千歳の介入。
ジェイドは翌日も街をミリオンのアトミック・ショックウェイブで消し飛ばす。
この頃にはジェイドのストレスは限界に達していた。
信じていたジルツァークの本性、亜人の本性、亜人殺しの罪、そして聖棍エルからずっと聞こえてくる「亜人を殺させろ」と言う声を精神力だけでねじ伏せていた。
これらで限界なのにジェイドはジルツァークに悟らせまいと日の出から日の入りまでは復讐者の顔で押し通す。
これは私たちもだがジルツァークにも想定外の事だった。
ジルツァークは昨日、ジェイドが村と街を消しとばしたのを見て慌てていた。
ライブラリの参照なんかは出来ないので後をコソコソとつけていて苦しんでいるかと思えば村と街を消し飛ばしていたのでさぞ慌てただろう。
昨日の話で言えば夕方に消し飛ばした街には今朝到着をして獄長の妻子に出会って1日以上足止めされると思い込んでいた。
先回りして見た街では亜人達は歓迎ムードで人間界との共存を願っている感じだった。
だがジェイドはそうはさせなかった。徹底した鉄の意思で目論見を全て打ち破っていた。
それによりジルツァークは急遽亜人城に赴き亜人王にモビトゥーイとして勇者を殺す為に命を差し出すように命じる。
ジルツァークの命令に絶対服従の亜人王は喜んで命を捧げてその身を人外の魔物に作り替えられていた。
今朝、慌ててジルツァークが現れたのも何とかジェイド達を足止めしたかったからだがジェイドには通用しない。
街が射程距離に入るとミリオンのアトミック・ショックウェイブで全て消し飛ばしていた。
明日全ての決着が着くだろう。
その時私は1つのことを思っていた。
アートを待ちながら一緒に映像を見ている王様と黒さんとテッドの顔を見る。
「王様、黒さん、テッドお願いがあるの」
「どうしたの?」
「いいよ、言って」
「どうしたチィト?」
3人は驚きながらも何事も無いように受け入れてくれる。
「うん。その前にちょっと待ってね。
戦神、皆、お願いがあるの。
少し席を外すからアートの事をお願いしても良いかな?」
皆快く受け入れてくれる。
お魚さんは今日のおやつは蒲鉾の盛り合わせだから取っておくと言ってくれる。
少し参っている私はこのやりとりもちょっとだけ嬉しい。
「セカンドで話したいの。いいかな?」
「ああ、行こう」
4人で神の世界を後にしてセカンドに向かう。
セカンドのセンターシティに着いた私は個室のあるカフェに入ってお父さんとツネノリを呼ぶ。
お父さんとツネノリは別々の場所に居たがすぐに来てくれた。
「どうした改まって」
「顔つきが険しいぞ」
「ごめんね。少しだけ頼みがあってさ。東さんにはお父さん達の許しを得てから言おうと思うんだけどいいかな?」
「チトセ?」
「何を考えてるんだい?」
私はここ数日のモヤモヤを説明する。
ジルツァークの態度や命への考え方が気にくわない事、そしてジルツァークを丸裸にしてジェイド達と公平な中で交渉をさせたいと言う思いを伝える。
「なるほどな、どうやって丸裸にするんだ?」
「多分ジェイド達の説得は難航するから一度は神の世界にやってくると思う。
そしてジルツァークの性格なら間違いなく仕返しを考える。
その時にガーデンの不可視をジルツァークにだけ解いてもらうの。
そうしたらジルツァークは5つのガーデンに殴り込んでくる。
ツネノリ達にはそれを完膚なきまでに圧勝しながら撃退してもらいたいの」
恐らく神の世界からの介入を知ったジルツァークは激昂しながら神の世界にやってくる。
そして私達を見てガーデンに仕返しをしたいと思うだろう。
だがそこでガーデンの素晴らしさ、そしてそこで生きる人たちの強さで変なプライドをへし折って歯向かう気も全てなくしてからジェイド達の元に送り返したい。
「お前…」
「それが千歳の願いなんだな?」
お父さんとツネノリが驚いた顔をしている。
「チィト、やらせて貰うぞ」
「へぇ…いいねそれ」
「このメンバーそれぞれが自分のガーデンを守ればいいんだね?」
テッド、王様、黒さんはやる気になってくれている。
「うん。王様にはゼロガーデン。黒さんはコピーガーデン、お父さんはファーストガーデン、ツネノリはセカンドガーデン、そしてテッドにはサードガーデンをお願いしたいの」
「東がそれを受け入れてお前はどうするんだ?」
「私は神の世界でアートを守りつつ全ての決着をつけるつもりだよ」
恐らくアートにも攻撃を仕掛けてくると思う。私はそれを守りつつ説教をしてから攻撃をする。
「へぇ、チトセの方が楽しそうだ。チトセがゼロガーデンを守るかい?」
「ダメだよ。私は自分でやらないとモヤモヤしちゃうもん」
そういうと皆が「確かに」「違いない」「そうだね」と納得をしてくれる。
**********
「千歳、ここに東を呼んで説得するか?」
「ううん。後で話すよ。ここは本気で覗き防止の防壁を張ったから東さんにも見えてないはずだよ。見ようとしたらわかるように作った防壁だけど見られた形跡が無いもん」
「そうでもないさ」
「は?」
「キヨロスさん?」
「僕の目を通じてトキタマに全てを見せているし、そのトキタマは今神様の肩に乗っかっているよ」
「魔王…勝手な真似をしたのか?」
「まあ時間が少ないんだから良いだろ?」
テッドが呆れて黒さんが説得をする。
「でもチトセの防壁は本当に強くなったね。僕ももう1人の僕とで破らないと大変だよ」
「それにチトセは言いたい事は後回しにするからこうでもしないとね。安心するんだゼロガーデンもコピーガーデンも心配は無用だよ」
いちいち言い返したりしない。「王様、黒さん。よろしくね」と素直に言う。
「千歳、東さんを呼ぼう。俺からも頼み込む。セカンドは守り切る。ジルツァークと言う女神も殺さないように撃退するから安心するんだ」
「ありがとうツネノリ」
「ったく、こいつらは剣を飛ばすけど俺はそうじゃないからもしもの時は千歳が援護をしろよな」
「この中でお父さんが1番強いのにすぐそうやって泣き言を言うんだから。でもそう言ってくれるのはやってくれるって事だよね。ありがとう」
「チィト、サルディニスは守り切るから安心しろ」
「うん。あてにしてるよ」
「うむ。ここでリリオの機嫌を直して何とか赤ん坊を迎えねばなるまい!」
「あー、うまく行ったらりぃちゃんに言っておくよ」
テッドは嬉しそうに「頼りにしている」と言ってくる。
「もう良い感じだよジョマ」
「出てきて良いと思いますよ神様」
王様と黒さんの声で東さんとジョマが現れる。
「ごめんね。聞いていたよね」
「千歳」
「千歳様」
東さんとジョマが複雑そうな顔で私を見る。
「私ね、アートの為に始めたけどダメだったの。アートのフォローで納得できない部分もあってさ、女神としてエクサイトの命を救いたい。公平な中でジルツァークとジェイド達の話し合いをさせたいんだ。
だからジルツァークが仕返しを考えて神の世界に現れた時に、一瞬ジルツァークにだけ不可視モードを解いてガーデンに入れて欲しいの。
東さんとジョマの綺麗な世界を見させて圧倒的な攻撃力で変な意地とかプライドをへし折って丸裸にしてからエクサイトに送り返したいの」
「いいよな東?」
「東さん、俺達はしくじらないのでお願いします!」
「父さん、母さん、俺もチィトに賛成だ」
「神様、ジョマ、頼むよ」
「チトセの思う通りにしてあげたいんだ」
皆が私の応援をしてくれる。
東さんとジョマは顔を見合わせている。
「…千歳の思う通りにか…、そうだね」
「調停神としてやり切ってください」
2人が優しい顔で了承をしてくれた。
「東さん、ジョマ…ありがとう」
「キヨロス、黒いキヨロスは更に同時進行をして貰うよ?」
「不可視を解いた瞬間にガーデンに群がる害虫が出てきたら駆除をしてもらいますからね」
東さんとジョマはあの粗暴の神みたいな奴らを気にしているんだろう。
確かに不可視モードを解くと言う事は仮にそういう危険性があると言うことだ。
「へぇ、楽しみだ」
「任せてよ」
当の王様と黒さんは嬉しそうにしている。
「千歳様、私達こそアートの為にありがとうございます」
「僕達も何回も手を出しそうになって我慢をしたよ。これで僕達も一緒に参加しても構わないかな?」
東さんとジョマもこれで仲間入りになる。
「うん。ありがとう東さん、ジョマ」
思い通りの展開になって話が好転した感じで私は嬉しくなったところでツネノリが声をかけてくる。
「千歳、最近は来ないじゃないか、たまには泊まりに来るか?」
「ダメだって、千聖が心配するって」
まったく、私は24歳、ツネノリは妻子の居る27歳でしょ?何を言うんだ何を…。
「千聖には言ってあるぞ」
「え?」
「千歳は悲しい事とか辛いことがあるとお父さんの腕で眠るんだってな」
「ええぇぇぇ、何で教えたの?」
まさかの展開に驚いてしまう。
「母さんが千聖に教えていたからだ」
「ルルお母さんめぇぇぇ…」
「千歳、ルルは遠慮せず昔みたいに頻繁に顔を出せって言ってんだよ」
「それはわかってるよ」
だがそういう話ではない。
「チトセの力でツネツギの家って増築したんだろ?皆で泊まればいいのに」
「なんで泊まらないの?」
王様と黒さんが不思議そうに聞いてくる。
「ふふ、千歳様は寂しくなっちゃいますからね」
「ジョマ!?」
「ツネノリと寝たらビリンがヤキモチを妬くし、ビリン抜きだと皆の仲睦まじい姿を見て悶々とするしね」
「東さん!?」
少し意地悪な顔をした2人の神が全部話してしまう。
「なんだそんな理由か」
「チトセはワガママだなぁ」
「ムカ」
「俺と寝る必要はないがビリンを連れて泊まりに来ればいい。三階は千歳の家なんだ気兼ねする必要は無いだろう」
「うん。ありがとう」
こう言う会話でも少しだけ気持ちが落ち着く。
きっとこう言う部分でも余裕が無かったんだろう。
もう少し昔のように通ってもいいのかもしれないな。
この話の後で解散した私達はお父さんとツネノリをゼロガーデンに送り届けてから東さんとジョマを連れて神の世界に帰る。
東さんとジョマを見たアートが一瞬青くなったけどすぐにいつものテンションでタカドラに「アートのパパとママだよ」と紹介をした。
「こんにちはタカドラ」
「はじめまして」
「イロドリ様のご両親ですか。いつもイロドリ様にはお世話になっております」
タカドラが礼儀正しく挨拶をしたのだが、アートとタカドラの仲を見てお父さんの立場的に思う事があったのか東さんは少し怖い顔でタカドラに「娘はまだ6歳。交際はまだ早いと思うんだ、それに清い友達付き合いを頼むよ」と言っていた。
その顔は見た事がないくらい怖いもので、東さんの発する圧は半端なくて時空お姉さん達はドン引きだった。
「これだよ。怖いよね創造神はさ」
「本当、ジョマを抜いたこのメンバーで喧嘩売って勝てる気がしないわ」
時空お姉さんと先輩お姉さんのコメントもどうかと思ったが私と王様と黒さんが束になっても敵わないのかな?
それは本当に怖いな。
おっと変な考えはよそう。
**********
ジョマと東さんのフォローでアートは完璧な同時進行をモノにしていた。
「アート、今まで千歳やキヨロスの力を借りてしていた同時進行とは別のやり方だよ。わかるかい?」
「うん!ありがとうパパ。なんだろ?千歳のよりアートはアートって感じがするよ」
アートはニコニコとしている。多分安心しているし欲しい力を得られて満足しているんだ。
「ふふふ、良かったわねアート。パパの力は凄い力だからできる方法なのよ」
そう言ってジョマが嬉しそうにこっちを見る。
自慢とかではなく違いの説明をしてくれる顔だ。
「千歳様、千歳様の方法は人の意識にアートを被せる事で足りない部分を補完して同時進行を可能にしましたよね。
京太郎の場合はアートに力を注いで一時的に出力を引き上げ拡張することでやっているんです」
そうか、確かにそうすれば力は混ざっても意識は混ざらないからクリアな感じが保てるのか…。
私は参りましたとばかりに「やっぱり東さんには敵わないよ」と言う。
「ははは、よく言うよ。千歳だって思いつかなかっただけでこっちの方が楽なはずだよ」
東さんは私を傷つけないように立ててくれる。
ありがたいがちょっと悔しい部分もある。
「ありがとうパパ。これでアートは幼稚園にも行けて神の世界にも居られるよ!」
そう言って3人で手を繋いで帰っていく。夜は夢の世界で会うからアートは皆に「またね」と言って帰っていく。その後ろ姿はとても素晴らしいものだった。
「凶悪な攻撃力さえなければ素敵な光景なのにねぇ…。ガーデンの神もジョマも恐ろしい力でその2人の娘で千歳の力を貰ったアートなんてどうなっちゃうんだろうね」
アートの後ろ姿を見ながらナースお姉さんが恐々と言う。
そう言えば今晩は晩ご飯をゼロガーデンで食べるように言われた。
私もこのままここに居てもすることは無いので皆に後を任せてゼロガーデンの家に帰ることにする。
「千歳〜!」
「千聖〜!!」
姪の千聖は私に気付くと今日も愛くるしい笑顔で抱きついて来る。
ハッキリ言って可愛い。
「お仕事お疲れ様〜」
「ありがとう」
千聖が私の手を取って「お父さん、爺ちゃん!千歳来たよ!」と言いながらリビングまで連れて行く。
「来たか」
「おう、早く入れ」
お父さんとツネノリはテーブルでお茶を飲みながら私を待っていた。
「お疲れ様です千歳様」
「ただいまメリシアさん」
「ほれ、手洗いと着替えをしたら食事にしよう」
「うん。ただいまルルお母さん」
私は手を洗いながらついでのようにルルお母さんの中からノレルお母さん達を出す。
「千歳!逢いたかった!」
「千歳〜来てくれてありがとう!」
「うおおおー!母ちゃん出て来れた!千聖!婆ちゃん出て来たよ!」
千聖はノレノレお母さんと仲良しなのでキャーキャー喜んで抱っこされている姿を見て「ノレノレお母様、いつもすみません」とメリシアさんが申し訳無さそうにする。
「いいんだよぉ〜!会いたかったよ千聖〜!」
「婆ちゃん!」
私はその姿を微笑ましく見てしまう。
ちょっと自分の家と言うよりは親戚の家って感じがする。
これがあるからどうしても前みたいに頻繁には通えない。嫌でも自分の立場や未来、結婚なんかを意識してしまうのだ。
着替えてテーブルに着く時に千聖から「千明婆ちゃんは?」と聞かれた。
「ん〜、なんの用事なんだろ?千歳も教えてもらってないんだよ。今晩はこっちのお家でご飯を食べなさいって言われたんだよね」
そう言った時にお父さんがすかさずツッコミを入れてくる。
「バカヤロウ、お前の気分転換だよ」
「へ?そうなの金色お父さん」
「お前、さっきセカンドで会って話をしたから少し納得したけど。ここ数日顔つきは険しいしまたアレコレ気負っているのがわかったから千明と話し合ってルルに気分転換を頼もうって話になったんだよ」
「おっと、そうだったんだ」
やはり何年経っても親は親だ。
私のちょっとした変化を見逃さないでくれる。
「千聖は千明に会いたいのか?」
お皿を用意しながらルルお母さんが千聖に聞く。
「うん!ルル婆ちゃんも好きだけど千明婆ちゃんはあまり会えないから会いたいよ」
確かに千聖がお母さんに会うのは私が居ないと難しい。
そう思うと悪い事をしていたなと思う。
ルルお母さんがすまないという顔で「千歳」と言ってくる。
「うん、やるよ。…お母さんは…と、うん?夕飯の支度がもう終わってるの?このまま呼んじゃえ」
私はお母さんを呼ぶと千聖が嬉しそうにお母さんに飛びつく。
「千明婆ちゃん!」
「はいはい。こんばんは千聖」
お母さんはこの状況を読んでいたのだろう。驚くことなく千聖を抱きしめる。
その後で千聖が「う〜、どうしよう」と言って難しい顔をする。
**********
姪の千聖が「う〜、どうしよう」と言って難しい顔をしている。
「どうしたの?」
「ノレル婆ちゃんもルノレ婆ちゃんもノレノレ婆ちゃんも好きだから一緒にご飯食べたいけど千明婆ちゃんも居るからどうやって座れば良いんだろう?」
千聖がテーブルを見ながら頭を抱えて悩み出す。
「簡単だ。そんなのは千歳に頼めば良いんだよ」
「お父さん?良いの?千歳は神様だからあんまりお願いをするなって言ってるよね?」
おっと、ツネノリはそんな事を教えてくれていたのか…。
「ほら、千聖は千歳様にお願いをしてご覧なさい」
「お母さん、良いのかな?」
千聖が申し訳なさそうに私を見る。
「じゃあお母さんも頼んであげますね。千歳様、いいかしら?」
「うん。やるよ。神如き力!」
私は神如き力でリビングのレイアウトを変えてしまう。
大きなテーブルをやめて千聖用に6人がけのテーブルを作る。
「わ!テーブルが2つになった!」
「にひひ、そっちのテーブルには千聖とルルお母さん、ノレルお母さん、ルノレお母さんにノレノレお母さんと後はお母さんの6人で座りなさい」
「いいの!?ありがとう千歳!」
千聖はニコニコでテーブルに着席をする。
「てか千歳?」
金色お父さんが私の顔を見て不思議そうな顔をする。
何を言いたいのかはわかっているがあえてすっとぼけるので「何?」とだけ言う。
「ツネツギは?」
「居る?」
「お前…」
「千歳、父さんを呼ぶんだ」
「えぇ、別に金色お父さん居るから良くない?」
「千歳、ツネツギを呼んでやれ。きっと泣いてるぞ?」
「皆優しいなぁ。
仕方ない。
…お父さん?今何処?駅は降りたのね?人通りのないところで家に送るから着替えて。そうしたらゼロガーデンに呼ぶよ。皆優しいよね。感謝しなよね」
それから5分してお父さんとお母さんが作っていた夕飯を呼び寄せる。
お母さんは見越していたからお弁当を用意していた。
「ほれ千歳、後1人忘れておるぞ?」
「放っておいても送り付けられるんだから呼んでやれって」
「皆優しいなぁ…「千歳の力」よ。ビリンさんをここに【アーティファクト】」
私はヤレヤレとビリンさんを呼びつける。
「さすがチトセ、タイミングバッチリ」
そう言って現れたビリンさんは山盛りの高速イノシシのステーキを持ってくる。
「ふぉぉぉ!お肉様だ!」
「こらこら、とりあえず挨拶させろって」
ビリンさんがそう言ってお父さん達に挨拶をする。
「おう、よくきたな」とお父さんも笑顔で受け入れる。
「ビリン!」
「おう!お邪魔するよチヒロ。元気か?今日も可愛いな」
千聖はビリンさんとも仲良しなのでニコニコとしている。
「にひひ〜、ありがとう」
その後は皆に挨拶をした後でテーブルを見ると「何?テーブル分けたの?」と聞いてくる。
「うん。千聖がね」
「成る程、婆ちゃん独り占めって奴か」
「よし、皆揃ったから飯食べようぜ」
皆で着席をして夕飯が始まる。
「千歳、あまり食事中は良くないが明日の話をしよう」
ツネノリが珍しく食事中に明日の話を持ち出してくる。
「うん。明日はよろしくね。多分見込みだとお昼頃にはその話になると思うから申し訳ないけど備えてね」
「ツネノリは剣を飛ばすにしても俺はどうすんだ?」
「お父さんは瞬間移動でジルツァークの前に出てよ。りぃちゃんにも検知と伝達をお願いしてあるからさ。後は届いたイメージに向かって飛んでくれればいんだよ」
「あれか?前にビリンがやったなんちゃって光の剣をやれって奴か?」
「うん。ごめんね」
「千歳様、私は何かありませんか?」
「メリシアさんまで出てくるとジルツァーク死んじゃうからなぁ。まあツネノリがしくじった時にフォローに入る感じでお願いね」
「千歳、ジルツァークの強さはどのくらいなんだ?」
「え?10年前の覗きの神よりはマシだけど並の神だから倒す事よりも殺さない事に注意してもらいたい感じだよ」
「お前、それに父さんをぶつけるのか?」
ツネノリが青い顔で私を見る。
まあ、お父さんはちょっとでも油断するとジルツァークを殺してしまいそうな気がするのは確かだ。そこら辺は東さんに頼んでしまおう。
「バカヤロウ、俺たちが最弱なんだからお前ら若い奴らがもっと頑張れって」
「なあ、本当だ」
お父さんが2人して情けないことを言う。
「よく言うよ、最強より最強なのに」
「本当だよ父さん。本気になると誰よりも強いじゃないか」
「あ、チトセ。俺もそれに参加決定だから明日よろしく〜」
「はぁ!?何で?」
「父さんに折角だからチトセに格好良いところを見せてこいって。父さんは黒父さんの分まで神の世界を防衛するってさ。
それに「あの顔のチトセはきっと無理をするからビリンはいつでも「千歳の力」に力を受け入れられるように力を使うんだ。ゼロガーデンは任せたよ」だってさ」
「成る程な。キヨロスの奴が正しいな。ビリン、やれるんだろ?」
「はい!余裕です!」
「本当かなぁ、ここ一番で怪しいんだよなぁ。間違ってもジルツァークを殺さないでよね」
「チトセ酷え」
その後は皆で食事を楽しんだ。
この感じは久しぶりで何となく心の底に溜まっていたモヤモヤが流された感じがする。
食後は私が片付けをやる事にして皆を温泉に飛ばす。
「チトセはわかってるよな〜」
「へ?」
目の前には王子様なのに率先して皿洗いをしているビリンさんがいる。
「俺の2人きりになりたい気持ちを汲んでくれるなんてサイコーだぜ」
「嘘ばっかり。ビリンさんより私の方が今日は2人きりになりたかったんだよ」
「2人してって奴だな。チトセ、さっさと片付けて三階行こうぜ」
「うん。時間制御もするから少しだけ長くいさせて」
「おう。しっかり甘えて明日は無理すんなよ」
「うん。今回は裏方で疲れたよ。私だけならもう終わってるのにって何回も思ったんだ。裏方ってヤキモキするよ」
「そっか。チトセがアートの為に無理しないか心配だったから関われて嬉しいぜ」
「むぅ、ビリンさんの癖に」
「酷え。んでもさ明日が終わったら少しゆっくりとしようぜ?」
「うん」
**********
決戦だ。
もうここまでくればジルツァークにバレても痛くも痒くもないと言う理由から広場に移って事態を見届ける事になった。
お魚さんは浜焼きパーティーの準備もしているし戦神はタコ焼きを焼き続けている。
複製神さんは巻き込まれる形で海老と蟹とイカを焼き続けている。
地球の神様もお呼ばれして居るので変な輩は寄り付かないがそれでも王様の出した12本の剣達が威嚇状態で広場の上空を漂っている。
アートは幼稚園に行きつつ神の世界にも居て「なんか変な感じだよぉ〜」と言いながら、ようやく外に出せたタカドラの背に乗って大空を翔けている。
そのタカドラは昨晩神化を遂げていた。
戦神とテッドと王様に黒さん達が見守る中無事に神になったタカドラは戦闘メインという感じではないらしい。
朝その話を聞いたとき時空お姉さんが「どっちかと言うと管理者タイプだね」と教えてくれた。
「管理者?」と聞き返すと「うん。メガネの創造神が管理をさせたくて生み出したから管理タイプなんだよ。世界を複数所持しても問題なく管理できる神。これならジルツァークが世界の放棄をしてもやりきれるから安心しなさい」と言って説明をしてくれた。私は「うん。ありがとう」と言って感謝を伝えた。やはり知らないことが多いから先輩方は大事な存在だと思う。
「リュウさん!高い!凄いねー!」
「はい!イロドリ様に喜んでいただけて嬉しいです!」
通常サイズに戻ったタカドラの背でアートはニコニコと喜んでいるが笑えないのは私の横で絶賛ヤキモチ妬きの東さんとジョマだ。
「アート、パパならもっと格好いいドラゴンにも変身できるしもっと高く速く飛べるよ?」
「悔しい。私も天馬になってもいいのに!」
こんな感じで本気でタカドラにヤキモチを妬いている。
大人気ないなぁ。
「ほらアート!そこまでにしなさい!」
「はーい!リュウさん!降りてお魚食べたら決戦だよ!」
「はい!イロドリ様!」
タカドラはお魚さんの焼きサバがお気に入りだったらしくエクサイトで鯖を育てたいと言っていた。
勿論ファンが増えてお魚さんは感涙していた。
「リュウさんは何食べる?」
「あの…焼きサバが食べたいです」
タカドラは恥ずかしいのか顔を赤くしながら焼きサバを頼む。
「お魚さん!アートは海老!リュウさんはサバだって!」
「ヘイお待ちーッ!」
うん。よくわかった。お前達に決戦の自覚はないな?
「アート、ジェイドが動くよ?」
「わ、急いで食べなきゃ。でもお魚さんの海老が美味しいよぉ〜」
アートが飯の顔で慌てる。
「嬉しいゼーッ!複製神の焼き方が良いんだゼーッ!」
「そうかな?ありがとう友情神。チトセは食べないのかい?」
照れる複製神さんが嬉しそうに私に聞いてくる。
「千歳が喜ぶ蟹もあるゼーッ?」
「食べるわよ。後は焼きガニだけじゃなくてボイルとお刺身もよろしく」
「たくさん食べると良いゼーッ」
「千歳、アート、タコ焼きは食べてくれないのか?」
「食べるわよ」
「食べるーっ!」
そこに続々と皆が集まってくる。
「魚神、エビが食べたい」
「テッドもエビ好きだゼーッ!」
「私はマグロステーキ食べたい」
「ヘイ!リリオも食べて頑張ってくれヨーッ!」
なんか皆自然体だ。
マグロステーキを美味しそうに食べているりぃちゃんが慌てて広場に映像を出す。
それはジェイドが、亜人城が見える所まで到着したからだった。
「お魚さん!戦神!複製神さん!エネルギー補給したいから沢山美味しいのお願いしますね!テッド!余剰の力は全部貰ってよ!」
「ヘイ!マグロの次はハマグリ焼いちゃうゼーッ!」
「やるが良い!この戦神が見届けよう!」
「頑張って焼き続けよう」
「了解だ。リリオの全てを俺が受け止める!心のままに力を発揮するんだ!」
映像の中のジェイドは復讐者の顔で声を張る。
「真正面から馬鹿みたいに戦うかよ…ミリオン!早速で悪いが城そのものを蒸発させてくれ!アトミック・ショックウェイブだ!」
今日もジェイドは待った無しだ。
だがあの辛そうな顔を知っているだけに素直に見ていられない。
「ジェイド…」
「イロドリ様」
アートは悲しそうにジェイドの顔を見ている。
「アート、ジェイドが気合入れて居るんだからアートも頑張るんだよ!」
「やるよ!」
アトミック・ショックウェイブで消し飛んだ亜人城の跡地に向かいながらジルツァークが疑問を口にする。
ジェイドなら時間をかけて丁寧に復讐を果たすと思っていたのに短時間で全てアトミック・ショックウェイブで消し飛ばして居る事について聞いている。
ジェイドはその質問が来る事をずっと考えていたのだろう。
満点に近い回答を返す。
それに気を良くしたジルツァークは何も気付いていない。
それどころかこれで早く帰れるねと喜んでいる。
そんな事はさせない。
皆と仲良く帰りたいのならその根性を叩き直してやる。
だから帰れるのはその後だ。
「千歳、顔が怖いよ」
「千歳様、冷静にお願いしますね」
東さんとジョマが釘を刺してくる。
「大丈夫だよ」
今はそれ以外の返しが思いつかない。
**********
映像は進んでいてジェイドが亜人王についてジルツァークに質問をする。
ジルツァークも脇が甘い。
散々干渉値の設定を出していたのならやり切る必要があるのにごく当たり前に地下に居ると返事をしてしまう。正解は「干渉値を使ったけど地下に反応があるよ」だろう。
セレストとミリオンですらこのやり取りを訝しんだがジェイドが納得をした事で何も言えなくなる。
逆にジェイドは完璧すぎる徹底振りだ。
私は思わず感嘆する。
「千歳」
「何?東さん?」
そんな私を見て東さんが声をかけてくる。
「君、今この時も成長をしているからね?」
「え?」
何を言い出した?意味がわからない。
「やだ、気付いていないんですね。リアルタイムでエクサイトを見ながらセレスト達の気持ちを読み取っていますからね。遠距離の読心なのかリアルタイムの個人ライブラリへのアクセスなのかはわかりませんが並の神にはそんな事出来ませんよ?」
「嘘?」
「本当ですよ」
「まったく、昨日僕達やアートを治癒神達と怖いと言っていたけど僕達にはアートよりもキヨロス達よりも千歳が1番怖い存在だよ」
「ええぇぇぇ?」
私が困っていると戦神が「動くぞ」と言う。
映像に目を戻すとジェイド達が地下室の最深部で魔物に変わり果てた亜人王を見つけていた。
「さあ!ジェイド!繭にいるのなら今がチャンスだよ!倒して帰ろうよ!」
ジルツァークがジェイドをせっつくがジェイドは動かない。
覚悟の決まった顔をしている。
だがそれに気づかないジルツァークは「ほら!セレストも剣を構えて!ミリオンも魔法の用意だよ!!」とセレストとミリオンをせっつき始める。
その時ジェイドが悲しげな顔で亜人王を見ながら「そうだな。それで皆の元に帰られたらどれだけ良かったかな…」と言った。
訝しむジルツァークを放ってジェイドが言葉を紡ぐ。
「本当、これで終われば…良かったんだけどな…」
これは本心だ。
当初の考え通りジルツァークが人間を導く女神で亜人は倒すべき敵でモビトゥーイが裏にいる。
それならどれだけ良かったかと思っている。
「だから早く亜人王を倒そうよ!」と言うジルツァークに「奴は殺すさ。もう何もわからないだろうしな…。それに奴にはもう死ぬ以外の選択肢は無い」と言ったジェイドの顔は復讐者ではなく悲壮感漂う顔だった。
「その前に、この旅を終わりにしようジル。
いや、モビトゥーイと呼ぶべきなのか?
本物はどっちなんだ?ジルが本物でモビトゥーイは仮の姿か?」
「ジェイド?何を言っているのかわからないよ?私はジルツァークだよ繁栄と平和の女神ジルツァークだよ?」
ジルツァークは明らかに焦った感じでジェイドに言うがジェイドはジルツァークの顔を見ても声を聞こうとはしない。
「ジル、まずはワイトの事から全部話してくれ。その後の事はその後で話そう」
ジェイドは目を伏せてそう言った。
ジルツァークは慌てている。
タカドラを殺した時の気配を出して「亜人王を倒して終わり、この後は平和になったエクサイトで上層界と人間界で仲良く平和に暮らしました。めでたしめでたしで良くない?」と言う。
だがジェイドは止まらない。
この状況で全てを聞き出そうとする。
何を言われても引き下がらない。
上層界と人間界が手を取り合う世界を提示されても頷かない。
ジルツァークはジェイドの説得の中で「必要な犠牲」と言う言葉を使う。
その時ジェイドの目は見開かれ「ではその犠牲が何故父さんや母さん、エルムなんだ!?グリアの人達なんだ!?セレストの祖父なんだ!?」と聞いていた。
**********
突然の事に驚くセレストとミリオン。
荒唐無稽な世迷言と一蹴しようとするジルツァークだったがジェイドはタカドラの名前を出したことが決め手となってジルツァークが諦めて本性を見せた。
そして…
「へぇ、やっぱりアイツは神通力…ううん。神に通じる力を超えて神の力に目覚めようとしていたんだね。それで世界の全てを見た。
そして私に気づかれないようにジェイドを巻き込んだ!
それで2人とも少しおかしかったんだね!
そうだよ!私はジルツァークでもありモビトゥーイでもあるの!」
そう言ったジルツァークの姿が薄褐色の肌に水色の目、銀の長い髪の姿、モビトゥーイになる。
「アハハハハ、この姿では初めましてだね!ジェイド!セレスト!ミリオン!私は残虐と争いの女神モビトゥーイ!
でもその正体はジルツァークだよ!」
そう言ったジルツァークはいつもの姿に戻る。
セレストは言葉を失い、ミリオンは「あ…、え…」とだけ言っている。
ジェイドは辛そうな顔をして歯を食いしばっていた。
「タカドラはもっと早くに殺しておけば良かったよ。せっかくの計画が台無しだもん」そう言って忌々しそうな顔をするジルツァーク。
こうやって命を軽んじるからワイトやジェイドから拒まれていることも理解していない。
「ジルの計画を教えてくれ」
「え〜、タカドラから聞いたんじゃないの?」
そう言って更にジェイドとジルツァークの会話は進んでいく。
ジェイドは全てをアートから聞いて知っていた。
だからこそその更に先をジルツァークから聞きたくて言葉を進めていく。
ジェイドから信用を得ていないと思って本気で傷ついた顔をするジルツァークだがジェイドはタカドラもジルツァークも信じて居ながら疑っていると言う。
恐らくアートの事もそう思っている。
決定的だったのはタカドラの言った通りに事が進んだことだと伝える。
ジェイドは会話の中でタカドラの名前は出してもアートの名前は出さない。
これも皆で決めて居た。
ジェイドは忠実に守っている。
ジルツァークはジェイドとの会話で神の世界に介入者がいることを感じ取る。
後で犯人探しをすると言い出したのも想像通りだ。
その後もやりとりは進む。
その中で遂に亜人とジルツァークの繋がりの話になる。
タカドラから聞いた事にしてジェイドが説明をする。
「恐らくと言われていたが聞いていた。
ジルの支配が無ければ亜人共は人間同様に家族を慈しみ愛すると、それを見た俺達が躊躇して必死に亜人城を目指すことになる事、そして最後にモビトゥーイから「私が死ねば亜人共は苦しんでジワリジワリと死ぬ。亜人の命と私の命が繋げてある」と言われるだろうとタカドラは言っていた」
そしてそれがセレストとミリオンがこの数日間求めていた答えだった。
「ジェイド!?」
「お前…それで…」
思わずミリオンが名前を呼んで続くようにセレストが何かに気付いた声を出す。
求めていた答えだったのはジルツァークも一緒だったのだろう。
「そっか、それを見たらセレストとミリオンが困惑してしまうし、私の脅しに苦しむと思ったからジェイドはアトミック・ショックウェイブで人間らしい営みをしている亜人の顔も見ないように、生活の痕跡を感じないように消し去ったんだね」
ようやく納得の行った顔でジルツァークもジェイドを見る。
「ああ、せめて苦しませたく無かった。
だからミリオンに頼んだ。
でもミリオンは何も悪く無い。
俺しか知らない事だ」
ジェイドの告白。
本当にこの数日が辛かった事を伺わせる。
「ジェイド…あなた!?」
「ミリオン、済まない。
だがミリオンは何も知らなかった。
全て俺が悪い。
そして救いになるかわからないが、亜人共は救われない命だった」
「だが!それでお前が苦しんでミリオンが救われても意味がないだろう?ミリオンだって苦しむ!」
「それはこの前頼んだだろう?お前達で支え合ってくれと頼んだだろう?」
そう言われた2人は「…そんな」「だが…」としか言えなかった。
ジェイドはジルツァークに質問を続ける。
ジルツァークの本心を探るために沢山話をした。
その後で提案を拒否し続けた場合の話やワイトの話もした。
ジェイドはジルツァークの本心、「だから私は他の神に頼んで世界を作って貰ってそこからもう一度始めたかったの」と言う言葉を引き出した。
提案を拒否し続けた時にはエクサイトを放棄するとも聞き出せた。
ワイトが亜人界でどんな目に遭ってどんな思いで3人にされてしまったかも聞きだした。
そんなものを越えてもう一度ジルツァークがジェイドに共存を訴える。
だがそれがダメだった時、ジルツァークが亜人王を差し向けてきた。
亜人王を前にしたジェイドは聖棍から聞こえるエルとエルムの声に抗って大変だったと言っていたがエルムは成仏をしているので多分ストレスによる幻聴だ。
そしてこの状況。
遂に来た。
「アート!タカドラ!ジェイドが言った事になるから備えなさい!隠匿神さん!タカドラのフォローをお願いします!タカドラは先に上層界に声をかけてヘルケヴィーオを眠らせて!」
「千歳!」
「わかりました」
もう我慢はよそう。指揮をする。思う通りにエクサイトを救う。
「ジョマ!アートのフォロー頼んでいい?」
「はい!千歳様任せて。さあアート、ママもあなたに力を注ぐわ。夢の中に完璧に近い0と1の間を作りなさい」
「ママ!」
よし。
このまま続けてやる。
**********
「チトセ、君の思うままにやるんだ」
「僕達はその手助けをする」
王様、黒さんが背中を押してくれる。ありがたいし力になる。
「うん。ありがとう王様、黒さん。王様は輩が寄り付かないようにしてね。黒さん、コピーガーデンの防衛よろしくね」
「リリオ、更にもう一段階力を使ってくれ。この広場に近づく悪意を検知するんだ。俺が魔王と倒す」
「やっちゃうよテッド!」
テッドとりぃちゃんもやって欲しい事を言わずにやってくれる。
「よし、なら次だ。時空お姉さん!東さん!ジルツァークに気付かれない範囲でギリギリまで時間制御を行って。アートの訓練が成功するまで時間を引き伸ばしたいの」
「よしきた!任せなさい!」
「いいよ。でも僕達だけじゃない。千歳、君も力を使うんだ」
東さんから突然のご指名に私は驚く。
「私?」
「ああ、今君は成長の途中にある。
この機会に更なるステップアップをするんだ。
苦手な同時進行もやれている。
問題なくやれるさ」
東さんに言われると何故かやれる気になる。
やってみようという気になる。
「…うん。やってみる。その前にちょっとだけ時間頂戴。余剰の力を空にしてくる」
「ああ。行っておいで」
その言葉で私の一番。
一番大切な人の顔を思い浮かべる。
「神如き力、「千歳の力」よ私をビリンさんの元に飛ばして【アーティファクト】」
私が飛んだ先は神殿の屋上だった。
「神殿?」
「チトセ?どうした?」
決戦の格好をしたビリンさんが突然表れた私を見て驚いている。
「私今成長期なんだって」
「はぁ?」
何のことだかわからないビリンさんが素っ頓狂な声を出す。
これが見たくてあえてちゃんと言わなかった。
「私の神如き力が強まっているから予定よりも決戦に介入するんだよ。ただギリギリまで力を使えるように先に空っぽにしたくてさ」
「そう言う事か。了解だぜ。ちょうど俺もチトセに会いたかったしな」
そう言ってどちらからともなく抱き合ってキスをする。
ビリンさんが「千歳の力」使ってくれたのがわかる。
私の中に生まれていた余剰の力が全てビリンさんの方に流れていく。
2人して名残惜しそうに離れる。
「エクサイトは終盤だよ。
2人の勇者がアートに夢の世界で決戦用に鍛えられている。
ジルツァークは神の世界からの介入を疑っていたからこれで確信を得て襲いかかってくる。そうしたら先に私とアートが痛めつける。
その時にガーデンの不可視モードを解除してもらうからよろしくね」
「おうよ。何かあれば呼ぶんだ。俺は半神半人も神もチトセとなら喜んで受け入れるからな」
嬉しい。
つい顔がほころんでしまう。
「ばか。ありがとう。でもビリンさんのくせに」
「酷え」
いつもの言い返し。
そう言って2人で笑い合う。
「行くよ」
「おう」
私が神の世界に戻るとエクサイトの時間が緩やかになっていた。
「お帰り千歳。私と創造神で時間はバレない範囲まで遅らせたよ」
「僕は似た立場としてジルツァークもエクサイトも救う。周囲の無責任な評価で壊されていい世界なんてないんだ」
東さんもジルツァークとエクサイトに思うところがあったのだろう。今はキチンと前を見て力強く言う。
「うん。やろう。東さん、力の使い方は教えてね」
「ああ、いつもの通りやろう。千歳、僕の後についておいで。…神の力を使う」
合図のように神の力を使うと言った東さん。
私はそれに追従する。
「ありがとう。でもごめんね、ジョマはアートなのに東さんは私とだからガッカリだよね」
「あはは。何を言うんだい千歳。君もここでは僕の娘みたいなものだろう?嫌なんかじゃないよ。嬉しいさ。さあ意識して自身をエクサイトと思って世界の時に介入するんだ。外からではなく中から時を思うままに緩やかにしよう」
「はい。神如き力。私自身がエクサイト…」
「ええぇぇぇ、何それ?
千歳と創造神の時間への介入方法がエゲツない。私だって時空神のプライドがあるんだからやってやるわよ!」
時空お姉さんは想定外の方法に驚いているが合わせてくれる。
「時空神、少し遅れ気味だ。時を進めるよ」
「介入しつつ時を進めるのね。やるわよ」
うん。今ならわかる。
時が進み始めたけどその流れすら私達が決める。
今私達はエクサイト自身になっている。
エクサイトの中でジェイドが眠りの魔法をセレストとミリオンに使った。
「ジョマ、アートは?」
「やれていますよ。安心してくださいね。
それにしても千歳様は私の太陽。
それは10年前から変わりません。
そして妹のような存在でもあり、私を導いてくれる存在でもあり、娘のような存在でもあります。
変に意識しないで自然体でいいんですからね」
「うん。ありがとう。ここの所変に壁ばかり作っていたのを昨日もゼロガーデンで思ったよ」
「はい。見ていました。あ、2人の勇者が現れました。修行を始めますね。少し大変ですが頑張ってください」
**********
セレストとミリオンは突然の連続で考えが追いつかなかった。
信頼していた女神ジルツァークが人類の敵モビトゥーイだった事。
同じ勇者のジェイドが1人で過酷な戦いをしていた事。
そして状況に流されるままに戦闘状況になった瞬間に眠らされた事。
どう考えても考えが追いつかなかった。
「セレスト、ミリオン…起きて」と言う声が聞こえてきてセレストとミリオンは目を開けると真っ暗な空間にいた。
そして目の前には赤い髪で赤い服の小さな女の子が立っていた。
「ここは…あなたは?」
「あれ?ジェイドやジルツァーク様は…?」
起きて状況がわからない2人は困惑している。
「こんにちはセレスト、こんにちはミリオン。
私はイロドリって言います。
女神イロドリです」
アートがセレストとミリオンに自己紹介をする。
アートに力を注いでいるジョマは娘の晴れ姿に感涙しながら「アート!なんて可愛らしいのに凛々しいの!」と言っているがアートには聞こえない。
「女神…様?」
「ここは?」
「驚かないで聞いてね。ここは夢の世界。ジェイドが2人をヘルケヴィーオに教わった眠りの魔法で眠らせてくれたから私はここに現れたの」
「ジェイド?」
困惑をしていてもセレスト達はジェイドと聞けば少し落ち着く。
「うん。ジェイドはもう、ずっと前から私に協力してくれていたの。
聖女のフランと3人の勇者からジェイドを選んだの。
聖女の監視塔でフランに頼んでジルツァークにバレないようにジェイドの夢に通り道を作って貰って私はその夢に現れた」
「女神様?その頃からジェイドはこうなる事を知っていたのですか?」
「うん。少しだけ導いたけどジルツァークがモビトゥーイで亜人が操られていると教えたのはサシュを倒した後だよ」
「…それでジェイドは僕達を巻き込まない為にミリオンのアトミック・ショックウェイブで亜人達を消し去った」
「うん。ジェイドが苦しそうにしていて見ていて辛かったよ。それでもジェイドは夜眠った時に私に会うとセレストとミリオンは悪くない。
亜人殺しの罪は俺にあるって何回も言っていた」
セレストはそれを聞いて悔しげな顔と声で憤る。
セレストの正義感はやはり勇者のモノだと思う。
「ですがそれが真実と言う証明はありますか?」
そう言ったのはミリオンだ。
それが正しい判断だ。
ジェイドの名を出してくる敵がいてもおかしくない。
私達はその為に仲間がいる。
「私が証明だ」
そう言ってタカドラが現れる。
「え?タカドラ?」
「生きて…え?消えて…」
「私は生きている。あの時、イロドリ様が救ってくださったのだ。今こうして神界でイロドリ様達はエクサイトを救うべく力を尽くしてくださっている。
私はお前達がイロドリ様を信用できるように現れた」
タカドラの登場でミリオンの警戒心が緩んだことにアートがホッとしている。
「リュウさん。ありがとう」
「いえ。我々こそイロドリ様には感謝し尽くしても足りません」
タカドラがアートの前で頭を下げてミリオン達にどちらが上かを教える素振りをする。
「セレスト、ミリオンお願い。このままだとジェイドが1人で亜人王とジルツァークと戦う事になるの」
「そうだジェイドだ」
「でも眠らせたと言う事は、タカドラを攻撃した時のようにジルツァーク様の加護の力で私達を強制されるのを回避したのですよね?」
「それなら問題無い。私が神の力でジルツァークと同等の加護を与えられる。
戦闘状況になったら加護の重ねがけをする。
そうすれば加護の強制も加護外しによる無力化も関係無くなる」
「…なら上層界の修行は?」
「時間稼ぎだ。私の神通力が進化してジルツァークに死を擬装出来るまでの時間稼ぎとして訓練を行った」
「なるほど」
「…納得しました」
「2人にはジルツァークの張る神の防壁を破る訓練を受けて貰うね。ジェイドもやった奴だよ。ジェイドは完璧に覚えたから亜人王ともジルツァークとも戦えるの」
「ですがそんな時間は…」
「大丈夫!時間制御を完璧にマスターしたからキッチリ覚えて行ってね」
正確には東さんとジョマの力で可能になっているだけだがハッタリは大事だ。
見た目が幼いアートには多少のハッタリと威厳が重要だ。
「セレスト、ミリオン。私も大変だったがなんとかなった。お前達ならやり遂げられると期待している」
そう言ったタカドラの目には涙が見えていた。余程王様と黒さんの訓練は辛かったみたいだ。
「ええぇぇぇ」
「が…頑張ります」
セレストとミリオンの覚悟が決まった所でアートが「ヘルケヴィーオ!来て!」と言ってヘルケヴィーオを呼ぶ。
アートを崇拝しているヘルケヴィーオは嬉しそうに現れる。
アートにはニコニコと笑顔だったのだがセレストとミリオンを見ると顔が険しくなる。
「お前達…いや、貴様らよくもイロドリ様に疑問を持ち不遜な態度を取ったな。覚悟しておけ!時間がない。徹底的にしごき倒すからついてくるのだ」
鬼の顔になったヘルケヴィーオに言われて青くなるセレストとミリオンの2人が居た。
**********
「東さん。アートの方見えてるよね?」
「千歳こそよく見えているね。リリオに頼まないなんてよくやるよ」
そうかな?成長中と言われればそれで納得してしまうので細かい部分は気にしない。
「5分くらいかな?」
「そうだね。日数にしたら10日くらいかな?ギリギリまで時間介入をしよう。時空神が外側の時の流れ。千歳が内側。僕が両方で時を止めつつ徐々に時を進めるんだ」
東さんが中心になって指示をくれる。
「おっけー」
「私が時空神なのに…。見せ場なのに…」
時空お姉さんがいじけてしまっている。
いじける事ないんだけどなぁ。時空お姉さんが居てくれる安心感って半端ないんだけどなぁ。
アートたちの訓練は順調に進んでいる。6日目だが悪くない。
私はアートとタカドラに私の存在をセレスト達に悟らせないように伝えてから、この先の話を伝えさせる。
アートは休憩をさせながら話を始める。
「亜人王を倒した先は出た所勝負になっているの」
「出た所勝負ですか?」
「うん。ジェイドが説得できるなら任せるけどダメそうな時は私とリュウさんがジルツァークを神の世界で説得する事になってるから」
「それはどのようにするのですか?」
「ジェイドと会話してジェイドがここの事や私やリュウさんの名前を出したり2人に夢の話をしてきたらそれが合図だからね」
「わかりました」
ここでアートが1つの事を気にする。
「んー…リュウさん。私達の事はなんて名前にしようか?」
「イロドリ様はジルツァークを驚かせたいんですね」
まあ、アートとタカドラと名乗るより別の名前の方が良いのは確かだ。
「うん。ヘルケヴィーオは何か良い案はないかな?」
「それではタカドラは新しい神とでも呼びましょうか?」
「いいねそれ!私は?」
「イロドリ様は…ミリオン達は何かあるか?」
「え?赤い髪のお方とかどうですか?」
「決定!それにしよう!」
こうして7日にわたる訓練と打ち合わせが終わる。
「アート、最後の訓練が終わったらエクサイトを見せながら時間を戻し始めるよ」
「うん」
「セレストとミリオンに今の状況を見させて最適解を用意させてね」
「わかったよ」
アートは防壁で作った塊を破壊したミリオンに「お疲れ様」と声をかける。
「ありがとうございます。ジェイドと同じくらいになれましたか?」
「うん。ジェイドは防壁で作った壁や塊はやる気にならなかったけど別のにしたらメキメキと上達したんだよ」
「別のですか?」
「何だろう、すごく嫌な予感がします」
セレストが嫌そうな顔をする。
「セレスト凄いね〜。正解だよ。ジェイドはセレストの形にして作った塊を破壊してたんだよ」
「ジェイドめ…」
「本当ジェイドってセレストが好きだよね」
「本当ですね」
ミリオンも嬉しそうに答える。
リアンも言っていたがジェイドには同性同士の親友が必要なのだろう。
セレストはそれを知っているだけに嫌な顔をしない。
「…そんな事を言われたら怒れない。イロドリ様!僕にもジェイドの塊を作ってください!断命で一刀両断します!」
「ええぇぇぇ。もう時間ないからだめだよぉ。今からエクサイトを映すからね」
アートの声に合わせてエクサイトの映像を出す。戦闘は始まったところでジェイドが亜人王の顔を殴り飛ばして反撃で壁まで吹き飛ばされていた。
「ジェイド!あんな化け物と…」
「1人でなんて無理よ!」
セレストとミリオンが映像に向かって立ち上がる。
「もうすぐ2人は目覚めるからそれまでギリギリまで映像を見て。そして起きてすぐに何をすればいいか決めて」
この世界から目覚める条件は訓練の終了時に目覚めようと言う意志の強いモノから目覚める事にしてあった。
今の雰囲気だと数分以内に目覚めてしまうのでアートが慌てて2人に指示を出す。
「イロドリ様、ありがとうございました」
「ううん。ごめんね。私は助けてあげたいけどここまでの事しか許されないの。夢の中でしか助けられなくてごめんね」
「いえ、必ず勝ってきます」
「イロドリ様のご恩に報いるように尽くすんだぞ」
「ヘルケヴィーオ、帰りにエルフの街によるわね」
「タカドラもまた後で」
「ああ。共にエクサイトを導こう」
その後でジェイドは亜人王の魔法で隙をつかれてしまい壁にめり込む形で殴られる。
亜人王はこのままラッシュを叩き込み始めた。
「…!ミリオン、僕が先に目覚めそうだ。僕はあの腕を攻撃してジェイドを守る」
「ええ、私が起きたら魔法でジェイドを助ける」
「よし、行こう」
「ええ。イロドリ様、行ってきます」
こうして目覚めた2人の勇者はジェイドを救い出していた。
「アート、お疲れ様。こっちに戻って。次に行くよ」
「千歳!うん!リュウさん行こう!ママ!ありがとう!!」
タカドラは「はいイロドリ様」と答えてジョマは「どういたしまして。立派だったわよアート!」と言う。
**********
通常時間に戻す。
「お疲れ様千歳」
「ありがとう東さん」
私の自由にさせてくれたからきっと東さんは疲れたと思う。
「まったく、私って何?」
「時空お姉さんが居てくれるって思ったから安心して好きにやれたんだよぉ」
いじける時空お姉さんに感謝を伝えると「まったく、上手いんだから」と満更でもない顔で呆れる。
「東さん、このままならもうすぐジルツァークが出てくるからガーデンの不可視モードをジルツァークにだけ外してね」
「ああ。僕の世界でジルツァークを救う一助をしよう」
東さんが優しく受け入れてくれる。
包容力が凄い。
「後、お父さんが心配だからジルツァークを殺さないようにとかガーデンを守る防壁とか頼んでいい?」
「任せて」
これでこっちは一安心だ。
「りぃちゃん!」
「やれるよちぃちゃん!ジルツァークの姿をちぃちゃんのお兄さんとお父さん、後は魔王さん達に見せるんだよね!」
「よろしくね!」
「任せとけって!テッド!ちゃんとやったら赤ちゃんまで一歩前進にしてあげるよ!」
りぃちゃんがテッドが喜ぶタイミングで赤ちゃんの話を出す。
「何!?本当だな!?やるぞ…俺はやり切る!我が家に赤ん坊を迎え入れる!!」
案の定乗せられたテッドはテンションが高くなる。
「王様、広場の護衛ありがとう。輩は出た?」
「あ、聞く?神様が居るのがわかったからか早速3人。この前の粗暴の神が2人とメガネじゃない方の創造神崩れが来たから痛めつけたよ。今はまた隠匿神に頼んで見えなくなってるよ。リリオの機嫌がいいのもそれでテッドが活躍したからさ」
私が広場を見ると確かに粗暴神の1人がケシズミになっている。
ああ、テッドが燃やしたのね。
「テッド!護衛ありがとう!」
「いや、俺は仕事を果たしただけだ」
映像の中でジェイド達が亜人王を圧倒する。
3人のコンビネーションは中々でお互いがお互いの仕事を果たしている。
「起きたのは誤算だよね?もっと眠りの魔法を練習しておけば良かったねジェイド!」
ジルツァークが高笑いをする。
甘い。目覚めたのはセレストとミリオンの意思だ。
どれだけジェイドを思っているか、思いの強いセレストの方が先に目覚めただけだ。
なのでジルツァークが加護の強制を使うが通用する訳もない。
今その加護は女神の加護ではない。
名付けるなら竜神の加護だ。
ちょうどそこにアートとタカドラとジョマが戻る。
「タカドラ、加護が効いてるよ」
「はい。良かったです」
そのままセレストとミリオンが必殺の一撃で亜人王を沈めた。
ジルツァークは目の前で起きた数々の事が理解できずに慌てている。
加護の強制は通用しないのに剣技を放ち魔法を唱え怪我を治してしまう勇者達。
加護を外してみたが本来ならショック死をしてもおかしくないジェイドが平然としている。
そこに合わせるようにジェイドがセレストとミリオンを見て「助かった。この流れになったんだな」と言った。
まったくジェイドは意地が悪い。
セレストとミリオンは夢の出来事とここ数日の事を思い出してジェイドに呆れながら注意をする。
「済まない。願いはしたが最悪を想定していたからな、最悪セレストとミリオン抜きで亜人王を倒し切らねばならないと思っていた」
「ジェイド…バカな奴だ」
「本当、でもここで言うと言う事はそっちに切り替えるのね?」
夢でアートに言われた状況。
ジェイドだけでは説得が追いつかない状況になった証拠だ。
「皆!ジェイドがこっちに振ったよ。地球の神様!今だけエクサイトの出口を広場にして」
「やってある」
その間も映像は進む。
「ああ、このままではラチがあかない。それにそこまで聞いてきたんだな?向こうには誰が居た?」
ジェイドは嬉しそうだ。1人ではない事が嬉しいのだろう。
「赤い髪のお方と新たな神」
「後はヘルケヴィーオさんが居たわ」
ここまで話したところで困惑していたジルツァークが合点の言った顔をする。
「何その会話!向こう!?寝ている間?それって夢の世界?新たな神?やっぱり何処かの神が介入してきたんだ!許せない!
でも今はそうじゃない!
こんな自分の思った状況と違うエクサイトなんて要らない!壊してやる!」
そう言うとジルツァークの姿が消えた。