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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
9/19

vsジルツァーク。

「どこのどいつよ!」

そう言って現れたジルツァークは世界を置いてある場所ではなく広場に現れた事に驚いたと思う。


今皆は隠匿神さんの力で見えなくされている。

見えているのは私とアートとタカドラだ。


「っ…!?アンタ…タカドラ!?何で生きて?何で神界に居るのよ!?

まさか…加護を外しても強制してもダメだったのはアンタが私のジェイド達に加護を与えていたのね!」

「そうだ。ジルツァークよ。少し冷静になって話し合わないか?」


「誰が!よくも邪魔をしたわね!それよりも赤毛の神ってアンタね!子供だからってなんで人の世界にちょっかい出してるのよ!」

ジルツァークの怒りは止まらない。

正直これは甘んじようと思っていた。

だから私とアートとタカドラで待ち構えた。


「アート、それは謝りなさい」

「うん」


アートは一歩前に出るとキチンと頭を下げてジルツァークに謝る。


「こんにちはジルツァーク。エクサイトに関わった事はごめんなさい」

「アート?アンタまさかあのお騒がせ集団の…?」


…え?

私達の認識ってお騒がせ集団なの?



「そんな事はいい!なんで余計な真似をしたのよ!」

ここで私が前に出る。


「はじめましてジルツァーク。私は人間の名前は伊加利千歳。神としては調停神チィト」

「噂の半神半人ね?何中途半端なクセに神にたてつくの?」

ジルツァークが挑発的な顔つきで鼻で笑いながら私を見る。

明らかに半神半人を見下している感じだ。

怒っているからと言うのもあるだろう。


「怒りはわかるわ。アートがエクサイトを知ったのは偶然だった。人の世界に関わるのもよくないと思ってキチンと言い聞かせた。だから今も謝らせた」

「だったら手を引きなさいよ!」

ジルツァークが身振り手振りで怒る。


「ダメ。私はあなたの命を軽んじる姿が許せない。沢山の人を泣かせて困らせて見てられない。今すぐに反省をしてタカドラとエクサイトを救うかエクサイトをタカドラに任せてあなたが手を引いて」

「ふざけんじゃないわよ!アンタもそのチビもタカドラも皆倒して目の前でエクサイトを壊してやる!」


やはり怒ったジルツァークは止まらないか…。

「アート、やるよ」

「うん。リュウさんは危ないから下がって」


「お姉様、イロドリ様、危険です。私もお手伝い…」

「いらない」

「うん。リュウさんは下がって」


「何余裕かましてんのよ!半神半人と子供の神が!!」

ジルツァークが猛進してくる。

手はタカドラを殺そうとしたときの光っている拳だ。

まあ、当たったら痛い。その程度の攻撃だ。


「アート、やりなさい」

「うん。神の力、爆発」


直後にジルツァークの眼前が光って轟音を立てる。

「ぎゃっ!?」

ジルツァークが後方に吹き飛ぶ。

仰向けに転がったジルツァークは何が起きたか理解しかねている。


「ジルツァークお願い、ジェイドと話し合って?」

アートが困り顔で近寄るとジルツァークに説得をする。

ここでアートの攻撃で自分が倒された事に気が付いたのだろう真っ赤な顔で更に怒る。


「っ…!?ふざけんじゃないわよ!!この子供はあの創造神と装飾神の子供だから強いだけでこっちの半神半人なら!どうせ強いなんて言うのも噂に過ぎないわ!」

ジルツァークが起き上がって私めがけて走ってくる。



「ジルツァーク、やめなさい」

「何を偉そうに!やめて欲しいなら懇願しなさいよ!」


「私、あなたにムカついているの。攻撃をされたら容赦出来ないからそうならないように止めてあげたんだよ。止まらないなら攻撃するからね」

「何様のつもりよ!たかだか半神半人のクセに!!」


「神如き力!光の檻!【アーティファクト】!」

私は瞬時に光の檻を展開してジルツァークを閉じ込める。

いきなり爆発は可哀想すぎる。まだ話し合いが通用するかもしれない。


ガンっと言う音を立ててジルツァークは檻にぶつかる。

ジルツァークは光の檻を触りながら「な…何この檻…」と言っている。


「この檻はジルツァークには破れないよ」

「うるさい!」

ジルツァークが檻を殴るが傷一つ付かない。

うん。あまり弱い者いじめはしたくない。


「もうやめようよ。ジェイドの所に帰って共存の話し合いをして?」

「うるさい!黙れペチャパイ!」


……

………


「は?」

今なんて言った?


「あ…」

アートがそそくさとタカドラの所に下がっていく。


「イロドリ様?」

「リュウさん、ここは危ないから後ろに下がろう」

アートの表情を見て察したのだろう。

タカドラはそれ以上何も言わずにアートと東さん達の所まで引き下がる。


「何?図星?気にしてんの?私みたいなグラマラスでセクシーな女神が羨ましくてこんな事した…」

「私はまだまだ成長中なのよ!!頭きた!優しくしてやってればいい気になって!

そのクソ生意気な性根を叩き直してやる!

後悔しろジルツァーク!!神如き力!殺したくないから先端を丸めたトゲ地獄!!【アーティファクト】!!」


光の檻からジルツァークに向けて無数のトゲが飛び出たり引っ込んだりを繰り返す。


最初は辛うじてかわしたジルツァークだったがあっという間に捌ききれなくなって先端が丸いトゲが体に当たる。


「感電」

ジルツァークの身体にトゲが当たるとその瞬間に電気が流れる。


「きゃぁぁぁぁっ」

ジルツァークは感電しながら苦しむ。

しばらく苦しめてからトゲ地獄をやめてやる。



**********



ジルツァークは電気ショックに苦しんで肩で息をしている。

「はぁっ…はぁっ…」

「なに?もうおしまい?だらしない。神なのに半神半人にやられて情けない」

胸の話はタブーだ。

それをしたジルツァークを許してなるものか。徹底的に痛めつけてやる。

貧乳軍団なめんな。


「ふざけんじゃないわよ!」

ジルツァークが光る拳で檻を殴るが甘い。


「あらら、残念。この檻はね…さっきと違って一撃で破壊できなきゃ威力が跳ね返るようにしたんだよね」

「は?」


その瞬間に光る拳がジルツァークに跳ね返る。

「キャン!?」


…可愛らしい声を出して蹲る姿すら性的アピールに見えてきて憎らしい。


「ジルツァーク、もう一度だけ言ってあげる。ここで参りましたをしてジェイドと共存の話し合いをするならやめてあげる」

「うるさい!黙れペチャパイ!!」


ほう、まだ言う根性があるか。

後で聞いたが私は相当怖い顔をしていたらしい。


「……死なないでねジルツァーク」

「へ?」

ジルツァークが青い顔でこっちを見る。


「ひとつ教えてあげる。さっきのアートの爆発はせいぜい3の威力。

これから私がやる爆発は45って所。

これでも本気の爆発の半分にも満たない威力なの。

意味わかるかな?

もう一度言うね。

死なないでねジルツァーク」


「ひぃっ!?ちょ…待って!」

「爆発!【アーティファクト】」


閃光と轟音

でも広場に被害が出ないように防壁は張る。


大爆発の後、爆心地にはボロボロになったジルツァークが放心状態で横たわっていた。

服はボロボロで元々露出の高いジルツァークはお見せできない姿になっていたので神如き力で服を直して着させてやる。


「懲りた?」

私は優しい笑みを浮かべてジルツァークに聞く。


「……まだよ。私のエクサイトが覗かれたならあの子の親の世界を覗いて滅茶苦茶にしてやる!」


そう言うとジルツァークは世界が置いてある場所に消える。

世界の保管場所はここにあるけどここじゃない不思議な場所。

きっと移動できたジルツァークはしてやったりと思っただろう。


甘い。

誘導されたんだよ。


私はジルツァークを意識だけで追う。

「アイツの親の世界は地球の横って言っていたはず!どこよ!?」

ジルツァークが地球の横で必死になってガーデンを探している。


「東さん」

「わかったよ千歳。あ、長引きそうだからエクサイトの時はタカドラに止めさせたからね」


「あ、そっか。ありがとう」


東さんがガーデンの不可視モードを変更する。

許された神には見えるモード。


「あった!今から仕返しよ!!」

ジルツァークが手を光らせて嬉しがる。

罠にはめられる意識が足りないなぁ。

通知表に「落ち着きがありません。もう少し落ち着きましょう。注意力散漫です周りをよく確認しましょう」と書いてあげたい。


「テッド!予測完了。最初はサルディニスだよ!」

りぃちゃんがジルツァークの癖なんかを看破して次にどう行動するかを先読みする。

予知ではないがりぃちゃんの看破神としての実力なら予知に引けは取らない。


「任された。行ってくるぞリリオ。チィト、後は任せてくれ」

そう言って消えたテッドはオプトの屋敷に降り立つ。

もう知り合いは居ないがテッドはサードと言うとオプトの屋敷に行きたがる。



「1番若い世界!ここにしてやる!」

りぃちゃんの予測は的確率が半端ない。

サードに飛び込むジルツァーク。

それにしてもジルツァークってなんでサードを見て若い世界なんて気が付いたんだ?


「千歳のお陰で成長している」

「はぁ?」

突然横に現れた地球の神様がそう言う。


「攻撃を受け真正面からぶつかってくる千歳達と言う壁があるからジルツァークは憑物が落ち始めている。言うなれば止まっていた成長が始まっているのだ」

「なるほどね」


ジルツァークに目を戻すと、サードに入った瞬間に景色の美しさに息を飲む。

東さんの世界は景色だけじゃない。

風も何も綺麗だ。


「何ここ…、これが本物の世界?創造神が創り出せる世界?」

ジルツァークは一瞬泣いた。


一瞬泣いて次の瞬間にはまた悪い顔に戻る。


「そんな事より復讐よ!…どうせ私は偽りの女神!こんな世界アトミック・ショックウェイブで汚してやる!!」

「させるわけがない」


「何!?何処!?」

「【エレメントソード・ファイヤ】!!」

テッドのエレメントソードが16本飛んできてジルツァークをこれでもかと切り刻む。


「きゃぁぁぁぁっ!!」

一瞬で傷だらけになったジルツァークの前にテッドが現れる。


「もうやめろ」

「アンタ何!?」


「俺は創出神」

「くっ…アンタが噂の…」

テッドは神の世界でも有名人だからジルツァークも知っていたか。


「もうやめろジルツァーク。これ以上サルディニスを狙うなら次は命に届く攻撃をするぞ」

「くそっ!もういい!別の世界を壊してやる!入った瞬間にエンドレスフリーズで凍らせてやるんだから!!」


ジルツァークは涙目でサードを後にする。



「テッド、お疲れ様。りぃちゃん?」

「うん。次は予測通りならコピーガーデンかな?」


「黒さん」

「もう準備万端さ」


「…同時進行しながら神相手に戦闘もするの?」

「余裕さ」

確かにコピーガーデンに意識を向けると神殿の屋上で黒さんが嬉しそうに待ち構えている。


「今度はここよ!」

コピーガーデンに飛び込んだジルツァークは「食らいなさい!エンド…」の所で黒さんの光の剣に切り刻まれる。

これでも黒さんは待ってあげた方だ。


「何これぇぇぇっ!?」

「僕の世界に手を出すなんて馬鹿だな。帰りなよ。長居するなら殺すよ?」

黒さんの声が光の剣から聞こえる。

また機能を追加したのか…。


「くそっ!何処から!?同じフィールドに居ないから攻撃がわからない!?」

「まだ居るの?」

容赦ない黒さんの攻撃で更に傷だらけになったジルツァークはヨタヨタと外に出る。


「うわ、エゲツない」

「よく言うよ、さっきのチトセだって十二分に怖かったよ」


「黒さんのが怖いわよ」

「いーや、チトセだね。帰ったらフィルさん達に見せて決めてもらうからね」

黒さんが楽しそうに私との掛け合いを楽しむ。

まあ、これくらいならいいでしょう。



「ちぃちゃん、次はセカンドだよ。お兄さんに映像を送るね」

「ありがとう」


ジルツァークは外に出て傷を癒すとセカンドに入る。

「ツネノリ!頼むね!」

「任せるんだ千歳」


ツネノリは決闘場に居た。

なんて事ないのにキチンと身構える辺りが真面目だなぁ…って…ん?


「ツネノリ?なんで横にメリシアさんが居て全身鎧に身を包んでいるのよ?」

「夫婦だからな」


ツネノリが当たり前だろう?何を聞くんだ?と言う声で聞いてくる。


「はぁ?」

「うふふ、千歳様。私だって折角の強敵と戦いたいんですよ?」

メリシアさんが伸びをしながら嬉しそうにしている。

本気ではないから兜は被っていない。

子供を産んだと思えない美しさが凄い。


「いや…あのね?昨日も言ったけどジルツァークは強くないんだよ…」

私が釘をさすが2人に言葉が届かない。


「来たぞメリシア!小石ひとつ入れさせるものか!千歳!奴の命に届かないように防壁を張れ!」

「はぁぁぁぁっ!?ちょっと!」


「うるさい!失敗したら千歳のせいだ!メリシア迎撃しろ!」

「はい!【アーティファクト】…」


ヤバい!

メリシアさんの攻撃はアーティファクト砲だ。

ジルツァークが死んじゃうかもしれない。


「バカ!なんで夫婦してノリノリなのよ!神如き力!防壁!」

私が慌てて力を使うがメリシアさん達は待った無しだ。


「【アーティファクト】!」

空間の揺らぎを見たツネノリがジルツァークの出現位置に向けてメリシアさんにアーティファクト砲を撃たせる。

メリシアさんもこの6年結婚と育児だけに生きたわけではない。

あの全身鎧もアップデート済みで左肩に貯めておく雷の力を一気に全開放できるようになっていたし反動で身体を痛めつける事もなくなっている。


1人で生み出した巨大弾が地表から上空のジルツァークに向けて飛んでいく。


「今度こ…」

今度こそと言おうとしたジルツァークに雷球が直撃する。


「きゃぁぁぁぁっ!!」

防壁張らなかったら死んでたかもしれない。


「命中ですよツネノリ様!後は格好いいところを見せてね!」

「ああ、行ってくる!「瞬きの腕輪」よ見えているな!上空まで飛ぶぞ!【アーティファクト】」


げ…あのバカ無理矢理上空に行くつもりだ。

着地はどうするつもりだ?私頼みか?


「チトセ、面白いからこのまま見よう」

「はぁぁぁっ?」


後ろでは王様の他に戦神や時空お姉さんなんかも楽しげにりぃちゃんに出して貰った映像を見ている。


「帰るんだジルツァーク!」

「人間?今の攻撃はアンタなの!?それにその魂、アンタあの半神半人の身内ね!許すものか!」


ジルツァークがアーティファクト砲で焦げ焦げになりながらアイスランスを出す。

「甘い!【アーティファクト】!」


ツネノリは火を出してアイスランスを全て溶かしてしまう。


「はぁ?何その火力!?」

「諦めて帰るんだ」


「うるさい!落下中の人間に言われたくない!」

「仕方ない。千歳!殺さないように防壁を張ってやるんだ!72本!【アーティファクト】」

6年前は辛そうに出していた72本を平気そうに出すツネノリ。

だが問題はそこじゃない。


「バカ!重い!重い!!重い!!!」

私は慌ててジルツァークの命を守る。

1本でも命に届く剣を72本も出すなよ!


「またこれ!?痛い!!」

ジルツァークは3度目の飛び交う剣に慌ててセカンドを後にする。

だが今の問題はジルツァークよりツネノリだ。


落下速度は瞬間移動では消し去れない。

こうしている今もツネノリは加速していく。


「千歳様は見ていなかったんですね?」

「へ?」

ジョマに言われて私は聞き返してしまう。


「ツネノリ様は対神戦を意識して飛べない代わりの技を考えていたんですよ?」

「何やってんだよ…」


「着地は2種類ありますけどどちらにするかしら?リリオ?」

「予測では風です」


りぃちゃんがシレっと答える。

風ってなんだ?


「あら氷も格好いいのに」

「なかなか溶けないのを気にしていましたからね」


「りぃちゃん?」

「今追跡したんだよ。お兄さんは格好いいねぇ」


りぃちゃんが褒めるツネノリは地表が見える位置まで落下していた。

「風!【アーティファクト】【アーティファクト】」

身体の周りに上昇気流を出したツネノリは落下速度を緩めるが今更だ。


「暴風!【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」

はぁ?


たった3つの暴風で落下の威力を消し去った。

ふわりと舞い降りるように着地するツネノリは「ふぅ」と軽く言って何事もない顔をする。


「それだけじゃありませんよ」

そう言ってジョマが指さしたのはツネノリの足元にある花だった。


「あれだけの風を放ったのに…花が無傷?」

「勇者が草花を傷付けてなるものかって練習されたんですよ」

りぃちゃんが感動をしながら言う。


「よくやるよ。りぃちゃん、あんまり時間ないけど氷って何するの?」

「見る?」


そう言って届いた映像は超高速で落下してきたツネノリが巨大なスライダー状の氷山を作って落下エネルギーを上手いこと反らしていた。


まったく、お小言は後にして次だな。後はお父さんとビリンさんか…。



**********



「千歳、ツネツギはさっきの話通り僕がフォローをするよ」

東さんが私の横で楽しそうに言う。


「いいの?」

「ああ、千歳は見ていればいいよ」

東さんがそう言うって事は、ジルツァークはファーストに入るのだろう。

それにしても東さんはお父さんが好きだよなぁ。


「京太郎?」

「ああ、やるよ見ていて」


「へ?」

「ふふ、装飾神のお節介と最高の創造神の面目躍如よ千歳様」

訝しむ私を見てジョマが笑う。


「僕は甘くないからね。ジルツァークの出現位置をオーロラの丘に指定」

東さんがそう言うとファーストガーデンに入ったジルツァークは基本的に指定しなければセンターシティに現れるのにオーロラの丘にいた。


「何ここ…オーロラ?

すごい綺麗…何でこんなに綺麗なの?

どうして私には作れないの?」

ジルツァークはそう言って泣き出していた。

それを見て1つの事を思い出していた。


「…私、初めてセカンドに行った日、上空から見た景色、地平線と水平線そして星空に感動して泣いたよ。

すごく綺麗な世界で心が洗われたの。

ムシャクシャした気持ちもモヤモヤも全部消えた。

今ジルツァークも同じなのかな?」

「そうよ千歳様。私は千歳様にそう思ってもらいたくてあの日出現位置に細工をしたの」


「千歳、僕はその事を後で知って嬉しかったよ。僕の世界で喜んでくれた君の存在が今の僕を作っているよ」

「東さん」


「だからジルツァークにも素敵な景色を見せて心を洗わせてあげたいのよ」

「ジョマ」


「京太郎、千歳様にも内緒のスポットをジルツァークに見せてあげましょう!」

「そうだね。千歳は神化しないと少し大変な場所だけど見てみて」

「え?ファーストは踏破したつもりだったんだけどな?」

東さんとジョマの嬉しそうな顔。

余程とっておきなのだろう。私も楽しみになる、


東さんの声が映像の中から聞こえる。

「やあジルツァーク。はじめまして。僕は創造神」

東さんの声が聞こえたジルツァークは慌てて涙を拭う。


「何!?自慢!?どうせ偽物の私には作れない世界を見せるなんてやな奴!」

心が凝り固まったジルツァークには東さんの好意が伝わらない。


「あらあら重症ね。私達は千歳様に出会えて救われたけどジルツァークにはそう言う存在が不足していたのね」

「ジルツァーク、君にもできるさ。やり方を知らないだけだ。僕も僕の妻も君に作り方を教えよう。僕達は君が教わりに来るのを待つよ。もう一つ、僕の自慢の場所を見てくれ」


そう言った東さんはジルツァークを空高くに移動させる。


「空?赤と青と紫と、雲と星と…綺麗」

ジルツァークはまた泣いていた。

本人は泣いたことすら気付いていない。


黄昏時のマジックアワーを切り取ったような場所。

私は映像だけなのに泣きたくなる。

すごく綺麗な世界。

思わず「東さん、綺麗だよ。すごく綺麗」と声にしていたら嬉しそうにジョマが抱きしめてくれた。


「ジルツァーク、気にいってくれたかい?ここは黄昏の空と名付けた場所さ。

僕達が作り方を教えるから君もエクサイトにこの空を作るんだ」

「出来るわけない!私は偽りの女神ジルツァーク!自慢しないで!こんな世界滅茶苦茶にしてやる!!」

自分の正体を知らないジルツァークが癇癪を起こす。

でも自身を知ろうとしなければ言っても無駄だ。


「気が向いたら言ってくれ。だが君が敵対をするなら僕は迎え撃つよ。ツネツギ!」

東さんがお父さんを呼ぶ。


「ったく!俺は空を飛べんぞ!?」

そう言ってジルツァークの前に現れたお父さんが光の剣を構える。


「ツネツギ、瞬間移動を繰り返して頑張って維持するんだよ」

「おい!飛ばせよ東!なんで俺だけこんな扱いなんだよ!千歳!助けろって!」


お父さんが情けない事を言いながら瞬間移動を繰り返して落下を誤魔化している。

だが落下速度は溜まっていく。ちょっとでも油断をしたら大変な事になる。


「あはは、やればできるじゃないかツネツギ」

「笑い事か!?」

東さんが頑張るお父さんを見て笑っている。


「…アンタ、さっきの紫頭の人間と天界に居た半神半人に似てる」

「俺の自慢の息子と娘だな」


「何が自慢よ!忌々しい!絶対に殺してやる!何がなんでも殺してやる!」

「…………おい…」

お父さんの空気が変わった。

それは映像の向こうの事で自分に向けられた物でもないのに背筋が凍る。


「俺の子供を殺す?冗談でも許さんぞ?撤回をしろ」

ヤバい。お父さんがキレた。


「東さん?」

「ツネツギが怒ったね。ジョマ」

「やるわよ京太郎、千歳様」


そんな会話をつゆ知らないお父さんは恐ろしい顔でジルツァークを睨む。


お父さんの圧に怯えた素振りなのに負けず嫌いのジルツァークは「な…何よ!アンタこそ子供達を守りたいなら私に謝りなさいよ!それよりもこの世界に毒を撒き散らしてやる!」と火に油を注ぐ。


「子供達もファーストの皆も俺が守る!【アーティファクト】」

ブチギレたお父さんの光の剣は綺麗な青い光を放つのだが私には危険な光にしか見えない。



**********



「お父さんのバカ!ジルツァークなんかにやれるわけないんだから笑い飛ばしてよ!神如き力!防壁展開!」

「ジョマ、やろう」

「ええ、京太郎」


3人で防壁を張る。

だが直後にはまさかの出来事。


「私の防壁が斬り裂かれた!?」

「破るんじゃなくて斬り裂くからだ!ツネツギの剣が鋭すぎる!」

「まずい!ジルツァークが!」


「王様!黒さん!時空お姉さん!アートも手伝って!!」

私は思いつく限りの人たちに声をかける。


「ったく、ツネツギは大人気ない!神如き力!ムラサキさんも呼ぶ!【アーティファクト】!」

「本当、でもツネツギはアレだけやれるのに僕達にはあの剣を向けないから困るよね【アーティファクト】」


「時間介入するよ!それでも危ない!治癒神2人!ジルツァークを回復し続けて!」

「ええぇぇぇ?何あのおじさん。千歳のお父さんってヤバすぎ」

「傷の再生速度を強める!」


「うぅぅ、パパもママも千歳もなんか違う!アートはツネツギの剣にカバーをつける!!」


…私達の防壁は見事にブチギレたお父さんによって斬り裂かれた。

追加の王様と黒さんの防壁も斬り裂かれる。

アートの考えが1番正しかった。

お父さんの剣をアートの力で覆ってナマクラにしてくれた。


時空お姉さんが時間介入をしてくれてジルツァークは傷がつく瞬間にナースお姉さんと先輩お姉さんが傷を治してくれた。


これでもジルツァークの怪我は相当で青い顔をしてファーストから撤退していた。



「ちっ…殺し損ねたか…」

怖い顔はとっくに終わっていていつもの情けないお父さんになっている。


「バカ!何やってんのよお父さん!殺しちゃったら神殺しで神化しちゃうでしょ!?」

「あ、いや。大事な家族を守る為なら致し方ないかと」

そう。お父さんの大切なものは家族だ。家族に害が及ぶ時、何事も差し置いて家族優先になる。


「ったく…お疲れ様。それでも無茶しすぎ。私と東さんとジョマと王様と黒さんとアートの力でも足りなくて時空神のお姉さんと治癒神のお姉さん2人がかりで防いであれだからね?」

「何?そんなに本気じゃないぞ?まあいいか。おい東。千歳でもジョマでもいいが、早く地表に返してくれ俺は落下してるぞ」

確かにお父さんの落下速度はとんでもないことになっている。


「ツネツギ?君、あれだけの事をしておいて助けてもらえるとか思ってないよね?」

「何!?」

東さんの冷たい言い方。


「ほら副部長はガーデン限定の自動再生がありますから地表に激突してもなんとかなりますよね?」

「バカ!ジョマ!アレは死ぬ程痛いんだぞ!外の身体に悪影響出たらどうすんだよ!!」


「ツネツギ、ツネノリはやってのけたよ?ほら映像をあげるよ」

「おい!ツネノリは風の力があるからだろ!」


「まあ副部長は泣き言を言いながらやり遂げるし千歳様のお父様だからこの瞬間もなんとかする方法を考えている事ですし、私達は温かく見守りますね」

「何!?お前達は本当にタチが悪い!どうして俺にばかり扱いが悪いんだ!」


「ツネツギ、見事やり遂げたら評価アップで退職金もウハウハだよ。老後は千明と安泰だね」

「…何!?言ったな東?その言葉に二言はないな?」

お父さんはケチツギの本領発揮で目の色が変わる。


「ええ、お約束します。まあツネノリ様は勇者として草花すら守ると言い切りましたからそこまではやってもらいますよ?」

「んぎぎぎぎ…どいつもこいつも無茶を言いやがる。俺は50過ぎた爺さんなんだよ!「勇者の腕輪」よ!俺に付き合ってくれ!【アーティファクト】」


そう言ったお父さんは光の盾を展開する。


「この先が問題だよね」

「ええ、ツネツギ様なら「勇者の腕輪」で出した光の盾ならノーダメージ着地ですけど、衝撃が発生しますからね」


…なんか、ジョマと東さんは嬉しそうだなぁ。

まあウチのお父さんなら助けなくてもなんとかしそうな気がするから不思議だ。


「盾の形状をパラシュート化して落下速度の軽減してと。あー、やだやだ。覚えてろよ東ぁぁぁっ!」


お父さんの盾は前にしか展開していない風に見えるが実は全方位を守っている。

そのおかげで落下速度は見事に落ちている。


地表が見えてきた。

「げっ!センターシティの浜辺!?馬鹿野郎なんて所に落ちるんだよ!下手したら津波が起きるぞ!東っスタッフとプレイヤーの避難勧告!」


「済んでるよ」

東さんがケロっと答える。


「だったら俺の事も助けろよ!

クソっこんなのは千歳の分野だろ?

イメージ!盾の周囲にもう一段階の防御範囲。

メッシュ状で衝撃に弱い代わりに衝撃を吸収して折れる感じ!」


「おお、そうきたか。やるねツネツギ」

「本当、千歳様の創意工夫はお父様譲りですね」


お父さんの周りに網になった光の盾が何重にもなって展開される。

砂浜に叩きつけられるとバキバキと音を立てながら網が折れるが衝撃なんてものは発生しない。全ての衝撃を壊れる事で抑えていく。

あっという間に着地をするお父さんは「あー、死ぬかと思った」と言ってホッとする。


「おめでとうツネツギ。退職金アップだね!」

「バカ東!今度俺でも装備できる飛翔のアーティファクトを作っとけ!」

お父さんは文句たらたらだが東さんは楽しそうだった。



「ちぃちゃん、ジルツァークが回復したよ」

「うん。後はゼロガーデンだね」



**********



ジルツァークが攻め込むのは残りゼロガーデンだけになった。

ジルツァークはお父さんに付けられた傷を治療したらゼロガーデンに攻め込んでくるだろう。


「神様、今のやつビリンにもやっていい?」

「はぁ?」

それを待つ間に王様がとんでもない事を言い出した。


「キヨロス?」

「見てみたくなったんだよね」

驚く東さんに王様がウキウキしながら話しかけている。


「僕も見てみたいな。最悪はチトセがフォローしていいからさ」

「バカじゃないの?自分の息子でしょ?」

黒さんが話に乗っかってきて益々収集が付かなくなる。


「ジョマ、こういう刺激って世界の為にも大事だよね?」

「はい!」

そう言われればジョマは大抵否定しない事を知って言っているな。


「…ビリンさん死んだらガーデンも神の世界も滅ぼすわよ?」

「平気さチトセ。僕の息子はそんなヘマをしないよ」

良く言うよ…なんかもう諦めた。


「ちぃちゃん…」

「りぃちゃん…」

りぃちゃんが心配そうに話しかけてくれる。

私は大丈夫だよ。いつもの事だもんと言おうとしたのだが…。


「魔王さんと黒魔王さんが同時進行でビリンさんに今の映像見せてるよ」

「はぁぁぁぁっ?」


もうかよ?

私は慌ててゼロガーデンを見る。


「ビリン?見たね。今のがツネノリの着地」

「こっちがツネツギの着地だよ」


「父さん?黒父さん?まさかとは思うけど俺にこれをやれと?」

「当然だろ?」

「僕の子供なんだからそれくらいしなよ」


「「やらないとチトセとの結婚を認めないよ?」」

「おいぃぃ!?何を言い出すんだよクソ親父!クソ老害!!」

まったくだと思う。最悪お前達の祝福なんか抜きにして一緒になるぞ?


「やればいいだけなのに泣き言なの?」

「ビリンは昔から泣き言が多いよね」

「やります!やらせて貰いますよ!あれだろ?ジルツァークを倒して上空から綺麗に着地すればいいんだろ?」


「そうだよ。気持ちの良い返事はいいね」

「チトセも見てるから頑張りなよ」

王様と黒さんの満足そうないい方。

呆れるビリンさんは私が見ている事を察して余所行きの顔で一瞬微笑んでくれた。

そして口を開いてこう言った。


「ったく。チトセ!心配すんなよな」

そう言われると少しホッとするものの「…なんか失敗しそうだよね」と思ったままを言ってしまう。

まあこの場合の失敗はジルツァークを殺してしまうか、着地で格好つけて打ち身をするかとかそう言う事だ。


「チトセ酷え」

ビリンさんが笑いながら言う。

こんな時でも自然体なのは凄い。


「ビリンさん!ジルツァークがゼロガーデンに入ったよ!」

「あんがとリリオ!父さん!やってやるから上空に飛ばせって」



ビリンさんの掛け声でビリンさんは上空、ジルツァークの前に瞬間移動させられる。


「ようジルツァーク!もう諦めろって?な?」

「何よアンタ?また人間が!」

ジルツァークが臨戦態勢になった瞬間ビリンさんは動く。


昔以上にビリンさんは容赦ない。

瞬間移動で好みの距離まで飛ぶと「爆破の小剣」を二振り出してジルツァークに突き立てる。


「爆破!【アーティファクト】!」

ジルツァークを吹き飛ばすとそのまま連続攻撃に入る。


「神如き力!光の剣!」

ビリンさんは「革命の剣」と私の光の剣を学んで作った専用の光の剣を12本出すとジルツァークに突き立てて更に爆破させる。

悲鳴も上げられなかったジルツァークはこの衝撃でゼロガーデンの外に弾き飛ばされた。



「一丁あがり!んで、こっから神殿の屋上に綺麗に着地かぁ…ったく。チトセ、この真下は神殿か?」

ビリンさんが落下しながら私に聞いてくる。


「右前が中心。今は少しズレてるよ!」

「あんがとよ。んじゃあ格好いいところを披露するかね。風はツネノリさんが使ってたから俺は別だな」


「はぁぁぁっ?無理しないで「暴風の腕輪」で着地しなよ」

「父さんから嫌味言われるからやだ。神如き力!光の剣!」


…また呆れてしまう。

ビリンさんは光の剣を出してその上に立った。

1度目は12本全てを使ってその上に着地する事で落下の勢いを綺麗に消し去った。

その後は大体二階くらいの高さ毎に配置した光の剣に器用に飛び乗って降りていく。


「よっ」「ほっ」「はっ」「あらよっと」と軽口を叩きながらテンポ良く降りるビリンさんはあっという間に神殿の屋上に降り立つと私に「チトセ!格好良かったか!?」と聞いてくる。

まあ思いもよらない動きをする事は相変わらず素敵だ。

でも言ってあげない。


「凄いバカ。あ、褒めてるからね」

「チトセ酷え」


ビリンさんはこのやりとりで私の想いを理解して満足そうな素振りで「んじゃ後よろしく〜」と言って帰って行った。



**********



ジルツァークは度重なる攻撃に力尽きてへたり込んでいた。

それを強制的に広場に呼び寄せる。

だが広場に呼んで実際に見て思ったが反省の色も話し合いに応じる気持ちも何もないのがわかる。


「何よ!寄ってたかって!こんな可愛い女の子を虐めて!」

へたり込んだジルツァークは涙目でこちらを睨んでいる。

…少しはマシになった気はするがまだだな。

ちなみに地球の神様は立場的に少し離れたところからジルツァークに見つからないように見守っている。


「ジルツァーク、もうさ外からエクサイトを壊すのをやめて中に帰って勇者達と話してきなよ」

時空お姉さんが呆れながら言う。


「それに創造神と装飾神が助けてくれるって言ってるんだからさ?平和的に済ましたほうがいいよ?」

これはナースお姉さん。


「そうだ。それにもし君が創造をやり直したいならエクサイトはタカドラに任せて君は新天地に赴けばいい」

複製神さんも言ってくれる。


「お願い。エクサイトを壊す事でジェイド達を殺さないで!」

アートがジョマに手を繋がれながら言う。


「ヘイ!美味しいお魚食べてyouもお魚ファンになろうゼーッ!」

「ふむ、とりあえずたこ焼きでも食べるが良い」

…まあ本人たちは真剣なので止めない。


「何よ皆して!どうせ私が偽りの女神だからってバカにして!」


そうか、ジルツァークは自身が偽りの女神だと思い込んでいるからまだ心が凝り固まっているのか…。

そうなるとまだダメだ。

どうしようかな…。

困ったところで王様と黒さんが前に出る。


「最後通告だ。今君に許されるのはわかりましたと返事をして心から気持ちよく実践する事だけだ」

「皆優しいから話してるだけだ。やる?」

あ…、なんか危険な圧を感じる。

慣れ親しんだナースお姉さん達も引いているのがわかる。


「ちょっと王様、黒さん?殺さないでよね!」

「神殺しはゴメンだから殺さないよ」

「うん。殺しはしないよ」

そう言っても2人の顔はとても怖い。


「ジルツァーク!殺されるより酷いことされちゃうよ!早く素直になりなよ!」

私は必死になってジルツァークの手を持って言う。


「ヒィッ!?で…でも嫌よ!」

「ね?言うこと聞いて?嫌なら素直になって。エクサイトを神の世界から破壊するな、キチンと命に向き合えって言ってるの。わかるよね?」

ダメだ、王様たちの好きにしてはダメだ。

私の直感がそう言っている。

だがそんな私の気持ちはジルツァークには届かない。



「なんでこんな半神半人のペチャパイに言われなきゃならないのよ!」

……まだ言うか?

隠し玉の神の力キャンセラーで無力化して貧乳軍団の前に突き出してやろうかな。

実はこの6年で神如き力キャンセラーの上位版の神の力キャンセラーは開発完了していて隠匿神さんの隠匿を今まで以上に簡単に見破ったり隠れてアレコレやって成功している。


でもダメだ。

我慢我慢。


そしてこの言葉で王様と黒さん以外は皆安全圏まで下がっていく。

うん。正しい判断だよ。


「…王様、黒さん?ジルツァークが素直になるまでやっちゃって」

「了解だよチトセ」

「チトセならそう言ってくれると思ったよ」


ついさっきまで必死に止めていた私がそう言った事が想定外だったのかジルツァークの顔が真っ青になる。


「へっ!?う…嘘でしょ?」

「嘘なものか。死ぬよりキツい目に遭ってもらうよ」

「僕が作るから呼ぶ方を頼むよ」


作る?

呼ぶ?


何を言いたいのかはすぐに分かった。

黒さんは三畳程の大きさのガラス張りの部屋?温室を作った。

家造りが苦手な王様と黒さんが作るって事は拷問に使う系だろうけど何するんだろう?

温室で干からびさせるとかは見たくない。


「なにこれ?」

驚く私に王様と黒さんがニコニコとしている。

笑顔が怖いなぁ。


「チトセ、僕は最近ジェイドの戦いを見ていて素敵な言葉を実感したんだ」

「へ?」


「毒を以て毒を制する。素敵な言葉だよね。あの毒使いを毒で倒すなんて僕は感動したよ」

「どうしたのいきなり?」


その答えはすぐにわかった。


「ほらこいよ毒!」

王様が声を上げる。

次の瞬間…


げ。


覗きの神が広場に現れた。

王様が呼びつけたんだろう。

相変わらずこ綺麗な格好だが小太りで気持ち悪いオーラが出ている。

覗きの神は手錠に目隠しさるぐつわで囚人に見える。


「ジルツァーク」

黒さんに名前を呼ばれたジルツァークは「ひっ」と小さく声を出すと震える。

もうこの段階で何をするか想像がついた。


「毒を以て毒を制する。これが君の毒だ」

「ヒィィィッ!!」


「ふふふ、そんなに悲鳴を上げるとアイツは喜ぶよ?喜ばすなんて偉いなぁ」

ジルツァークは必死になって口を閉じて横に首を振る。

涙が止めどなく出てきている。

覗きの神はジルツァークの声を聞いて嬉しそうにキョロキョロしている。

目隠しのせいで目が見えないからか匂いを嗅ごうと鼻をクンクンさせている。

気持ち悪いしこの先も想像ついたけどやだなぁ…。


「ジルツァーク?君はこの覗き変態趣味の神とその小屋に入って貰うよ。そこで素直になるまで反省して貰うからね?」

「嫌!嫌よ!」

そう言って逃げようとするジルツァークだが度重なる攻撃で足腰がおぼつかない。

必死になって這って逃げようとするがそれを王様と黒さんが見逃すわけがない。


「「手遅れだよ。神如き力…拘束具」」

…本当に王様と黒さんは攻撃的な創造が上手い。ジルツァークの手足には短い鎖で手錠と足枷が繋がっていた。

この状態でジルツァークはあの地獄の三畳間に放り込まれると言うことか…南無。



「君だって亜人を使って4年間もジェイドを拷問しただろ?同じ事だよ」

「嫌、嫌」

ジルツァークは声が震えて涙が止まらずにいる。


「あ、ひとつ聞いていい?ジルツァークは覗き変態趣味の神と面識あるの?」

「無いわよ!気持ち悪い奴だからずっと逃げまわったわよ!」


「へぇ。楽しみだな」

「この毒は何日で君と言う毒を制する事が出来るかな?」

そう言うと満足そうな王様と黒さんが冷たい目でジルツァークを見る。



**********



反省しないジルツァークに向けて王様と黒さんが用意したのは三畳程の大きさのガラス小屋と覗きの神だった。

この部屋で反省するまで2人きりで見世物になれと言うのが王様と黒さんの考えだった。

正直キツい。

私ならこの段階で土下座をしてでも回避したい罰だ。


「おい!目隠しは取ってやる!」

そう言って光の剣で覗きの神は目隠しを取られると目の前のジルツァークを見て大興奮している。


「もう6年も僕達はお前を痛めつけ続けた。いい加減レパートリーも無くなってきたから趣向を変えてやる」

「今からこの女神ジルツァークとそのガラス張りの小屋で2人きりで過ごして貰う」

この段階でジルツァークは必死になって横に首を振って私に助けを求める目をするし覗きの神は嬉しそうにフガフガ言いながら縦に首を振る。


「ジルツァークを泣かせる度に刑期が軽減される!」

「お前の気持ち悪さに吐き戻せば更に刑期が軽減される!」


「気持ち悪いお前の本領発揮だろ?役に立ってみろ!」

「覗き変態趣味の神としての面目躍如だ。頑張りなよ!」


黒さんの光の剣が覗きの神のさるぐつわを破壊する。

「うひゃ!はじめましての女神さんだ!うひゃ!君はジルツァークって言うんだね!ジルたんって呼んであげるね!お胸が大きいねぇ!服も露出が激しいし腰も細いね!ウヒャヒャヒャ!」

「い…嫌よ、嫌!こないで見ないで!」


「視覚神の力は使えなくされてるけど全部見てあげるね!うっひゃー!!」


気持ち悪いなぁ…。

ナースお姉さん達もドン引きだ。


「王様?黒さん?」

「なんだいチトセ」

「お礼ならまだ早いよ」

…本気か冗談かわからないのが困る。


「違うわよ…やり過ぎだって。同じ女性としてコレは承服しかねるんだけど」

私の声が聞こえたジルツァークは必死に涙目で私を見てウンウン頷く。


「ええぇぇぇ?チトセは甘いよ」

「それで?なにがダメなのさ。言えないのにダメ出しは良くないよ」


「まずは女性としての尊厳は守って貰うわよ」

絶対に一線は超えさせてなるものか!


「え?覗き変態趣味の神のアレを削ぎ落とせばいいの?」

「なんだ、早く言ってよ」

そう言って王様と黒さんの光の剣が現れる。

アレってアレだよね?

まあ…今はダメ。


「アートもいるからダメ!そうじゃない!お触りNGって事よ!」

「ああ、それは言われると思っていたからアーティファクトを作ったんだった。時空神!」

「ちょっとあのバカの時を止めてよ」


真っ青な顔の時空お姉さんは嫌々覗きの神の時を止める。

「とりあえず右手だけでいいか」


王様は取り出した腕輪を右手につけると時空お姉さんに時を動かすように言う。


「おい、覗き変態趣味の神。くれぐれも触るなよ」

「うひゃ!バカじゃないのか?オラは誰の言う事も聞かないもんね。触られたくなければ近づけなければ良いんだ!うヒャヒャヒャ!」


…凄いな。

6年間お仕置きで1日に何度も死の淵を彷徨ってもまだ懲りないのか。


昔と同じことを言って覗きの神がニヤニヤとジルツァークに近づく。

「うひゃ〜。手で触らないと見えない所とかあるから触っちゃうよ〜。うなじチェーック!!」


だがそれは叶わなかった。

触ろうと突き出した右手がジルツァークの髪の毛に触れた瞬間、手首に付いた腕輪が光ると光の刃が出現と共に一周して覗きの神の手首を切断した。不思議なことにジルツァークの髪は切れなかった。


「ウヒャ?手!手ー!?オラの手がぁぁぁっ!?本日3回目の切断!!?」

え?黒さんって同時進行で広場にいながら覗きの神を痛めつけてコピーガーデンでジルツァークも圧倒したの?


「お前は言われた事だけしてればいいんだよ。触ろうなんて思うなよ。

ほら治癒神!くっ付けて。今は治癒神が近くに居るから僕じゃない事に感謝しろ。

お前の手は汚いから自分で拾えよな」

ナースお姉さんが慣れた手つきで嫌々手を繋げる。

私はアートが気になったがアートはお魚さんとタカドラにエビを渡されていて美味しそうに食べていて見ていない。

ナイスだ。


「さて、この「戒めの輪」を手首と足首と首につけよう。

別にこれは自殺扱いになるから神殺しもないし素敵なアーティファクトだよね」


ジルツァークも考えたのだろう。

触ったらアウトを逆手に取ろうとした。

「戒めの輪」を付けられた所で覗きの神に近寄って身体を押し付けた。


殺してしまおうと思ったのだろう。

だがなにも発動しない。

王様と黒さんがニヤりと笑ってジルツァークを見る。


「甘いよジルツァーク。

このアーティファクトは触ろうと言う意思と触った結果が合わさって発動するんだ。

あ、問題点は付けた人間にしか外せない事だから」


「うひゃ!柔らかーい!ジルたんから来てくれたぞー!フニフニさんだぁ!」

…気持ち悪い。

ジルツァークは悔しさから崩れ落ちて泣いている。


「王様、もうこれは決定事項なんだよね?」

「そうだね」


じゃあ、どうしようもない。


「気持ち悪いから帰るね」

「うん。お疲れ様。あ!治癒神でも戦神でも良いんだけど几帳面な記録の神とか知らない?覗き変態趣味の神の刑期軽減の為に記録して欲しいんだけど」

こうして相変わらず人脈だけはしっかりとあるお魚さんに呼ばれた几帳面そうな男神が記録神さんでおいしそうにハマグリを食べながら「いつから何を記録しますか?」と言う。


「この部屋にジルツァークと覗き変態趣味の神が入ったらスタートだよ。

覗き変態趣味の神の嫌がらせ…嫌がらせでなくてもいいか。コイツ気持ち悪いから見ただけで泣くかもしれないし。

ジルツァークが泣いた回数と吐き戻した回数と気絶した回数を漏らさず記録して欲しいんだよね」

「お安い御用です。それで報酬は?」


「あ、君って報酬が必要な神なの?」

「当然です。無償や滅私奉公なんて愚行です」


「お魚さん!お魚を山盛り届けてあげてよ!」

「オッケーだゼーッ!!」


「これでいい?」

「十分です。それで期間は?」


「ジルツァークが反省するまでかな?」

「わかりました。1日につきお魚を1日分で手を打ちましょう」


「よろしく頼むよ」


「千歳、ウチで打ち上げをすることになった。魚を食べてゆっくりしよう」


「千歳!戦神のお家でエビ食べようよぉ〜」

「ヘイ!マグロステーキがお勧めだゼーッ」


「行くわよ。私もハマグリ食べたい」

「千歳、私ボンゴレ食べたい」

「あ、私も」

「千歳、アクアパッツァ作れる?」


「お魚さん、アサリある?後は鯛」

「あるゼーッ」



後ろからジルツァークの「お願い!見捨てないでよ!助けてよ!」と聞こえてきたがもう私は諦めた。


だが「嫌っ…嫌ぁぁぁっ!!」と言う悲鳴が耳に残って嫌な気持ちだ。

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