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ゴキブリとの戦い

作者: 赤おじ

知り合いが「栃木のゴキブリはカブトムシよりでかい」などと言っていたがさすがに嘘だと思う。

 田舎暮らしというのは半ば昆虫との同棲生活であるが、ゴキブリは都会のほうがよく見かけるという。

 まあその生態から言って都会に多く出るのは当然である。古くは御器被り(ごきかぶり)なんて言うくらいで、人の生活と切っても切れない昆虫だ。

 筆者は糞田舎の生まれである。しかもクソ程寒い東北のクソ寒村である。本来であれば温暖と人が多い土地を好むゴキブリに縁があるはずもない。だがうちには出た。それもちょっと尋常ではないレベルで。


 夏場、夜遅くに起きて水でも飲もうと台所の戸を開けると、ゴキブリが運動会をしている。アベレージで三匹は床を這いまわっている。

 不快感を押し殺して何とか流しにたどり着くと、三角コーナーから異音がする。覗きこむとゴキブリが晩餐会をやっている。生ごみで。こっちはアベレージ五匹はいる。

 家にゴキブリホイホイを仕掛けると、一ヶ月もすれば粘着面がなくなるほどゴキブリがひっつく。見てると気が遠くなる。


 だが学校の友人は皆、ゴキブリを見たことがないという。漫画やアニメだけに登場する生き物といった扱いだ。現実のあの気持ち悪さを知らないから、幻のポケモンのような崇め方をしている奴すらいた。家に呼んで実物を見せたら呻いて顔をそむけていた。

 繰り返しになるが普通は東北の田舎の家にゴキブリはいないのである。ところで一般にゴキブリといえばチャバネゴキブリ。人と暮らすゴキブリだそうで、都会で見かけるゴキブリの大半はこいつらであろう。

 チャバネの他に、クロゴキブリというゴキブリがいる。こいつは山、とりわけ樹木に住み着くタイプのゴキブリ。

 そして我が家には田舎にしても少々珍しく裏庭にそれなりに広い防風林があった。奴らはそこから小旅行感覚で我が家にやってきていたのである。



 筆者は小学生の頃、どのクラスにも一人はいる動物博士といった扱いで、生き物が大好きであったがさすがにゴキブリは別である。

 うっかり裸足でゴキブリを踏んでしまった夏の日から、ゴキブリ嫌いは加速した。

 我が家の女性陣は昆虫退治を男性陣に任せた。父は昆虫全般が嫌いなので逃げる。祖父は「ゴキブリは益虫」などと支離滅裂なことを言い動こうとしない。そんなわけねえだろ。よって、概ね筆者が処理することになる。


 見つけ次第ひっぱたく。余裕があれば掃除機で吸う。電気式のハエたたきも試したが、あれはゴキブリに使うのはやめた方がいい。数十秒電気を流しても耐える。すると煙が出てきて大変不快である。ビクビクと反応して気持ちが悪く、夢にも出る。本当にやめた方がいい。


 そんな不毛な戦いを夏場はほぼ毎日繰り返していると、だんだんと気持ち悪さよりも面倒臭さが勝るようになる。

 中学生になる頃には筆者も祖父と同じく「ゴキブリは益虫だから」と宣い一切の処理をしなくなる。筆者が処理をしないと誰も処理をしない。皆見て見ぬふりをする。見て見ぬふりをすれば、意外と気にならなくなるものである。



 高校の時、筆者は寮生活をしていた。

 そこもクソ寒クソ田舎であったため、ゴキブリは出ず相変わらずのレアポケモン扱いであったが、同じ寮生に家の裏が山という山男がおり、やはり彼の家にはゴキブリが襲来していたという。


「ゴキブリどうしてた?叩いても叩いても出てくるじゃん」


 筆者が尋ねると、その山男は鼻で笑った。


「叩くとか原始人だべ。ブラックキャップ置けば一網打尽よ。そのシーズンは見なくなる。2chにもそう書いてるで」


 ブラックキャップとはアース製薬が販売している駆除エサ剤である。


「置き餌?コンバットは試したけど効かなかったんだけど」


「情弱乙!!!コンバットは効かなくてもブラックキャップは効く!!!2chにもそう書いてるで!!!」


 そう、コンバットは効かなくてもブラックキャップは効くのである。筆者はアース製薬の回し者ではないが、マジで効く。当時の2chにもそう書いてあった。

 

 夏休みに実家に帰った筆者は、コメリで買ってきたブラックキャップを家中に配した。効果は覿面、翌朝の台所にはひっくり返ったゴキブリがピクピクしている。

 それから数日間、家のそこかしこでひっくり返ったゴキブリを見る。そのたび掃除機でズボッ、ズボッと回収し、遂にはゴキブリを見かけなくなった。

 

 だがゴキブリを見なくなった数日後、不可解な現象が起きた。

 筆者の実家居室は二階で、それまでほとんどゴキブリが出たことがない。

 朝起きた筆者が窓を閉めようと窓際へ行くと、窓の桟にゴキブリが五匹ほど、こちらを睨んで整列している。

 ブラックキャップを食ったゴキブリのように腹を見せるでもなく、平常の姿勢で顔をこちらに向けている。整列して。

 さすがに呻き声が漏れた。掃除機を取りに行き戻っても、奴らはこちらを見つめている。

 掃除機で吸っても、奴らは動かなかった。ズボッ、ズボッ、ズボッ、ズボッ、ズボッ。動かない。吸われる瞬間までこちらを睨めつける。


 それから実家でゴキブリをほとんど見ていない。



 筆者は仕事で半年ほど中国に放り込まれたことがあるが、そこはまさに地獄であった。

 とにかくゴキブリが出る。道を歩いてもゴキブリ。買ってきた野菜にくっついてるゴキブリ。歯を磨いていたら洗面台の排水口から飛び出すゴキブリ。酒のんでうたた寝していたら勝手につまみを食ってるゴキブリ。ゴキブリ。ゴキブリ。ゴキブリ。ゴキブリ。


 かつての実家を超えるゴキブリ祭りである。

 しかも日本のゴキブリと比べて、奴らには奥ゆかしさというものがまるでない。平気で突進してくる。昼間も出る。まさに地獄。


 筆者にとどめを刺したのは、酔い覚ましにミネラルウォーターを飲もうと台所に向かった際の出来事である。冷蔵庫を開ける際に手にカサカサしたものがあたり、それがボトリとつま先に落下。

 見るとゴキブリである。そして筆者は素足にサンダル履き。足の甲にダイレクトに伝わる感触。悲鳴を上げる筆者の脚をすね毛をかき分け駆け上がるゴキブリ。

  

 筆者は会社に泣きついてブラックキャップを国際郵便で送ってもらった。

 しかし効かなかった。まるで効果がなかった。相変わらずゴキブリは大運動会をしていたし、元気に排水口から出入りしている。

 中国のゴキブリは強靭である。ブラックキャップに絶大な信頼を寄せる筆者に、これは大変な衝撃であった。



 ほうほうの体で出張期間を終え、帰国。

 長期間無人だった愛しのボロアパートへ帰宅。うだるような暑さを何とかしようとエアコンを起動する。


 ビビビビビー。バリバリバリ。

 

 謎の快音とともに、エアコンの排気口からゴキブリの脚が吐出される。内部でファンに巻き込まれてバラバラになったらしい。

 筆者のアパートで、それまでゴキブリを見ることは無かったのだが……

 

 冒頭でも述べたが、ゴキブリは人の暮らしと共に生きるいきものである。

 そして無限の繁殖力と圧倒的適応力をもって、勝手気ままに人の家へ入り込み同棲生活を強要する、人類のおぞましき同居人である。

 自然災害、病原菌。人類の科学技術でもっても太刀打ち出来ない、強大な自然の脅威。その片隅にひっそりと、黒光りする奴らが潜んでいる。


 ほら、あなたの部屋にも……

ゴキブリとはぜんぜん関係ないけど中国行った時に道路を猫くらいのサイズのネズミが横断していて笑った。

ヌートリアかなんかだったんだろうか。個人的には妖怪であってほしい。

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