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おまけガーデン。  作者: さんまぐ
アートの女神イロドリ。
4/19

女神イロドリになるアート。

東京子こと祝福された女神アートは悪夢を見ていた。

それは先程自身を祝福してくれた父母の次に全幅の信頼を寄せる姉と言っても過言ではない調停神チィトこと伊加利千歳に見せられたエクサイトで亜人がもがき苦しむ映像とエクサイトの勇者ジェイドの為に命を燃やし尽くした聖女カナリーの死に際の映像。


千歳に作ってもらったアーティファクト「表現の緩和」は素晴らしいアーティファクトで難しい字が多い本も絵本みたいになるし挿絵も入っていて読みやすい。


だがアートには千歳の言いたい事はなんとなくわかった。

ジェイド達の涙なんかは絵本化したエクサイトのライブラリでは表現されないからだ。


千歳のパートナーのビリンがお風呂場に誘ってくれた時、精一杯強がっていつも通りを心がけながらお風呂場に行くと「アート、チトセの事が嫌になったか?」と聞いて来た。


「なんで?」

落ち込むアートを抱っこでお風呂場まで連れて来てくれたビリンはこれまたお風呂場で飽きないように浮力に合わせて持ち上げてくれたりしながら聞いてくる。


「アートに対して怒ったチトセは初めてだろ?」

「アートは千歳の言いたい事とかは何となくわかるもん。だから嫌になんかならないよ」

アートはバカバカしい質問をするなぁと呆れながらに返事をする。

そもそも千歳が自分を祝福してくれた大事な神。嫌いになんてなれる訳が無い。

怒られたのも自分を思ってくれたからこそだと理解していた。


「すげえな。俺が6歳の時なんて兄さん達の説教なんてわけわかんなかったぜ?」

「ビリンはお子様だなぁ。アートは千歳が祝福してくれた時に心も大人にしてもらったからわかるもん」


「そっか。んでも無理に我慢するなよな。なんだったらやられた分をやり返そうぜ」

ビリンが悪い顔でアートに提案をする。


「えぇ?なにそれ?やだよ」

「そうか?早く仲直り出来るかも知れないぞ?」


アートは仲直りと言う単語に過敏に反応して「本当!?」と聞き返してしまう。


「ほら、気にしてんじゃないか。早く仲直りしようぜ」

「むぅ、ビリンのクセに」


「アート酷え」

そうしてビリンの説明では千歳は今女将さんに夕飯の話をするはずで、遅れてくるからそれをからかおうと言う。

アートが仲直りの為に「OK」と言ったところで声が聞こえる。


「仲直りしたいなら僕も手伝うよ」

「キヨおじちゃん?」

それはゼロガーデンに居るはずのビリンの父キヨロスだった。


「はぁ?父さん?」とビリンがキョロキョロと周りを見る。


「あはは、ビリンには聞こえてないからね。面白いから放っておこうよ。

ジョマに頼んであるから着替えのカゴを見ればアートならわかると思うよ」

「え?何をするの?」


「ほら、チトセってアートより子供だろ?そう思わないかい?」

「ええぇぇぇ、アートはそう思わないよ」

アートは思っても見ない発言に驚く。


「偉いなぁアートは、チトセがアートと仲直りしたくてモヤモヤしてるからイタズラして手っ取り早く仲直りしなよ」

「うん。やってみるよ」


その言葉通りカゴの中に入っていたクマのイラストが書いてあるパンツを見たアートはこれと千歳のパンツを取り換えればいいのだなと気づく。

ビリンにトイレに寄るから先に部屋に戻っていてと言って女湯に入って千歳のパンツを変えた所、怒号を振りまきながら千歳がやってきてあっという間に距離が縮んだ。


その後のご飯やお風呂でまた距離が縮んだ気がしてアートは安心して眠りについたがやはり悪夢になって現れた。


「怖いよぉ」と言って泣いたら千歳が抱きしめてくれたのでアートは安心して眠る。


そうしたら夢に千歳から神如き力を封じられているはずのキヨロスが現れた。


「あれ?キヨおじちゃん?」

「そうだよ。僕はアートの夢ではなく夢の中に出てきた僕だよ」


「え?でも千歳に力を封じられたよね?」

「あれはジョマに取って貰ったんだよね」


「ママに?」

「僕もアートの為に力を貸したいって頼んだらやってくれたよ。ジョマも子供が絡むと甘くなるんだね」

キヨロスはそう言って笑う。

アートは母の名前が出てきた事で嬉しくなる。


「さてアート。これを見なよ」

そう言って映し出されたのは眠っている自分とそれを抱きしめている千歳だった。


「これ…」

「ああ、今の風景だね」

千歳の右腕の中で眠るアートは安らいだ顔をしている。


「アートは本当にチトセが好きだね。あんな安らいで寝るんだからさ」

キヨロスがそう言った時にアートは1つの事に気付く。


「千歳?」

「あ、気付いた?」


映像の千歳は涙を流しながらアートを抱きしめて何べんも「ごめんねアート、怖い思いをさせてごめんね」と謝っていた。


「千歳、泣いてるの?」

「そうだね。アートがうなされているからチトセは自分のせいだと思っているんだよ」


「そんな、千歳が悪いんじゃないのに!」

「だから僕が来たのさ。アートはどうしたい?」


「千歳が泣かないで良くしたいよ!」

「そう。じゃあどうしようか?後はその先の話をしようか」



**********



今アートは夢の中でキヨロスに会っていた。

そこで自分を叱った千歳が泣いて謝っている事を知ってなんとか泣かないですむようにしたいと言うと、キヨロスから別でその先の話をしようと言われた。


「その先?」

「そうさ。僕はリリオに頼んでアートが見てきたエクサイトを観てきたよ。

確かにジルツァークだっけ?あの女神のやり口はイラつくけど同時に完全に悪い奴って気はしないよね。

アートはチトセの言う通りにもう見ないで我慢出来るの?」

キヨロスがアートの顔を覗き込んで聞いてくる。

ハッキリ言って子供相手にする顔ではない。

アートが12歳前後のコミュニケーション力があるから平気だが、幼稚園児なんかでは泣き出す子供も出てくると思う。


「……」

「どうしたの?アレかな?チトセと約束したからとかそう言う事で我慢かな?

でもさ僕ならアートには怖いものに立ち向かって貰ってエクサイトの事も思う通りにさせてあげたいと思うよ」

キヨロスの顔は優しいけどそれだけではない何かを考えている顔だ。


「え?」

「約束は守るべきだよ。チトセからは手出ししちゃダメと言われたよね?それは守りなよ。

それを守りつつエクサイトを救う方法を考えてみなよ」


「エクサイトを救う?」

「あれ?チトセから聞いてないのか…」


「救うって何?」

「僕とチトセの読みが同じならこのまま行けばエクサイトは良くない結果になる」

そう言ったキヨロスの顔は怖い。

やはり子供相手にする顔ではない。


「ジェイドは?セレストは?ミリオンは?」

「…多分今度は倒される敵になる」

何を言っているかはわからないが助けたい、助けて欲しいとアートは思った。


「助けないの!?」

「チトセはギリギリまでしないよ」


「なんで!?」

「メガネの創造神が僕達のためと言ってガーデンに来たらアートはどう思う?」

…ジルツァークからしたら自分たちがメガネの創造神と同じ扱いになるのかとアートはここで気が付く。


「それはやだよ」

「だろ?それと一緒さ。だからチトセはギリギリまで悩んで苦しむ」


「アートはジェイド達を救いたいよ!」

「ならどうするんだい?」

キヨロスが嬉しそうな顔でアートを見る。

アートがジェイド達を救いたいと気持ちを表した事が嬉しかったのだ。


「え?」

「直接手は出せないんだよ?」


「えっと…、キヨおじちゃんならどうするの?」

「僕ならか…答えになっちゃうけどまあアートは子供だから仕方ないか…。

アート、今僕とアートが話している事はライブラリを見なければバレないんだよ。

神様やジョマは見破れるかも知れないけど僕が本気になればあの2人すら欺いてみせるさ」


「バレない?千歳にも?」

「そうさ。まあ千歳はライブラリが見れるからおかしいと気付けば見るかもね、

でもさ、あのジルツァークはライブラリ見れるんだっけ?」


「あ!」

「そうさ。僕なら手出しが許されない中で行動をするなら夢を使って信頼できる存在にエクサイトの危機を知らせてエクサイトを平和に導くよ」

それを聞いて希望が見えたことが嬉しくてアートの顔も明るくなる。


「じゃあ夢が使えればエクサイトを助けられるの?」

「そうだよ」


「アートも使える?」

「アートはチトセに出来る事なら出来るだろ?大丈夫だよ」


「じゃあアートも夢を使えるようになるよ!」

「そうだね。でもその前にやるとがあるよね」


「やる事?」

「そうだよ。怖いって思わないで済むようにならないと」


「え?」

「エクサイトに関わって夜中にうなされたらジョマや神様に怪しまれるよ?」


「ええぇぇぇ…」

「大丈夫!アートならやれるよ!」

キヨロスがアートの肩をガシりと掴んで力強く言う。

その目がとにかく怖い。


「うぅ…頑張るよ」

こうしてアートは一般的な戦いなんかを見せられて2度目の「怖いよぉ」とうなされたのだった。



**********



翌日、もう一泊お泊りをしてきたアートは日本の家に帰ってきていた。

なるべくバレないように家族を心配させないように普段どおりを心がけて夜も早寝をした。

眠りに付くとさっそくキヨロスが現れる。


「よし、通常時間に戻ったから他人の夢に入る練習をしよう」

そう言ってキヨロスは楽しそうにあれこれ考えている。


「最終的には2人使おうかな」

そう言ったキヨロスは二の村に住むガリルをターゲットにする。


「ガリルの中に通り道を作るから着いておいで」

アートは言われた通りに手を引いてもらい着いていく。

何か変わったのはわかるが何が変わったのかわからない。


「ここがガリルの中だよ。今までと違うのがわかる?」

「うん。何となくだけどわかるよ」


「よし、いい感じだね。通り道ができたのもわかる?」

「うん」


「よし、明日はこの道を通って1人でガリルの中に入る訓練だからね」

夢の中のガリルはこれでもかと美味しいものを食べていた。


「アート、夢の中だと意識のある方、夢だと自覚している方が強いからね。見てて」

そう言ってキヨロスが笑うと次の瞬間ガリルが苦しみだす。


「キヨおじちゃん?」

「ふふ、今食べた猪のミートパイを超激辛にしたのさ」

キヨロスが「ふふふ」と言って笑う。


「ほら、アートもやってみなよ」

「ええぇぇぇ」

こちらに気付かずに悶絶しているガリルを見るとかわいそうでやる気にならない。

そもそもガリルは女性人気が微妙だが小さい子供の面倒見は悪くない。

延々とお兄ちゃんと言う感じで遊んでくれるし。遊び方も全力投球、本気で遊んでくれるので楽しい。

そのガリルに何かをするのは気が引ける。


「イメージをぶつけてやるんだ」

だがキヨロスは引かない。

アートは渋々言われた通りにする。


苦しんで慌てたガリルが目の前に出てきた水を飲むがむせて吹き出す。


「アート?何をやったんだい?」

「コップの中身を全部レモン汁にしたの」


「へぇ、いいね。じゃあ一度アートの夢に帰るよ」

アートの夢に帰ったキヨロス達が映像を出すとそれは現実のガリルが起き抜けに「何だったんだ今の悪夢は」と言って水を飲んで寝直していた。


「見た?これがただ夢に入った状態。

印象の強い夢は覚えてしまうからね。

さあもう一度行こうか」

「いいの?」

またガリルの夢に入ると言うのが申し訳なく思ってしまって聞いてしまう。


「別に夢だから平気だよ。今度はアートが自分で行くんだよ」

アートはさっきの入り口を意識してガリルの中に入る。


「さすがはアートだね。よし、今度は今ここでこの世界に向けて覚えるなと命じるんだ」

アートは言われた通りにする。


「よし、これでガリルは覚えてないから何をしても問題ないよ。あ、殺すのは悪影響出るかも知れないからやめてあげなよ」

「やらないよぉ」

なんでそう恐ろしい事をバシバシと口にできるのかとアートは思ってしまう。


今度はキヨロスがガリルに可愛らしい女の子を用意して、油断をしたところでいきなり殴りかからせた後で悪魔化させてみた。

起きたガリルは「なんかやな夢見たな。なんだったんだろ?」と言っていた。


「明日はさウエストのガイの中に入ろう。ガイに通り道から作るんだよ」

アートはその声で目覚めた。



夜眠るとアートは夢の中での訓練を着々と進めて行く。

ガイに対しては王子の立場とマリナとの交際の板挟みを見せたり、これでもかと強化されたマリナにガイが圧倒されると言う悪夢をキヨロスが見せる。

アートは適宜言われた通りにガイが目覚めないようにしたり覚えていないようにしたりをした。


「アートも何かしてみなよ」と言われたのでガイにマリナへの気持ちを確認してみたり母親のアーイをガイの夢に導いてみたりした。


「面白い事を考えるね。どうしても僕は戦いばかりを考えてしまうよ」

そう言ったキヨロスはガイの前にガリルを呼び出すと戦わせてみたりする。


剣士vs拳士

2人の達人は一歩も引かずに激突をする。

今回はガイの方がガリルの手甲を破壊する事に成功して勝利していた。


「面白い結果になったな。僕の予想だとガリルが勝ったんだけどなぁ」

キヨロスは興味深そうに言うと「今度他の人物達もぶつけてみよう」と恐ろしい事を言い出していた。



**********



練習を始めて3日目になる。


「よし、アートの夢に入る力は育ったかな」

「じゃあエクサイトに行ける?」


「まだだよ」

「えぇ〜?なんで?」


「まずは話し方を少し直さなきゃ」

「話し方?アートはキチンとお話できるよ?」


「ほら、それだよ。万一ジルツァークにバレた時に「女神はアートと名乗ってました」じゃダメだろ?だから夢の中では私って言うんだよ。

でも外で私って言えばチトセや神様達が怪しむからね。キチンと使い分けるんだ」

「…うん」

これにはちょっと自信がない。


「後は誰の夢に入るか相談しなきゃね。

それ以外は服装だな。女神の衣装は持ってないの?」

「うん。無いよ。

うーん…パッと見でアートとバレない服装とかが良いな」


「お洋服は幼稚園のお洋服は?」

「あれはいつも神の世界に着てきているからダメだよ。まあ服とかは直前までに決められれば良いから今は別の事だな…」


「うん」

「アート、アートは髪色を変えられる?ジョマやチトセはやれるからアートも出来ると思うんだよね」


「どうだろ?やってみるね」

アートはそう言うと「赤くなれ、赤くなれ」と言いながら神の力を使うと髪色は赤くなる。


「出来た!」

「やるじゃないか」


その話の後、アートとキヨロスはエクサイト救済計画と銘打って計画を考えた。


「とりあえずエクサイトでアートの助けになる存在をみつけよう。

チトセやリリオがやったみたいに遠距離でエクサイトを感じてアートの助けになる人間を見つけてソイツの夢に入るんだ」

「うん…。どうしようリリオに聞いた方がいいかな?」


「不安?」

「うん」


「じゃあダメならダメって認めなよ。僕が手を貸すよ」

「うん。キヨおじちゃんなら遠距離で行ける?」

これが千歳なら「はぁ?ムカつく。やるわよ。やればいいんでしょ?」等と言いながらやりきるがアートは違う。子供として出来ない部分は大人をキチンと頼る。


「僕はもうエクサイトに光の剣を隠匿の力で飛ばしているから本気で探されない限り見つけられないさ。だから問題無いよ。アートは誰に頼りたいんだい?」

「人間だとフランがいいと思うの。聖女で特別な力があるから夢に入りやすいと思うし。後はタカドラとヘルケヴィーオとワタブシ」

アートはライブラリを見ていてフラン以外ではメガネが用意したタカドラとヘルケヴィーオとワタブシが適任だと思っていた。


「うん。それが良さそうだね。

ジェイド達はジルツァークの加護があるからいきなり夢に行くのは勧められない。

それにフランならこの旅でもう一度ジェイド達に会えると思う。駄目なら人間ではなくなるけどヘルケヴィーオ辺りが適任かもね」


ここでアートはキヨロスにエクサイトの経過を聞く。


「え?アートはあの後観てないの?」

「千歳と約束したし」


「アートの約束って何?」

「1人で世界を見ない事。大人の人と見る事」


「じゃあ僕が居るから見ようよ」

「いいの!?」


「ああ。今ジェイド達はグリアに着く所だよ。僕が居るから遠距離でライブラリを見るんだ。

いいかいアート?チトセにやれる事ならアートはやれるからね。まだ子供なんて思わずにやってみせるんだ」

アートはその言葉に力を貰ってエクサイトのライブラリを参照する。


「出来た!」

「よし、じゃあチトセの作ったアーティファクトの代わりに僕の作った「表現の緩和」を着けて」

キヨロスが渡してきたものは千歳がくれたものと全く同じ赤い伊達メガネだった。


「おんなじ?」

「いや、チトセのは見える世界が優しすぎるからね。

僕の方はもう少し過激になっている。アートなら二つの違いはわかるよね?」


「うん。こっちからはキヨおじちゃんの気配がするよ」

そう言ってライブラリを見てみるとジェイド達は聖女の監視塔からグリアを目指していて寒村に寄ったりしていた。


「ジェイド達元気そうで安心したよ」

アートはそう嬉しそうに言った。



**********



翌日、アートは「表現の緩和」を2つ持ち出して見てみた。

エクサイト、ジェイド達はグリアで聖剣を回収して今も夜通し戦っていた。


五将軍の1人、不死のスゥとの戦い。

一見不毛に見える戦いだがジェイドは勝てると言い昼夜戦っていた。

セレストとミリオンは聖剣を回収した後はスゥの「死者」を操る能力の範囲外まで退避して亜人を退けながらジェイドを待っていた。


「アート、どうだい?」

「うん。千歳の眼鏡よりキヨおじちゃんの眼鏡の方が血も見えるし痛そうな顔も見えるよ」

アートはこの前よりは驚かなくなっていた。

確かに表情も痛そうで血も前回のものよりリアルだが何とか耐えられていた。


「そうだね。僕の方もそれ以外の残酷表現は外しているよ。でもこっちの方がわかりやすいだろ?」

「うん。ありがとう」


「いや、それにチトセのアーティファクトの模倣だから凄いのはチトセだよ」

「それ言ってあげればいいのに」

何故かキヨロスは千歳に厳しい。

褒めるべきところは褒めてあげればいいのにとアートは思ってしまう。


「ダメだよ。チトセはすぐに調子に乗るし甘えるんだから。僕が言うのは「まったく、チトセはまだまだだね」だよ」

「仲良くすればいいのにわかんない」



「とりあえずアートはエクサイトとの連絡の取り方を決めないとね。

後は言い忘れたが虚実を混ぜるんだ」

「虚実?なにそれ」


「ああ、ごめんね。嘘と本当さ。

父親が創造神で母親が装飾神って知られたりアートが祝福された神って知られたらすぐにバレちゃうだろ?だからそこは「言えない」ではなくて嘘を混ぜるんだ」

「でもパパとママから嘘はダメだって…」


「アート、これは大人の嘘。大事な事なんだ。

もしも聞かれた時には夢を渡る能力、他の力も僕やチトセだけでなくリリオやテッドを織り交ぜて教わったと説明するんだ。

それにこれは嘘ではないよ、ジルツァークに悟られないようにジェイド達の先に居るアートに行き着かないための作戦で情報をあえて混乱させるんだ」

「………わかった」


「それで名前とか服はどうするんだい?」

「実は決めたけど服はママ達に見つからないように用意するのが大変なの」


「なるほど。じゃあ、共犯を増やすか…」

キヨロスはそう言うと何かを探し始める。少しして「見つけた、こっちから行くんじゃなくて呼ぼう。来てくれ」と言って手を出すと目の前には長身の男神、複製神がいた。


「ここは、夢の中?」

「やあ複製神、眠ってくれていて助かったよ」

辺りを見渡す複製神にキヨロスが近づいていく。


「君は魔王…君が私を呼んだのかい?」

「ああ、後はね」

キヨロスが顔をアートの方に向ける。


「アート?」

複製神はまさかの存在に驚く。


「こんばんは」

「やあ、こんばんは。これはご両親やチトセは知っているのかい?」

複製神は長身でアートを怖がらせないためにしゃがんで挨拶をする。


「半分ね。今は秘密さ。君も僕達を助けてよ」

「何?」


「アートの事はどこまで知ってる?」

複製神の情報はアートが千歳とエクサイトを見た事、千歳がアートにエクサイトを見させたくないからアートに見る事を諦めさせようとした事。

万一その先でアートがショックを受けていたら慰めてあげてほしいと言われた事を隠匿神経由で多少聞いていた。


「千歳…」

「よかったねアート」

アートは千歳がそこまで気を回してくれていたことが嬉しくて思わず顔がほころんでしまう。



「…それでこの集まりはなんだい?」

「アートはエクサイトを救いたい。

その為に頑張っている。

そんな子供の助けになってあげたいだろ?」

複製神は千歳からキヨロスの事も多少は聞いていたので何となくこの状況は理解できる。「王様は皆に嫌われても憎まれても相手の意思を尊重するんですよ。昔はウチのお父さんが死ぬってわかっても協力したし、この前の戦いではテッドの申し出を受けて戦わせるし」その人間が頑張ろうとする子供を無碍にはしないだろう。

だが一つの不安材料があった。


「まさか君はチトセの言いつけを無視してアートにエクサイトを見させているのか?」

「そうだよ。アートはその為に夢を渡る力を身につけた。だが心配はいらないよ。

アートはチトセの言いつけは守っているさ。

キチンと自分から世界に手出しはしない。

大人が居ないところでは世界を見ない。

ね、アート?」

「うん」

…もう何も言えない。

複製神はそう思っていた。


「それで、私には複製の力を教えろと?」

「あー、それもいいけど複製神も一枚噛んでよ。

まずはアートの衣装を複製して。アート、イメージを複製神に渡せるかい?」

「うん…頭の中のイメージを見せれば良いんだよね?」


アートはイメージを複製神に見せる。

「へえ、変わった服装だね。

それにしてもよく似合っていて可愛いじゃないか」

「なんで複製のおじちゃんに渡したのにキヨおじちゃんが見てるの?」

複製神が反応をする前にキヨロスが反応をしてアートが変な顔をする。


「僕ならこのくらい余裕さ」

「魔王…、君はまさか視覚神の力まで?」

「まあ元々僕には「千里の眼鏡」って言うアーティファクトもあったから見えない場所を見る理論は理解しているし、僕も「意思の針」って言うアーティファクトで意思の伝達はするしね。何となくだけどわかればこれくらいならさ」

キヨロスが結果に対して満足げに笑う。


「はぁ…、どこまで成長する気だい?」

「無論死ぬまで。どこまでもだよ」

当然だろ?と書いてある不遜な顔。

これもアーティファクト「時のタマゴ」を持った影響で性格が変わったと聞いていたがそれでも不遜は不遜だ。呆れた複製神はキヨロスをスルーしてアートを見る。



**********



アートのイメージを受け取った複製神がアートに質問をする。


「アート、この服は?」

「これはね七五三ってお祝いで着たんだよ。

大きくなったお祝いなんだよ。

それでこの赤い着物は千歳のお下がりで常継がくれたんだよ」


「創造神や装飾神は喜んだろう?」

「うん。だから私はこの服でエクサイトに行きたいの」

アートは女神の服装に七五三の着物を選んでいた。

確かに真っ赤で黄緑色の挿し色の入った着物はアートに良く似合っている。

だが元の持ち主はどう思うだろうか?


「…チトセの服…、チトセが怒らないだろうか?」

「大丈夫だよ。チトセが怒るのは僕にだけさ。複製神達には「ありがとう」と言うよ」


複製神は蜘蛛の糸に捕まった気持ちになる。

もうどうやっても逃れられない。

それならさっさと協力をしてしまおう。


「わかった。複製しよう」

複製神はあっという間に着物を出す。


アートはオリジナルと寸分違わぬ着物手に取ると「凄い!」と大喜びだ。

そして着物を持ったままキヨロスの前に行く。


「キヨおじちゃん着させて」

「えぇ!?アートは自分で着られないの?」


「うん。七五三の日は千明ママとママと千歳がやってくれたよ」

「…共犯を増やそう」

今その3人は邪魔をしてくる存在で頼めるはずもない。結局時空神と2人の治癒神と隠匿神、4人の女神が夢の世界に呼び出された。


「まったく、隠れてコソコソとやってて」

「まあアートも魔王さんも大人しくしているタイプじゃないけど」

「千歳にバレたらまた怒られるわよ?」

「アート、その服可愛いね」


4人の女神達があーでもないとやりながら何とか着物姿になるアート。


「えへへ。皆ありがとう!」

「よし、アート。その服装を登録して。いつでもなれるようにするんだ」


アートはやり方がわからないと言うのでキヨロスから教わって作り出した0と1の間に服を格納するイメージ。そこから瞬時に呼び出して今着ている服と交換して着替える方法を教わる。


「やれたじゃないか」

「うん。ありがとう皆!」

アートは嬉しそうに何べんも着替えを繰り返す。


「千歳にバレたら怒られるからね」

「本当、仕方のない子」

「でもこれも千歳に言われた「慰めてあげて」の一環だよね」

「千歳は怒ると怖い」

4人の女神がアレコレと意見を言っている。

頑張って気分を盛り上げているが4人とも内心千歳に怒られたくはない。

千歳が怒ると怖いのだ。

それを見てキヨロスが「複製神にも言ったけど怒られるのは僕だけで皆は感謝されるよ」と伝える。


「…それでもやるの?」

「当然だよ。アートがヤル気なのにそれを阻害するなんてダメだよ」


「はぁ…」

「凄いわね」

キヨロスの返答に4人はもう何も言えなくなっていた。


「アート、どうするの?」

「え?」


「名前。バレたら困るからアートって名乗れないでしょ?

今さっき着替えの練習中に魔王さんから聞いたけど虚実を混ぜるなら名前もダメだし祝福された女神、祝福神もバレちゃうから名乗れないよ」

治癒神が心配そうに質問をする。


「うん。もう決めてあるの」

「え?決めていたの?」


「うん。私はねこの前千歳に教えてもらった言葉がどうしても気になっていたからそれにするの。「彩=イロドリ」って名前にするよ」


「イロドリ…装飾神の娘がイロドリっていいね」

イロドリの名前を聞いてその場の神々は口々に賛成をする。



「じゃあアート、明日からは行動を開始しよう。夜は怪しまれないように早寝するんだよ」

「うん!」

キヨロスに言われたアートは気持ちよく返事をする。



「君達もアートが心配なら早寝するんだよ。僕が来られない日も君達が居るなら安心だからね」


「…やっぱりそうなったわね」

「諦めよう」

蜘蛛の糸からは逃れられない。5人の神はそう思って覚悟を決めた。



**********



アートは翌日から順次エクサイトの命に関わっていく。

まずは唯一竜のタカドラの夢に入る。


「こんばんは」

「…見たことも無い服装のお嬢さんがどうされました?」

タカドラは目の前に現れた幼い娘に驚きながらも夢を見たのだと思っていた。


「はじめまして。私は女神、イロドリって言います」

イロドリと名乗ったアートは緊張で話し方が硬い。

タカドラの大きさは大人であれば2~3人が余裕を持って載れる大きさなのでアートが対峙すると威圧感が凄い。


「女神?ジルツァークの知り合いですか?」

タカドラも女神と聞くとジルツァークを思い浮かべるのかアートにたずねる。


「ううん、私はジルツァークを知っているけどジルツァークは私のことを知らないの。

それでね。いきなりこんな事を言われても困ると思うけど、このままだとエクサイトが滅びてしまうの。力を貸してタカドラ!」

実際会ったら何を話すかは一晩考えていた。

アートの中では自己紹介→現状説明→協力者になって貰うつもりで居たのだが緊張で色々とすっ飛ばしてしまっていた。

これは見守っているキヨロス達もハラハラしてしまう。

だがタカドラは違っていた。


「私の名をご存知なのですか?」

「うん、生み出された時から知ってるよ!ヘルケヴィーオもヘルタヴォーグもワタブシの事も知っているよ!」


「全ては女神様だからですか?」

「信じてくれるのタカドラ?」

そう言ってパァッと明るい顔になったアートがはたと困った顔に変わる。


「女神様?」

タカドラが心配そうに聞くと「私は全然年下だからタカドラなんて偉そうに呼べないよ」とアートが言うとタカドラが柔らかい表情で「女神様なのですからお好きに呼んでください」と言う。


「じゃあ、リュウさんって呼ばせてね」

アートがホッとした顔でタカドラの事をリュウさんと呼ぶ。

タカドラは名前の意味を聞くと「ドラゴンは竜だからリュウさんね」とアートが言う。

高い場所に住むドラゴンだからタカドラよりも気持ちがこもっていると思いタカドラは内心嬉しくなる。

そしてアートは少しずつ今この場所がタカドラの夢の中だと言う事。何故夢で会うかと言えばジルツァークにバレる事なく会わなければならないからと言う事、ジルツァークには何も知られてはいけない事を伝える。


「女神様?それは滅びてしまうと言われた事と関係をしているのですか?」

「うん。今はまだ信じられないよね?」

考えていた手順を間違ったアートが心配そうな顔をする。


「いえ、私は女神様を信じます」

タカドラはあまりにも簡単にアートを信用する。


「なんで?」

「ジルツァークには秘密が多すぎて不透明さが気になります。

現に99年前のワイトのその後も私達は何も知りません」


「そっか…リュウさんもワイトの事は知らなかったんだね」

アートはそう言ってから見てきた事を伝える。


「ワイトがモビトゥーイの手で3人にされて人間界に連れ帰られた?」

「うん。そして人間界は聖女と呼ばれる女の人たちの手で壁を作って亜人達が来ないようにしているの」


「そうでしたか…。あの壁が出来た理由は聖女だったのですね。そしてこの99年間、時折亜人達が人間界に向かっておりましたが未だに戦っているのですね」

「うん。私は今のエクサイトを助けたいの。お願いリュウさん。私を助けて」

アートは両手を広げて身振り手振りでお願いをする。


「助けですか?」

「うん。私はこの世界に手出しができない決まりなの。許されるのは夢を使って信用できる人達を導く事なの!私を助けて?」


必死になってお願いをするアート。

それを見たタカドラが少し嬉しそうで困った顔をすると姿勢を正してこう言う。


「女神様、それを言うなら私ですよ。女神様、どうか私達を助けてください」

「リュウさん」


「まず何をすれば良いですか?」

「1日に何回もくると流石にバレたりしてまずいから私は夜眠った時にだけ来るね。

だから夜は必ず眠って。

そして日中はジルツァークに悟られないように普段通りを心掛けてね」


「はい」

「後ね、私はリュウさんの他にヘルケヴィーオとワタブシにも協力をお願いしたいの。

どうかな?」


「あの2人は信頼できる存在です。ご安心ください。なんなら私から話を…」

「ダメだよリュウさん!仲間になったヘルケヴィーオ達とも話すのは夜、それも夢の中だけだからね!」

アートが必死になって止めると「あ」と言う顔になるタカドラ。


「あ…そうでした。すみません」

「後ね、人間界では聖女と後は聖女の協力次第で今回の勇者の1人にも協力をお願いするつもり」


「聖女はともかく勇者は側にジルツァークが付いているのでは?」

「うん。だから慎重に進めるよ。でも多分ジルツァークをなんとか出来ると思うんだよね」


「わかりました。それでは女神様、次は明日ですか?」

「うん。後はね、私は女神様よりイロドリって呼ばれたいよ」

本当はアートと名乗りたいがそれが叶わないのならせめてイロドリで呼ばれたい。


「わかりましたイロドリ様。それではまた明日」

「うん!リュウさん!また明日ね!」



**********



アートはタカドラに別れを告げて自分の夢に帰る。

自分の夢ではキヨロス達が待っていた。


「見ていたよアート。最初はヒヤヒヤしたけど上手じゃないか」

「えへへ、ありがとう」

褒められたアートはまんざらではない顔で喜ぶ。


「よし、今日からは同時進行の練習もしよう」

「同時進行?」


「そうだよ。見ていたけどアートはタカドラと話しながら勇者達とも話す事になるよね?だから同時に相手を出来るようにしよう」


「魔王さん。あんまりやり過ぎてジョマに怒られても知らないよ?」

「大丈夫さ。子供の成長を喜ばない親なんて居ないさ」

心配する治癒神だったがキヨロスは何も気にしない。



そしてアートは同時進行の練習をしたがどうしてもうまくいかない。


「くそっ、あれか…、アートの力の元はチトセだからか…。チトセは同時進行が苦手だから…」

「これはガーデンの神かジョマに教わらないとダメだね」

複製神が冷静に意見を言う。


「…そうだ。時空神!君が居たよ」

「え?」

キヨロスは視線の先に居た時空神を見て閃いた顔をする。


「チトセは時間の制御は得意だったからアートもやれるよ!」

「…千歳と同種の力ならそうなるわね」


「だから君がアートに時間制御を教えてあげてよ!アート、時空神から時間制御を教わるんだ。これでタカドラといる時間を「1時間を1分」とかにして終わってから勇者達に会えば問題は解決だよ」

「本当?」


「ああ、さあ時空神にお願いをして」

「時空お姉ちゃん、お願いしてもいい?」

アートが申し訳無さそうにしつつ頼りにしているよと言う顔でお願いをする。


「…くっ、良いわよ。アートは本当可愛いんだから」

時空神はアートを抱きしめてグリグリしながら言う。



その後のアートの生活は夜眠るまでは普段通りを心掛けて夜になるとエクサイトの事をする事になった。



2日目にはタカドラを連れてヘルケヴィーオの夢に行く。


「ここは?タカドラ?」

「ここはお前の夢の中だヘルケヴィーオ」

タカドラがヘルケヴィーオを混乱させないように状況を伝える。


「何故タカドラが私の元に?」

困惑するヘルケヴィーオの前にアートは出ていき「こんばんはヘルケヴィーオ。私は女神イロドリ。リュウさん…タカドラと共にこのエクサイトを助けて貰いたくて来ました」と挨拶をする。


「女神…様?」

「見えないかな?」

困り顔で照れるアートに「いえ、急な事で驚きました」と慌てるヘルケヴィーオ。


アートはエクサイトのできた時の話とワイトの話をして、その後でこの事はジルツァークに知られてはいけないと言ったタカドラにした説明をする。


「タカドラ?もしや今日あった時にお前はこうなる事を知っていたのか?」

「ああ、イロドリ様からも日中は知らない事にするように言われたから約束通り黙っていた」

タカドラが忠実な執事のようにアートの半歩後ろで返事をする。


「イロドリ様、それが必要な事なのですか?」

「うん。ジルツァークに知られたらエクサイトが助からないの」


「それは、諸悪はジルツァークなのですか?」

「…ごめんね。まだ言えない」

アートが八の字眉毛で「ごめんね」と言う。


「…ヘルケヴィーオよ。我々はこうして頼ってくださったイロドリ様を信じようではないか?」

そのタイミングでヘルケヴィーオが疑問を抱かないようにタカドラが話をまとめていくとヘルケヴィーオも「ああ、そのつもりだ」と返事をする。

これでヘルケヴィーオも協力者になってくれた。



「イロドリ様、この話はこの先どうなりますか?」

「…リュウさんにも言ったけどこの後はワタブシと人間界の聖女と勇者に声をかけたいの」


「ワタブシですか。奴は頼りになります。ご安心ください。申し訳ありませんが人間界の事はお願いいたします」

「うん」


「ただ、お願いをしても良いでしょうか?」

「何?」

アートは何気なく返事をしてしまう。


「何故我々の見た目が同じなのかを知りたいのです」

「あ…」


「ご存知なのですね?」

ヘルケヴィーオがアートの表情から察して詰め寄ってくる。

あまりネガティブな気持ちになる事は伝えたくないがここで言わない訳にはいかない。


「うん。明日ワタブシが来た時でも良いかな?」

「構いません」


「後ね、私は年下だからヘルケヴィーオの事もリュウさんみたいに…」

「なりません。イロドリ様は女神様です。私の事は名前でお呼びください」

アートは気さくに呼びたかったのだがヘルケヴィーオはそれを良しとはしない。


「ええぇぇぇ」

「なりません」



その話の後でアートはフランの夢にも行く。



**********



「フラン」

「誰?」


真っ赤な着物に真っ赤な髪のアートの前に黄色の服を着た聖女フランが居る。


「ここどこ?」

「ごめんね。ここはフランの夢の中」

アートが怖がらせないように話しかける。

驚いて起きないように力を使っているのでとにかくゆっくりと話しかける。


「夢の中?あなたは?」

「私はイロドリ。女神イロドリなの」

フランは10歳、アートは6歳だがフランが小柄でアートは平均よりも背が高いので背の高さはあまり変わらない。

同じ目線で2人が見つめあう。


「女神様…ジルツァーク様と同じ女神様?」

「うん。女神だけどジルツァークは私を知らないの。怪しまないで落ち着いて聞いて欲しいの。いいかな?」


「はい…」

フランは何処かアートを怪しんでいるのがわかる。

だがここでモタモタしているわけにはいかない。


「あのね。今のままだとジェイド達の旅は失敗するの」

アートが話の核心を告げる。


「ジェイド!?なんでですか!?」

「…それを止めたくてきたの。でもこの世界はジルツァークの世界で私は手出し出来ないからフランに助けて貰いたいの」


「そんな!あなたが言えないのなら私がジルツァーク様にお伝えします!」

「ダメなの!お願い!ジルツァークには内緒で私を助けて!」

アートは必死になってフランに訴える。

昨日と今日のタカドラとヘルケヴィーオが上手く行き過ぎていた。あの2人と同じ感じで進むと思ってしまっていたのだ。



「私はどうやってあなたを信じたらいいのですか?」

「え?」

フランの厳しい眼差し。

真剣にこの状況を把握しようとしているのがわかる強い眼差し。


「ジルツァーク様は今までも沢山よくしてくれました。

いきなり現れたあなたと言う女神様を信じてジルツァーク様を裏切るなんて出来ません!」

「そうだよね…。どうしよう?」

アートは困ってしまい思わず泣いてしまう。

考え不足と言えばそれまでだが、正直人間達がここまでジルツァークを信じ込んでいるとは思わなかったのだ。


「え?女神様が泣いてる?」

これにはフランが度肝を抜かれてしまう。


「ごめんね。私がエクサイトを知った時にはカナリーは旅立ってしまっていて人間界で頼れるのは聖女のフランだけだったの。ジルツァークの見ていない所で頼れるのは聖女だけだったの」

アートがシクシクと泣いていると「泣かないでください」と言ってフランがアートの手を取る。


「ごめんねフラン。急に呼ばれて困っているのはフランなのにごめんね」

謝るアートをフランは姪達をあやすように接する。


「もう、仕方ないなぁ。聞くだけ聞くから話してみてよ」

そう言われてアートは一つずつ話していく。

そして相槌と共に聞かれるフランの質問にはキチンと答えていく。

わからない部分は無理矢理ライブラリ参照をして答える。

これは同時進行なのだがアートにその自覚はない。



「すると、ジルツァーク様に知られてもダメでこのまま旅を続けるとジェイド達も死ぬ」

「うん」


「でも今日の今日ではなんでかは教えられないと」

「うん」


「でもこの旅はジェイド達が亜人や亜人王とモビトゥーイを倒して終わりじゃないの?」

「うん。終わらないの。むしろその後が問題なの。その先もあって勇者ワイトは負けて3人にされて人間界に帰ったの」

アートは何とか今言える範囲で説明をするがフランには「よくわからないよ」と言われてしまう。

アートは「ごめんね」と言って謝る。


「もう。イロドリ様は神様なんだから謝らないの。それで私は何をすればいいの?」

「フランはジェイドとセレストとミリオンなら誰が信用できる?」

質問に質問はよくないと以前千歳から言われたがついしてしまう。


「それは…ジェイド」

フランは少し考えた後で赤くなりながらジェイドの名前を言う。


「そっか、じゃあジェイドに知られないように夢への入り口を作って貰いたいの」

「え?」

突然夢の入り口と言われてもフランは困ってしまう。


「フランは聖女の力があるから「力」と言うのは意識できるよね?」

「うん」


「良かった。カナリーもジェイドの傷を取ってくれたからフランにも力があると思ったの」

「でも夢に入るならイロドリ様が直接ジェイドの夢に行けば?」


「万一ジルツァークにバレるとエクサイトが滅びてしまうからできないんだよ。

まずはフランが何気なくジェイドに接近して入り口を作ってもらって私はそこを使って入り込むようにしたいんだよ」

ようやく伝えたいことが伝えられたアートは嬉しそうに笑顔になる。

その笑顔を見てフランは悪い神様ではないのかもしれないと認識を改める。


「…いいよ」

「本当!?ありがとう!」


「うん。でも協力するかを決めるのはジェイドだよ?」

「それでいいよ〜助かったよ」


「今度はいろんな質問をしてもいいの?」

「それはまた明日ね」


「明日?」

「うん。毎晩訓練に来たりお話ししたりしに来るからさ、その時ね」


「うん。わかったよイロドリ様」

そう言ってフランと別れたアートは自分の世界に帰り泣いて失敗した事を後悔する。


「でも上手く行って良かったじゃない」

「そうよ。まだ6歳なんだから上手く行かなくて泣いちゃうのもわかるって」

そう言って治癒神達が慰めてくれる中。


「説得をしに行こうかと思っていたけど何とかなって良かったよね」

「そうだね。必死に治癒神達が止めるから困ったよね」

キヨロスと黒いキヨロスが話し込んでいた。


「何でキヨおじちゃんだけじゃなくて黒キヨおじちゃんも居るの?」

「僕だって混ざりたいのに皆が意地悪するから来ちゃったよ」

「ここは時空神辺りが誘ってくれないと困るよね」


「1人で十分なのに2人も求める訳無いでしょ?」

時空神が呆れながら言い放ったら「酷くない?」と言い返されていた。



**********



3日目

アートはイロドリとしてワタブシの夢にタカドラとヘルケヴィーオと赴く。

「なんだ?タカドラとヘルケヴィーオと小さな嬢ちゃん?」

「はじめましてワタブシ。私は女神イロドリです」

ワタブシは不思議と全てを受け入れてくれた。


「おじちゃんはなんですぐに信じてくれたの?」

「簡単な話だよ。ジルツァークの奴は何を考えているのかわからないからな」

そう言って豪快に笑うワタブシ。


「イロドリ様、そろそろ教えてくださいますかな」

「この世界の成り立ちを、そして行く末を」

タカドラが言うとヘルケヴィーオも「エルフとドワーフの見た目についても教えてください」と言う。


「うん。この世界は創造の力を失いかけた創造神がジルツァークに心の隙間を突かれてジルツァークの為に作った世界。ジルツァークに褒めてもらいたい創造神が作った世界なの」


「そんな理由で?」

「創造を失いかけた創造神?」


「そうだよ。ウソはつかないよ。

でも皆は夢の中でも初めて知った風にしてね。

そうじゃないと万一ジルツァークが過去を追えるようになると困るからさ」


「了解だぜ」

「それでは行く末を…」


「今倒されている亜人。

亜人はジルツァークが生み出した命。そして人間を生み出せた今、不要になった命…。

この先で人間以上の人間が生み出された時不要になるのは人間」

「はい。それは常々考えておりました」

タカドラが頷きながら相槌を打つ。


「何故ジルツァークはそんな事をするのでしょう?」

「ごめんね。今はまだ言えないよ。

でもこれはまだマシな未来。

エクサイトに満足できず、そして新たな命も生み出せず、人間達に飽きた時ジルツァークは世界を捨てる。神のいない世界は3日と保たずに滅びる」


「滅びる…」

「イロドリ様はこの世界の神にはなれないのですか?」

「そうだよ。イロドリ様が助けてくださればエクサイトは滅びないで済むよな」


「ごめんなさい。それはしてはいけないと神々から言われているの。

そして私は今生きている人間達にも滅んで欲しくない。

だからここに居るの。

後はジルツァークが世界の外側から世界を壊す事も考えられるの」


「んー、とりあえず今のままで世界を救うために俺達がイロドリ様に選ばれたんだな」

ワタブシが細々と考えずに豪快に話を受け入れてくれる中、ヘルケヴィーオは「あの…見た目のお話を…」と申し訳無さそうに言ってくる。


「…落ち込まないで聞いてくるかな?創造の力を失いかけた創造神が最初にエルフを創ったの、そしてその時にも見た目を人間と変えるのを面倒がって…、それでその次のドワーフにしても同じ理由なの…」

申し訳無さそうに声のトーンとボリュームが落ち込んだアートが説明をするとヘルケヴィーオが「なんですかその理由は…」と言って肩を落とす。


「まあ仕方ないだろ。嘆いたってどうにもならねぇさ」とワタブシが笑って吹き飛ばしてしまう。


「んで、何をしたらいいんですか?」

「ワタブシのおじちゃん…ありがとう。

まだ人間界の方は準備が出来ていないけど、私はいずれ勇者達の1人に協力をしてもらってここに導こうと思っているの。

壁を越えたらヘルケヴィーオがその勇者達をこの街に導いて欲しいの。

そこでワタブシのおじちゃんはもう一度聖剣と聖鎧を作って。

でも気前よく作るとジルツァークが怪しむから少しだけゴネてね」


「任せてください!パパッと凄い奴を…」

「ダメダメ、時間をかけて」

アートが慌ててワタブシを制止する。


「なんでです?」

「時間稼ぎが必要なの」

そう言ったアートが「リュウさん?」と呼んでタカドラを見る。


「はい?」

「リュウさんは間も無く神化するよね?」


「…はい。私の中で目覚めている力がイロドリ様の言う神化であれば…」

「500年生きたタカドラは神化する。

それがあなた達を創った創造神が決めたルール。リュウさんが神化するまで時間を稼ぎたいの。そしてリュウさんにしか頼めない仕事をお願いしたいの」


「わかりました」

タカドラは疑問も持たずに返事をする。


「役割はね、ヘルケヴィーオは勇者達を導く係、ワタブシのおじちゃんは勇者達に装備を授ける係、リュウさんはリュウさんの神に近い力、神通力を使う係と神化して世界を救う係ね。

この後も勇者達の進捗で少し話を変えるからよろしくね」


「イロドリ様は、この後はどうするんです?」

「人間界に協力者になって貰うお願いをしている最中なの」


「人間界はジルツァークの世界、とても困難な事でしょう?」

「うん。昨日もちゃんとは信じてもらえなかったよ。でも頑張るね」

そう、千歳達もこうして1から頑張ってきてはずだ。困難な道のりを乗り越えたのだから自身もやり切って見せるとアートは思っていた。


「ありがとうございますイロドリ様」

「ううん。頑張るね」

アートは3人と別れるとその足でフランの元に行く。



「フラン!」

「イロドリ様」


「こんばんは」

「こんばんは」


挨拶を交わした後はフランの話を聞きながら夢に入る訓練とジェイドを寝かしつけるための眠りの力の使い方を説明する。


「ねぇイロドリ様、ジェイド達は今どこ?」

「レドアに居るよ。明日聖鎧を取りに行く所」


「聖鎧を回収したら亜人界を目指すんですよね?」

「うん。多分防人の街が無いからフランの所で準備をするはずだからその時に力を使ってね」


「はい。それでエクサイトの滅びって何があるんですか?」

「昔、亜人達は今の人間達みたいな存在だったの。でも人間が生まれて不要になったから今は敵に回っている。

もしこの先で人間以上の人間が生まれてきて、人間が不要になったら人間が新しい人間の敵になる」


「…私達が?」

「うん。でもこれはまだマシな未来。

酷いものになれば抗いようもなく世界が壊されるの」

ジルツァークの名前を出さずに説明をしているが察しのいい人なら人間が不要になる存在、新しい人間を生み出せる存在、そして世界を壊すと聞けばジルツァークを想像する。

アートは説明をしながら段々と不安になっていく。だがフランは「じゃあ頑張るね!」と明るく言ってくれた。


アートはホッとしながら「お願いねフラン」と言って訓練を再開する。



**********



アートの多重生活が始まって約1週間が過ぎた。

遂にジェイド達が折れた聖剣と腐食した聖鎧を持って聖女の監視塔を訪れる。


その頃のアートはフランと散々打ち合わせをしたり練習をして眠りの力と夢への入り方を訓練してきた。


「よろしくねフラン」

「はい!イロドリ様」


夢への入り方が様になる頃、フランの中ではアートは信頼出来る女神として位置付けられていてアレコレと頼られる仲になっていた。



昼のアートは幼稚園が終わると神の世界で過ごしていてキヨロス達もアートを慰める名目でアートのおままごとに付き合って居るフリをしながらエクサイトを見ていた。


「あの毒いいね。今度あの毒を拝借してきて覗き変態趣味の支払いに使おうかな」

「あ、やっぱり?僕も思った?僕も思っていたんだよ。流石に6年も支払わせているとレパートリーが乏しくなっていくんだよね」

キヨロスと黒いキヨロスが楽し気に毒のエムソーと言う毒使いが使用していた毒について話をしていた。


キヨロスと黒いキヨロスは6年前に神の世界を騒がせて更にその4年前にゼロガーデンを複製して[複製されたゼロガーデン=コピーガーデン]の人間を皆殺しもした視覚神に「支払い≒罰≒拷問」を行なっているのだが本人達は6年もの間、日々欠かさずに支払いを行っていてレパートリーが無くなってきた事を気にしていた。


その為にエクサイトの中でジェイドが毒のエムソーを毒で倒した姿を見て毒を欲しがっていた。


「よく言うわ。視覚神に気付かれないように高速桂剥きとかやり始めたくせに」

支払いで視覚神が命を落とさないように治療をしている2名の治癒神で長髪の「先輩」と呼ばれる治癒神が呆れながらツッコミを入れる。


神には神殺しと言うルールがあり、万一神を殺してしまうと人間は神に神化をしてしまうし、神が神を殺せばその力を取り込んで強制的にステップアップをしてしまう。

そしてステップアップに耐えられる土壌が有ればいいが耐えられない場合には取り込んだ神ごと崩壊をしてしまう。

そうならない為に治癒神が支払いに付き添っている。


「子供の前でそんな話はやめるんだ」

この中では完全に常識枠の複製神がキヨロス達を止める。


「でもアートは僕の作った「表現の緩和」でジェイドの戦いは見たんだから平気だよ」

「見れたよね?大丈夫だよねアート」


「うん。慣れたよ。それにしてもジェイドは凄いよね。あの沼のスワンプワームを爆殺するし、毒のエムソーもスワンプワームに食べさせちゃったもんね」

アートは何事もないように笑ってみせる。



ちなみに集まっているのは戦神の家だ。

本来共犯では無かった戦神だったが集まって数日して広い家で落ち着いて集まりたいとなった時にアートと仲の良い神の家で宴会が出来る大きさだったのが戦神の家だったので皆で押しかけた。


「お邪魔しまーす」

アートがニコニコと家に入っていく。

そもそもはキヨロスが「アートなら戦神は拒まないからアートから行くといいよね」と言い出してアートもそれに乗っかった。


「アート?どうした?あれか?千歳との事が気がかりで行き場がないのか?私がとりなしても良いのだぞ?」

千歳からアートを慰めてと頼まれていた戦神が心配そうにアートを大きな居間に連れて行ってお茶を出す。


「ありがとう戦神。アートは元気だよ。今日は戦神の所で遊ぼうと思ってきたの」

「何?アートは何をして遊ぶのだ?」

戦神が優しい顔でアートの話し相手をする。


「皆ももうすぐ来るよ」

アートがそう言った所で時空神と治癒神が「お待たせアート」と言って戦神の家に入ってくる。


「お…お前達?」

「やあ戦神、お茶持ってきたから飲もうよ」

時空神がお茶の葉を戦神に見せる。

戦神は言葉に困りながら茶葉を受け取る。


「アート、来たよ」

そう言って次にやってきたのは複製神と隠匿神だった。

「これお土産、複製神に複製してもらって皆で食べよう」

隠匿神が小さなケーキが何個も入った箱を取り出して言う。

「あ…う…なに?」としか返事の出来ない戦神は何が起きているのかまだわかっていない。



**********



戦神の家に続々と仲の良い神々がやってくる。

突然の事で戦神の処理が追いついていない。


「戦神は甘いものが嫌ならセカンドから買ってくるけど?」

「それともジチさんに何か作ってもらおうか?」

そんな中、キヨロスと黒いキヨロスが当然の顔で瞬間移動をしてくる。


「ツワモノ?黒魔王?」

「戦神の家って大きいって時空神が教えてくれたから皆で集まることにしたんだよ」


「ヘイ!お魚お待たせー!今日はフィッシュ・アンド・チップスだゼーッ!」

そして自称友情神が美味しそうな匂いをさせながらやってくる。


「あれ?お魚さんも来た」

これにはアートも驚く。


「地球の神様が皆で集まってるって教えてくれたんだゼーッ!」

自称友情神はポーズを極めながらアートに言う。


「あー、バレてるね」

時空神が呆れながら天を仰ぐ。

千歳が天を見るポーズを取るのを見てから神の世界の住人は結構上を見るようになっている。


「くそっ、僕の防御壁と隠匿神に教わった隠匿の力でもバレるの?」

「…私も全力だったのに」

キヨロスと隠匿神が悔しそうに言う。


「バレる?何の話だ?」

話が読めないのは戦神だ。

この面子、この騒ぎよう、直感でいい話ではないのはわかってしまう。


「でもさ、お魚の神が来たんだったら怒られる事ではないから続けようよ」

「そうだね」

キヨロスと黒いキヨロスが話を続けると「でもさー、なんで魔王さん達と隠匿神の本気でも見破れたんだろう?」と後輩の治癒神が疑問を口にした。

その時、お魚さんが「お手紙だゼーッ」と言って二通の手紙を出してきた。


「なになに?こっちはリリオだね。

…「皆さんへ、魔王さんと隠匿神さんの見えなくする力には驚きました。

でも上手く隠し過ぎていてかえって目立っていましたよ。後はエクサイトに出入りする時に矢が通り過ぎたように風が巻き上がる感じで空間が揺らいだのでそこから何かを始めたなと思ったら見つけられました。リリオ」だってさ」

時空神が感心しながら手紙を読む。


「これは地球の神様だわ「甘い。完璧に隠しても隠す時に使った力を感じ取ってバレバレ。楽しそうだから千歳とガーデンの神とジョマには見えないようにしておいたから当分は安心するが良い」ですって」


「…くそっ、そんな見破り方があったのか…。手早くエクサイトに入ると風が巻き上がる?トキタマ!リリオの言いたいことってわかる!?」

キヨロスが呼ぶとトキタマが当たり前のように窓から入ってきてキヨロスの肩に止まる。


「お父さんも楽しい時の顔になってますねー。僕にはわかりますよ。今度練習しますか?」


「トキタマ、僕にも教えて」

「私も」

黒いキヨロスと隠匿神も前のめりで練習に参加を申し出る。


「はいですー」

キヨロス達に頼られたトキタマはニコニコだ。


だが1人暗い顔をした人物がいた。



戦神だ。


「お前達?まさかとは思うが、アートを諦めさせるどころかアートと共にエクサイトに関わっていて、千歳やガーデンの神とジョマにも秘密なのか?」

真っ青な顔で戦神がワナワナと震えている。


「そうだよ。戦神、今日から君も共犯だからね」

「ツワモノ!?」


「お魚の神も共犯だよ?」

「オッケー!これこそ友情!集まるときはお魚食べてくれれば最高だゼーッ」

自称友情神は参加出来て大喜びだ。


「お前達は千歳が怖くないのか?」

「別に」

「だってチトセはいつも怒ってるし」

慌てる戦神にキヨロスと黒いキヨロスは平然と答える。


「私達は魔王さん達から手伝った方が千歳からありがとうって言われるって言われたし」

「知ってしまうと無関係になるのも怖くてな」

「アート心配だから」

「そうだよ戦神、アートの為にも一緒に頑張ろうよ」

皆口々に思いのまま戦神に言う。


「くっ…、私は恐ろしいぞ…」

「戦神、ごめんね。アートは迷惑だったかな?」

ここですかさずアートが戦神に謝る。

アートは制服のスカートをギュッと握りながら申し訳なさそうにする。



「…なっ…何を言う!千歳からアートを慰めて欲しいと頼まれたこの戦神、見事アートの仲間として慰めきってみせる!」

「ありがとう!戦神!!」


アートが嬉しそうに抱きつくと戦神は「くっ、不詳戦神この命に変えてもアートを守ってみせる!」と泣いていた。



**********



フランは無事にジェイドに夢への通り道を作ってくれていた。


「う〜、緊張するよぉ」

それを見たアートは戦神の家で緊張していた。


「大丈夫だよアート。今晩も僕達は君の夢に行く。1人じゃないよ」

「そうだよ。アートはよくやってるよ」

「うん。自信持ちなよ」


皆がそう言ってアートを励ます。

アートの多重生活は、夜はエクサイトで人間界はフランにエクサイトの成り立ちや行く末について話しながらジェイドが聖女の監視塔に現れた時の話をする。


上層界ではタカドラ達に世界情勢を伝えながら無理のない範囲でタカドラの神如き力、神に通じる力、神通力の指南をする。



「とりあえずジルツァークの予測を行いたいけどリリオまで連れ出すとジョマやチトセにバレるから呼べないね」

「まあジルツァークならやり口も想像つくからリリオ抜きでも何とかなるよ」


「アート、昨日教えた俯瞰でライブラリを見る方法を試そうか」

「うん!」

黒いキヨロスに言われたアートは「神の力、ライブラリ閲覧。補正モード…」と呟きながら力を使う。

それを見たキヨロスがアートの見ている世界を追体験しながらテーブルの上に映像として映し出す。


黒いキヨロスは横でアートに指示を出す。

「いい感じだね。そう、本来人間なら読み飛ばす細かい部分まで神の力で追うんだ。

そしてもう一人の僕がやっているみたいにそれを映像化する。

そうすると世界中を一気に映像化できるだろ?」


「うん」

「アート、亜人界と上層界を見てご覧。この前出立した亜人達が上層界に入ったね。

これなら明日中に穴に着くよ」

アートは映像ではなく自分の能力でエクサイトを見ると大軍のセウソイが兵を率いて人間界に繋がる穴を目指していた。


「うん」

「ジェイドの信用を得る為にこの情報を教えてあげよう」


「え?」

「大丈夫。信じるかはジェイド次第だし、そもそもジェイドは疑り深い性格だろ?アートは伝えるだけで良いんだよ」


「魔王さんと黒魔王さんも、それでもいいけどジルツァークには気をつけてくださいね。今は理由を付けて別行動をしているからいつもより気付くと思いますよ」

後輩の治癒神が心配そうに言う。


「アート、ジルツァークは何をしておるのだ?」

「亜人界で指示出しと準備とかしてるよ。

今回はセウソイって言う亜人に穴に行ってジェイドを迎え撃てって命令をしたの。

ジェイド達が穴を抜けて亜人界に突撃するなら3日くらいだから亜人界は別の準備してる。

凄く意地悪な準備だよ」

アートが嫌なものを見た顔で戦神に説明をする。


「何?」

「気になるなら戦神も見てはどうだい?」

複製神が困り顔で戦神に聞く。



「いや、私はこう言うことに向いていないのだ」

そう言いながら友情神の差し入れたタコでコレでもかとたこ焼きを作っている。


「まあ、戦神は6年前も千歳に見つかりそうだったしね」

「今回も戦神がジルツァークに見つかると困るか…」

たこ焼き屋のおじちゃんと化した戦神を眺めながら治癒神達が話している。



「意地悪って何であんな事しているのかわからないんだよ。

今まで散々敵対していた亜人達にパーティーみたいな感じでジェイドが来るのを待たせているんだよ」

アートがいよいよ我慢できなくなって不満を口にする。それを聞いて戦神が「…揺さぶりか」と言う。


「揺さぶり?」

「簡単な話だ。勇者達は戦うつもりで赴いたのに歓迎ムードで何も出来なくなる。

その後はジルツァークのペースになる」

流石はたこ焼きを焼いていても戦神。戦の神と言う訳でジルツァークの目論見を瞬時に理解する。


「むぅ〜、そう言うの嫌いだなぁ」

アートはプリプリと怒る。


「さあ、今できる事はやったんだからおやつを食べたら解散しよう。また夜に集まろうよ

キヨロスがたこ焼きを美味しそうに食べながら言う。

アートは食べ過ぎて夕飯を食べられなくなるとジョマが悲しむので頑張って我慢をする。

その横で皆が美味しそうに食べていて「皆ずるいよ~」と言っていた。



その夜、アートは用意されたジェイドの夢に入り込んでジェイドの到着を待つ。

暫くすると目の前に深い緑色の髪をした青年ジェイドが現れて辺りをキョロキョロと見る。


アートは驚かせないように注意をしながらジェイドに声をかける。


「はじめましてジェイド!」

「君が…フランの言った女神かい?」

ジェイドは追体験した時のような怖い感じはしない。

元々のジェイドは心優しい青年なのだと思う。


「そうだよ。私は祝福された神。名前とか名乗ると不利になるからあだ名でいいよね?」

「祝福された神?」

アートは本来話さないことにしていた自身の出自「祝福された神」と名乗る事にしていた。

少しでもジェイドの信用を得たかったからだ。


「うん。あだ名はね「彩る者」でイロドリって呼んで。あ!鳥も入ってる!いい名前だ!」

アートはここに来て名前にトリが入っている事に気づく。

トキタマを思い出して嬉しい気持ちになる。


「イロドリ、教えてくれないか?俺達の旅が失敗に終わるとはどう言う事だ?ジルにも言えないとは?」

ジェイドの不安げで真剣な顔を見ると申し訳なく思う。


「あー、そうなるよね。慌てちゃうよね。うん。一つずつ教えてあげるよ!

でもこれだけは約束して。

私は少しの事と大事なことしか言わないからそれは守って!」

「わかった」

ジェイドはまだ6歳のアートの言葉をキチンと聞いてくれる。

アートは嬉しさからつい普段のアートになりそうだったが一生懸命女神イロドリを意識して話をする。



**********



アートはジルツァークと行動を共にするジェイドが自分を少しでも信じてくれている事が嬉しかった。


「ジェイドは偉いねぇ。私を信じてくれたんだね!」

「いや、可能性を無視したくないんだ」


「いいよ!それでもいいの。私が言うのは夜見る夢にしか私は来ないからね!昼の夢には出ないから必ず夜は寝て。この先は1日1日が大事なの。おかしくなったら軌道修正をしてあげるからね」

「夜のみか?何故だ?」


「それは明日以降に話すよ。最初に信じてもらうためにも言うけど亜人界でも上層界でも人間界と違う食べ物でも食べ物は食べられるからジルツァークが止めても無視して食べてみてね」

「…本当なのか?」


「うん。食べられたら信じてくれるかな?」

「そうだな」

ジェイドは少しだけ微笑んでくれた。

アートはこの会話がうまく行っている実感が得られて嬉しくなる。


「後はフランにも頼んだけど絶対に夢の話はしないでね」

「わかった」


「じゃあとりあえず今日はこの先に大事な事を言うね。ジェイドが気にしているワイトの事はまた今度で良いよね?」


「何!?ワイトの事がわかるのか?イロドリは子供じゃないか!?」

ジェイドが目を丸くして驚く。

アートはライブラリを見ていてジェイドが勇者ワイトの事を気にしていた事を知っていたので言ってみたのだが思った以上の反応だった。


「ふふふ。そこは神様だからね〜」

アートもついついテンションが上がってしまい話し方が変わってしまう。


「だがイロドリが真実を言うとは限らない」

「そうだね。ジェイドはそう言うと思ったよ。それが正解だよ。

私を怪しんで良い。

疑っても良い。

でもカナリーの約束を守ってフランを助けるためでもお婆さん達との約束を守るためでも良い。

何も知らないまま破滅に突き進むのではなく私と話して別の目線で世界を見てジェイドが判断して。私はジェイド達を助けたくてお節介で居るだけだからさ」


「イロドリ…」

ジェイドが複雑な顔でアートを見る。

この後でアートは「明日の話をするね」と言って説明を始める。


「明日、穴の向こうで亜人が待ち伏せしているからね。

でもジェイドはこの話を知らない事にしてね。ちゃんと皆に何て言うか話を考えてね」

「大丈夫だ。俺もそんな気がしていた。恐らく亜人共が待ち構えている。やらせはしない」


「亜人を撃退したらエルフさんが迎えに来るから話を合わせてエルフの街で長期滞在をしてね。ジルツァークが嫌がって怒ったりすると思うけど今エルフの街に行かないと旅が失敗するからね。後はエルフの街で食べるご飯は相当美味しいから楽しみにしてね」

「エルフ…。聖剣と聖鎧の為にも行くつもりだったが長期滞在が必要なのか…」


「信じて欲しいな」

「まあ良い。罠だとしても俺は死なないからな。全部喰らってやる」

ジェイドはそう言って笑う。


「格好いいね。応援してるよ!また今晩ね!ちゃんと夜寝てよね!まずは明日を攻略するの。その先はその先で話すからね」

アートはジェイドに別れを告げてその足でタカドラ達の夢に行く。



「リュウさん。体の勇者と話せたよ」

「イロドリ様、ありがとうございます」

タカドラが嬉しそうな顔でアートを見る。

以前より表情が柔らかい気がする。



「ヘルケヴィーオ!」

「はい」

それはヘルケヴィーオも同じで表情が柔らかい。

恐らくだが女神の補助を命じられながら約500年も放置されていて面白くなかったのだ。


「明日、朝一番に街を出て勇者を迎えに行ってあげてね。亜人達が待ち伏せしているから気づかれないでね」

「はい。お任せください」



「ワタブシのおじちゃん」

「んじゃ俺の所にくるのは明後日かな?」


「うん。後は前からお願いしているジルツァークの脅迫が通じないようにして欲しいの」

「これは俺だけじゃなくてヘルケヴィーオとタカドラもだな」


「任せてください」

「勿論最善を尽くします」

タカドラとヘルケヴィーオもアートの願いを完璧に叶えようとしてくれている。


「皆ありがとう。明日は何とか勇者をエルフの街に滞在させる事、そしてリュウさんは加護の弱点を指摘して訓練するように話を持っていって」

アートはそう言ってから別れを告げて自分の夢に帰る。


夢の中ではキヨロス達が待っていてくれて「段々馴染んできたね。今日のアートは自然体でよく出来ていたよ」

「本当、アートの爪の垢をチトセに飲ませたいくらいだよね」

キヨロスと黒いキヨロスがアートを褒めつつ千歳を悪く言う。


「魔王さん、黒魔王さん…。絶対千歳にバレたら怒られますよ?」

「と言うか怒らせて遊んでない?」

「言えてる」

それを見守っていた治癒神と時空神がツッコミを入れて呆れている。



その翌日、ジェイド達は大軍のセウソイを退けてヘルケヴィーオに出会い導かれてエルフの街に行く。

全てアートが言った通りの状況になった事によりジェイドはアートを信用するようになる。


そしてヘルタヴォーグやタカドラ、ワタブシ達と出会いジルツァークの加護の弱点、加護のない状態では亜人に嬲り殺されると言うことを伝えてジルツァーク抜きでの訓練を始める。

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