドだったら俺だけ死んでいたさ。だが、お前は武人を捨てただの虐殺魔になったのが敗因だ。けどな、俺もお前と一緒に地獄行きだ。次は地獄の軍隊と1戦交えようじゃねぇか………」
三國は最後の力を振り絞り、自爆スイッチを押した。
赤と黒の炎と煙は南南西の風に乗って、三戸浜高校一帯の周辺地域に漂い、そして相模湾を抜けていった。
3月2日、7時39分。
三戸浜高校の校長で元東国軍の監査局の隊長だった鳥浜大紀の命が果てた瞬間だった。
3月2日、7時44分。
鳥浜が死んだという情報を聞いた木村は涙を堪えようとしたが溢れて止まらないでいた。
「指揮官が死んだ以上、君達にはもう戦わせることはできない。降伏をする。せめて、君達の身柄の保障だけは勝ち取るつもりだ」
木村は緊急暗号通信を開き、統一国家政府軍と日本国政府に降伏の意思を示した。
しかし、牧野はクールな声で返した。
「お前達は鳥浜の指示とはいえ、日本国政府と我々に迷惑をかけたのだ。黒川中佐が派遣された時に恭順を示していればこんなことにもならなかった。それを今さら降伏をするから生徒の助命嘆願を頼むというのか。木村大尉の命だけで収まりきる問題ではない。君は鳥浜の後輩で士官学校でも同じ部屋で、部隊にいる時は常に鳥浜の右腕的な役割で部隊運営をしていたよな?違うか?」
泣きじゃくっていた木村の涙を止めさせる牧野の言葉に木村は必死に弁解をしていた。
牧野としては木村は最初から殺すつもりだ。
秘書官の吉野は黒川や三國は同じ士官学校の同期先輩後輩の関係だから彼等は木村の命だけは助命するように嘆願していた。
技術や通信や兵站に明るい木村は組織の人材としては有能だ。
しかし、牧野のとしては鳥浜を慕い、鳥浜のすぐ側で任務を行っていた木村を生かすのはまずいと感じていたのだ。
このような男はそのまま鳥浜のような能力は出さないが鳥浜の意志を継いだり、新たな仲間を作って権力者側に反旗を翻す可能性は充分にあるからだ。
「木村大尉、日本国政府は生徒達は死んでもらう代わりに遺族に手厚い保障をするという回答だ。要するに三戸浜高校にいる者、城内高校にいる者全てを殺せという指示だ。貴様達は自らの手で自らの首を絞めたのだ。裏では吉野秘書官も君の助命嘆願を行っていたし、前任者の黒川中佐も鳥浜をはじめとして君達の助命嘆願を行っていた。それらを全て踏みにじり、刃を向けたのはお前達だ。その過ちと罪を命を以て贖うがいい!」
牧野は通信を切った。
木村は膝から崩れ落ち、落胆した。
「木村先生、降伏勧告はダメだったんですか?」
「すみません、敵は我々を殲滅させることにこだわっています。戦う力もないし、指揮者もいない。せめてここにいる者だけは逃がしたい。大川先生、生徒と一緒に逃げて下さい」
大川は心配そうに言う。
木村はいたたまれない表情で下を向く。
校舎もだいぶ破壊されて生徒も合計で30人をきっていた。
「木村大尉、俺は生徒を逃がす為に大尉と残ります」
明石は右腕を負傷しながらも力を振り絞って、小銃のマガジンを詰め直す。
「明石少尉、君も生徒達を逃がす為に大川先生と一緒に行ってくれないか?」
「ダメです、俺も生徒達の人生を変えてしまい悲劇に合わせた同罪者です」
「私達もだ。短い間だったし、去年の夏まで戦っていたのですが一緒に戦うことになったのも今日の為かもしれません、役に立たないかもしれませんがご一緒させて下さい」
木村達に残された次のミッションは生徒を逃がすこと。
「荻野さん、現存している御霊機は?」
「谷峨機、小寺機、太田和機、遠藤機、三嶋機、二葉機、なお八原機は生存不明」
荻野は淡々と答えた。
「残存御霊機には酷だが、敵を引き付けてもらう」
「はっ?じゃあ、真達は囮をやってもらうってこと?無理だよ、散々アイツらは戦っているんだよ!八原さんも女の子だけど唯一のこの部隊の女性の御霊機乗りだし、私も最後まで戦う!」
木村のプランに荻野は淡々とした態度から一変した。
「俺もだ、1人でも敵兵をぶっ殺してやるぞ!この際、死ぬも生き残るも関係ねえ!ここまで来て、命惜しいなんてない!荻野もやるなら俺もやる」
中田も痛みを堪えながら荻野と同じように叫ぶ。
「君達、本当にありがとう。鳥浜少佐に代わり礼を言う」
木村は頭を下げ、涙を拭き、小銃を構えた。
「敵が来るぞ!」
生徒が急いで駆けつけ、皆に伝える。
「オペレーター全員は転移ルートを全部破棄、自動ルートされているログを今すぐ破棄だ。明石少尉以下、教員連中はここで残って生徒達の撤退を支援するよ。大川先生は生徒を引率して逃げて下さい。中田は大川先生達について護衛しろ」
木村が指示を送る。
腹を括ったのかいつもの得意なこと以外ではオドオドしている木村ではなく、彼も士官学校に出て将来は指揮官として戦場に出る為に教育を受けた者の目になっていた。
「残存御霊機へ、現在時刻を以て残存している生徒をこの三戸浜高校から撤退することにした!この戦いはすでに負けている!もう、この戦況をひっくり返すことはできないだろう。君達に酷だけど、君達の命を貰う。彼等を1人でも多く生き残らせる為に敵戦力を引き付けて欲しい」
木村の淡々とした命令に谷峨は頷いた。
「谷峨機、了解した。鳥浜少佐は敵指揮官機と相打ちになった。御霊機に心を支配されていたかもしれませんが実に武人らしい立派な最後でした」
谷峨の通信に木村は頷いた。
先輩は先輩らしく武人として散ったのだな、と。
自分もすぐに行きます。
しかし、やり残したことをやってからだ。
3月2日、7時58分。
「谷峨機から残存御霊機へ、これより撤退戦の支援に入る。敵御霊機をこちらで引き付ける!各自、御霊機が戦闘不能になったり戦えなくなったら各自そこから撤退しろ」
「谷峨、引き付けるだけじゃねえ!こっちから行ってむしろぶっ潰す、だろ?らしくないぜ」
谷峨の指示から真が早速返事が来る。
彼だけは相変わらず士気は高い。
「三嶋、二葉、すまないな。俺も谷峨少尉と敵御霊機を引き付ける。お前達は自由にしてもいい」
「自由にしてもらうさ、徹底的にやるに決まっているだろ。俺はな、俺の判断で戦えるとこまで戦う」
「やれるところまでやる」
小寺は自分の生徒である三嶋と二葉を配慮するように言ったが、2人は息を合わせたように返す。
「戦争をしない世界だったら、もしかしたら俺達はもっと違う感じになっていたのかな?」
「戦争していなかったら、お前とは会っていないさ。もちろん、三戸浜の奴等にも会っていない。皆は戦争をしていなかったら良かったと答えるが俺は違う、そんなことを言ったら先生を否定することになる。軍人と学徒兵、それでいいだろ」
小寺の問いに三嶋は言い放つように答える。
「けどな、お前と三戸浜の奴等に会って変わったよ。良くも悪くも濃い1年だったよ」
「小寺、俺も三嶋と同じだ。他の皆と違うことを味わった、それだけでもこの1年は凄かったよ。この体験はきっと俺を支えてくれるさ」
三嶋機と遠藤機は真機と遠藤機を下ろし、早速敵御霊機めがけて速射砲を叩きこむ。
「谷峨機をはじめとする三戸浜の連中は右、俺達城内の者は左の敵を叩く!」
小寺機は人型に変形し、牛刀を持って敵御霊機に向かって突撃する。
「小寺少尉達が先がけて行ったな。お前達はどうする?」
「決まっているだろ!やるだけだ、徹底的に!今さら逃げたって、ずっとこれからも逃げ続ける生き方をしなくちゃいけなくなる!」
「なんだかんだで長い付き合いだぜ、1年が濃かったわ。最後まで付き合うよ、先生。野田や白石みたいな犠牲者は出しちゃいけない」
真と遠藤はそう答えた後、谷峨に続くように御霊機を進軍させた。
3月2日、8時09分。
山北弘平率いる山北隊は三戸浜高校の正面から進軍して、情報収集をしていた。
「山北少尉、敵御霊機の指揮官機は我が大隊長指揮官機と相打ちした模様」
山北の部隊の斥候の報告で山北は三國のことを思い、目を瞑った。
「三國中佐を後で弔う。その前に僕には倒さなきゃいけない敵がいる。副官と隊付曹長を中心にして事後の指揮をお願いする。この山北弘平は谷峨機を倒す」
山北機のフランベルジュは加速装置を使って谷峨機及び残存御霊機を探す。
周りの景色を見て、山北は思う。
少ない戦力の割にはよく頑張ったほうだ。
鳥浜少佐には会ったこともないが三國中佐の言った印象の通り、敵にしてはできる人だったし、何よりこんな敵を内部で作ってしまう東国軍の体制にも問題ありだ。
それに谷峨少尉。
自分はあの人から御霊機乗りについて教えてもらった。
かつて、辺鄙な島の警備隊に飛ばされた谷峨は警備隊の兵士として赴任していた。
それはかつて試験機だったアイスブランドを破壊した責任と御霊機乗りの資格を一時期剥奪したうえでの処置である。
その警備隊に配属されていた山北は新兵で谷峨のことを無気力でやる気のない自分と大して変わらない若者だと思っていたからだ。
しかし、山北が御霊機乗りの適性があるとわかったととき、警備隊の司令官は谷峨にこう命令したという。
山北を御霊機乗りとして育てろ、と。
谷峨は司令の命令に最初は否定したが司令官は谷峨の経緯を知り、あえてそれを無視した形だった。
司令の気持ちに折れて、谷峨は山北を御霊機乗りの教育をしたという。
谷峨が島を出て、鳥浜のいる監査局に配属された1年後、山北も2連隊の御霊機乗りとして配属された。
それ以来、谷峨と会うことはなかった。
「できれば、一緒に戦いたかった。けど、あなたの練度は僕より下だったしあの時の谷峨少尉と違うもんなぁ」
その時に山北機のセンサーに3機の敵御霊機を確認する。
アラート音が鳴り響く。
「谷峨少尉、そこにいたか………行かせてもらう!」
山北機は加速装置を6個使って、全速力で3機の御霊機に襲いかかる。
「谷峨!敵が凄いスピードで来た」
遠藤が怯えて、真は反応はできなかった。
谷峨はこのスピードを感じて、山北機と感じた。
「慌てるな!凄いスピードだが直線的だし、敵が狙っているのは俺の方だ!」
谷峨機は早速スカッシュで牽制を入れた。
当たる訳もなく、ソードブレイカーを構えた山北機が接近してきて遠藤機を狙った。
「今の教え子の命、頂くとしますか!」
「させるか」
遠藤機を庇うように谷峨機は山北機の攻撃をくらう。
「くっ、生徒を狙うとはお前も落ちたな。山北」
「うるさい、あなたの本気を引き出す為にやったことです!僕を失望させるな、谷峨少尉」
遠藤機は体制を整えてライオットを構えてキャバリアーで山北機を攻撃する。
「防御と中距離での射撃で堅実に支援と弾幕を張るタイプですか、谷峨少尉の教え子らしい教育ですね。僕も似たようなことをやってやりますよ」
山北機は落ちていた御霊機の残骸からキャバリアーとライオットを拾って、同じように真似してみせた。
「くそっ、何なんだよ?コイツの精度と速度、同じ武器なのに全然違う」
「本物の軍人と学徒兵の練度を同じにしてもらっては困るんですよ。君は谷峨少尉から御霊機の乗り手としてのセンスはないからこういうやり方を教わったんだ。御霊機乗りでの近接戦闘と遠距離戦闘の極端に適性がある人間は特化型といって君みたいなタイプは汎用型といってね、その時点でセンスがなかったのさ」
遠藤は図星になったのか、動揺する。
確かに俺は野田は真みたいにセンスがある訳ではない。
けどな、ここまで生き残ったんだ。
生き残った人間に戦いのセンスや才能はあるって谷峨は授業で言ってくれた。
「山北、お前の相手は俺だろ!」
谷峨機はスカッシュで山北機を攻撃するが、山北機は躱したあとに見向きもせずにノールックでスカッシュで反撃した。
真機も山北機に襲いかかり、2体の1の戦いを仕掛けることになる。
「黙ってもらえますか?あなたの今の教え子と昔の教え子であるこの僕、今のあなたの教育方針と過去の教育方針、どちらが上かを決める大事な時間だ。邪魔をしないで頂きたい」
山北のノールックで反撃したことに谷峨は山北の技量に自分が敵わないことを確信する。
たぶん、真も敵わないだろう。
「てめえ、いい加減にしろ!格下の相手見下して悦に浸ってそんなに楽しいかよ?」
真機は山北機と打撃の応酬を繰り返す。
「君の戦い方は東国軍でもなかなか見かけない戦い方だ。勢いだけで敵を蹴散らす、芸も技量もないその蛮族のような戦いかたを谷峨少尉はそんなことを教えない、それを良しとしない」
真機は何度も攻撃をするが手応えがない。いたずらに自分が見透かされる感じが不快な気分が頭を支配した。
この男は今まで戦った敵よりも強かで狡猾で知的で余裕がある。
谷峨からはこのアンドロイヤーで突きさす、薙ぎ払うことそれしか教わっていないからだ。
「軍人として、谷峨はどれだけ凄いかは知らない。俺にはそんな過去を知ったとしてもそんなのは意味がない。けどな、アイツはお前をバカにした遠藤にしたって色んな人をセンスがないとか伸びしろがないってそんな言葉だけで終わらせる男だけじゃねぇんだよ!」
アンドロイヤーの切っ先が開き、近距離で爆発させる。
山北機は怯み、隙ができる。
「爆薬の類か?この武器に細工をしたか、それにしても谷峨少尉の今の教え子に一杯食わされるとはね、容赦はしません」
山北がそう言うと、インフェイアを作動させて真機に襲いかかる。
圧倒的なスピードに鳥浜の過去に見たバードソングを思いだせる軌道に近かった。
「真、逃げろ!お前がやられるぞ」
「逃げても、躱しても間に合う訳ないだろうが!命張って単勝万馬券の全振りだ!怖くても、強くても、俺は死んだ奴等に誓ったんだ!絶対に死なないって」
谷峨機も真機を庇う為に加速装置をありったけ使って真機に向かう。
遠藤機はライオットを持って全速力で向かう。
谷峨は真も遠藤も戦わせない策を試す。
イチかバチかどころではない策を。
失敗したら3人とも死ぬ、しかし、上手くいけば御霊機戦を続けることはなくなる。
「真の単勝万馬券に俺達も張るぞ!真だけを逝かせる訳にはいかない」
「終わりだ!3人まとめてあの世で授業を受ければいい!」
遠藤機のライオットが貫かれて、ライオットが破壊されて真機のアンドロイヤーが山北機のコクピット寸前まで届いたが届かず、谷峨機は半壊しながらも遠藤機のクッションになる感じで衝撃を和らげた。
「………死んでいない。何故だっ?僕の攻撃は完璧だったのに、完璧な速度と的確な角度とそして練度と精度も劣っていないのに」
「最新型だからって、お前が練度もセンスも優れているからって敵を倒すのは別だ。良かったよ、お前がずっと御霊機戦だけに拘っていたことに」
山北は絶叫した。ヒステリックなおぼっちゃまを彷彿させるその様に谷峨は冷たい言葉で言い放った。
「脱出装置が壊れている?クソっ、最初からそれが狙いとでも言うのか?山北機より、各機へ!敵御霊機3機の動きは止めているんだ。至急、僕の機体の支援を急げ!早く!」
通信装置も壊れていた。
装着シートも壊れているので身動きも取れない。
まずい、このままではやられる。
山北は腰のポケットから装着シートを切る為のナイフを使う。
しかし、谷峨はコクピットハッチを開けて侵入してきた。
4年振りの再会に喜びたいところだが、今は戦場だし谷峨はショットガンを持ってきている。
まさに最後の対面だ。
「谷峨少尉………」
「お前の乗り手のセンスと練度だけは俺を越えてるよ、そのことは何も言わない。けどな、戦争は御霊機戦だけじゃないのさ。お前、今の俺の生徒より全然わかっていない!あの世で先に授業の準備をしておけよ。最初の教え子ってことでクラス委員長くらいにはしてやる」
「何を訳の分からないことを!僕の方が優れているのに、僕の方が勝っていたのに、僕が死んだってこの戦いは完全にあなた達の負けっ!………」
谷峨はそんな山北の言葉を最後まで聞かずにショットガンの引き金を引いた。
散弾が放たれて山北は人の形を失い、絶命した。
「弘平……すまない。お前を巻き込んでしまって、お前が御霊機乗りになれたから俺はもう1度御霊機乗りになれたんだ。お前は弟みたいで俺の最初の生徒だったよ」
谷峨は疲れ果て、その場で蹲った。
体が動かない。体と精神が鉛のようで底なし沼にいるような気分で何もする気がおきない。
「真と遠藤、機体を捨ててもう逃げろ。俺のことはどうでもいい。お前達は最高の生徒だったよ」
「何言っているんだ、お前も逃げろよ!お前が俺達を引率しないでどうするんだよ!」
「真、遠藤、俺は致命傷だ。俺の命はもう短い。今までありがとうな」
そう言うと谷峨は倒れた。
3月2日、8時20分。
谷峨は山北機のコクピット内で倒れ、戦闘不能。
真と遠藤も自分達しか知らない抜け道で学校から抜け出し、周囲の捜査網から抜けるように脱出。
実は2人がこの最後の戦いで生存した三戸浜高校の最初の生徒達だった。
3月2日、8時23分。
小寺機の伏見と三嶋と二葉の灘が3機で敵ランドアーマーと戦っていた。
「これが最後のランドアーマーか。俺達が負けているけど損耗もだいぶ酷いな」
小寺が呟く。
自分には谷峨のような御霊機乗りの技量も練度もセンスもない。
しかし、谷峨とは勤務後によく模擬戦をやっていた。
近接戦闘の守備側の立ち回りを谷峨には教えてもらったし、参考になる部分もあった。
事実、小寺機は単騎でランドアーマー部隊の御霊機を単騎で3機落としているのだ。
「村中大佐、どうしてここに?」
三戸浜高校近くの廃神社の陣地で村中は西国軍部隊の視察に来ていた。
三國中佐も山北も撃墜されていた報告が入り、総司令官の牧野が各幕僚に視察した形になる。
「小寺も残っているようやな?」
「ええ、小寺機は旧型の御霊機で数少ない変形タイプの御霊機でランドアーマー部隊をはじめとして苦戦しているみたいです」
元外人連隊の少佐がそう答えた。
小寺も磯部が率いる外人連隊の一員だったし、磯部も小寺も良き部下だった。
ただ、生き方に真面目過ぎて融通が利かない部分もあったが。
「小寺は我が軍の違反兵器を戦場で使った罪は大きい。我々も転移弾を使ってアイツら消そうや」
「ええ?それは禁忌兵器を扱うってことですよ」
「三國中佐も敵の禁忌兵器の御霊機と相打ちで戦死した、正義の御旗をかざしたからには日本国政府も我々の指揮官殿もどのような手を使ってでも勝たなきゃあかんねん。かつての部下の暴走を止めるのは充分な大義もある。こっちだって転移弾使っても文句はあらへん」
部下が驚くと村中は下品な笑みがこぼれた。
東国軍の牧野もそうだが、この男も手段を問わないなりふり構わずの男だ。
だからこそ、傭兵部隊の最高階級である大佐になったし牧野の幕僚としていることができた。
「西国軍と東国軍が手を結ばなかったら磯部も小寺ももっと評価されるべき人間やった。正規軍がしっかりしていたらこんな任務は正規軍がやるべきやったんや。それでも、ワシは奴等を送った判断をしたから落とし前だけはつけなあかん」
村中はモニターを見て睨む。
「さっさとこんな戦を終わらせて、牧野中将に我々の価値をさらに値上げして、売りつけたるわ。ランドアーマー部隊を出せ、あー、乗り手はいらん。ランドアーマー部隊をオートにして転移弾爆薬をつけさせろ、大物のルアーにデカい魚は食いつく。小寺は我々の仲間だから全力で倒すのが礼儀やで。はよ、いこか」
村中の指示で編成したランドアーマー部隊が三戸浜高校に転移した。
3月2日、8時53分
「敵、ダンゴムシを確認!今のところ他の御霊機は出ていない」
二葉の報告で小寺は舌打ちした。
まだ、出せるのか?
出せるにしても、2個中隊や3個中隊クラスの相手に出すランドアーマーとしては異常だ。
本来ならば偵察に1機2機は出すはず。
敵の衛生用車両として出しているのか?だとするのなら衛生兵を出すのが普通だ。
ランドアーマー部隊の指揮系統は村中大佐だろう。
「三嶋機と二葉機、今出てきたランドアーマー、ダンゴムシは危険が大きい」
「は?何言っているんだよ?叩くなら今じゃねえか」
早速、三嶋がくってかかる。
それは利に敵っているし、合理的だし、わかる。
けど、嫌な予感がする。
「囮の可能性もあるだろう。ちょっと太田和の影響を受けすぎだぞ三嶋。彼の度胸と技量は例外だ、お前にはお前の良さがあるだろう。それにもう、敵機と無理に戦わなくていい。ここは俺に任せろ、反論と疑問は今は受け付けん、お前達だけで生き残ることを考えろ。もう、エネルギーも枯渇するだろう」
小寺はここは俺の勘で危ない、と言っても彼等は言うことを聞かないと判断して言わなかった。
戦場に長くいる者、生き残る者にとって説明できないが個人に警鐘や引っかかる、と思わせる何かを感じる時はそのことに応じたほうが上手くいくときがあるのだ。
「俺達、補給も何もしていないからな………アンタの言う通りだ」
二葉が納得したように言う。三嶋も納得はしていないが、エネルギーが切れそうなのは充分に理解していた。
「二葉、三嶋は納得していないしアイツは結構負けず嫌いで意地っ張りで頑固だ。三嶋の面倒を頼む。このランドアーマーが叩くべき好機だとしたら性能と技量で俺が行くしかないだろ?谷峨には負けていられないのさ、くだらない意地だけどな」
「待てよ、最後まで戦わせてくれよ!小寺」
「やめろって、小寺はきっと生き残って帰ってくるよ!担任を信じろって三嶋」
小寺は通信を切り、小寺機は牛型に変形して加速装置を使った。
最後まで心配してくれるのか。
俺はお前達と会えて良かった。
「敵伏見、視認。距離150で牛型で接近!」
敵オペレーターが叫ぶ。
「ランドアーマー砲門を全て敵機に向けて転移弾を撃て、最後に爆薬を積んだ本体で突撃させろ!」
村中は餌に引っ掛かる小寺機をモニターで見て指示を送る。
「こんなことを生徒にやらせる訳にはいかない!ありったけだ!もってけ」
小寺機は両肩についているガトリング砲で敵ランドアーマーに攻撃する。
中に入ってる御霊機なんて出させてたまるか。
出たとしても、こんな弾幕を出るのに躊躇するだろう。
しかし、敵機は出る様子もなくランドアーマーの砲門からは次元転移弾を撃ってきた。
次元転移弾はやけに弾速が遅いのだ。
プロ野球選手の投げる超スローボールと一緒の速度だ。
しかし、怖いのは速度ではなく弾が破裂すると空間が裂けたり、吸い込むような現象が起こるのだ。
どの素材でも耐えられることのできない禁忌の兵器。
安全な転移をするのには転移先と転移元のルートを作ったうえで構築すればいいのだ。
入口と出口を作ってしまえばいいだけの話だが、ルートを作るのにはオペレーターの訓練をしている者とログルートを理解している練度が必要なのだ。
兵器として使う場合は出口を設定されていない為、並行世界の狭間に強制的に送られることになる。
小寺機は御霊機の残骸を投げて弾着を調べる。
空間が裂け、残骸も一緒に景色に貼りつくようになったから敵は転移弾を使ったのがわかった。
自分の勘は当たったのが良かったが、自分にはとんでもないオマケがついたものだ。
「だったら、潜って殴ってやる!頼むぞ、伏見」
小寺機は人型に変形して、牛刀を持ってランドアーマーに突撃した。
「コイツを叩けば、生徒達も楽になる。俺は彼等みたいにスマートにやれないけどなここだけは………」
突如としては砲弾の落下。
刀の国で使う砲迫の威力ではない。
しかも、遠距離から。
その砲撃に指揮本部にいる村中も牧野もビビっていた。
日本国政府は相模湾15キロの沖で底辺脱出チャレンジ部隊の元自衛官で編成していた恥部隊と呼ばれる部隊を編成して艦砲射撃を開始したのだ。
護衛艦としての任務を終えて、登録を抹消された護衛艦の艦砲射撃に刀の国の面々は知らない恐怖に包まれた。
刀の国では海軍力が圧倒的に低く、航空機すらない世界。
陸戦能力と並行世界の次元転移に技術が特化しすぎた国なのだ。
刀の国では喉から手が出る欲しい技術に小寺はやられることになる。
東国軍との争いに三戸浜高校に勝てれば互いの技術交流も夢ではなかったのだが、計画は全て頓挫して今この場にいる。
ランドアーマーは艦砲射撃に損傷は受けたものの、強引に小寺機に突撃する。
小寺機は艦砲射撃の直撃を受けて、大破していて小寺も血を流し、意識があるだけで精一杯だった。
「ここ、………までか。やっぱり、この3年間は刺激的だったし、特にこの1年間は大変だったけど俺は後悔し、後悔していない」
ランドアーマーの爆発と共に小寺機は活動を停止して小寺も爆発に巻き込まれ、灰に帰すのみだった。
三嶋機、二葉機は敵軍包囲網を無事に突破して、三戸浜高校周辺を抜け、和田長浜辺りで機体を捨てて撤退に成功した。
三嶋も二葉ももう小寺に会うことはなかったし、小寺も2人が生き残ることを知ることもなかった。
何はともあれ、真と遠藤に続く生存者になったのだ。
3月2日、9時11分。
本部にいた牧野は怒りに震えていた。
この艦砲射撃に日本国政府に抗議をしたが大沢総理は取りつく島もなく、これは我が国の平和に為というセリフを吐いたのちに緊急会見を開いた。
「今、三浦半島南部に戦前に埋もれていた不発弾がなんと120発発見されていて、三浦半島の住民に避難勧告を発令しました。なお、三浦半島に入る国道134号線と県道214号線及び215線も封鎖致します。周辺海域も巡視艇を順次発進させて海域も警戒させております。それと、同区域にテロリストが侵入して立て込んでいるとのことで同時にテロリスト鎮圧作戦も遂行しております」
テレビで流れる大沢と隣にいる森泉を見て、牧野は苦虫を噛む思いでテレビに視線を流す。
「三國中佐も死亡、ランドアーマーも大半は損失。これ以上我等に戦う理由はない。残存部隊に撤退命令を出せ。この戦いは我々の勝利だが協力者は反旗を翻した。あちらの文明力に我々は勝てる余裕もない。本国にただちに帰還して、本国の体制を整える」
牧野は幕僚達に指示を送った。
どうやら、日本国政府は我々と戦う方針なのか?
それとも、大沢のやりたいことに踊らされたのなら我々の国の黒幕と変わらない。
「中将、現場の伝令により三國中佐も山北少尉をはじめとする三國大隊は壊滅しました。三國中佐達は敵指揮官と相打ちしています」
吉野の報告により、牧野は頷いた。
「三國中佐を抜擢して正解だった。禁忌の兵器にベテランの御霊機乗りが一般の御霊機で相打ちとはいえ、倒したのだから。それに元西国軍の指揮に傭兵部隊で私を苦しめた村中大佐を用いて正解だった。刀の国を我々国民による中心の体制にして、いつかはこの日本も攻めねばならないな。この国の文明と技術は絶対に欲しいものだ」
牧野は考えを固め、早速現存する部隊にも撤退命令を出した。
「戦線にいる者の回収を早速して、転移ルートも急いで構築せよ!」
吉野はその場の空気に戦慄を感じながら、身震いや寒気を感じた。
刀の国はこれからは内憂外患の時代に入ると。
それに対して三國や鳥浜や黒川など優秀な人材を失った。
「中将、私に御霊機を乗せて戦線の残存部隊の回収を命令して下さい」
吉野の志願により、牧野は戸惑いを見せたが数秒したのちにいつもの表情に戻った。
「わかった。ただし、君には危険な任務になるが君がそう言うのならば勝算があるのだろう、成功できる確信があると?」
「その通りです。現地に着いたら逐次転送ルート候補もデータ送信します」
「頼むぞ、対敵行動は君自身に任せる。これは指揮官自身の勅命だ、言うことを聞かない者は君の裁量で始末しても構わない。士官どもにそう伝達はしておく」
「ありがとうございます」
吉野はその最中に髪をまとめて、制服を脱ぎ始める。
何もなければ、牧野が覆いかぶさって事に及ぶところだがこの状況ではとてもじゃないができない。
吉野は御霊機乗りのスーツを着替えて、ブランシュネージュの派生機体であるクリオネを駆る。
クリオネは遠距離戦専用のブランシュネージュの狙撃機能をオミットした代わりに索敵レーダーと識別マーカー等の通信機能と電子戦用機能を集約した機体だ。
「吉野機、出撃準備完了。いつでも行けます」
整備班の軍曹が大声をあげる。
吉野は身軽な動きでコクピットに向かいハッチを開き、シートに座る。
「吉野機、クリオネにコントロールを委託」
「コントロール、受け取った。吉野機、行きます」
吉野機は発進した。
東国軍の御霊機の新型機では1番のスピードと索敵機能を持つクリオネが時速220キロの速さで駆け巡った。
3月2日、9時25分
地下の教材資料倉庫からスタートして、地下道を逃げる生徒達。
第2次世界大戦時、海軍や地元の者が協力して作った地下道で元は戦国時代に北条氏と三浦氏という武士が戦で使う時に城の抜け道として使っていたらしい。
去年の夏頃から谷峨と同じ教師としてあたった東国軍の士官と一部の生徒が地下道を整備していた。
「けど、ここ早く抜け出してこんなところ早くおさらばだ」
生徒達が汗だくに埃塗れになりながら走る。
大川も必死になって逃げる。
中田は肩紐に小銃を背負いながら逐次、敵の追撃がくるかチェックしていた。
足音と地鳴りとパラパラと落ちる砂礫の音。
生き埋めになるリスクと逃げ道がない恐怖と明かりが懐中電灯やスマホしかないので明るさとして全然心もとない。
「諦めるな!谷峨達も明石達も命張ったんだ、ここで諦めたり弱音吐いたらダサいし、アイツらの気持ちにこたえてねえ、まだ対敵行動になっていないということは敵はここまで来ていない」
中田はそう言ったが実際はわからなかった。
しかし、敵の歩兵部隊はいつかはここに来るだろう。
明石達も下手したら死んでいるだろう。
「ええっ、岩盤が崩されてこれ以上行けない!」
「行き止まりかよ?クソっ、終わった!」
艦砲射撃や周辺の戦闘の激化により、元々の地盤の強度は脆くなっていた。
「ここで死にたくない」
ヒステリックに叫ぶ生徒を後目に荻野はタブレットで操作していた。
12時ちょうどに全転移システムを破棄することを小寺や木村から聞いている。
機密事項だからむやみに扱うなと口酸っぱく言われたが遊びで自分の家の裏山にある神社の境内に転移ポイントを設置していた。
しかし、転移するのには御霊機やランドアーマーのような乗り物が必要だった。
「ひいぃぃ、ここで死ぬのか?まだ定年まで2年残っているんだぞ?私が死んだら家内はどうなる?生命保険はあるもののこんな生活をしたんだ、死にたくなんかない」
大川も狼狽するくらいにこの地下道の落盤はこの場所にいる人間の希望を奪ったといっても過言ではない状態だった。
「ログが潰された……けど、ここだけは言ってないから潰される訳ないね」
「何ぶつぶつ言っているんだよ?ログは確か自動消去にしているし、こちらから通信システムは全部放棄しているだろ?木村も明石達も銃を持って戦闘に行くくらいだから」
オペレーターの生徒が荻野に対して何かを言うが荻野はそれを無視して操作を続ける。
「行き止まりだし、いつかここの地盤も崩れるだろう、ここで詰みかよ!」
「私は諦めていない!機密事項?そんなの知るかっての、私は全力でやることに遊びを詰め込む、余裕は見せるもの、こんなところで死んでたまるかっての」
荻野は真剣な表情でルート設定をする。
御霊機やそれに転移に耐えることを前提で転移していた。
生身での転移って可能だろうか?
「けどさ、去年の夏に谷峨って生身でふっと現れたことあるんだよな」
「なんかバズーカみたいなもの持って私達を助けたよね」
雑談の中にヒントが隠されていた。
詰みは詰みに近いだろうが、完全に詰みではない。
まだ1手、2手、試せるということに希望を見出す。
荻野は試そうとするが今度はタブレットのバッテリーが残り少なくなる。
「あっちゃ、バッテリー少ない!そうだよね、これ急造だもんね……充電器とかあればいいんだけどな」
「それなら………これを使えばいいんじゃない」
女子生徒がスマホを出す。残バッテリーは68%。
「そっか、これをケーブルに繋いでやればいいのか。皆、スマホとか貸して。何もしないでできないで死ぬよか全然マシだわ」
本当の時間勝負になった。
地盤が崩れて酸欠になって埋まって死ぬか、バッテリーの端末の充電切れで作業ができなくて終わるか、転移できるか、の3つ。
「転移ルートができたら皆で行く、谷峨だって生身で転移したんでしょ?前例があれば行ける!」
荻野の言うことは合っているかもしれないが、それは素人がパラシュートで降りる様子を見て、自分達も同じようにやれると言っているようなもので、特に城内高校の生徒達は嘘だろ、と言わんばかりの表情で荻野を見ていた。
「不安なのはわかるけどよ、荻野はそれを押し殺してでもやっているんだよ?信じろ、なんて言わねぇ。けどな、邪魔する奴は俺が許さん」
中田は一喝した。
「くそっ、お前達はいつもそうだ、根性や意地とかそんなものでいつも力技で物事を進めやがって!」
城内高校の生徒達が怒るが、一部の生徒達は宥めるように肩を叩く。
「こんな奴等だから俺達はここまで来てしまったじゃないか、あの子の言う通りだ、やってもしないで諦めるなんてもったいない、彼等に賭けるぜ俺は」
「わ、私も!こんなところで死ぬなんて絶対嫌」
「皆で生き残るよ。谷峨が言っていたけど、転移のルートの中は私が先に走るから皆はそれに付いていけばいい」
荻野達をはじめとする地下に逃げた生徒達は3月2日の10時18分に転移に成功し、荻野の家の神社の敷地に転移できた。
荻野と中田は抱き合って喜び、大川は涙を流し絶叫していた。他の生徒達も三戸浜、城内関係なく喜びあっていつもは寂しい景色の小さい神社にはありえない人だかりになった。
3月2日、10時06分。
吉野機のクリオネが戦場を視察する、吉野はスクリーン越しから三戸浜高校も城内高校の生徒も少ないながらも奮戦したのだと印象に感じた。
旧型の御霊機でよく頑張ったものだ。
統一国家政府軍と兵士の死体、生徒達の死体、さらに日本国政府が送った底辺脱出チャレンジ部隊の兵士の死体。
こんな狭い所でこんな局地戦を行ったと誰もが思わないだろう。
その時、1機の御霊機反応があった。吉野機のアラートが鳴る。
鳥浜のカスタマイズされたファイアブランドだ。
鳥浜は死んだハズでは?
吉野は躊躇うが、乗り手の雰囲気で鳥浜ではない、と感じることができた。
吉野の御霊機乗りをやっていたから強い乗り手には独特なオーラを放っているのだ。
三國は歴戦の兵のような剛毅なオーラ、鳥浜には洗練されて無駄のない綺麗なメカのようなオーラ。
この乗り手からはやっと御霊機をなんとか動かせたような雰囲気だった。
「そこの御霊機、敵軍のだが所属と階級を言え」
吉野機は鳥浜のファイアブランドに通信を送る。
鳥浜のファイアブランドからはすぐさま通信が返ってきた。
「元東国軍監査局副長の木村大尉だ。認識番号は086だ。もしかして、君は吉野大尉か?我々にもう戦う意思はない。いや、戦う理由と意義はもう達成されたからだ」
吉野機はレギオンというアサルトライフルを構えて、木村機に照準を向けた。
「その割には御霊機に乗って投降の意志を示すなんてらしくないわね」
「吉野さん、僕の命は失ってもいい。この場に生き残っている敵味方全ての者の命だけは救って欲しい」
木村は最後の嘆願に出た。
敗者だが、周りの影響を考え、鳥浜一派は刀の国の障害として乗り越えるべき対象として後世の歴史に載るつもりなのか?と吉野は思いを考えたが生存兵士の回収と救助は最優先でやるべきだ。
「大人しく武器、施設、兵站の全てをこちらに渡して軍法会議の結果を待ちなさい」
「了解、御霊機もシステムも全て放棄する」
木村は鳥浜のファイアブランドを降り、両手を上げた。
吉野もクリオネから降りて、手荒になるがいきなり腹を殴り、木村を怯ませた後にロープで縛り、猿轡を噛ませた。
木村もそれを知っていたのか、合わせるように苦しむが思った以上に吉野のパンチが強かった。
苦悶の表情を上げ、無理矢理にクリオネに乗せる感じになった。
「ごめん、木村くん。敵味方になった以上、私も割り切らないといけないの」
「いや、いいよ。吉野さんの立場が僕だったら同じことをする。だけど、手荒いことはしないけど」
吉野は猿轡を外し、木村を抱く。
同じ士官学校の同期なのに敵味方に別れることなんて考えたこともなかったし、命を奪うハメになるとは思わなかった。
それが木村と吉野の最後のやり取りになった。
「敵軍は全滅した。この戦いに多大な犠牲を払ったが真の刀の国の統一はこれから始まるのだ!鳥浜大紀のような逆賊を2度と出さない為に。彼等も国を思う気持ちはあった、道を違えたけどその想いだけには我々は応えねばならないのだ」
牧野中将の演説で統一国家政府軍は勝利宣言した。
後日、流れた映像で谷峨機のファイアブランドは全身が燃えていてその様子は燃えさしのように見えたらしい。
3月2日、午前11時00分を以て全ての戦闘が終結した。
最終的な三戸浜高校及び城内高校の生存者は98名。
校内に生き残った者や日本国政府の者に見つかった者は回収されて、口封じにされたという。
大沢はこの件の責任を取って総理を辞職。むしろ、やりたいことをやった後に逃げるように辞めたというのが正解かもしれない。
後任は森泉がついた。
国民を戦争に加担させ、砲撃の指示をして、テロリストから国を守った英雄と評される者とその後の混乱を治めることを課せられた者と対照的になってしまったが、日本国政府はこれから刀の国の脅威に晒されることになる。
木村は三戸浜高校に残っているシステム周りを破棄し、その後、処刑された。
谷峨は統一国家政府軍に捕まり、牧野から直に言葉を受けた。
「谷峨少尉、君はよく戦った。鳥浜少佐は君からしたら上官として人間として尊敬することがあるかもしれない。けど、これは戦争だ。敵を倒すのは当たり前なのは知っているだろう?」
「そうですね。私は死んでなかった。もう、あの時死んでもおかしくはないって思ったのに」
「木村大尉は自らの命を犠牲にして、君の助命嘆願を行った。木村大尉も君に対して思い入れがあるように私も君には何かを運命を感じるんだよ。君を死なせる訳にも自決させる訳にもいかん、生殺与奪の権利は勝者の我々にある」
牧野は任務とは違う優しい表情になった。
言葉は厳しいことを言っているがどこか温かさがあるようなそんな雰囲気を谷峨を感じた。
「日本国政府はこの学生達の若い命と可能性を奪ったテロリストを断固として許さない、まだ戦いは続いている。私は戦い続ける、1人の政治家として、1人の人間として!」
テレビ越しから森泉が檄を飛ばしている。
まだ、戦いは続いている。
谷峨が頷いた。そう、東国軍監査局と三戸浜高校は負けた。しかし、自分は死ぬことも自決されることも許されないし、統一国家政府も日本国政府も倒すべき敵だ。
「鳥浜少佐は自分の理想を叶える為に君達の犠牲を当然必要なものという認識で自分の夢を叶えようとした。けど、何故私が彼を唾棄したのか?彼は自らの力を信じることをやめて禁忌の兵器に身も心も委ねてしまった。この映像を見てくれたまえ」
谷峨は牧野から映像の入ったDVDを見る。
鳥浜の駆るアマツミカは馬上筒を放っている。
敵機に対してと思ったが、次の映像では八原のアイスブランドに弾が命中しているシーンだった。
「誤射なのでは?もしくは、あなた達が俺を説得させる為に作った映像だろう?そんなことを少佐は絶対にしない!」
「まあ、そう言うのが当たり前の反応だろう。けど、彼女は君の生徒だっただろう?」
谷峨は動揺を隠さない。牧野はそんな様子を後目にさらに映像を流し続ける。
「なんで………校長先生、私は敵を撃っただけなのになんで攻撃されることになるの?わかんない、わかんないよ。た、助けて……」
八原機は馬上筒の直撃でやられ、八原機を追いかけた敵機にトドメを刺された感じになる。
谷峨は目を瞑ろうとするが牧野は制止する。
「見ろ。これが君の信じた人間がすることか?誤射もクソもない、あからさまに彼女を邪魔だと思い殺そうとしたのだ。もう、死ぬのがわかって介錯とか誤射ならわかるがあからさまな自軍の攻撃を指揮官だからってやっていいのか。その後、彼女は御霊機のコクピットから引きづり出され私達の兵士に強姦されて殺された。強姦した者は軍法会議にかけて処分することを約束しよう。君に問う、君がこれからどう生きるのか君の作る世界を見てみたい」
「私は………私に今死ぬ訳にはいかない。これだけはわかる。牧野中将、それはあなたの喉元にナイフを突きつけるような結果になるかもしれない。それでもいいのなら俺がこれからの世界を作ってやりますよ」
谷峨は涙を流しながら嗚咽した。
自分達を戦争の道具にして、その犠牲をなかったことにする世界に対する復讐が谷峨のこれからの生き方になった。
時は流れて数十年後………
2069年、8月。
総理大臣官邸において、日本国政府は刀の国との戦争に負けて霞が関宣言を受諾させた。
並行世界の人間が起こしたこれらの関わりは1番有名人だった鳥浜の名前をとって後世に鳥浜事件と言われ、生き残った生徒はひっそりと暮らしていた。
三嶋と二葉と遠藤と荻野と中田はテロリストとして
谷峨耕助はその時、74歳。
刀の国の総統になり、牧野中将の推薦で士官学校の教官として多数の士官を育て日本国侵攻作戦に生徒達を従軍させた。
その中でたくさんの犠牲も出してきた。自分の生徒も少なくとも2000人は死んでいる。
「同じ日本人なのに何でこうも違う」
首相の森泉幸二郎は嘆いた。
「私はあなたと同じ言語を話し、同じ肌の色で習慣もだいたい同じだ。何でこうも違う?答えてあげっましょう、それはあなたの祖父に私のかけがえのない生徒と生き方を奪われたからだ!」
「私のおじいさんはテロリストにとある高校が襲われてテロリストの掃討に生涯を捧げた人だ。生き残った生徒達はちゃんと国が保護して手厚い保障と年金で国あげて生活を見ていると言っていた」
「何言っているんですか?あなたの祖父は50年前に私達と手を組んで軍事兵器のテストを評して他の学校の同じような人達と一緒に戦っていたんだ。最後はな、いらなくなったから私達ごと攻撃して何もなかったことにしようとしたんだ!あなたのおじいさんのボス的存在だった大沢の後を継いでな」
森泉幸二郎は呆気に取られて言葉を失った。
まさか、祖父がこの日本の侵略の元凶だったなんて。
「私は50年前にその高校の教師だった。教師という偽りの身分を与えてもらい兵器の制式採用と技術交流により、自分の国を攻める侵略者や内戦をどうにか終わらせようと必死だった。けど、それは私の国の内戦は統一されて私達派遣された部隊は生徒達と一緒に戦ったのだ。今の便利な生活、環境、それは全て私達の血と汗と涙の流れたものと知るがいい!君達、政府が私達に歯向かわなければ国民の命は保障する。私は軍人だ、しかし、理想論者だ。それだけは守る」
谷峨老人の老人とは思えぬ気迫と圧に幸二郎達日本国政府の首脳陣は気圧された。
幸二郎は項垂れ、がっくりと肩を落とした。
谷峨は森泉幸二郎を傀儡政権の首相として重用し、早速、大手マスコミを使って日本国政府は全世界の国交断絶宣言をする。
それは前代未聞の出来事でアメリカのホワイトハウスは厳重抗議をした。
「私の国でも世界最強と言われた銃と自由の国も女王の国も真理と竜の国も倒してきた。いつまでも、目の上にたんこぶに好きなようにされていても困るだろう。無知な君達の国民より、私は日本を勉強したつもりだ。偽りの平和なんてもうやめるんだ、これからは本物の平和と恵みの享受を得る為に必要なのは犠牲なのだよ。等しい犠牲がね」
かつての若さと真っすぐさは失われて谷峨は完全に権力と暴力の虜になった。
こうして、日本国は並行世界の日本人に支配される日が始まった。
2070年、3月2日。
日本国は世界全土からの敵認定されて、経済封鎖や貿易の妨害やシステムネットワークの妨害等著しい生活レベルの低下に陥った。
国民達からは怨嗟と不信の声が出ていて、谷峨はそんな国民の苦しむさまを酒の肴の楽しみと言わんばかりに楽しんでいた。
谷峨はかつて自分が勤務していて、生活の拠点だった三戸浜高校の跡地にいた。
完全なお忍びでこの場所は刀の国の聖域として完全な立ち入り禁止区域にしていた。
「先生、いいんですか?1人にしても?」
側にいた側近が心配そうに声をかける。
彼も士官学校にいた時に谷峨の教え子の1人だった。
「私だけにしてくれ、たまには感傷に浸りたいのだ。私は軍人で理想論者だがロマンチストでもあるのだ。頼む」
側近は了解し、敬礼をした。
校舎は見るも無残な姿になり、草木はぼうぼうに生え、1種の鎮守の森みたいになっている。
谷峨は中庭の部分に行き、壊れた瓦礫を見て、黙とうをする。
ここだけはまるで昔を思いだす。
自然に涙を流し、過去の出来事に感傷を浸る。
あの時、死んでいたらこんな世界になることはきっとなかっただろう。
自分の体はあの時、動くことを止めたし、どこか満足感はあったのかもしれない。
それでも死ぬことは許さなかった。
多大な犠牲の果てに今がある。
それが自分の望んだ未来でも世界でもなければ。
人の気配を感じる、谷峨はさっと身構え、拳銃を抜く。
それでも昔みたいにキレもスピードもない。
「私を1人にしてくれと言っただろう!何で人の気配がある!」
同じ老人がいた。
しかし、自分より少し若い。
それでも、知らない人から一緒の同じ老人に見えてしまうのだが。
谷峨は数秒、見て思い出すように言う。
「太田和真か?お前は?」
老人になっても、最低限は筋肉は鍛えていたのかテレビのアスリートがやるようなアクティビティでも挑戦できるような姿の真。
あの時の若さはないが、粗々しさは健在だった。
「谷峨か………ってか、総統陛下か。お前らしくないぜ」
「お前らしくない、って今の生徒に聞かれたら即殺されるぞ」
「何だよ?急に教師らしくなって、お前なんて教師の皮を被った軍人だろうが」
谷峨と真は笑い合った。
そこはかつてのようなバカ笑いや真面目な笑いではなく、中身のない乾いた笑いだった。
「お前の方こそ、奥さんや子供とかできたのか?いるなら今度はその話を聞かせてくれ」
「いない」
「まあ、お前は良く言えばワイルドで悪く言えば粗野だからなぁ。教え子の娘でも女の教え子でも紹介してやるぞ」
「そんなのいるかよ」
言葉を遮断するように短く答える真。
谷峨はだんだん神妙な表情になり、真に聞く。
「そうか………悪かったな、お前みたいな男だったら仕事とかは成功しただろ?お前の反骨心や御霊機に乗る時のような頑固さはきっと社会の力になっただろう?」
「別に成功なんてしてねぇよ、俺はあの時が絶頂期だったんだ。城内の奴等やお前んとこの軍隊と戦った時が1番良かったし楽しかったよ。その後の俺なんて抜け殻みたいなもんさ、何も熱くなれねぇ、何の為に意義なのか大義名分なのかもわかんねぇ。皆はそれぞれの生き方を見つけてこんな世界でも生きている。まるで、俺だけ時が止まったみたいなのに年だけはしっかり取るんだもんな」
吐き捨てるように真は言う。
真はあの時の3月2日から心だけは置いていきざりになった。
三嶋達は目立ってテロリストになったし、他の生き残った生徒達は何とか自らの生活を築いて生きている。
「すまなかった………教師として、お前を幸せにしてやれなくて」
「別にお前のせいではねぇだろ、俺自身の問題だ。けどな、俺はここを誰かに荒らされたくないから興味本位で来る奴、俺達の生きてきた事実に泥を塗るように嘘で固めるように慰霊碑を建てようとする奴、ここに来る奴等皆殺してやった。木村がいなくなった後に使えそうな部品だけ盗んで御霊機を動かしたんだ。魂みたいなもんを感じるんだな、ボロボロでまともに動かない癖に侵入者くらいは余裕で倒せるんだ。そうやって俺はここを守ってきた」
真の生きる場所は過去とここ三戸浜高校と御霊機しかなかった。
自分自身の問題と言いつつも真も谷峨と同じように自分の心を命を燃えるものが欲しかったのだ。
「俺はお前にあの時の3月2日を生き残って自分の幸せを掴んで欲しかったけど、その願いは叶わなかったか………生き残ってくれたことには感謝するが、もう1度お前のような生徒は指導しないといけないな。教え子に御霊機を持ってこさせる。そして、お前に御霊機戦を申し込む!」
「望むところだ、谷峨!」
谷峨は側近を呼び、御霊機を手配した。
しかも、今では旧型になったファイアブランドである。
しかも、真の機体の損傷具合に合わせてわざと損傷させた状態で手配した。
2070年現在の御霊機は飛行機能や水中作戦に対応したタイプが出て、その様子は各国の軍隊はゴリアテという名称で恐れられているのだ。
谷峨と真、互いに自分の機体に乗って血液デバイスを起動させる。
「老体に乗せる代物じゃないな、けどな、コイツは昔から俺の生き方で俺の存在意義だ。識別番号4771、谷峨耕助、ファイアブランド出ます」
「お前なんて倒してここを終の住処にしてやるぜ!滾る、迸る、漲る!三戸浜高校3年6組出席番号3番、太田和真、ファイアブランド行くぜ」
2機のファイアブランドが早速、挨拶代わりに攻撃する。
真機は相変わらずのアンドロイヤーの重い、素早い1発を叩きこむ。
谷峨機はマインゴーシュで防ぐのが精一杯だ。
側近の教え子達はそんな旧型の御霊機の戦いにまるで特撮ヒーローのロボット戦を見るかのような気持ちになる。
「先生、旧型の御霊機に乗るほうが強いじゃないか」
「先生はご老体なのになんでしかもあの重量武器にマインゴーシュで防いでるぞ」
興奮する生徒達を見て、真はうっとうしそうに谷峨に話かける。
「このままのお前を倒したって面白くねえ、やっぱり命賭けなきゃな!」
そう言うと、真機はラウンドシールドを側近達のいる場所にフリスビーを地面に叩きつけるように投げ下ろした。
何人かは訳がわからず、ラウンドシールドの直撃で絶命した。
「生身で御霊機戦の観戦を現役の軍人が映画やライブを見るように楽しんじゃいけないよなぁ!俺は谷峨先生にそんなこと習ったことないからな?だろ、先生?」
笑みを浮かべる真は昔から変わっていない、谷峨は苦虫を噛むような表情で死んだ側近達を見る。
「せめて、安全な場所で見るか、死ぬ覚悟がある奴だけこの場所にいろや。先生の本気、見たいだろ?俺はコイツの本気を倒したいんだよ、それを叶える為だけに生きてきた!」
真の挑発に谷峨は完全に乗り、加速装置を使って真機に反撃した。
スカッシュでアンドロイヤーの距離に入らないように正確な照準をしないでひたすら撃つスタイルだ。
跳弾がいろんな方向に飛び、側近達は逃げる。
「指摘、感謝する。最近の教え子に戦場の緊張感を教えていなかったし実戦の千変万化を教えていなかった。それは俺の不徳の致すところだ」
老人の駆る機体の立ち回りとは思えない、素早い応酬。
木々は攻撃の犠牲になり、さらに荒れ果てた状態になる。
スカッシュのマガジンを入れ替えようとするが、真機は瓦礫を投げて阻止する。マガジンは落ち、谷峨は真のコントロールと判断に驚く。
「昔だったらこんなことできなかったな、咄嗟に地物を使うとはいい判断だ」
「腕っぷしだけじゃ仕留められないからな!ここは俺の庭みたいなもんだから何があるか何が使えるかは自分なりにわかっているハズだ」
まだスカッシュはもう1丁ある。
谷峨は地形を利用して、隠れる。すかさず、マガジンに弾を詰め込め、マインゴーシュに細工を施したやつを用意する。
熱源センサーで見抜かれたか、真機が襲いかかる。
「隠れる、防ぐ、躱すは相変わらずお前の得意技だな。ジジイになって余計に老獪になったか。50年前から充分考えはジジイなのによ」
アンドロイヤーを叩き下ろす真機。
あまりの威力に校舎の水道配管が破壊される。
階段もなくなり、砂礫だけが粉塵のように巻き上がる。
側近達はあまりの2機の御霊機の戦闘力に脱帽した。
「外国の御霊機乗りより強いんじゃないか?あのジジイ」
「アンドロイヤーをあんな自在に使うなんて滅多にいない、ってか絶滅危惧種もんだ」
個々に実況と解説を担う側近達。しかも、安全な距離で双眼鏡を使っである。
「真、お前の人生の充実のきっかけを潰してしまった俺を許せとは言わん。お前の俺を倒したい、それだけはまごうことなき本音だ。お前の本心だ」
谷峨機はアンドロイヤーを受け止めるがアンドロイヤーの先端が開き、爆発させる。
谷峨機は爆発に巻き込まれ、損傷する。
読み切れなかったし、防ぎきれなかった。
「クソっ、これは木村大尉にチューンされた兵装かっ!死んでもなお俺に一泡吹かせるのか?大尉が俺に未来を託したから俺もコイツもこんなに苦しんでいるんだ!」
「何、訳のわからないこと抜かしているんだ?木村はお前の上官だろ?お前も俺に託しただろ、生き方ってやつをよ?」
真機はアンドロイヤーの石突きに変え、谷峨機に追撃をする。
重たい鈍器を殴られたような、腹にボディブローをくらったような衝撃が谷峨を襲う。
胃液を吐き、コクピットに胃液の臭いが空間を満たす。
谷峨は苦しみのなか、考える。
切り札を使って先に出した側が相手を仕留め損ねた場合、後に出して決めた側が勝つ。
谷峨の長年の戦闘経験から導いた1種の結論だ。
御霊機乗りの戦闘理論や思考というのは谷峨がこの年になってもこれが最強とかこれが最も合理的というのはいまだに見つかっていない。
谷峨は正攻法で勝つ立ち回りを元からしないで、相手の裏をかくことに全力を注いできた。
お互いに年をとったのか体力が確実に落ちていた。
「自分が信じた人間に、教え子にましてや俺はお前の伸びしろに可能性に俺は期待していたんだ!期待して何が悪い!」
「人はそんな、他人の身勝手な想像のない期待で潰されていくんだよ!俺はこんな生き方しかできない!お前に生き方を否定され、メンツを潰され、失禁して気絶したこの屈辱を今でも忘れねえ!」
真機は突進する。それは中世の騎士のようなランスチャージだった。
谷峨機はスカッシュを撃つが全弾真機に弾かれた。
谷峨は思い出す。
3年6組の担任になった時、生徒に主導権を握らせない為に強引に脅したことと力でクラスを黙らせたことを。
今なら違う方法でもできたのかもしれないが、当時はそういうことしかできなかった自分を今更ながら恥じる。
他人からしたらそんなことで?と思うことが、本人の存在意義の根幹にさせたりコンプレックスになったりする。
真は谷峨にやられたことをずっと忘れることなく、このまま過ごしてきたのだ。
この結末を迎える為なら真はなりふり構わないだろう。
燻っていた思いと自分のコンプレックスや自分の人生の指針を与えた人間を乗り越える為に。
谷峨もその真の想いに応えるように切り札を出す。
マインゴーシュの切っ先を飛ばして、コクピットを狙う。
しかし、手元が狂ったのか真が躱したのか防いだのかわからないが当たることはなかった。
真機のランスチャージが成功して、谷峨はコクピット越しから衝撃が伝わり、致命傷になった。
「ま、真、俺の負けだ………御霊機乗りでならした俺が自分の教え子に、ましてや敵国の軍人でもないのに。あ、ありがとう。最後にお前と話せて、お前と戦えて嬉しかったよ………」
「先生、あ、ありがとうございました………!アンタだけだよ、俺を人間として男として見てくれた最初の大人は………」
「ならば、俺も少しは教師らしくやれたのかな………」
そう言うと谷峨は力をなくし、命の鼓動を止めた。
谷峨耕助、享年73歳。
祖国に翻弄され、自分の夢を叶えることなく、時代に翻弄され、時代の力の渦に飲み込まれた男の人生だった。
真はコクピットから降りた瞬間に谷峨の教え子の側近達に容赦のないハチの巣のようにされた。
太田和真、享年68歳。
突然の出来事に人生を狂わされ、戦うこと、御霊機に乗ることでしか自分の生きている実感を証明できなかった男の人生だった。
組み合った2機のファイアブランドは燃え尽きたが燃えさしのように燻った火が残る。
それは2人の生き方を世界に主張するように。
静かで豊富な自然が残る田舎の町のウミネコの鳴き声に負けないくらいの銃声で50年振りに銃声が響いた。
おわり