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本名・ごく普通の日本名「○○絵里」。

自称・エリザベス。

肩書き・鴨志田侯爵家執事長代理、坊ちゃま専属メイド、ついでに帝都大暴走装置。


その日、帝都はいつもより少しだけ騒がしかった。



「坊ちゃまのために――今日はわたくし、本気を出します!」


朝からそれを三回聞いた。


与一郎は、馬車の中で膝の上に置かれた書類をぼんやり眺めながら、心の中でため息をついた。


(本気出すたびに、ろくなこと起きてない気がするんだけどな……)


「絵里さん、今日の任務、確認しますけど」


向かいの席で、真理が冷静に言う。メイド服に黒いジャケットを羽織り、書類を整理している。


「帝都保全省との“PAKKOMANN対策説明会”で、坊ちゃまは“おとなしく座ってる”だけでいいんですよね?」


「そうよ!」


絵里は胸を張る。純日本人の黒髪を、何故か金髪風にまとめたお団子の上でリボンが揺れた。


「坊ちゃまはただ、そこに“存在”してくださればいいの。

 あとはわたくし、エリザベスが全部片づけますから!」


「片づけないでくださいね?」と真理。


「前回も“片づけて”帝都で三省庁の予算編成ひっくり返したじゃないですか」とゆり。


ゆりは、与一郎の隣で小さく縮こまりながら、膝の上の長刀ケースを撫でていた。武装メイドである。


「気のせいよ」


絵里はあっさり言い切った。


「前回のアレは、『坊ちゃまの発言力を高めるための軽いジャブ』です!」


「軽いジャブで財務省と国防省が半年ケンカしてたんですがそれは」


真理のツッコミは、今日も冴えていた。


与一郎は、できればこのまま馬車ごとカシュガルにUターンしてほしいと真剣に思った。



帝都保全省・会議室第七。


重厚な木の扉が開き、背広と軍服の男たちが一斉に振り返る。

その視線を正面から受け止めながら、絵里は堂々と歩み出た。


「本日は、お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます」


低く会釈をし――


「大日本帝国・鴨志田侯爵家当主代理、鴨志田与一様の、一の家臣、○○絵里――もとい、エリザベスでございます!」


なぜか自分の名前だけ英語風にねじ込み、胸に手を当ててポーズを決めた。


隣で与一郎は椅子に座ったまま固まる。


(当主代理なんて一言も言ってないんだけど……)


保全省局長が、眉間に皺を寄せた。


「当主代理……? 鴨志田侯爵殿は本日は――」


「ご多忙につき、本日は坊ちゃま――与一郎様に、全権を委任されています!」


「えっ」


思わず声が出た。

絵里はすかさず背後を振り向き、にっこり微笑む。


「そうですよね、坊ちゃま?」


「ぼ、僕なんか何も――」


「ほらぁ、坊ちゃまったら、また謙遜なさって。

 “世界はPAKKOMANNに包囲され、日本は孤立しつつある。

 この状況で、カシュガルとKTIとPAKKOMANN-Eの核心技術を握る鴨志田家の後継者が決断を先送りするなど、あり得ない”」


一気にまくしたてる。


「――と、昨夜、寝物語に語ってくださいましたものね!」


「言ってないよ!!?」


会議室の空気が、薄く凍った。


真理が、カバンの中でひそかにメモを取る。(※後で坊ちゃまにカウンセリングが必要)


ゆりは(坊ちゃま、今晩泣くな…)と悟った目で天井を見上げていた。



「本題に入ろう」


局長が咳払いをして、空気を立て直そうとする。


「本日は、PAKKOMANN対策のため、保全省と鴨志田家との間で――」


「共同戦線です!」


絵里が食い気味に割り込んだ。


「PAKKOMANNを焼き払い、帝都と坊ちゃまの将来を守るため――

 “帝都・坊ちゃま親衛PAKKOMANN殲滅旅団”の創設を提案いたします!」


「何その名前」


与一郎は心の中で泣いた。


局長は、額に指を当てる。


「旅団、だと? 部隊編成は軍の所管だ。保全省は――」


「ご安心ください、軍とも話はついております!」


ついてない。絶対ついてない。


絵里は、どこから出したのか巨大な紙をどん、と机の上に広げた。

そこにはいかにも手書きの編制図と、妙にデフォルメされたPAKKOMANNのイラストと、「殲滅!」の文字が踊っている。


「見てくださいこの編成。

 一個中隊あたり“坊ちゃまバッジ”を標準配備し、士気を高めます。

 さらに、各分隊の名称は『第一ゆり隊』『第二真理隊』『第三絵里隊』――」


「自分の名前入れてんじゃねえよ」


真理が即座にツッコむ。


「でもほら、真理、格好良くない? “真理のPAKKOMANN殲滅隊”よ?」


「嫌です。論文のタイトルみたいになってるじゃないですか」


「じゃあ“マリリン・キリング・パッコマン隊”にする?」


「余計ひどいです」


局長は、ふっとこめかみを押さえた。


「絵里殿。鴨志田家は確かにPAKKOMANN-Eから得た技術の一部を独占している。だからと言って、勝手に帝都の編制に――」


「勝手じゃありません!」


絵里は、満を持して“本命カード”を取り出した。


「こちらをご覧ください」


それは、鴨志田侯爵の花押と、統合参謀本部の印章が並んだ文書だった。


――(※昨夜、坊ちゃまが寝落ちした後、枕元にそっと置いてある認め印を拝借して作成したもの)


「『鴨志田家は、帝都保全のため、保全省のPAKKOMANN対策行動を全面的に財政支援する』」


読み上げる声が、やけに誇らしげだ。


「但し、“坊ちゃま親衛旅団”の創設と、“坊ちゃまの日”の制定をもって――」


「ちょっと待って」


与一郎は、ついに立ち上がった。


「そんなの、本当に父さんが――」


「昨夜、ちゃんとご説明したじゃないですか、坊ちゃま」


絵里はにっこり笑う。


「『帝都が無事で、PAKKOMANNが燃えて、ついでに坊ちゃま人気が爆上がりするなら、多少の出費は構わない』って」


「そんなこと言った記憶はコレっぽっちもないんだけど」


「坊ちゃま、昨日の夜、酔ってらっしゃいましたからね」


「僕そんな年じゃないよね!?」


会議室の端で、若い官僚がプルプル震えていた。笑いをこらえるのに必死で。


局長は、深く、深く、ため息をつく。


「……財政支援の規模は」


「こちらです!」


また巨大な紙。

そこには、帝都年間予算の三分の一に相当する数字が、どーんと書かれていた。


「これだけあれば、帝都の防衛も、旅団の創設も、ついでに“坊ちゃま記念PAKKOMANN撲滅パレード”もできます!」


「パレード!? 聞いてない!!」


「坊ちゃま、前から言ってたじゃないですか。“可愛い子が一列に並んで歩くの見るの好きだなぁ”って」


「それ単に登下校の話だよね!?」


真理は、こっそり与一郎の袖を引いた。


「坊ちゃま、諦めましょう。

 ここで『そんなこと言ってない』と反論すればするほど、“裏で坊ちゃまが糸を引いてる”って思われますから」


「既に思われてる気がするんだけど……」


ゆりは、小声で「坊ちゃま、かっこいい……」と呟いていた。

彼女の中では、“世界の予算を動かす男”という新たな属性が加わったらしい。



結局。


その日のうちに、帝都保全省は「PAKKOMANN対策における鴨志田家との協力覚書」を締結。


同時に、新聞各紙には見出しが躍った。


『鴨志田与一郎様、帝都防衛に私財投じる』

『若き侯爵家嫡男、“坊ちゃま旅団”創設へ』

『帝都の少女たちに大人気!? 謎のイケメン御曹司の素顔』


――そして。


家に戻った与一郎の元に届いたのは、帝都財務局からの一通の書類だった。


【鴨志田与一郎様

 帝都保全省PAKKOMANN対策特別協力金 ご負担予定額】


桁が多すぎて、視界が白くなった。


「……えり」


「はいっ、坊ちゃま!」


台所から顔を出した絵里は、エプロン姿で満面の笑みだ。


「お夕飯、今日は特別に“坊ちゃまの未来にふさわしい豪華カレー”ですよ! 帝都で一番高い牛肉仕入れちゃいました! もちろん、帝都滞在経費として全部まとめて“坊ちゃま経費”で落ちましたから!」


「“坊ちゃま経費”って何……」


与一郎は、書類を握りしめたまま、その場にへたり込んだ。


真理が背中をぽんぽんと叩く。


「坊ちゃま、大丈夫です。

 数学的に言えば、“世界中の人間がPAKKOMANNに食われるコスト”よりは安いです」


「慰めになってないよ……」


ゆりは、カレーの匂いに釣られてふらふらとキッチンを覗き込みながら、


「さすが坊ちゃま……帝都の腹も満たす……」


と、よく分からない尊敬の視線を送っていた。


絵里はと言えば、そんな三人を見回してから、にこり、と“悪い”笑顔を浮かべる。


「ほら、坊ちゃま」


皿を差し出しながら、軽くウィンク。


「全部、“坊ちゃまのため”ですから」


――そして、全てのツケは、きれいに鴨志田与一郎の名義におっかぶせられるのだった。


じっくり思考

ChatGPT の回

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